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投球フォームを考える 基礎編


投球フォームのフェイズ名称

投球フォームはその段階(フェイズ)ごとに区切って話をしたりすることがあり、段階(足を上げたところ、ついたところなど)ごとに名前がつけられています。
最近の書籍や論文でも主流で、私自身も使用している分類方法を紹介したいと思います。
言葉が難しいですが、知っておくと専門家の人の話や書籍を見た時に分かることも増えると思うので参考までに紹介します。

投球相(フェイズ)分類

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(信原克也:「肩 その機能と臨床」第4版:医学書院、2012より引用)

具体的には
①投球開始〜足が最も高く上がったところ(KHP:knee high position )までをwind up:ワインドアップ
②足が最も高く上がったところ〜踏み出した足の裏全面が着いた瞬間(FP:foot plant)までをearly cocking:アーリーコッキング
③踏みし足が着いたと瞬間〜投球側の肩が最もしなった瞬間(MER:maximum external rotation )までをlate cocking:レイトコッキング
④肩が最もしなった瞬間〜リリース(BR:ball release)までをacceleration:アクセラレーション(加速期)
⑤リリース以降をfollow through:フォロースルー(減速期)
として分類しています。

「スローイングプレーン」という見かた

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(信原克也:「肩 その機能と臨床」第4版:医学書院、2012より引用)

スローイングプレーンとは投球中の上肢の軌道を面として捉えるというもので、肩、肘、手の軌跡を見ています。
投球中の一瞬のポジションではなく、連続するモーションの一部として立体的に捉えることがキーではないかといった概念の下、考案されたものです。

シングルプレーン

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左からオーバーハンド・スリークォーター・サイドハンド・アンダーハンド
(信原克也:「肩 その機能と臨床」第4版:医学書院、2012より引用)

シングルプレーンとはその名の通り、スローイングプレーンが1つ(シングル)の軌道を描くものを指します。つまり、肩、肘、手がほぼ同じ軌道上を運動していくような投球フォームになります。

これは基本的にオーバーハンド、スリークォーター、サイドハンド、アンダーハンドどれにおいても面の傾きが異なるのみで、プレーンはどれもシングルで可能です。

オーバースロー

オーバースロー

引用元→ https://middle-edge.jp/articles/I0001153 


スリークォーター

スリークォーター

引用元→ https://hochi.news/articles/20180912-OHT1T50123.html?mode=photo&photoid=1


サイドスロー

サイドスロー

引用元→ http://npb.jp/nippons/2018/dailyreport_1028.html


アンダースロー

アンダースロー

引用元→ https://hochi.news/articles/20191020-OHT1T50181.html?mode=photo&photoid=1


ダブルプレーン

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a:シングルプレーン b:ダブルプレーン
(菅谷啓之ら:新版「野球の医学」:文光堂、2017より引用)

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(岩堀祐介:運動力学を踏まえた投球フォーム指導:現代医学、63巻2号、2015 より引用)

シングルプレーンに対し、ダブルプレーンでは2つ(ダブル)の軌道を描いていくものになります。いわゆる肘下がりや内旋投げと言われるような投球フォームでは肩の描く軌道と、手の描く軌道がズレ、2つの異なる面を描くような投球フォームになります。ダブルプレーンでは肩・肘の負担が大きくなります。

スローイングプレーンを整えるドリル

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少し重さのある棒などを顔の前を通し、背中側に回しながらトップを作ります。こうすることで重さ・遠心力によるトルク(力)が感じやすく、ラギングバックとも言われる手が後ろに取り残されるように身体と手の捻転差を作りやすくなります。この捻転差による手から体幹・下半身までの伸張されたタメを作ったままリリースへ向かうことで体幹・下半身によって腕が振られる感覚が養え、スローイングプレーンも整います。

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タメが作れても、作った伸張をリリースに向けてほどいてしまう(遠心力や重さを逃がそうとしたり、腕だけ振ろうとするとほどけやすい)と、上図のようにプレーンが乱れてしまいます。

