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短編小説

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TAGOが執筆した小説作品。ホラー、SF、恋愛、青春、ヒューマンドラマ、紀行文などいろいろ。完全無料。(113作品 ※2022/10/1時点) ※発表する作品は全てフィクションで… もっと読む
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「怖い」とは何か? 「#2000字のホラー」に6作品エントリーしました。

ホラーのお祭りといえば、ハロウィンだけではありません。 いまnoteで開催されている「#2000字のホラー」に参加しました。以前に書いた作品でもOKとのことで、過去に書いた2000字程度の作品をリライトしました。 「怖い」ってなんだろう、と突き詰めながら書いた記憶があります。幽霊やゾンビなどそういったわかりやすいものだけじゃないんですよね。 参加したのは、以下の6作品。秋の夜長にぜひ読んでみてください。ちびっても知らないぞ!

『冷蔵庫バス』(ショートショートnote杯)

 どうしても思い出せなかった。ここがどこなのか、なぜ自分がここにいるのか。  濃霧に包まれ視界が悪い。一人佇んでいると、微かな足音を響かせて男の影が近づいてきた。男は全裸だった。変質者かと警戒したが、心細かった僕は思いきって声をかけた。 「すみません。ここはどこですか?」 「ここかい?……ふふっ」  男は鼻で笑ってそのまま歩いていった。目を凝らすと霧の中にうっすらと複数の人影が見える。全員シルエットが裸だった。 「あっ」  なんと自分も全裸だった。慌てて股間を両手で

『しゃべるピアノ』(ショートショートnote杯)

「言おうかどうか迷ってたんだけどさ」 「何?」 「昨日の夜、聞こえたの。あなた、そのピアノ椅子で誰かと話してたよね」 「えっ」  間違いなく彼女は俺を疑っていた。 「私、わかるの。相手は女よね」 「……」  その声色には、いくばくかの憂いと怒りが滲んでいる。 「誤解だよ、そういうんじゃない」 「嘘」 「ただの女友達だよ」 「絶対嘘」 「……」 「許せない。私という者がありながら」  声が震え出した彼女にはどんな言葉も届かない。とはいえ、対処方法はわかっている。今、彼

『ちいさな異邦人』あとがき

誰ですか。noteのタイムラインをスクロールしていると突如現れる、この黒いヴェールを纏った目力の強い若い女は?  これは先日公開した短編小説「ちいさな異邦人」のカバー画像のために自ら描いた絵だ。procreateでヘタクソなりに時間をかけて完成させた。 彼女はこの小説の主人公であるカエデの26歳の姿である。その眼差しにはどこか強い意思が感じられ、何かを訴えかけようとしているように見えてこないだろうか。 そう、彼女はあなたに向かってメッセージを発信している。おそらく、「あ

『ちいさな異邦人』(短編小説)

 間違いなくあれは現実だったのだと、今もそう信じている。  11歳のわたしは“ぐるぐるゲーム”に夢中になっていた。その名の通り、地球儀をぐるぐると回転させ、目をつむって人差し指で止めた国名を当てるそれは、わたしが考案した遊びだ。滅多に当たらないけれど、的中した時は興奮する。     北半球を狙ってアメリカやロシアと言えば当たりやすい。けれど、国土の広い国が当たってもそんなに嬉しくはなく、やっぱり、国土の狭い国、例えばネパールやアイスランド、キューバなどを狙いたくなる。

『ジェルナと魔兵器』

「おい大丈夫か」 「・・・・・・ゴホッゴホッ」     街はずれの沼地に倒れていた女はひどく衰弱していた。目は虚ろで、唇は乾き、纏った服は煤と砂埃で汚れてボロボロだった。今自分が見捨てれば間違いなく息絶えるだろう。     トミは女を肩に抱えて家に連れ帰った。訳ありの女だとわかっていても放っておけなかった。 「ほら飲め」 「・・・・・・」 「いいから飲むんだ」     トミは半ば強引に女の口に白湯を運んで含ませた。柔らかな枕の感触に安堵したのか、女はそれからしばらく眠

『腐葉土の匂い』

    許せない。それだけだった。     身長180cm近くある夫の死体を抱えるのは小柄な私には簡単ではなかったが、何とか車の後部座席まで運んだ。ダッシュボードの時計は23時だった。     車は国道をひたすら北へ。真っ暗な峠道に入り、さらに脇道の旧国道を進む。ここまで来れば後続車もすれ違う車もいない。路肩に車を停めた私は、重い死体をひきずって樹海の中に入っていった。 「ふう、終わった」     服と肌から、土と血と汗が混ざり合った匂いがする。帰宅後、全てをシャワー

