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短編小説

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TAGOが執筆した小説作品。ホラー、SF、恋愛、青春、ヒューマンドラマ、紀行文などいろいろ。完全無料。(113作品 ※2022/10/1時点) ※発表する作品は全てフィクションで… もっと読む
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#ショートストーリー

『愛想笑いを見抜く能力』(ショートショート)

「ねえ、言っていい? 」 何かをずっと言いたげだった夏子はついに喋る決意をしたようだった。僕は落ち着いた声で「どうぞ」と口にする。 「私ね、他の誰も持っていない能力を持ってるんだ」 ・・・・・・能力? 全く想定していない言葉だった。 「愛想笑いか本気笑いのどちらかが、わかる能力」 彼女の真剣な表情からは、少なくとも嘘をついているわけでも、僕をからかっているわけでもないのは理解できた。 「あ、急に変なこと言ってごめんね。こんなこと言われても

『スキやいいねを押すたびに自分が失われていく症候群』(短編小説)

どこへ消えてしまったんだろう、あの私は。 誰かの記事を読んで、足跡のような感覚で「スキ」や「いいね」を気軽にぽんと押す。特に基準はない。記事の内容や質よりも、書き手に少しの好感を持ってさえいれば、よほどのことがない限りはワンクリックで無色のマークに色をのせる。躊躇なく惜しげもなく誰かの記事に自分をマーキングする。それが私のSNSにおけるスタンスのようなものだった。 でも、それができなくなった。 目の前に並んでいる記事に対して何も反応できな

『ドラマをみる女』(短編小説)

「あんた、彼氏と寄りもどしたらしいじゃん」 「うん」 「これで何回目? 」 「4回目かな」 「まあ、あんたが幸せならそれでいいんだけどさ。くっついたり離れたり・・・そのたびに新しい男友達を紹介してる私の身にもなってよね」 「ごめん。でも私たち戻らなきゃいけないって思ったんだ」 「もう別れるなよ」 「私ね、彼がいなくなって気づいたの。逆らっちゃいけない運命ってあるんだって」 「へえー。ふーん」 ソファに横たわる妻は、煎餅をばりばり噛み砕きながら、気怠い表情でテレビをみて

『白詰草』(短編小説)    #同じテーマで小説を書こう

思いを寄せている人がいた。 下校時、廊下の窓ごしにサッカーをしている彼の横顔を見るのが私の日課だった。真剣な眼差しでグラウンドを走り回るその姿を目で追いながら「今日も頑張ってるね」と心で呟く。 まるで校庭の傍らにひっそり咲く白詰草の花のように。彼と同じ世界にいながらも自分を消していつもつつましく私は存在していた。自分に自信のない私は遠くから表舞台を見つめるだけ。彼は決して届かない存在。彼と話すのはおろか、視界に入るのも怖かった。 そう、あの

『私の知らない夫』(短編小説)

「ねえ・・・」 「・・・」 「ねえ? ねえってば! 」 「ん? 」 「もうっ、さっきから呼んでるのに、ぜんぜん聞こえてない」 「ああ、悪い悪い」 「毎日スマホばっかり見てるじゃない・・・」 ここのところずっと、夫の様子がおかしい。暇さえあれば、スマホをのぞき、指で何かの文字を打ち込んでいる。急にテンションがあがったり、攻撃的になったり、時には涙もろくなったりする。 「ちょっと最近おかしいよ」 「なんで? 」 「食事の時も、子どもの面倒を見ている時も、ずっとスマホを触

『先輩』(短編小説)

交差点の信号が青になった。帰路を急ぐ人の群れが一斉に動き出す。ワンテンポ遅れて僕たちも横断歩道へと歩き出した。 「先輩、軽くお茶でもしていきません? 」 「いいけど、また何かの相談? 」 「ま、まあ・・・はい。・・・ほら、あそこに見える赤煉瓦の喫茶店とかどうですか」 「うんいいね、あそこにしよう」 カランカランとドアベルの音を鳴らして店内に足を踏み入れる。そこには昭和のまま時間が止まったような世界が広がっていた。琥珀色のランプ。艶のあるメローなジャズピアノの音

『黒い羽の鳥』(短編小説)

気がつくと、宙を舞っていた。 「わっしょい、わっしょい」と胴上げをする連中の掛け声には、男だけでなく女も混ざっている。無数の手の平が、私の全身を投げ上げて、受け止めて、また投げ上げる。 胴上げの一行は間違いなく少しずつ移動している。体が高く上がった瞬間、進行方向の先に水平線が見えた。群青色の海が日の光にきらきら輝いている。彼らが一歩一歩向かっている先が断崖絶壁であることに気づくまでに時間はかからなかった。嫌な予感しかしない。 両手両足をバタバ