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重さのあるボールでも同じようなドリルができます。上図では1kgのボールを使っています(ダイソーで200円で売ってます)。
500g程度でも十分重いです。ペットボトルに水を入れたりしても良いと思います。負荷は自身の状態に合わせて調整してください。
重さや遠心力のフィードバックが大きいことで、連動のタイミングがズレた時や軌道がおかしな方向に行った時に気づきやすいという効果があると思います。
もちろん重さは負担にもなるので、あくまでタイミングや全身の使い方の練習として軽く振るようにしてください。強く振ったり、投げたりすると肩・肘を傷める可能性もあります。


「肘下がり」について

肘が下がっている基準となるのは肩ー肩ー肘ライン(SSEラインとも言われる)です。
肘下がりの原因のほとんどはタイミングのズレで、腕を振り遅れた結果肘が下がっていることが多いと感じています。
踏み出した足を地面に着いて〜リリースまでに両肩のラインに対して、肘が低い位置にあるものを ”肘下がり” として捉えています。

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肘下がりのデメリット

肘に大きな負担となる、”外反ストレス”が大きくなることが問題です。
外反ストレスは、肘の内側の障害、外側の障害に加え、後方の障害を引き起こします。


内旋投げ

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リリース時に肘が前に突き出ながら下がると、腕をグリンと内側に捻るようにして投げる(内旋投げ)カタチになり、肘だけでなく肩にも大きな負担がかかります。


コントロールと球速

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上図では、バスケットボールとダーツも例に挙げていますが、肘がターゲットを向いている例と、肘がターゲットから外れている例ではどちらが上手そうでしょうか?
内旋投げと肘がターゲットに向いたリリースを比べ、コントロールの安定度・ボールへの力の伝わり・肩等の負担感を体感してみてください。内旋投げでは肩をねじる嫌なかんじがありませんか?
コントロールの散らばりはどうですか?

理想のリリース位置とは?

肩関節は腕の骨と肩甲骨で成り立っています。そして肩関節が安定するのは「ゼロポジション」と言われる位置です。 

ゼロポジションとは?

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(国中優治:機能解剖学からみた理学療法の展開 より引用・改変)
ゼロポジションとは肩甲骨にある肩甲棘(骨が峰みたいになってるところ)という部分と腕(上腕骨)がおよそ一直線になるポジション。このポジションでは肩のインナーマッスルの働く方向が関節の受け皿の方を向くことにより腕を肩甲骨の受け皿にカチッと引きつける役割を果たし、より肩関節が安定します。

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(二宮 他:三次元投球動作解析からみた投球障害肩.MB Orthop.30(12):7−14,2017 より引用)

理想のリリースポジション
研究結果から推奨されるリリースのポジションは上図の黄色のゾーンの位置です。
赤いゾーンでリリースする選手は肩にかかる負担が黄色のゾーンの6倍増加するとされています。
まさに”レッドゾーン”
手をリリースくらいの位置に上げた状態で壁などを押してみても良いかもしれません。緑のゾーン、黄色のゾーン、赤のゾーンと3種類試してみると、力の入りやすさ(強く押せるか)、関節に感じる負担に差があると思います。自分の力の入れやすいポジション、気持ちの良いリリース位置を探す参考にもなるかもしれません。

良くない動き「水平外転」とは?

