【英文論文】「最近の若者は頼りない」論の真相。世代間ギャップとマネジメント
TTC(タナケンゼミ)今回の論文は、組織における世代間ギャップについての考察です。理論的枠組みとして、以前の記事で紹介したカレイドスコープキャリアを使用しています。
世代間ギャップとは?
世代間ギャップとは、要するに「最近の若者は~」という定番の議論のことだと考えていいでしょう。逆に、若者の視点から見ると「老害」問題と言うことができます。
若者は「上がつっかえている」と考え、組織の上の層にいるひと世代先の人たちをうとましく思い、上の世代は「最近の若者は意欲が足りない」「なまけている」と考えている傾向があります。
さらに分かりやすく言えば、上の世代は「働くために生きる」という考え方で、仕事一筋の生き方をする人が多い。一方で、下の世代は「生きるために働く」という考え方で、バランスや自分らしさを大切にする、仕事が全てとは考えない人が多いのです。
この論文はアメリカの論文ですが、基本的な構造は日本もそう変わりないと思います。ここでは、働く人の大半を占める「ベビーブーム世代」と「ジェネレーションX」についての世代間ギャップを考察しています。
ここでは分かりやすいよう、ベビーブーム世代を「管理職世代」、ジェネレーションXを「現役世代」と呼ぶことにしましょう。
今日の組織では、幅広い世代の人が働いているため、こうした世代間の違いを考えることは、人材マネジメント(Human Resource Management)に示唆を与えます。
今回の調査での発見
この論文では、世代の違いがキャリアの考え方にどのような影響を与えているかを調べるために、アンケート調査を行っています。そのときに、カレイドスコープキャリアという新しいキャリア概念を用いて調査を行いました。
カレイドスコープキャリアは、別の記事でまとめていますので、詳細はそちらで確認していただくとして、完結に言えば、人が職業を選択する際には3つの要素のどれを重視するかが鍵になるという考え方です。
事前の仮説では、現役世代はオーセンティシティとバランスの志向が高く、管理職世代はチャレンジが高いのではないかと予想されました。
実際の結果は、どうだったのでしょうか。
調査の結果、予想が的中していたことは「現役世代はオーセンティシティとバランスの志向が高い」ということです。たしかに、今働き盛りの世代は自分らしくあることや、ワークライフバランスを重視する傾向にあることは感覚的にも理解できるので、納得でしょう。
それに対して、チャレンジはどうたったのでしょうか。
なんと、チャレンジに関しては、現役世代も管理職世代もあまり差が見られなかったのです。
つまり、管理職世代は「最近の若者は仕事に対する意欲が足らん!」と思っているのに対し、実際の現役世代は「仕事でもチャレンジしたい!」と考えていることが明らかになったのです。
これらを統合して考えると、現役世代は(管理職世代と同様に)仕事でチャレンジしたいと考えていると同時に、プライベートとのバランスを取り、自分らしさも大事と考えていることになります。
上の世代がチャレンジに傾いていることを考えると、かなり「欲張りな世代」と言えるでしょう。あれもこれも、なのです。
このように、私生活を大切にしながら、仕事でもチャレンジしたいという現役世代の声を、管理職世代は「甘いことを言っている」「仕事の意欲が足りない」と認識してしまっていると考えられます。
そうであるならば、マネジメントに携わる者は、私生活を大事にしながら、仕事でもしっかりとチャレンジすることのできる柔軟な環境を作らなくてはなりません。もう、昔のように仕事一筋の人間にのみ、挑戦が与えられるようなマネジメントではいけないのです。
人材マネジメントへの示唆
最後に、この研究が人材マネジメントに与える示唆を考えてみましょう。
論文では、人材マネジメントに対する2つの提案がなされています。
一つ目は「世代間ギャップの一般論に流されるな」ということです。研究では、管理職世代と現役世代の間で、チャレンジ意欲に差がないということが分かりました。これは一般論として「最近の若者は~」と語られる内容とは違っています。
他の研究でも、管理職世代と現役世代の価値観の違いは、実はそれほど大きくなく、異なっているのはあくまで、相手をどのように認識しているかの違いであるということが分かっています。
世代は違っても、共通の想いは共有できるのだということを胸に、きちんと相手を知ることが大切でしょう。
二つ目は「個人と組織のベストフィットを実現するプログラムを開発せよ」ということです。個人と組織のwin-winを実現するということは、キャリアの視点から組織マネジメントを考える際には欠かせないテーマです。
論文では、採用活動でRJP(Realistic Job Preview)という考えを取り入れて、メリットもデメリットも含めて十分な情報を開示するようなプログラムが求められると述べています。ほかにも、サバティカルなどの休暇制度を設けて、仕事と仕事以外の意味のある活動(環境問題、がん撲滅運動)などを両立できるようなプログラムが必要ということです。こうした考え方は日本企業ではまだあまり浸透していないような気がするので、今後に期待したところです。