見出し画像

【新卒向け】変化の早いAI時代を乗りこなす3つの視点

こんにちは、AI歴25年の遠藤太一郎です。普段は、 東京学芸大学にて、教育AI研究プログラム 准教授やAIスタートアップ エクサウィザーズのAIエンジニアリングフェロー、理化学研究所AIP 客員研究員などを務めています。

この間、東京学芸大学にて、「AI時代における人・組織の成長支援」というテーマでお話しさせていただく機会がありました。反響もあったので、改めて一部内容を追記・編集して記事として公開することにしました。

話をする前に、この記事における「AI時代」を定義する必要があります。

数年前からVUCAの時代、と言われているように、今の時代は「予測困難で不確実、複雑で曖昧」です。そうした時代背景が前提にある中、AIをはじめとした技術の急速な発達により、個人と組織を取り巻く環境も早いスピードで変化し続けています。

このように、変化が激しく、何が正解かを決められない今の時代を「AI時代」と定義しています。

AI時代における、個のキャリア形成の変化

AI時代の前後で個のキャリア形成のあり方はどう変わったのか。

一番の変化は社会人として目指すべきゴールがなくなってしまったことでしょう。これまで、多くの人は新卒で入った会社で定年まで勤め上げればよかった。しかし、そうした選択肢を取ることが難しくなっています。

その背後には三つの社会の変化があります。

一つ目は、終身雇用の崩壊です。経団連の中西会長やTOYOYAの社長も終身雇用を続けることの難しさについて言及しています。

終身雇用は年功序列型賃金とセットで運用されるのが一般的で、人を長く雇うほど人件費はふくらんでいきます。しかし、日本経済は現在低迷期にあり、右肩上がりの成長を維持し続けられる企業は多くありません。そのため、雇用する数を減らしたり、早期退職を促す必要が出てきています。

また、年功序列の賃金体系が今の社会と合致しにくいこともあげられます。顕在化した課題があり、トップの号令に従っていれば良かった時代とは異なり、社内外問わず新しいニーズを捉えなければならない今の時代では、自社にはない専門性を持つ人や即戦力の人材が求められます。しかし、そうした人材、特に若い人の場合、年功序列の給与形態だと見合った給与がもらえないため、賃金体系そのものを見直さなければならなくなっています。

その結果、メンバーシップ型からジョブ型へと働き方が変化しています。

リクルートキャリアの情報によると、全国の人事担当約1200人のうち「ジョブ型雇用」導入は全体の12.3%。従業員規模が大きいほど導入率が高く、従業員5,000人以上で19.8%という状況で、導入企業の約7割は1年半以内に「ジョブ型雇用」を導入しているようです。

二つ目は、働く期間の長期化に対し、企業が短命化していることです。アメリカでは、1955年における企業の平均寿命は75年でしたが、2015年度だと、なんと15年ぐらいまで短くなっています。

また、アメリカの「Fortune500」という全米上位500位がランキングとして載っている企業のうち、1995年から2017年段階で残っているものは12%しかないというデータもあったりします。

三つ目は、技術の進化により、求められる仕事やスキルが早いスパンで変化していることです。当然、技術の進化はずっと起きているので、15世紀にあった職業が18世紀にはないなんてことはあるわけですが、そのなくなるスピードが早くなっているんですね。

平成27年の国勢調査によると、ワープロの操作員やタイピスト、預貯金、保険料の集金人、電気・ディーゼル機関士といった100年前には普通に活躍していた職種が消えているようです。

こうした背景から、ロールモデルがなくなりつつあり、結果として会社に依存しにくくなると考えられます。

自分の「好き」や「やりたい」からゴールを決める

キャリアロールがなくなりつつあり、どこに向かえば良いのか不確実。計画を立てても前提の変化によりゴールが変わる可能性がある。そして、技術の素早い変化により必要な知識やスキルはどんどん変動していっている。こうした時代の変化の中で、個人はどうキャリア形成していけば良いのか。

こうした状況を乗りこなすためには、「ゴールを自分で決める」、「プロセスを楽しむ」、「学び続ける」という三つの視点を持つことが大切だと考えます。

まず、「ゴールを自分で決める」について。これまでは外の価値観に合わせてゴールを作る人がほとんどだったと思います。大体数が良いと言うものを選んでいる状態です。社会の価値観が変わりやすい中で、安易にその時に良いと言われる選択をしてしまうと、状況が変わった時にゴールを見失ってしまいます。

