見出し画像

やさしいローズ

 大好きなあなたがいつも使っていたヘアオイル。私の髪の毛を乾かす時にも使ってくれた、あなたと同じやさしいローズの香りがするヘアオイル。他愛もないことを喋りながら、あなたがいつも座る椅子に座って髪を乾かしてもらう時間が好きだった。

 でももうそんな時間はこない。私の元に残ったのは、大好きなあなたに会えない日に私が買った同じヘアオイルだけ。「同じにおいだね」なんて優しく微笑むあなたはもういない。あなたと別れてから髪を乾かす行為なんて適当にやっていた。久しぶりにヘアオイルを手に出して髪につけてみると、あの頃と変わらないローズの香りがした。

 季節が変わって、あんなに減らなくて困っていたヘアオイルももう底を尽きかけている。「これで最後かな」と思いながら何回もプッシュしてやっと使える量のヘアオイルを手に出し、髪につけた。ずっと変わらない、あの頃の2人が好きだった香りがした。さみしくなんかない。「ありがとう」と呟き私はドライヤーを止め洗面所の電気を消した。

さようなら、私のやさしいローズ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?