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(二宮 他:三次元投球動作解析からみた投球障害肩.MB Orthop.30(12):7−14,2017 より引用・改変)

レッドゾーンの位置というのは”水平外転”と言われるポジションです。
水平外転とは上図(上図はテイクバック時に起こる水平外転)のように肩甲骨に対して腕が背中側に引ける動きのことです。あえて、肩甲骨に対してとしているのは、空間的な腕の位置で判断してもらいたくないからです。

どういうことかというと、、、

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上図ではパッと見の空間的な腕の位置は変わりません。しかし、左の図では関節の噛み合わせは良好ですが、右の図では腕の付け根が前にズレています(5°〜10°水平外転位)。
ちなみに肩関節では関節の噛み合わせが良いことを求心位がとれていると言ったりもします。

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(二宮 他:三次元投球動作解析からみた投球障害肩.MB Orthop.30(12):7−14,2017 より引用・改変)

つまり、空間的に見て腕が背中側に引かれていても、”肩甲骨ごと“動いていれば必ずしも肩関節は水平外転位では無いですし、安定した状態にある(求心位がとれている)ということです。

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(岩堀祐介:運動力学を踏まえた投球フォーム指導:現代医学、63巻2号、2015 より引用・改変)
リリースでは上図(左はゼロポジション、右は水平外転)のような違いになります。腕の空間的な位置は変わりませんが、関節の位置関係(適合・噛み合わせ)は大きく異なることが分かると思います。

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上図のように手や肘よりも肩が前に突っ込んでるようなリリースは負担が大きいです(レッドゾーンのリリースになる)。プロ野球選手のキャッチボールで背中からボールが出てくるようなリリースに見えることもあると思いますが、脊骨や肩甲骨の動きが大きいことでそのように見えるのであり、肩関節の動きで可動域を作っているわけではありません。(詳しくはTERの項で)
背骨・肩甲骨から動かすことで肩関節が綺麗に噛み合って安定した状態を保持できます。腕は肩甲骨も含め、背骨(胸椎)からはえているイメージでいきましょう。

肘下がりや不良なリリースを引き起こす要因

不良な動作(例えば、「肘下がり」)はそれが起きているフェイズよりも前のフェイズの動作に問題があり、その影響を受けた“結果”として起きているなんてこともよくあります。
投球動作は非常に速い運動になるため、動画でのセルフチェックはリアルスピードとスロー両方での確認・分析をオススメします。また、気になるフェイズがあれば、それにつながりそうな問題が前のフェイズに無いか?といった視点で見てみることも大事です。

これまでの項から考えるべきは「レッドゾーンのリリースや肘下がりにつながるものはなにか。」です。
代表的なものは以下です。
①踏み出し脚を着いた時点で手が上がってない

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(高木 他:投球動作における肩関節内外旋動作のタイミングが肩関節姿勢に及ぼす影響.The shoulder joint.2014:Vol.38,No3:762-765 より引用・改変)

踏み出した脚を着いた時点で手が肘よりも上がっていない(内旋から外旋に切り替わっていない)と、身体の回転に対して腕を振り遅れ、リリースのポジションを狂わせてしまいます。

②テイクバックでの腕の引きすぎ

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テイクバックで手を背中側に大きく引くと、レッドゾーンのリリースになりやすいということが研究結果から分かっています。腕を背中側に引くと肩の構造上、手は上がりにくくなります。そのため、踏み出した脚をついても手があがっておらず、手を振り遅れてしまいます(①につながってくる)。
そして、テイクバックで大きく腕を引いたからといって球速が速くなるということでも無いようです。良いこと無いですね。

③テイクバックでの腕の内側へのねじりすぎ

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(二宮 他:三次元投球動作解析からみた投球障害肩.MB Orthop.30(12):7−14,2017 より引用)

身体の構造や連動の関係で、腕を内側にひねる動きが大きく入ると、腕を背中側に引く動きも大きくなりやすいです。また、腕を内側にひねると、手を上げにくくなります。それによって腕も振り遅れやすく、下半身とのタイミングのズレを生み、肘下がりやレッドゾーンでのリリースなど種々の問題につながりやすいです。(結局②を引き起こしやすく、①につながる。)
ただし、テイクバックで投球腕の内旋動作が入る者の方が入らない者より球速が速い傾向があることも言われています。全くしない方が良いとは思いませんが、この動作が大きいことでトップを作るのが遅れる場合は小さくしてみるのもアリだと思います。


