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【 国際メジャーの企画開発 ① 】:60億円の映画企画書は、“ペラ4枚”

映画の視点から、【 国際メジャーの企画開発 】というチャネルを開いておこう。“アーティスト業界情報局” なのであまりにビジネス寄りの話題は避けているが、クリエイターの爆増によるエコノミー化において、最低限以上の武器についての解説が必要だと感じた次第。【 国際メジャーの企画開発 】は不定期ながら、アーティストとクリエイターに、具体的なソリューションを提供するチャネルである。興味があるかないかは、関係ない。世界は日本を放置して走り出している。オンラインでの創作活動に国境は無く、デファクトスタンダードこそがルールなのである。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『映画の企画開発は、スタートアップの事業と同じ』

映画というのは、“創業企業の初回事業”と同様である。スタートアップ企業の創業初年度の苦闘を想像してみるといい。「3期目までには黒字化、5期目から元本返済を——」などと昭和な言い訳は通用しない。

—— 運転資金は社長の預金レベル、開発予算は全借金、目先の事業は1つだけ、8か月後のローンチと同時にキャッシュを生めなければ販促かなわず、即倒産と同時に、10年の謹慎または業界追放の覚悟が前提 ——

これが、“インディペンデント映画” を背負ったエグゼクティヴ プロデューサーまたは、企画者の監督からの一般的な視点なのである。まるっきり、スタートアップの創業初年度と酷似していることが理解できるだろう。

映画は、企画者(※プロデューサーや監督である場合が多い)の貯金で発案され、集めた出資で開発をすすめて「企画」とし、製作発表というローンチまでの奮闘を経て、撮影のさなかに協賛費を集めて映画内宣伝を実行しながら製作費の不足を補填し、ワールドプレミア(試写会)というローンチで販売を開始。キャッシュを得ながら全額投入して販路を拡大し、上映での黒字化を目指す。これが一般的な、“インディペンデント映画製作”なのだ。まさにタイトロープ。丁寧な事業計画書にまとめたところでこれが“創業企業”なら、銀行が手を引くだろう。事業への投資どころか投機ですらなくまさに、ギャンブルである。

ここからが、『国際メジャーの企画開発①』である。

他人の金でギャンブルをするような者に、大事業への参加機会などやってこない。そこでこのチャネルでは以後、一切のギャンブル要素を除外する。

表題回収は下記、『編集後記:』で。

『完成度の高い企画書は、通らない』

業界常識を疑い、丁寧に考えれば当然の話なのである。けっして潤沢では無い準備予算(※プロデューサーや監督の預金)を投じて、何ヶ月もかけた企画書を作る者を貴方は、どう想うだろうか。自身を協賛社、または出資候補者だとイメージしながら、想い浮かべてみるといい。上質な紙、デザイン構成にため息が出るほどの“最高品質の企画キット”をミシュラン星の個室で提示されたなら。

胡散臭い以外の、ナニモノでもないのだ。

これから大事業を成立させようという張本人が、なけなしの準備金で体裁ばかりを繕い、見せかけの演出で出資を迫る。もはや、自覚の無い詐欺である。


『 ホンモノの立ち居振る舞い 』

無精ひげにロケハン帰りの汚れたスニーカー、写真のプリントアウトも間に合わないままにカメラの液晶画面を見せつけつつ、最新の企画の魅力要素を熱弁する狂気のクリエイター。そんなヤツの方が、リアルを感じないだろうか。そんなヤツが明確な終着点を語り、可能性の幅を示しそして、その日の会話で最も時間をかけたのが“リスク”についての徹底的説明と理解への確認だったとしたら。

ホンモノ、とはそういうヤツである。


『 企画書は、企画書ではない 』

どんな立派な企画書もプレゼン資料も、上質なマナーと装いも高級個室も、役になど立たないのだ。企画書は、いつの間にかできあがっているものである。しかも、出資者や協賛者と一緒に創るモノであり、交渉用材料ではない。

