名前も分からない煙草。 隣でいつも君が吸う煙草。 いつの間にか 煙草の銘柄も覚えたし、 近所のコンビニでの番号も覚えたし、 においも覚えた。 吸いたくなるタイミングも、 吸いたい時の表情や仕草もわかるの。 こんなにたくさん知ってるのに 煙の味は知らないまま。
あなたには嫌われたくないから、 あなたが寝たあとにキスをして大好きだよと言ったことも、 寝顔やゲームしてる時の横顔を撮ったことも、 もっと触れたいことも、 今すぐにでも会いたいことも、 声が聞きたいことも、 返信が遅くて寂しいことも、 一方的なのかなって不安なことも、 会えるって決まった日から毎晩ストレッチと筋トレとマッサージしてることも、 会う前日にあなたの好みの長さまで髪を切ったことも、 会う前日にヘアパックと顔のパックをしたことも、会えるのが楽しみで眠れなかったこと
お邪魔します。 行ってくるね。 ただいま。 お邪魔しました。 またね。
髪の毛が1本抜けて指に絡まった。 私はそれを汚いと感じてゴミ箱に捨てた。 それは数秒前まで私の一部だったのに。 毎日欠かさずケアをして大事に扱っていたのに。 私にはそれはもうゴミにしか見えなかった。 私の一部じゃなくなったからなのか。
「かわいい」「好きだよ」と夜の電話越しにあなたから言われて、酔ってるんだな、しか思わなくなってしまった。 最初の頃はその言葉がすごく嬉しくて、私も好きだよ、なんて言ってたな。 いつからありがとうと返すようになったんだろう。 いつから酔ってるんだなとしか思わなくなってしまったんだろう。 素面だと言えないだけ?本当に? こういう思考に陥ってる時点で終わりなんだろうな。 素直に受け止められなくてごめんね。 それでも楽しい記憶を思い出して、今回は違うかも
大好きなあなたがいつも使っていたヘアオイル。私の髪の毛を乾かす時にも使ってくれた、あなたと同じやさしいローズの香りがするヘアオイル。他愛もないことを喋りながら、あなたがいつも座る椅子に座って髪を乾かしてもらう時間が好きだった。 でももうそんな時間はこない。私の元に残ったのは、大好きなあなたに会えない日に私が買った同じヘアオイルだけ。「同じにおいだね」なんて優しく微笑むあなたはもういない。あなたと別れてから髪を乾かす行為なんて適当にやっていた。久しぶりにヘアオイルを手に出
小学校からの帰り道、私は過ぎ去って行くモノクロの地面と、1個ずつ視界を出入りする水色のベルクロスニーカーを眺めながら歩いていた。いつも変わらない通学路の色。いつからかそれが当たり前になっていた。 その日もいつもと同じ色を見て歩くはずだった。しかし、そのとき突然頭になにか当たった。雨である。その日は1日晴れ予報だったため、私は傘を持っていなかった。突然の雨に驚いた私は、ばっと空を見上げた。その瞬間、私の視界にはたくさんの色が入ってきた。少し重たい空の色、冷たい雨の色、