では、どうやってゴールを決めれば良いかというと、内発的な動機に向き合うことです。

私は国際コーチ連盟ACCの資格をもっているのですが、コーチングをする中であったり、自分自身で取り組む上で内発的動機を見つける上で良かったものを1つ紹介します。

まず、これまでの人生の中で、自分がやりたいと思ったこと、何かを達成して大きな喜びを感じた経験をリストアップします。

次に他人との比較ではなくて、自分の中で、これは得意だと思える才能や能力、新しく獲得したい能力をリストアップします。

最後に、やりたいことを今持っている才能や能力、新しく獲得したい能力で表現するためにはどうしたらいいかを考えます。

これは決して見栄えの良いものにする必要はなく、誰に見せるわけでもないし、自分の言葉で書けると良いのではと思っています。

このステップを踏むと、今の自分がしていることの延長に将来のゴールを見つけることができます。

ただ、仕事においては内発的動機が低い、という人もいると思います。それは悪いことではありません。そういう場合は、仕事の中で「どういう姿でありたいか」「どこに向かいたいか」を短期スパンでも良いので考えると良いでしょう。「ありたい姿」「向かいたい先」を意識したときに、今の仕事に取り組むことはどういう意味を持つかを考え、仕事の意味付けをし直します。そうすることで、目の前の仕事が急に色づいてくることがあります。

先を見据えつつ、目の前のことを楽しむ

続いて、「プロセスを楽しむ」について。まず、前提として、先ほど設定したゴールに囚われすぎないのが大切です。結果というのは、プロセスの積み重ねであり、一つひとつのプロセスに集中すると、自ずと結果に結びついているものです。プロセス自体を楽しむことを目的におく、というのも一つあると思います。

それでは、プロセスを楽しむにはどうしたら良いのか。例えば、マインドフルネスや座禅など、今ここに集中するための脳のトレーニング。また、内発的動機に基づくプロセスであれば、そもそも楽しみやすいかもしれません。プロセスが自分の成長につながると考えると、成長していく過程を楽しむという視点もあります。

そうは言ってもプロセスを楽しめない時もあると思います。そういう時は、そのプロセスにはどんな意味があるのかを考えてみる。例えば、お金のためにやっているだけの仕事に取り組んでいる時、それが将来の自分にどんな意味があるのかを考えてみる。もしかしたら、スキルや能力の面で学びになることが見つかるかもしれない。そういう視点を持ち、取り組むのと、ただ漫然と取り組むのでは、得られるものの大きさが違うのではないかと思います。

また、一旦プロセスが終わった後に、振り返ってみる、というのも有効です。やってる時は「もう二度とやるか」と思うことでも、プロセスを外から見るとポジティブな意味づけができるかもしれない。そう考えると、ただ辛いだけの経験にならないかなと思っています。

楽しく学び続ける仕組みを作る

最後に、「学び続ける」について。必要なスキルが変化し続け、企業寿命より長く働き続けなければならない中、効果的に学ぶことはとても大切です。

学び続けるためのステップを「学ぶための戦略」「学ぶ方法」「振り返り」の三つに分解して考えてみましょう。

まずは、「学ぶための戦略」では、戦略的学習力を身につけると良いでしょう。学ぶ内容によって、最適な学習方法を選ぶ力です。その解像度を上げるために「なぜやるのか(ビジョン / WHY)」「何を達成すればいいいのか(達成目標 / WHAT)」「具体的にどうするか(行動目標 / HOW)」の三つのフレームで学習対象を捉えると良いでしょう。

例えば、グローバルで活躍することが、ワクワクするビジョンだとして、そのために必要なのはTOEIC高得点とMBAを取ることだとします。そのために、始業一時間前にカフェで勉強しよう、みたいな行動目標を決める、という感じですね。

「学ぶ方法」については、アクティブラーニングという方法を取り入れると良いでしょう。学ぶ中で興味のあるテーマについて積極的に調べたり、得られた知見を試したりする方法で、文部科学省が推進していたりもします。

最後に「振り返り」ですが、リフレクションと呼ばれるもので、自分の内面を客観的に、批判的に振り返る行為です。やったことから、学びを見つけ、次にやることにつなげるというプロセスを回します。次にやること、すなわち未来に繋げるのが重要なポイントだと思います。

自律という羅針盤で、AI時代を乗り越える

改めて、個人がどうすべきかを振り返ると、「自分で決める」、「プロセスを楽しむ」、「学び続ける」の三つを大事にしようということで、これらをさらにまとめると、AI時代においては「自律」が一つのキーワードになるのではと考えています。

社会に目を向けて見ても、「自律」を促す傾向が見られます。

例えば、個人の内発的動機を促すためにコーチングサービスが増えています。市場規模は2015年時点で50億円だったのに対し、2019年には300億円になり、サービス数も2020年時点で75を超えるサービスが存在しています。

新しい職業に就くためや、環境の変化に対応するために必要なスキルを獲得する「リスキング」のニーズも拡大しています。ちなみに、「リスキング」に似た概念として「リカレント教育」がありますが、「リスキング」が「主に企業が社員に対して学ぶ機会を作る」のに対し、「リカレント教育」は「教育機関やサービスを通じて学ぶ、場合によっては一度職を離れる場合もある」という違いがあります。(リスキングについては、またどこかで記事にできたらと思います)

技術の発達スピードは今後もっと早くなっていくでしょう。その時、どこを見据えて進むべきかを見失わないために、「自律」というキーワードがこれからのキャリアの羅針盤となれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?