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木綿のハンカチーフは贈られたのか


日本のスタンダードとなった『木綿のハンカチーフ』
私はかねてより気になっていることがあります。

木綿のハンカチーフは贈られたのか?

この歌詞は一見すると彼が心変わりをしたようですが、よくよく読み解くと、彼の純粋なことばにのっけから否定的な返しをしているのは彼女の方なんですよね…

歌詞の内容の通りに手紙でやりとりしていたとして、このような返信を受け取る側は、心が離れつつあるのを感じえなかっただろうと想像します。

いやいや、野暮でしょ、あれは彼女の内心を歌っているだけで、スーツ着た写真より草に寝転ぶあなたが好きとか、ダイヤモンドの指輪はあなたのキスほど煌めかないとか、木綿のハンカチーフを送ってほしいなんて伝えたわけがない。

なるほど、それならそれとして、贈り物に対する否定的な反応に彼が気づいていなかったとでも?
気づいていようがいまいが、彼女の心が彼から離れていったのは紛れもない真実で、彼が郷里に帰らない選択をしたのは、彼女の心変わりを察したからと言えなくもない。

故郷を離れ都会で立身出世した若者が、郷里に残した女を棄てるという構図をお約束のものとしないなら、現実にふられたのは彼の方という見方も充分あると考えます。

木綿のハンカチーフを送ってくださいというのは、彼女の内なる要求で、表出されなかったのでは?

彼女はその要求を「最後のわがまま」と言っていることから、自らの心変わりを実感していて、決別の意志は自分の方にあったと自覚していたでしょう。
手切れの証であるハンカチを自ら送らないのは、この別れの原因は彼の方にあると決定づけたかったのではないでしょうか?
やはり彼に対して後ろめたい思いがあったのでしょう。結婚年齢も迫っていますし、親からの圧力もあったでしょうしね。
はっきりけじめをつけたかった。
最後の手紙は送られたと考えるのが妥当に思います。

✳︎

彼は手紙を受け取り、さっそくプレゼントを買いに街へ出ます。 

彼は都会の絵の具に染まってますから、ブランド志向なんですね。
木綿は木綿でも、YSLとかDiorなどのワン・ポイントの刺繍のついた、薄手のあまり使いでのないタイプを選んで送ります。どちらも新進気鋭のデザイナーものです。

受け取った彼女は、

ああ、この男は都会で暮らして性根までイカれちまった、これで未練も断ち切れたわ、

封を開け、ハンカチーフを箪笥の奥に仕舞い込み、この恋と訣別します。

木綿のハンカチーフは、存在の意味すら忘却の彼方に追いやられました。
それ故に、いつか使うつもりのトキメカナイものとして彼女と共に在り続けました。

さて時は流れ。

彼女はその後、地元のふたつ三つ年上の男性のプロポーズを受け、幸せな結婚をします。
娘たちに囲まれて、今まさに人生の終焉を迎えようとしています。

ひとりひとりに「ありがとう」を言い、先に旅立った夫の元に向かいました。

娘たちは、死出の旅を共にする棺に入れるに相応しいものを探していました。
プラスチックや金属のついたものは入れられません。

そしてついに、母親の箪笥の引き出しの奥から、古びた新品の木綿のハンカチーフを見つけ出しました。

こんなに奥まったところに、大切にしまってあったのだもの、きっとパパから贈られたに違いないわ。

何はともあれ、生前整理は抜かりなく。

おわり。


※秋の草原の画像は巳白さんよりおかりしています。ありがとうございます♪






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