サウサンプトン対ウルブズ_1

サウサンプトンから考えるロングボール攻撃における「ダイヤモンド」とハイプレッシング運用~サウサンプトン対ウルブズ~[19-20 Premier League23節]

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ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズの天皇杯決勝、プレミアリーグのトッテナム対リバプールという日本のサッカーファンに非常に注目された試合の分析で新年をスタートさせました。今回はマニアックな試合からサッカーについて考えたいと思います。題材はサウサンプトンのプレミアリーグ第23節ウルブズ戦。ブンデスリーガ 昇格後の躍進にライプツィヒを導いたハーゼンヒュットル監督が率いており、シーズン序盤にはレスターに0-9の歴史的大敗を喫するも、現在9位。残留争いといは距離を離した位置につけています。継続的にサウサンプトンの試合を見ていたわけではないのですが、今回とても面白いチームだと感じましたし、良い学びが得られました。

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序章 スコア&スタメン

サウサンプトン2-3ウルブズ
サウサンプトン:15'ベドナレク 36'ロング
ウルブズ:53'ネト 65'ヒメネス 76'ヒメネス

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ホームのサウサンプトンは、マッカシー、セドリク、ステフェンス、ベドナレク、バトランド、アームストロング、ウォードプラウズ、ホイビュルグ、レドモンド、ロング、イングスの11人。
アウェーチームのウルブズは、ルイパトリシオ、デンドンケル、コーディ、サイス、ドハティー、ネベス、モウティーニョ、ジョニー、ネト、ヒメネス、トラオレの11人。
サウサンプトンは4-4-2システム、ウルブズは3-4-2-1システムでこの1戦に臨みました。

第1章 走力だけでなく、論理で成立するロングボール攻撃

サウサンプトンのロングボール攻撃とハイプレッシング運用を分析するこの記事。1章で紹介するのはロングボール攻撃です。ライプツィヒを躍進に導いた経歴のあるハーゼンヒュットル監督の元、いわゆる「ストーミング」と言われているようなとてもアグレッシブで前に、前にボールを運び、ゲーゲンプレスをかけていく攻撃を展開します。しかし、「ロングボール攻撃」「ストーミング」と言えども、ただ単に前にボールを蹴ってそこにプレッシャーをかけまくるので全くありません。もちろん「走力」「インテンシティ」は大前提として重要ですが、分析していくと具体的なプレー原則があり、「論理」が組み込まれていたのです。

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サウサンプトンの攻撃時の配置は上図の通り。オーソドックスな4-4-2で並びます。対するウルブズは高い位置からのプレッシングは行わず、自陣にコンパクトな5-4-1ブロックを形成し、サウサンプトンを待ち構えました。
サウサンプトンのビルドアップにおける大原則は、「最前線から」です。ショートパスを繋いで中盤を経由しながら前進するのではなく、可能な限り素早く最前線の2トップイングス(9)、ロング(7)にロングボールを送り込みます。CB,SBがボールを持ってロングボールを蹴れる状態になれば2トップは動き出す。

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ロングボールが最前線に蹴り込まれると同時に、ゲーゲンプレス隊が出動します。ロングボールによって生まれる2ndボールを拾うために落下点に人を多く集め、プレッシャーをかけて二次攻撃に持ち込みます。2ndボールを回収したらすぐざま前にパスを送り、スピードを落とさずゴールに襲いかかります。この試合の中では全くと言っていいほどバックパスを選択することはありませんでした。そして例えゲーゲンプレスで奪った後すぐにロストしても、二回目のゲーゲンプレスをかけ、何度でも回収を狙う。

サウサンプトンの基本的なコンセプトは以上。ざっくりと大枠を理解した上でここからは実際のシーンを用いて具体的なプレー原則を解説していきます。

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一つ目は8分29秒のシーン。ハーフラインよりも少し低い位置でボールを持ったステフェンス(5)から右サイドに向かって動き出したロング(7)へロングボールが入ります。そこはジョニー(19)にクリアされるも、ゲーゲンプレス隊のイングスが拾い、サイスを背負いながらのアームストロングへの横パスで完全なマイボールに。二次攻撃を仕掛けました。イングス(9)、アームストロング(17)、ウォード=プラウズ(16)、レドモンド(22)らをロングボールの落下点に対して集め、2ndボールを回収したのです。
このシーンではロングボールの落下点に対してダイヤモンドを形成していることがわかります。