④インバーテッドW(逆W)と言われるようなポジションになる
両腕が逆Wのようなカタチとなり、肘から腕が上がるような動きになると、手が上がらずトップを作るのが間に合わないため、肘下がりなどを誘発し、不良なリリースとなりやすい。(下図のようなカタチは腕を振り遅れている)

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個人的にはインバートテッドWのような動き自体が完全に悪いものだとは思いませんが、腕の振り遅れを誘発する可能性は高いと思います。
やってみると分かりますが、Wを作るように両腕を内側に捻った状態では、腕は上がりません。無理にやると痛いです。
「肘が下がってると言われるから、上げなきゃ!」という意識でテイクバックを肘から上げようとする選手がたまに居ますが、実は返って肘下がりを助長します。

⑤グラブ側の腕を伸ばした姿勢の時に両肩のラインの傾きが大きい

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上図bのようにグラブ側の腕を伸ばした時(狙いを定める意味として、エイミングとも言われる)の両肩のラインの傾きが大きいと、腕は背中側に引けやすく(水平外転)、上がりにくくなるという報告がされています。これも腕と下半身とのタイミングのズレを生む可能性のある動作です。


⑥開きが早い


これは次項で詳しく説明します。

①〜⑥に共通して言えるのは腕と身体の回転とのタイミングがずれていることです。経験的にも投球障害になる人は下半身と上半身のタイミングが合っていない(腕を振り遅れていることが多い)ことが多いです。テイクバックでの腕の引きすぎも、テイクバックで腕を内側に捻る動作が大きいことも、グラブ腕を伸ばした時の両肩のラインの傾きが大きいことも腕を振り遅れやすくなることが問題だと思います。
タイミングのズレは手が遅いか下半身が早いか、両方かです。
そのため、紹介した論文的に良くなさそうだとされている動作が必ずしも悪くはないと思いますが、タイミングを狂わせやすい要素ではあると思うので参考にしてみてください。
テイクバックで腕を引く動きも、腕を内側にひねる動き(内旋)も全くしないのは投げにくいですし、球速にも影響します。全体の連動、タイミングが絶妙に合うところを探しましょう。

テイクバックドリル
腕回し投げドリル

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ラジオ体操のように腕を外から内にグルグルと回しながら、腕回しと下半身とのタイミングを合わせてシャドーまたは投球をするドリルです。腕をグルグルと回すことで自然な回旋の切り替えも起こり、腕を内にねじりすぎたり、背中側に引来すぎたりすることなくスムーズにトップまで手を上げやすくなります。また、下半身とのタイミングをつかむ練習としても効果が期待できます。


棒などを持ってのローテーション切り替えドリル

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棒や短いバットなどを持ってテイクバックでの内旋から外旋に切り替わる感覚を感じながらシャドーを行うドリルです。棒の重さや遠心力を使って棒に振られるようにします。少し先端に重さのある物だとより分かりやすいです。手で持ち上げてしまう人は、棒を踏み出し脚より前の位置から動作の始動を行い、棒の重さで振り下ろしながらテイクバックを開始するようにするのもオススメです。

そもそも「開き」とは?

リリースを狂わせる要素⑥にあげていた「開きが早い」について書いていきます。
投球において開き(身体が回転し、投球方向に正対していく動き)は必ず起こりますし、必要な動きだと思います。海外の論文でもearly trunk rotation(体幹の早すぎる回旋)と表現され、投球における不良な動作として認識されているようです。
この海外の論文では、踏み出した脚が地面についた時に身体の回転が始まっており、手が垂直くらいまで上がっていないものを「開きが早い(early trunk rotation 下図)」と定義しています。

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(Wiemi A. Douoguih et al. Early Cocking Phase Mechanics and Upper Extremity Surgery Risk in Starting Professional Baseball Pitchers. Orthop J Sports Med. 2015 Apr; 3(4): 2325967115581594.より引用)