『無限大穴』

    落下し始めてから30分は経っていた。俺はまだ現実を受け入れられないでいた。     コンビニに煙草を買いに行く途中だった。目の前を歩くミニスカの女に見惚れていたせいで、道すがら蓋のないマンホールで俺は足を踏みはずしてしまったんだ。こんなバカな話信じられるか?     あろうことか俺の落ちたマンホールは、都市伝説でたびたび語られてきたあの悪名高い「無限大穴」だった。     悪い夢に違いない。最初はそう思った。でもどうやら現実らしい。というのも、空中で俺は一度気を

『SKY RE-BIRTH』

    空を染める灰色は雲ではない。大量のドローンだ。     極小モスキート型、乗用型、貨物輸送型、オフィス型、住居型などその種類は多岐にわたる。中でも一番大きいのは傘型。新宿区の空をすっぽり覆うほどのサイズで、異常気象による水害を防ぐ目的で開発された。     ここは薄暗い路地の奥にある一室。LEDに照らされた窓のない空間で私たち夫婦は慎ましく暮らしている。 「なあボヴァ。そろそろ俺たちも空に引っ越さないか」 「ジャックあなたもしつこいわね、私は地上じゃなきゃ嫌よ」

『村』

    布団の中で小さく丸まっていた。     心臓がバクバクしてなかなか寝付けない。陸の孤島のようなこの村で凄惨な殺人事件が起きたのはまだ昨日の夕方のことだ。10歳の私に、その出来事はあまりにも衝撃的だった。     農家の娘クニエが発見された時すでに息はなく、田んぼの水は赤く染まっていたという。遺体には深い傷が複数あり、背後から鎌で何度も振り下ろされた可能性が高いという話だった。村の商店は臨時休業、学校は臨時休校。警察が村を捜査している。     犯人が近くにいるか

『愛想笑いを見抜く能力』(ショートショート)

「ねえ、言っていい? 」     何かをずっと言いたげだった夏子はついに喋る決意をしたようだった。僕は落ち着いた声で「どうぞ」と口にする。 「私ね、他の誰も持っていない能力を持ってるんだ」     ・・・・・・能力? 全く想定していない言葉だった。 「愛想笑いか本気笑いのどちらかが、わかる能力」      彼女の真剣な表情からは、少なくとも嘘をついているわけでも、僕をからかっているわけでもないのは理解できた。 「あ、急に変なこと言ってごめんね。こんなこと言われても

『スキやいいねを押すたびに自分が失われていく症候群』(短編小説)

    どこへ消えてしまったんだろう、あの私は。     誰かの記事を読んで、足跡のような感覚で「スキ」や「いいね」を気軽にぽんと押す。特に基準はない。記事の内容や質よりも、書き手に少しの好感を持ってさえいれば、よほどのことがない限りはワンクリックで無色のマークに色をのせる。躊躇なく惜しげもなく誰かの記事に自分をマーキングする。それが私のSNSにおけるスタンスのようなものだった。     でも、それができなくなった。     目の前に並んでいる記事に対して何も反応できな

『ドラマをみる女』(短編小説)

「あんた、彼氏と寄りもどしたらしいじゃん」 「うん」 「これで何回目? 」 「4回目かな」 「まあ、あんたが幸せならそれでいいんだけどさ。くっついたり離れたり・・・そのたびに新しい男友達を紹介してる私の身にもなってよね」 「ごめん。でも私たち戻らなきゃいけないって思ったんだ」 「もう別れるなよ」 「私ね、彼がいなくなって気づいたの。逆らっちゃいけない運命ってあるんだって」 「へえー。ふーん」    ソファに横たわる妻は、煎餅をばりばり噛み砕きながら、気怠い表情でテレビをみて

初心者が1年間で短編小説100作品を書けた理由。

想像もつかなかった。 小説を書いた記憶といえば、今から15年くらい前に少し通っていた芥川賞作家の小説教室で提出した数作品だけ。そんな数えるほどしか書いたことのない小説初心者の自分が、1年間で100作品もの短編を書くことになるなんて。 これから書く話は、何年も書き続けている手練れの書き手や文学賞を目指すレベルの方の参考にはなりませんが、僕のような駆け出しの人が続けていく上ではちょっとだけ参考になるかもしれません。 初めてnoteに小説を投稿したのは、2019年4月23日。