『宇宙ベーカリー』(短編小説)

「・・・早ければ、あと36時間で、人類初の民間宇宙旅客機RETTURA号は月に到着するそうです。かつて人類初の月面着陸を果たしたニール・アームストロングは、月旅行を想像できたでしょうか・・・」 携帯ラジオからニュースが流れてくる。世間は宇宙旅行関連の話題で持ちきりだ。私はふぅ〜と溜息をついてから、ラジオのスイッチをOFFにした。 ここは「宇宙ベーカリー」。かつて宇宙飛行士に憧れた少年が大人になり、夢のかけらを引きずったままオープンさせたちっぽけなパン屋だ。言う

『まっしろなピュー』(超短編小説)

やっぱりそうだった。空に浮かんでいた白色のそれはピューだった。その謎の物体は、ここのところ毎日のように私の前に姿を見せる。いつだってドローンみたいに空にぷかぷか浮かんでいる。 マンションのベランダで洗濯物を干している途中、私はピューの優雅な空中浮遊に目を奪われてしまった。ひょっとしたらピューは生きているのかもしれない、なんて思いながらしばらく見とれていたら、空に溶けるように消えた。 私はたまに一点の何かをじっと見つめたくなることがある。なぜかはわからない

『嘘の絵画』(超短編小説)

「なんだ、この奇妙な絵は」 「見ていると頭がおかしくなりそうだ」 街の美術館には、評判の悪い一枚の絵があった。数百年前に描かれたとされるその絵は「嘘の絵」と罵られ、街の誰からも忌み嫌われていた。というのも、その絵には存在しないはずのものが描かれていたのだ。 それは、夜空に浮かぶ無数の光だった。大陸の最果てにあるこの街の空は一年を通して万年雲に覆われている。空に光が浮いているはずがない。街の人間にはその光が不吉なものにしか見えなかった。 ただ一人、その絵

とうとうバレた。「noteで変な小説書いてますよね? 」と後輩から言われてしまった。

「私ね、実は知ってるんですよー」 「何の話? 」 「先輩、noteで変な小説を書いてたりしますよね? 」 「えっ・・・・・・」 彼女のその口調は、まるでこちらのすべてを見透かしているようだった。 そう。ぼくは、noteで小説を書いている。この一年でかなりの数の作品を投稿した。これまで、たくさんのスキとコメントをもらった。でも、それはインターネット上の話であって、知り合いの誰にもそのことは話していない。 いい歳した男が、ヘンテコな小説を書いている。それが

『キミとボクの間にある途方もない距離』(超短編小説)

窓から見える校庭は、銀杏の黄色で埋め尽くされていた。 季節が変わっても、授業の退屈さは一年中変わらない。そんな気怠さにつつまれて授業を受けていると、突然、誰かの強い視線を感じた。 教科書から目をはずし、教室内を見渡してみると、窓際に座る花沢さんがボクのことをじっと見つめていた。 「あ・・」 一瞬目が合ってから、花沢さんは照れ顔ですぐに目をそらした。ボクはなんだかすごくドキドキした。 花沢さんは単なるクラスメイトだ。当然、普段からお互いを

『通り雨』(短編小説)

「また雨か。ああ、最悪や」 明日の天気予報を見た風花はそう呟いた。気象予報士のお姉さんは、雨予報の時は暗い顔で話し、雨のち晴れ予報の時は無表情に話し、晴れ予報の時は明るい顔で話す。風花は、雨が大嫌いだったから、暗い表情で話すお姉さんも大嫌いだった。 「なあ、おかん。新しい傘買って」 「え、あの傘まだ使えるやろ? 」 「あの傘、無地の紺で地味やし。傘の内側が青空になってるやつあるやん? 私あれほしいねん」 「そんな変わった傘、いったいどこに売ってんの? 」 「ほら、

『私の愛おしい宇宙人』(短編小説)

私の彼氏は、宇宙人だ。 こんなことを言うと、たいていの人が一瞬固まる。この子は不思議ちゃんに違いないという目をする。でも、本当の話。宇宙人なのだ。 その証拠に、彼氏はいつもテカテカ光るシルバーの服を来ている。謎のペンダントを首からぶら下げている。大きなサングラスみたいな眼鏡を必ずかけている。本人はいつもこう言う。宇宙人なのだから、それっぽいファッションをするのは当然だ、と。 彼の見た目は三十代の日本人男性だ。しかし、ある時から心が宇宙人になった。