開きが早くなるワインドアップと良くない理由

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(岩堀祐介:運動力学を踏まえた投球フォーム指導:現代医学、63巻2号、2015 より引用・改変)
ワインドアップ(足を上げて片脚立ちの状態)において右投げ投手なら一塁側へ倒れる動き、左投げ投手なら三塁側へ体が倒れる動きは開きを早めます(結果、肘も下がる)。
これはテイクバックにも影響し、ワインドアップで体の倒れが大きいと、腕を背中側に引く動き(水平外転)が大きくなり、結果として負担の大きいリリースポジションになりやすいという研究結果が出ています。

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踏み出し脚を着いた瞬間に地面からの反力が返ってきますが、それを受けきれず、腰を反ってお腹が前に出るような方向に衝撃を緩衝してしまっても開きが早くなります。地面からの反力をクッションしているぶんボールに伝えられるエネルギーも小さくなります。
これはワインドアップでの立ち姿勢の時点で傾いていても起こりやすいですし、上図のように良い姿勢で立っていても、並進運動時にプレートを親指側で強く蹴ってしまい、並進しながら伸び上がるような動きになると開きを早めてしまいます。軸脚側の骨盤や下っ腹が前に突き出ないように注意する必要があります。


立ち方の影響

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(岩堀祐介:運動力学を踏まえた投球フォーム指導:現代医学、63巻2号、2015 より引用・改変)
ワインドアップで脚の真上に立てていないと、地面からの反発が真っ直ぐ伝わらず、姿勢の崩れ、エネルギーのロスを引き起こしやすいです。その結果、踏み出した脚を地面に着いた時に地面からの反発を受けきれず(踏ん張れるような姿勢を作れていないから)開きが早くなってしまいます。
並進運動につれて骨盤が後傾から前傾に切り替わらず(上図aは切り替わっている、bは後傾しっぱなし)、後傾し続けるフォームは肩や肘を傷めたことがある選手の特徴であるとして報告している論文もあります。

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まずは、立つ側と反対の手で壁や机などを持った状態で始めると良いと思います。
肩ー股関節ー膝ー足首 が前から見ても、横から見てもおよそ一直線に揃うようなポジションが目安です。
外側や前側に股関節・下っ腹の力が抜けないように気をつけましょう。
上げる脚を高くしていくと、下っ腹やお尻に力が入る感覚があると思います。
協力が得られる方は、片脚立ちした状態で、誰かに立っている方の肩から脚に向けて真下に押してもらうと分かりやすいです。
崩れている場合は押されるとぐにゃぐにゃします。押されてもビシッと安定できるようにしましょう。

グラブ腕の使い方

並進運動時にグラブ側の腕を投球方向に伸ばしますが(エイミング:狙いを定めること と言ったりもする)、グラブを巻き取るようにリリースへ向かうと思います。この時にグラブをどう巻き取るかによって、エネルギーの伝達、身体の連動が少し変わってきます。

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エイミングの段階で、グラブ側の肩が手(グラブ)よりも前に出ると、開きがはやくなりやすいです。

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その流れでグラブを巻き取ると、グラブ側の腕と投げる側の腕が入れ替わるように回転してしまい、エネルギーが相殺されます。「グラブを引け!」と指導される場合もあるかもしれませんが、グラブは身体より後ろに引くとエネルギーを相殺してしまいます。球速の速い選手たちは身体の前でむしろ身体をブロックするように使うことでリリースを加速させています。

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グラブを引くというよりも、伸ばしたグラブに身体を引き寄せていくといった感覚のほうがしっくりくるかもしれません。


フォロースルーは全身でとる

フォロースルーの役割はリリース後の加速した勢いをいかに全身でで分散させて減速させるかだと考えています。
グラブによるブロッキングはある意味急ブレーキであり、リリースを加速させる反面、急停止した身体と急加速した腕の速度差によって肩の負担は大きくなります。