企画の方向性に意見を出し合って成果を最大化させるための「シミュレーション素材」なのである。

映画は1本しか創れないしかし、企画段階のシミュレーションなら、数度程度は繰り返すことが可能なためだ。


『 企画段階で、“脚本” が完成しているはずがない 』

当然、出資者を集める前に「脚本」が完成しているなどあり得ない。なにを勝手に、自分よがりな夢を脚本に仕立てているのか。プロデューサーや監督個人の夢を実現するためなら、自宅や実家を売却して、誰も雇用せずに映画を完成させるべきなのだ。劇場公開は出来ないだろうが、映画を創った、と公言するくらいのことは許容される。脚本も、企画書を作成する過程で同時に、開発していくのだ。脚本が完成していないと出資者に失礼だ、という考え方がある。気にしなくていい。インディペンデント映画に出資できるのは高確率でコンテンツ産業外の企業か個人であり、つまりは映画の素人である以上、“脚本を読み解く能力”は無い。


『 3回会うなら、さようなら 』

脚本が脱稿できていようと、プロットすら存在せず、監督の熱烈な語りだけであったとしても、大差は無い。「カタチだけ」の労力をすべて、捨ててしまうことが企画成立への最短距離なのだ。

「いくらなんでも逆張りが過ぎる。もっと丁寧な交渉方法もあるはずだ。呆れられたなら元も子もない。」などという反論が欲しい。

100万円だろうと1億円だろうと、出資者は瞬時に結論を出している。“出さない場合の結論”を。言葉遣いや服装、店選びや“企画書の完成度”を気にして不平不満をクチにするような相手はそもそも、たいした人物ではない。わたしは35年間の映像業界人生で多くの、大型出資決定の場面、に立ち会ってきたがしかし、3か月かけて決定された事実はひとつも無い。庶務手続きに時間がかかることはあれど、出資や協賛は、初回で決まる。3回会う必要があるなら、その相手は本気ではない。丁寧に礼を伝え、別れるべきなのだ。

次回『国際メジャーの企画開発②』では、

「企画開発の具体」を解説していこうと想う。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:COVID-19の経費高騰を負担しているインディペンデント映画製作者を、英国の放送局は支援せず。一方、NETFLIXが制作費を2倍にすると発表。

業界誌Broadcastが、英国を代表する120名の映画製作者(プロデューサー)に実施した調査によると回答者の26%が、マージンの低下がインディーズ最大の懸念事項と表明。「COVID-19による経費が25%高騰しているが、英国の放送局は追加費用を負担しない」調査対象のプロデューサーの多くが、“ストリーマー(※配信プラットフォーム)”との映画製作を希望している。最も協力したいクライアントはAmazon Prime Video、Disney Plus、HBOなど。中でも希望のTopは「NETFLIX」だった。同社を最上位に選出した回答者は全体の40%。これは、英国の放送局で最上位の「BBC」と比較して2倍以上の得票差となる。NETFLIX社への熱狂は、理解できる。同社はパンデミックの最盛期に、英国内で製作されている作品の製作予算を2倍にする、と発表した経緯があるためだ。「私たちはもはや、英国の放送局からの委託製作のために時間を費やしてはいません」そんな中、英国議会委員会の報告書が、配信各社が英国内で、英国の放送局と平等な競争を妨げる法律を提示し、映画製作者たちを失望させている。- MARCH 25, 2021 VARIETY -

『 編集後記:』

『 製作費60億円の映画企画書は、“ペラ4枚” 』これは、わたしが経験した実話である。そのうち、「表紙が1枚」「Memo用空欄が1枚」つまり、企画の内容が記載されているのは、たった2枚のみ。1枚は「監督のレジュメ」であり、最後の一枚に、“5行のプロット(あらすじ)”と史実の備考。本日現在までの契約締結済み「協賛社紹介」だ。それから7か月後、映画は完成し、世界の2大映画メディア誌のうち「VARIETY」で表紙を飾り、全米公開ほか日本含む16ヶ国で劇場公開。現在はNETFLIXをはじめストリーマーによって配信および販売中である。

もっと大きな作品でも“ペラ数枚の企画書”を目の当たりにしてきたのだが75,000,000USD.を越えるプロジェクトは銀行と保険会社の仕切りが大きくまた、その映画を製作するために複数のLLC.(有限責任会社:Limited Liability Company)が設立されることもあり、全体を俯瞰できる部署が存在しなくなる。その為、断言できない。ただ、製作費150億円のプロジェクトの幹部会議が、営業中のアイリッシュバーと、L.A.のベニスビーチで開催されていた事実がある当然、“企画書”を叩きながら進行するはずもない。

シンプルと無限が共存する映画製作の現場へ帰るとしよう。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記