【スタートアップ】スペインのPLDスペース、欧州民間初 再使用ロケットに挑む

一度打ち上げたロケットの1段目が、フィルムを逆回しするように逆噴射しながら戻ってきて、地上に無事に着陸ーー。こんなSF映画のような技術がすでに実用化され、打ち上げコストの低減を狙いに別の打ち上げへの再使用も行われている。その最先端にいるのが、米テスラCEOのイーロン・マスク氏率いる米スペースXだ。かたや、スペースXに比べれば規模は格段に小さいものの、この分野で欧州で先陣を切ろうとしているのがスペインの宇宙スタートアップ。試験ロケットの第1号を2022年内に打ち上げる計画だ。

欧州の民間企業として初の再使用ロケットの商業化に取り組むのがPLDスペース。2011年創業で、スペイン南東部のバレンシア州エルチェに本社を置く。

6月30日~7月1日にルクセンブルクで開催されたスタートアップイベント「ICT Spring 2022」に登壇した同社のパブロ・ギャレゴ(Pablo Gallego)営業・顧客担当上級副社長は、「重量500kg未満の小型人工衛星が全体の80%を占め、ここが我々のターゲットになる」と話し、従来手法に比べ70%のコスト低減を目指すとした。ちなみにギャレゴ氏は、スペースXの元ミッションマネージャーでもある。

PLD SpaceのPablo Gallego営業・顧客担当上級副社長


PLDスペースは従業員約120人。スペイン政府や欧州宇宙機関(ESA)の資金支援を受けながら、小型衛星を低コストで打ち上げる小型ロケットの開発・打ち上げに特化する。単段式の「MIURA(ミウラ)1」(全長12m)と、2段式で1段目にエンジン5基を搭載した「MIURA5」(同32m)の2機種のロケットを開発中で、いずれも液体燃料の自社開発エンジン「Teprel-C」を採用する。

ただ、MIURA1ではその小型軽量という特色を生かし、ロケットがパラシュートで海に着水・回収する方式をとる。米スペースXや、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏の立ち上げた米ブルーオリジン、さらに日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が仏CNES・独DLRの両宇宙機関と共同で取り組む「1段再使用飛行実験(カリストプロジェクト)」のように、1段目切り離し後、エンジン噴射で減速・下降し、垂直着陸するアプローチではない。

デモ機の位置づけのMIURA1は地上120kmまで上昇、そのまま帰還する弾道飛行を飛ぶ。最大重量100kgの機器類などをペイロードとして搭載し、飛行中に4~5分間継続する微小重力環境を利用した研究・科学実験向けにサービスを提供する。現在、エンジン試験や性能試験を続けており、2022年第4四半期にスペイン南西部にある国立航空宇宙技術研究所(INTA)の発射場から初の試験ロケットが打ち上げられる。

並行して開発を進めるMIURA5は小型衛星の軌道投入向け。高さ4.5mのフェアリングに450kgの衛星を搭載可能。仏領ギアナの発射場から2024年に第1号が打ち上げの予定だ。一方、 MIURA5では第1段ロケットを切り離し後、落下速度をエンジンで制御しながら地上着陸させる技術についても、ESAと研究開発に乗り出している。

ICT Springの会場で取材に応じたギャレゴ上級副社長は、「スペイン国内には優秀な大学があり、エンジン開発の専門家もいる。製造技術に詳しい自動車のエンジニアやアビオニクス(宇宙機用電子機器)の技術者も採用している」と、人材確保や育成面に力を入れている点を強調した。

さらに「ロケットの95%を内製し、エンジンの製造にも金属積層造形(3Dプリンター)を使わないなど、コストとリスク両面で従来手法を突き詰めている。ESAのアリアンロケットと競合しないどころか、補完的な役割として欧州宇宙産業のコスト低減やリスク低減にも貢献する」。「スペースX対抗」などと大風呂敷を広げることなく、あくまで小型衛星用の再使用可能な小型ロケットに的を絞るという、自社の立ち位置を明確にする。

ついでながら、ロケット名に冠した「MIURA」はスペインでもっとも古い闘牛の育成牧場の名前。スーパーカーの「ランボルギーニ・ミウラ」と同様、前に突き進む獰猛な闘牛にイメージを重ねている。そこで、日本には三浦という名字や三浦半島もあり、ミウラという単語は日本で馴染み深い由を説明すると、ギャレゴ氏は「えっ、日本でそんなに使われているのか」と茶目っ気たっぷりに、目を丸くして驚いていた。


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