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図左のようにブロッキングが強いと、リリース後に投球側の肩には、ロケットパンチのように腕が飛んでいきそうなくらい負荷がかかります。
そのため、あくまでもリリースまでの加速で上手くグラブ腕によるブロッキングを使い、リリース後のフォロースルーでは肩甲骨・体幹・股関節全体を使って衝撃を分散させながら腕を減速させる必要があります。


踏み出し脚の重要性

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(菅谷啓之ら:新版「野球の医学」:文光堂、2017より引用)

もちろん軸脚だけでなく踏み出し脚も重要です、並進運動で生み出したエネルギーは地面からの反力として踏み出した脚から伝わって身体に返ってきます。それをいかにボールまで伝えるかが球速に非常に関係します。踏み出した脚を踏ん張って、伸ばす・引くように見える動きをキックバックと言ったりしますが、これは球速が速い選手の下半身の使い方の特徴として報告もされています。

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リリースの姿勢において踏み出した脚の安定性や、体幹の安定性の問題でエネルギーをロスし、リリースで肩・肘の位置関係が崩れているケースはよく見ます。

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図右では地面からの反力を膝や股関節、体幹でクッションしてしまい、結果として肘が前に出るようなポジションとなることで先端である手(ボール)は加速していません。

リリースの前まで肘は下がってないのに、リリースにかけて肘が下がってしまうという選手は下記2つのドリルが有効かもしれません。

キックバックドリル

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トレーニング用の台やブロックなどを用いて行うドリルです。幅があり、滑らないものがオススメですが、ジャンプや電話帳のような厚めの雑誌をガムテープで巻いたりしても使えるかと思います。台に踏み出し脚を置いた状態で階段を上がるように台に乗っていきながら投球をしていきます(もちろんシャドーでもok)。
しっかりと踏み込んでいき、上に登る際の太ももの裏やお尻の筋肉での踏ん張りをリリースへ伝える感覚をつかむのが目的です。上図の下側のようなフォローになるのはダメです。体重が踏み出し脚に乗っておらず、お尻が後ろに残っているのが分かると思います。
まずは小さな体重移動から行い、踏み出し脚の股関節に体重が乗る感覚、太ももの裏やお尻の筋肉での踏ん張りを使ってリリースでボールを押し込む感覚・タイミングがつかめてきたら歩幅を広げたり、体重移動を大きくしたりしてみましょう。

リリース位置での体幹・股関節トレーニング

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軸脚を台や椅子などに置いて、リリースに近いポジションを作ります。その位置で親指が上を向くようにピンと伸ばして保持します。上図○側のようなポジションを参考にしてください。上手くできると、下っ腹、お尻、太ももの裏の筋肉を使っている感じがあると思います。肩甲骨周りにも効きます。☓のように潰れたり、お腹の力が抜けて腰が反りすぎないように注意してください。
余裕がある人は、リーチする腕に重りを持ったり、歩幅を広げたりしても良いですし、軸脚を台などに乗せずに、片脚スクワットのような姿勢でリーチをしても良いと思います。

ステップ幅をどう考えるか

踏み出す歩幅は広ければ広いほどリリース位置はホームベースに近くなりますし、並進運動において投球方向にエネルギーを出せているとも捉えられます。しかし、一方で、踏み出し脚で地面からの反力を受ける際の難易度は高くなります。
つまり、歩幅は広ければ前でリリースできるが、広くなりすぎて踏み出した脚で踏ん張れずに結局エネルギーをリリースまで伝えられないのなら本末転倒ってことです。
軸脚のズボンが汚れている投手を良い投手だと言う人がいますが、本当にそうでしょうか?歩幅が広すぎて踏ん張れず、下に潰れてしまって軸脚を擦っているのかもしれません。そもそもズボンと地面との摩擦があるということは抵抗なのでロスでもあります。
自分の機能や身体の使い方に合った歩幅を見つけましょう。

