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『酒』の代わり

誰だって、一生抱える傷はある。

誰だって、自分を呪うほどの悔いはある。

抱えきれなくなって、破裂しそうになったとき、こっそり文章にする。

そうして、何度も読み返し、削除する。

誰だって、人に言えない事情はある。

誰だって、泣きながら叫びたいことがある。

誰だって、それらをぐっと堪えながら、自分の敵は自分だと思って生きている。

そういうことを、堪えきれなくなったとき、文章にする。

そうして、読み返して 読み返して、飲み込んで、削除する。

誰だって、犯した過ちに狂いそうになることがある。

誰だって、一人で抱えて行かなければならない、罪を背負っている。

誰だって、自分をぶん殴りたいくらい、他人に傷を負わせたことがある。

自分の、一番大事な人に。

そういう、本音の涙は、誰にも見せられないものだ。

そういうものを誰だって 抱えている。

本音の涙が出そうになったとき、文章にする。

何度も何度も読み返す。

削除する。

酒をやめてから、私はこうやって全部飲み込む。

飲み込んで、飲み込んで、冗談を吐く。

一番泣きたい涙は、人は誰しも泣けないものだ。

歳を重ねるたび、泣けなくなり、一人飲み込むものだ。

酒やめて、酒で誤魔化せなくなった代わりに、言葉に出して、全部消す。

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