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上図に示した通りロングボールの受け手となったロングを頂点に左にイングス(9)、右にアームストロング(17)、下にウォード=プラウズ(16)というダイヤモンドで2ndボールを囲い込むようにゲーゲンプレスをかけています。ダイヤモンドを形成すればあらゆる方向からプレッシャーをかけることが可能になりますから、このプレー原則は「ロングボール→ゲーゲンプレスで回収→二次攻撃」というコンセプトの下プレーをするサウサンプトンにとって非常に重要なものであると言えます。
次に59分10秒のシーン。
しかし、

ツイートの「それ」が「ダイヤモンド形成」にあたります
先日の↑のツイートのように、直接「ダイヤモンド作れ」と言って中々落とし込めるものではないと思います。ダイヤモンド作れてる??と確認しながらではゲーゲンプレスにおいては遅すぎます。ですから、「ダイヤモンド作れ」と直接言うのではなく、結果的にダイヤモンドを形成していて、効果的にゲーゲンプレスをかけれている状況になるようにスタッフ陣はトレーニングを組み、コーチングをして落とし込んでいるのではないかなと僕は想像します。

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このシーンはGKマッカーシー(1)からのリスタート。マッカーシーからロング(7)にロングボールが入りますが、ロングとマッチアップしたデンドンケル(32)にボールを右足でつつかれ、2ndはモウティーニョ(28)へ。しかし、モウティーニョに対してアームストロング(17)とプレスバックしたロングでダブルアタックを仕掛け、即時奪回。後ろのウォード=プラウズ(16)に繋がり、上がっていった右のセドリク(2)へ展開。

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このシーンでも、ロングボールの落下点に対して頂点がロング(7)、右にかなり内側まで絞ってきたアームストロング(17)、左にホイビュルグ(23)、下にウォード=プラウズ(16)のダイヤモンドを形成しています。アームストロングが絞っていたことでモウティーニョ(28)に対して数的優位を作ってプレッシャーをかけれていることに加え、その後ろにウォード=プラウズがいますので、奪いきれなくてもウォード=プラウズが蓋をして仕留めていたでしょう。それからモウティーニョからネベス(8)への横パスの選択肢もホイビュルクが前に出てネベスをマークすることで消せている。ダイヤモンドを形成することであらゆる選択肢を消し、絶対的に奪える状況を作った上で奪っているし、その後のポジティブトランジションで逆サイドのセドリクがプッシュアップして幅を取り、サイドチェンジを引き出したところまで含めて(その直後にロストしてはいるものの)素晴らしいシーンと言えます。
また、このシーンではもう一つ新たなプレー原則を読み取ることができます。「2CHの前後関係」です。前に出て行ってネベスへのパスコースを消した左CHホイビュルクに対して右CHのウォード=プラウズは前に出ず、後ろでバランスを取っていたことでダブルアタックのこぼれを拾うことに成功。片方(ボールに近い方)は前に出てゲーゲンプレス隊の一員となり、もう片方は必ず後ろでバランスを取る。この「前後」の関係が徹底されているのでバランスを失うことなく効果的なゲーゲンプレスをかけれているのです。
ではなぜ、前後関係が作れていないと効果的なゲーゲンプレスにならないのでしょうか。例えば2CHが両方前に出て行ったとすると、その背後には大きなスペースが空き、その場で奪いきれなかった時のリスクが大きすぎます。そして59分10秒のシーンでウォード=プラウズが担ったこぼれを拾って前へ展開する選手もいなくなるので奪った後の展開が難しくなります。
反対に両方が後ろに残ると、ゲーゲンプレスの人数が足りなくなってしまうでしょう。

このようにサウサンプトンのロングボール攻撃は、走力やインテンシティがあった上でゲーゲンプレスにパワーを与えながらリスク管理もきっちり行うという「論理」も伴った攻撃であるということが分かっていただけたかと思います。

第2章 ハイプレッシング運用にあたっての爆発力とリスク

続いてはサウサンプトンの「プレッシング」にフォーカスを当てます。今回題材にしているウルブズ戦は、ハイプレッシングの強みと弱みがとてもはっきりと結果に現れた試合でした。

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サウサンプトンはセンターサークルの先端よりも少し前くらいにFWラインを設置し、FW-MFとMF-DFのライン間の距離を縮めたコンパクトな4-4-2のブロックをセット。
ウルブズは3-4-2-1で攻撃をします。
まず守備側4-4-2、攻撃側3-4-2-1という噛み合わせから見ていくと、天皇杯決勝神戸対鹿島の分析でも書いたように、守備側が非常に不利です。なぜなのかは天皇杯決勝の記事を読んでいただきたいのですが、何にせよサウサンプトンはかみ合わせだけを見ると不利な立場。しかし、特に前半はその噛み合わせの悪さを感じさせない効果的なハイプレッシングを行っていました。

