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教育格差は公教育で乗り越えられるのか

 日本の教育界の特色の一つに、学校外で子供が塾に通ったり、習字やそろばんといった習い事をする、ということがある。これは欧米諸国ではほとんど見られないことで、東アジア特有である。
 外国人(ここでは欧米人)がよくする質問に、「塾って何?」という問いがある。それに対して我々日本人は、「学校の授業が終了してから、2〜3時間を私的な勉強教室(塾と捉えてよい)で予習・復習、受験の対策などをする場所」と答える人がほとんどだろうし、その通りである。
 けれどこの答えに対して、さらに問いは続く。「それは、学校教育が不十分だから、家庭がそれを補うために資金を払って勉強をする、ということか?」と。
 外国(欧米)にも塾のようなものは存在するのだが、とてもニッチな存在程度でしかないが故に、学校以外で私的に資金をつぎ込む教育に対して「?」が浮かんでくるのだと思う。
 この外国人と同じように、塾に対して怪訝さを感じる日本人は、おそらく塾に通ったことがなく独学で受験に勝った人、あるいは学歴に関係ない職業(土木や建設、パートタイマー、夜の仕事など)に就いている人だろうと推測する(不快に感じたなら申し訳ない)。
 一方、塾のおかげで中学・高校あるいは大学入試を突破できたり、学校の授業についていけるようになったりした経験を持っている人もいるはずだ。そういう人は、学校に対する信頼が薄く、塾で学力を補ったりプラスすることは当然だと思っていることだろう。
 人それぞれに生き方があるから、塾様様派や疑問派について僕は何も言わない(そもそも塾に行ったことないから何も言えない)。けれど、これだけは言っておきたい。「塾の存在が、日本の教育格差を生んでいる理由の1つである」と。
 今後は、「教育格差」にフォーカスし、何が子供の将来を決めるのかといったことを、数記事にわたって見ていこうと思う。
 「子供の学力が心配」「塾に通わせるお金がない。塾以外で学力を伸ばす方法はないの?」など、我が子の学力、果ては将来を案ずる親御さんには、ぜひ見ていってもらいたい。

日本の子供の学力

 ここで一度、日本の学力の話をしよと思う。
 2018年度の全国学力テスト(小学6年と中学3年)からわかったことを三つ取り上げる。
 第一に、都道府県別で成績差がかなりあること。例えば、秋田県の学力は常に上位だが、沖縄県の学力は常に下位争い、など。
 第二に、前述したように全国的に学力差はあるものの、上位には北陸と東北の日本海側の県が常に名を連ねていること。2018年度では、小学校は1位から順に石川県、秋田県、福井県。中学校は福井県、石川県、秋田県という順位であった。
 第三に、下位5位の都道府県(特に小学校)に大都市圏(愛知や大阪)が入っていること。これらには大都市だからこその地域間での貧富の差が激しいといった側面があり、貧困層の多い地区の学生が足を引っ張った結果、という見方ができると思う。貧困=頭が悪い、と言いたいわけではなく、単純に、経済的に余裕のある家庭の子どもに比べて、貧困家庭の子どもは塾に通ったり参考書などを買い与えてもらえないなどといった様々な要因があって学力に伸び悩むことが多いから、貧困層に低学力者が少なくない、ということである。
 さらに、日本財団が貧困家庭と非貧困家庭の子ども間での偏差値の差異を調査した結果も紹介する。
 グラフを見せることができないので簡単に説明すると、年齢が上がれば上がるほど、貧困家庭と非貧困家庭の子どもとの間で学力差が平均4ポイント(偏差値が4前後違うということ)あったのである。
 この偏差値の差に、通塾と非通塾が関係していると断言することはできないが、やはり、塾に通うことで単純に勉強時間が長くなったり、質の高い指導を学校外で受けることができるということだから、相関がないとも言えないと思う。
 しかし、シンガポールや香港、特にフォンランドのように塾ではなく学校教育によって、PISAという国際的な学習到達度調査で上位の学力を実現している国があることは押さえておきたい。

塾と学力

 ここからは、小・中学生の塾通いについて考えていこうと思う。
 日本の小・中学生は、いったい何%の生徒が塾に通っていると思うだろうか?これについては、小学6年生では50%が、中学3年生では60%が塾に通っていると理解してよい。それ以外の学年では、受験を控えていないので少しだけ割合は下がると考えられる。
 これだけの割合が塾に通って入れば、通塾社会といってもよいだろう。ついでに述べると、高校生の通塾率は30%ほどである。
 では、塾に通うことによって、本当に学力は伸びるのだろうか。いくつかの研究結果からわかったことは、通塾生の方が非通塾生よりも学力がかなり高い、いうこと。高いのではなく、”かなり”高いのである。
 ただし、付帯条件が三つある。
 一つ目は、通塾生の勉強時間が単純に長いことと、そもそも塾に通う生徒の中には学力を上げるといった明確な目標を持った生徒が多いから、頭のいい生徒がさらに学力を高めているということ。
 二つ目は、予習・復習型の塾ではなく、受験型の塾に通っている方が学力が高い傾向にあるということ。
 三つ目は、父親(経済的負担は父親が担うことが多いから)が大卒か非大卒かを比較した時、大卒の子どもは学力が高いということ、である。
 これら三つをまとめると、父親が大卒の子どもは生まれつき能力が高く、勉強熱心であることに加え、受験型という高いレベルを目指すことに特化した塾に通うことによって、学力に対する通塾の効果がある。ということになる。
 純粋に「通塾するだけ」で学力に効果があるとは言えないのだが、塾に通うことによって学力が上がるという”想定”までは否定することができない。

 独学で難関中学、高校、大学に受かった人は当然いるだろうし、その逆で塾に通ったが受験にはことごとく失敗したという経験を持つ人もいるだろう。ただ、勉強に勤しめる環境というのは、せめて義務教育期間中だけでも平等に与えられるべきだと僕は思う。現に、先述したフィンランドのような、学校教育で学力向上に成功しているところもあるのだから、日本でも不可能ではないはずだ。
 また、家に机がなかったり、兄弟の面倒や家事に追われたりと、勉強以外にやることが家庭に帰った時に多ければ、例え勉強のやる気があったとしても難しいところがある。そして、そういったバックグラウンドを抱えている子どもの家庭は、貧困状態であることが多い。学校教育の質の向上だけでなく、家庭環境にも目を向けて教育環境をデザインしていく必要がありそうだ。

 少し長くなったので今回はここまで。次回では、塾の効果が出やすい科目と、通塾率が低くても国内トップレベルの学力を誇る県の教育について見ていこうと思う。

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