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汚染物質のモニタリングは何のため?

今日は、研究室として行っている汚染物質のモニタリングは、一体なんのためにやっているの?!ということについて話します。

水環境中の汚染物質を分析

研究室全体としては、プラスチックだけでなく河川水、地下水、堆積物、海鳥の尾羽部分から出てくる身体を守るための油である尾腺ワックス、マッセル(ムール貝)等を分析しています。今はもっと他にも分析しているかもしれません。(なんでこれらを分析しているのか、というのはまた書ければと思います!)対象としているのは、それらの中に存在する残留性有機汚染物質というものです。残留性有機汚染物質とは、要は自然にはなかなか分解されず、生物にとって有害な有機物の汚染物質です。どんなものがあるかというと、過去に工業用途として使われていたもの、例えば絶縁油や潤滑油・難燃剤等。他には農薬、石油汚染由来の物質、最近だとプラスチック商品や日焼け止めに含まれているような、紫外線吸収剤なんかも分析している人もいました。それらを、これまで分析しているものは地点数を増やしたり、引き続き経年的なデータを出していきました。

汚染の発生源を特定する

そのようにして、ある特定の地域・もしくは広域での汚染物質のモニタリングを行う理由は、汚染の発生源を特定するためです。経年的に分析されている地域であれば、汚染物質の濃度の増減がその地点で起きたどんな出来事に起因するものなのか、特定していくことが出来ます。経年的な分析でなくても、ある地域を網羅されていれば汚染物質の濃淡が表れますし、それはそこでの人間活動を如実に表し地形や海流といった環境要因にも影響を受けていることを示します。例えば、経年的に分析されていた海岸地点である年に急に濃度が高くなっていたとします。ひも解いていくと、どうやらその近くで新たな浚渫工事が行われていた、ということもあります。浚渫工事によって海底が掘り起こされて、泥の中に含まれていた汚染物質が再び海水中に出てきてしまった、という訳です。こんなふうに、汚染物質の種類と濃度をモニタリングすることで、汚染の発生源やそのきっかけとなった出来事を特定する手掛かりが得られるのです。

条約や規制などの予防原則に繋げる

では特定してどうするの?というところ。汚染物質は、生物に害があるとされて規制が行われていきますが、それには代替の物質が現れることが常です。そうして害があると認められた物質が規制される頃には、別のものが生み出され使われていくわけです。それらの色々な性質によって私たちの生活が便利になっていたりもするので、全否定の立ち位置ではいけないとは思いますが、賢く付き合っていく必要があります。

そのようにして生み出され使われていく化学物質は、規制されたものの代替として開発されているため性質も似ている、つまり大体の構造が似ているため、環境中でそれまでの物質と同じ挙動を示す可能性が高いのです。すぐに生物への影響が認められなくても、そのまま使われ続けたらどこにどんな影響を与えうるのかが予想できます。それを踏まえた上で適切に使っていく、できるだけ環境に負荷を与えない方法を模索していく。そんな、将来に向けて予防的な行動を行うために汚染物質のモニタリングを行っているわけです。

そしてもう一つ分かりやすいのは、国や行政が日本の汚染状況の調査を行い、今後の規制や動きを決める上で必要とする情報を提供するためです。自分の行う分析結果が環境省への提出される、ということもありました。国だけでなく、分析する媒体や物質によっては地方行政への調査の一環としてデータが求められることもあります。そういったときには、自分が分析した結果が外部から必要とされているんだ!と実感しやすく、役立てることが嬉しい気持ちとともに責任を持って行わなくてはと身が引き締まる思いでした。

さらに、分析して明らかになっていったデータを論文化し知見が積み重なることで、有機汚染物質の規制に関する国際的な条約等にも生かされていきます。(ストックホルム条約

http://www.pops.int/ ←大元HP:日々更新されています。


このように、汚染物質を分析して状況を把握しモニタリングしていくことは、世界を挙げての予防的な行動に繋げるために行っているのです。そう思うと、実験で使うガラス器具洗い一つとっても、私は「これもそのための大事な仕事だ!」と本気で思ってやっていました。(水は冷たくて寒かったけど笑)

地味な作業も多いですが、それはこんなことに繋がっているということを少しでも知ってもらえたら嬉しいです!



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