コントロール、イップスへの個人的見解

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スローイングプレーンのズレに関しても、コントロール不良やイップスに関しても、要因の1つにタメ・伸長位を綺麗に作れていないことがあるのではないかと考えています。
トップで最も伸張されたポジション(最大外旋)で手から脚までつながった伸長位を作り、そのテンションが抜けないようにリリースまで解放すると球速ももちろん腕を振る軌道はある程度勝手に安定するように思います。このテンション(伸長位)を綺麗に作れなかったり、途中でテンションがほどけたりすると腕の軌道、リリースポイントはどこにでもいけるようになると思います。弓などもそうですが、筋肉もピーンと張っているとそれが戻る方向に運動が起こっていきます。本来この張りを綺麗に作ってしまえば、ある程度決まった動きしかできなくなります。張りが作れないと、小手先で誤魔化せるとも捉えられますが、運動の方向・身体の軌道がどこにでもいってしまうのでコントロールが定まらなかったり、伸長というフィードバックが無いことで、どう動いたらよいか分からない(イップス)となったりするように感じます。

投球において必要な可動域「TER」とは

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投球動作においては上図のような腕がしなるようなポジションを作っていく必要があり、Total External Rotation(TER)とも言われます。この動きが大きければ、リリースまでに加速する距離が長くとれるので球速に関係します。弓も大きく引いている方が強い矢が飛びそうですよね?実際に球速の早い投手は共通してこのしなりが大きいです。
まずは土台である胸椎の動きを獲得することで、その上に浮いている肩甲骨が動くようになります。肩関節の可動性ももちろん重要ですが、この背骨(胸椎)と肩甲骨の可動性を大きくすることが障害予防とパフォーマンスアップには非常に重要です。

胸椎のストレッチ紹介

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四つ這いの状態から腕を組み、お尻の位置が変わらないようにして、胸を床面に着けるように下げていきます。矢印の部分を床面に降ろしていくように行いましょう。肩が痛い人は注意してください。

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身体を捻り、床側の腕を90°ほどの位置で伸ばします。胸をしっかり捻りながら上側の腕を天井に向けて真っ直ぐに伸ばします。

肩甲骨周囲のエクササイズ

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腕を閉じて肘が鼻より上に上がりますか?
これは1つ柔軟性・肩甲骨周囲の筋機能のチェックとして使えますし、トレーニングとしても有効です。

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肩甲骨を大きく動かすように行いましょう。首に力が入ると、肩はすくんでしまい、つまって上がりません。また、手を開いて降ろしていく段階では肘が肩甲骨よりも先行して動かないように注意しましょう。肩の関節の噛み合わせがズレてしまいます。肩甲骨の動きに腕がついていくようなイメージで動かしましょう。

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肩甲骨の動きのイメージは赤の三角で示しています。腕を身体の前で閉じると肩甲骨は外に動きます(外転)。閉じた腕を上げると後ろに回転しながら受け皿が上を向きます(後傾)。閉じていた腕を開くと肩甲骨は背骨に寄ります(内転)。腕を下げてくると肩甲骨は上げるときと反対に回転しながら、さらに背骨に近づきます(内転・下方回旋)。
腕をピタッと閉じると上がらない。できない。という方はできる範囲で行いましょう。腕を少し開いても大丈夫です。重要なのは肩甲骨を大きく動かすことです。


TERストレッチ 棒体操

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(菅谷啓之ら:新版「野球の医学」:文光堂、2017より引用・改変)

バットや棒を使ったストレッチも有効ですが、肩や肘に負荷がかかりすぎないよう気をつけてください。脊骨(胸椎)や・肩甲骨の動き(後傾)を意識して行いましょう。まずは上図右のようなカタチを意識するほうが良いかもしれません。上図左のように肩関節の外旋や肘の外反が強調されすぎると、肩の前方の靭帯、肘内側の靭帯が緩んでしまい、ケガの要因になります。

