【連載小説】ナクシモノ(1)

卒業まで残り8か月となった頃。

父の転勤で、やむなく転校することになった僕は、いつもの場所に来ていた。

いつもの場所で見る景色は、これから新しいことが待っているというのに、何も変わらなかった。


今まで通っていた学校では、特に目立ったことはせず、ただ読書に没頭していた。

あまりに読書が好きだったため、図書委員会に所属したものの、あれは失敗だった。

図書委員会は楽だからという理由で入ってきた先輩がいたからだ。あれは本当に苦痛だった。

部活や郊外の活動にはあまり興味を示さなかった。人間にも。

あまり活動的でなく、しまいには人間に興味がないということもあり、友達なんか全然いなかった。

でも自分で選んだ道なのだから、友達がいないことについては全く後悔してない。むしろこれで正解だったのではないかとさえ思っている。


転校する前日に、クラスで形だけのお別れ会を行った。

形だけの涙を流され、別れの挨拶では嘘偽りしかない言葉で修飾された手紙を渡され、なんの意味があるのだろうと違和感しか覚えないまま、クラスの皆と別れを告げた。


こんな僕だ。2年と4か月通ったこの学校を転校することに特になにも感じなかった。

1つ心に残るものがあるとすれば、あの図書館だ。慣れ親しんだ図書館から離れてしまい、心地よい場所が離れていってしまうのではないかと不安に思った。

まだ読みたい本もたくさんあった。

しかしこれもまた一期一会なのだろう。新しい場所にもきっと図書館はある。

そう信じて、僕は転校先へむかった —



「和賀山高等学校」。転校先の学校名だ。

長崎県の小さな孤島にある唯一の高等学校だった。

元いた学校とは対象的で、極小規模の学校だった

学生は僕を含めて3人。よく閉校にならないなと思う。

学校を案内された。一つ心配していた図書室もどうやらあるらしく、自由に使えるらしい。

この学校で図書室を利用している学生はいないらしく、ゆっくりできそうだと安心した。

小さい学校の割には、きれいな校舎だった。後で尋ねたところ、創立26年らしい。まぁ妥当な清潔感だった。


クラスに案内され、転校してきたということで、自己紹介を頼まれた。

「どうも。東京の学校から来ました元永梟です。よろしくお願いします。」

なんの捻りもない、淡泊な自己紹介だったと思う。

残り2人の学生と担任の自己紹介も後に続いた。

「私は、如月海音!趣味は体を動かすこと!休み時間サッカーしない?」

『こいつは、活発なやつか。苦手だな。だいたい3人しかいないクラスでどうやってサッカーするんだよ』と思いながらも、初日なので下手な行動に出られず、いいよと答えた。

「秋野晄です。よろしく」

こいつは不思議なやつだった。自己紹介こそ普通のものだったが、何を考えているのかわからない雰囲気を出していた。

しかし、何となく同じ空気を感じたので、如月さんと比べて秋野さんとは仲良くなれそうだと思えた。

「そして、最後に —

私が篠崎狼奈。このクラスの担任よ。よろしくね。」

「この人ね!狼って呼ばれてるんだよ!なんでだか分かる?だってね、、、」

「いや分かるだろ、名前に狼ってはいっているだろ」

「あぁ~もう私が言おうとてたのに。」

「二人とも、ちょっと黙りなさい。まぁ、梟君これからよろしくね。私の呼び方はなんでもいいわ。二人と一緒で狼でもいいし、篠崎先生でもなんでもいいわよ。」

「あ、ありがとうございます。」

そうして、和賀山学校での生活が始まった。

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