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SEPをめぐる重大特許権侵害行政事件― ファーウェイvsシャオミ ①ー

■事件の概要


2023年2月24日付で、中国知的財産権報に、新たな重大特許権侵害行政事件の受理が公告されました。公告内容は以下のとおりであり、いずれも、華為技術を中心とするファーウェイグループが小米(シャオミ)に対して、特許権侵害に基づき、行政法執行を申し立てたものです。
 
公告内容

事件番号:国知保裁字〔2023〕1号、国知保裁字〔2023〕2号
特許番号:ZL201110269715.3、ZL201010137731.2
発明の名称:制御シグナリングを送信する方法及び装置、
キャリアアグリゲーション時にACK/NACK情報をフィードバックする方法、基地局、及びユーザ装置
特許権者:華為技術有限公司
申立人:華為技術有限公司
被申立人:小米通訊技術有限公司
立件日:2023年1月17日

事件番号:国知保裁字〔2023〕3号、国知保裁字〔2023〕4号
特許番号:ZL201380073251.6、ZL201810188201.7
発明の名称:パノラマ画像取得方法及び端末、画面ロック方法及び移動端末
申立人:華為終端有限公司
被申立人:小米通訊技術有限公司
立件日:2023年1月17日

http://epaper.iprchn.com/zscqb/h5/html5/2023-02/24/content_27587_7363105.htmより)

■行政法執行と重大専利権侵害行政裁決

中国では、特許権侵害に対して、司法ルート(民事訴訟)と行政ルート(行政法執行)の2つの手段を採ることが可能です。
行政法執行は、基本的には、各地の当局に対して、侵害事件の処理を申し立てることになりますが、2021年から施行されている改正専利法(中国では、特許+実用新案+意匠をまとめて「専利権」と称し、これらがまとめて「専利法」に規定されています。)により、重大専利権侵害紛争に関する制度が新設されました。
これにより、行政ルートにおいて、全国的に重大な影響を有する特許権等の専利権侵害紛争については、特許庁に相当する国家知識産権局が審理、処理を行うことが可能となりました(専利法70条)。

要件等の詳細は、改正専利法にあわせて施行された「重大専利権侵害紛争の行政裁決弁法」に規定されています。
これによると、「重大な影響を有する専利権侵害紛争」とは、

 ①重大な公共利益に関わる場合
②業界の発展に深刻な影響を及ぼす場合
③省級行政区域を跨ぐ重大な案件
(←循環定義じゃないかと思うんですが…)
④その他の重大な影響を与えうる専利権侵害紛争
のいずれかに該当する場合です(3 条)

重大専利権侵害紛争については、昨年8月に、初めての裁決が公開されています。
これは、ドイツの製薬会社であるベーリンガーインゲルハイム社が、中国の製薬会社2社に対して、特許権侵害に基づいて、被疑侵害薬の製造、販売の差止め等を求めた事案です。この事件では、被申立人は、上海、広東省等、24 の省(市、区)の「薬入札購入ネットプラットフォーム」(省、市等が、その地域内の医療機関に卸す薬品を入札購入するためのプラットフォーム)に入札等を行っており、上記③に該当すると判断されました。

これに対して、今回のファーウェイvsシャオミの事件は、上記1号、2号案件が、おそらくは移動通信の標準必須特許(SEP)関連、また、3号、4号案件は、SEPではないものの、シャオミ端末に採用された制御ソフトウェア関連の特許と推測され、シャオミ端末はもちろん中国全土で広く販売されているため、③に該当するものと考えられます。

上記ベーリンガーインゲルハイム事件では、薬品に関する発明であり、侵害の立証が難しいのではないかとも思われますが、裁決書を見る限り、被疑侵害品の説明書から侵害の判断が可能であったようです。今回のファーウェイvsシャオミの事件も、1号、2号案件がSEPとすると、ファーウェイは事前に規格との整合性を確認した上で特許を選定したものと推察され、そうすると、侵害の立証は比較的容易と思われますし、3号、4号案件も、特許の性質上、端末の操作によって立証が可能と思われますので、行政法執行に向いているといえそうです。

ー->②に続きます。

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