可動性のギャップが危険

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(岩堀祐介:運動力学を踏まえた投球フォーム指導:現代医学、63巻2号、2015 より引用)
硬いところ(低可動性)、動きすぎるところ(過可動性)のギャップが大きいとケガのリスクを高めます。実際に傷めてくる選手でも、上図右のように胸椎・肩甲骨周囲が硬い状態で、肩や肘(過可動性)で補っているといったケースは非常に多いです。
腰椎の分離症になる選手もよくいます。もちろんオーバーワークも影響しますが、可動性のギャップによって起こりやすくなります。胸椎や股関節の伸展(胸を反ったり、股関節が後ろに伸びる動き)が硬い場合、全体の動きをつくるために腰の骨(腰椎)の一部が過剰に動くことがあります。こういった状態で繰り返しストレスがかかることで負担を一身に背負った腰が疲労骨折したものが腰椎分離症です。
人間の身体はどこかの異常をある程度他のところでカバーし、帳尻を合わせることができます。しかし、誤魔化しがきかなくなるといろんな問題が症状として出てきます。パフォーマンスを上げるためにも、疲労骨折などの構造の破綻や症状の出現を防ぐためにも可動性のギャップはなるべく整えておくほうが良いでしょう。

肩の後ろ側の筋肉を柔軟にしよう

肩関節の後方の筋肉(棘下筋や小円筋)や関節の袋(関節包)の硬さがあると関節の適合は悪くなり、肩甲骨の位置関係も悪くしてしまうことによって肩の障害が起きやすいということが分かっています。
投球動作においては硬くなりやすい部分でもあり、後方の柔軟性を維持することは障害予防のために非常に重要です。

肩後方のストレッチ

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腕を背中に回し、反対の手で肘を持って軽く前側にストレッチします。手の甲は背中にしっかりとつけて支点にします。上図右にように身体や肩甲骨が丸まったり、肩が前に出てこないように注意しましょう。痛い人は無理に行わないでください。

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腕を90°くらいに上げて、肘も90°くらいに曲げます。壁などに腕をつけるか、横向きに寝た状態(ストレッチする側の肩を下にした横向き)で行いましょう。上図のように2本指で手首よりも肘側の前腕を押してストレッチをかけます。これも肩や肩甲骨が前に出てこないように注意しましょう。肩関節の中の方に嫌な痛みや引っかかり感がある場合は行わないでください。

複合的な動的ストレッチ

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上図左から右までを動的に反復するストレッチもオススメです。アップなどの際は静的なストレッチより動的なストレッチから始めるほうが身体が動きやすいことも多いです。

投球動作を想定した肩甲骨エクササイズ

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腕をたたんで肩甲骨の動きを強調して投球のような動きをしていくドリルです。肘を曲げて腕をたたむことで、肩だけで動きを作ることを抑制でき、肩甲骨を大きく動かす感覚を養えます。
これもアップ時にオススメです。

おわりに

もしも紹介した不良動作に自分が当てはまっていても、それはパフォーマンスが上がり、障害も予防できるチャンスです!(伸びしろがあるということ)
また、記事内でいくつかのドリルやトレーニング・ストレッチを紹介しましたが、大事にしていただきたいのは目的です。方法はいろいろなものがありますし、自分に合った難易度、方法にアレンジして行うほうが効果は高くなると思われます。
今回の記事を通して、なぜこういうドリルなのか、なぜそこをストレッチした方が良いのか、なぜそこを鍛えるべきなのかといった視点・考えをするクセも身につけていただきたいなと思います。
必要なことや問題点はその人によって異なりますので、今回の内容を参考に1つでも何かの気づきがあると幸いです。
他の情報やトレーニング方法を目にした時にこういう目的なのかなーなどと考え、自分はこういう目的でやりたいからアレンジして取り組もうなどといった思考・行動になっていくと良いのではないでしょうか。
本Noteも良いとこ取りし、自分に合うようにリミックスしてもらって大歓迎です。


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