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彼氏がいても坊主の暴挙

オシャレ迷子のスピンオフです。

たまに芸能人のプライベート話で「うちの奥さん、いきなり坊主にしちゃうタイプ」と聞くが、私にも似たようなふしがある。

爪と同じようなものだし、どうせ伸びるし。
どうせ切るのだと思うと執着などないし。
オシャレ迷子の私は、切った時に注目を集める快感と生まれ変わったような感覚がたまらない。

洒落っ気ついた頃に心機一転や気合いの入ったイベント前、ムシャクシャすると切りたくなり美容室に行っていた。前の晩に無性に切りたくなりワクワクして眠れないくらいになってしまう。
今になって、それはもう自傷行為に近い気すら思える。

そもそも長年通った信頼する美容師さんがいないと突発的に冒険するのは難しい。美容院選びは時間を要するし、出会うまではまさにギャンブルだ。

コンプレックスと戦っていた時期は、長所と短所は表裏一体。とか、自分を愛せ・ありのままを受け入れよ。と欧米の人が言うのを聞く度励まされた。
運良く高校一年でお気に入りのお店に出会えた私にはスタイルチェンジが大きく個性を表すものとなっていた。

高校3年でつまづき、生活態度が乱れに乱れたあの時、私には彼氏がいた。
彼は「人は見た目じゃない、中身だよ。」と言う。
外見で勝負真っ只中の私に。

当時ZipperやCUTiEよりもFRUiTSという雑誌に感化されまくっていた私は髪を、ばあちゃんがひっくり返るような色にしたりパーマ、刈り上げにアートを施す事に興じていた。

ツーブロックがイマイチだった私はある晩に雑誌で金髪の坊主頭の読モに感化され坊主にする決意をする。

ワクワクして眠れない。明日にはどんな自分が待っているのだろうと、眼がギンギンだった。

翌日、美容院までの竹下通りの人混みを歩いていると前からジグザグに走る男性が。
するとその人が私のところに来た時耳元で「セックス」と言ってまたジグザグと去っていった。

突然の強姦にあった気分を抱えて(ピュアだったから)意気消沈で美容院に着く。
先程の珍事を美容師さんに伝えると「さっ、気分転換だね。」と言ってくれた。
私はピンク坊主になるのだとワクワクが戻ってきた。

思わぬプラスアルファ(マイナス?)まで髪の毛と一緒に刈り落とされ心機一転した瞬間。


彼氏がいたことを思い出した…。

終わった…嗚呼、やってもーた…

家に帰るまでずっと彼の反応を想像した。
なんでだろう、想像がつかなかった。
帰るまでの道のり、周りにいる人が私を見た反応なんてどうでもよかった。
茶の間にいたおばあちゃんが「なんだそりゃあ!中村メイコみてぇだ。ガッハッハッハ」と笑ってハッとした。「中村メイコ…中村メイコ…私は中村メイコ…」
明日、彼とどんな顔をして会ったらいいのか。

彼は別のクラスだ。
どうか今日だけは彼と顔を合わせませんように。まじで神様。と祈った。
門をくぐると、朝のあいさつ運動で先生達や委員の子たちの「あっ…」が聞こえた。

逃げるように教室に入ると彼氏が私の席で待っていた…

私「あっ…」

彼氏「あっ…」

クラスメイト「あっ…」

彼氏は口を聞いてくれなかった。

すぐに校内放送が流れた。
やはり頭髪の件で呼び出されたのだ。

クラスメイト「あーあー」

しょうみ十数時間のピンク坊主。
合宿所の浴室で真っ黒に染め上げられた坊主の私が教室に戻ると誰かが「モリマンじゃね?」と言った。

「モリマン?中村メイコじゃなくて?」

「モリマンは嫌だー!」

(ホルスタイン・モリ夫?種馬マン?どっちよ)

髪の長さが、なべおさみくらいになるまでしばらく反省の日々が続き、ようやく彼は私を許してくれた。

あの時はヒヤッとしたけど、今になって彼氏はなんと懐が深いのだろうと思う。

なりたい自分と似合うは違うというのが分かったのはこの時。

ただ、個性がどんなに好きな人だとしても受け入れてもらえるとは限らないと知ったのもこの時。人は見た目じゃない、というのは違う気がする。
裏表もへったくりもなく内面が外見に影響を及ぼした私は、彼氏の言う「人は見た目じゃない。」を大きく裏切った。

髪は確かに伸びるけど、あの時皆に与えたインパクト。
私が貰ったバカのレッテルは修正がきかない。

そんなオシャレ迷子(即出)エピソードのスピンオフでした。

自分自身の中で『私はこうだ』と自分らしさが見つかるまでがどうも大変だった気がする。
長い旅でした。


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