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2トップ(イングス(9)、ロング(7))に対してウルブズのCBが3人(サイス(27)、コーディ(16)、デンドンケル(32))いるので、その数的不利を解消するために2トップの脇でサイドCBにパスを受けられた場合はSH(アームストロング(17)、レドモンド(22))がプッシュアップしてプレッシャーをかけます。この時のSHのタスクとしてはサイドを切るバックマークプレスというよりかは、縦パスのコースを消すという感じでした。SHのプッシュアップに伴って後ろのSB,CBはマークをスライドさせます。

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ウルブズの3CB(27,16,32)に強度の高いプレッシャーをかけてサイドにパスを誘導したら、サウサンプトンは一気にボールサイド側へ全体を圧縮します。横幅のおおよそ1/2まで逆サイドの選手は絞り、ボールサイドの人口密度を極端に高めてボール基準にどんどんマークをスライドさせて相手を掴み、ボールを奪いにいきます。相手CF、シャドーにパスが入った場合はCHがプレスバックしダブルアタック。
この時に面白いのが逆サイドのSHのタスクです。他の選手と一緒に圧縮するのは同じですが、低い位置に下がらず、高めの位置を保ってカウンターに備える。ボールサイドに圧縮しているため、当然そこに人が集まります。それは奪った直後のポジティブトランジションでも同じ。ですのでその密集を脱出して逆サイドのスペースを素早く突くためにこのタスクをハーゼンヒュットル監督は与えていると考えています。
以上のようなハイプレッシングによって何度もボールを奪う機会は作り出せていましたが、一方でこの戦術の持つリスクが表面化してチャンスを作られたシーンもありました。その象徴が53分の1失点目のシーン。

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GKルイ・パトリシオ(11)に対してイングスがプレッシャーをかけたことでプレッシングのスイッチが入り、他の選手も連動してプレッシャーをかけて行ったこのシーン。しかし、下がって受けたドハティー(2)にバトランドが寄せ切れず、最前線のヒメネス(9)へロングボールを蹴られてしまいます。受けたヒメネスに納められ、右を駆け上がってきたトラオレ(37)に繋がれると、そこに左CBのベドナレク(35)が思い切ってスライド。しかし、トラオレにスピードでブチ抜かれ、中央はセドリク(2)一人に対してネト(7)とジョニー(19)がいる状況。ボール保持者のトラオレはフリー、中央は数的不利、加えて広大なスペースがあるという大ピンチに晒され、クロスからネトに決められて失点を喫しました。
このシーンを振り返って最初の場面から見ていくと、下がって受けたドハティーに対して前に出ているのはSBのバトランドですから、非常にリスキーな守備をしているのは明らか。ゾーン3までSBが出て行った時に寄せ切れずロングボールを蹴られ、それを納められて、出て行ったSBの裏に爆発的なスピードを持つトラオレに走られて、そこにパスが出ていますから、完全にプレッシングを剥がされた状況に陥っています。右CBステフェンス(5)がヒメネスを潰せずその背後にスルーパスを出されてもなおベドナレクがサイドまで行きましたので、ベドナレクがトラオレにブチ抜かれた時点で万事休す。SBがDFラインからFWラインに近い場所まで出て行くという非常にリスクの高いシチュエーションが有り得る戦術である「ハイプレッシング」の弱みを露呈した失点でした。

ここまで見てきたように、ハイプレッシングというのは爆発力を有しており、高い位置でボールを奪える戦術であると同時に、少しのずれで失点を喫する非常にリスクの高い戦術です。その運用の難しさがこの試合のサウサンプトンに凝縮されていました。

終章 総括

第1章
・サウサンプトンはロングボール攻撃を行う。大原則は「最前線から」。
・2トップにロングボールを送り込むと同時にゲーゲンプレス隊が出動。ロングボールの落下点に人を集める。
・2ndボールにゲーゲンプレスをかけ、二次攻撃でゴールに襲いかかる。
・プレー原則①
ロングボールの落下点に対してダイヤモンドを形成
→「ダイヤモンドを作れ」という落とし込み方ではないと思われる。
・プレー原則②
2CHの前後関係の徹底
→片方は前に出て、もう片方は後ろでバランスを取る。
第2章
・サウサンプトンはハイプレッシングを採用。
・SHが前に出て3CBに3v3でプレッシャーをかけ、サイドにパスが出たらボールサイド圧縮。
・ボール基準にマークをスライドさせて相手を掴み、ハメ込んで奪う。
・逆サイドのSHはカウンターに備え、高い位置を取る。
・53分の1失点目では、ハイプレッシングの弱点を露呈。
→2CB両方が剥がされて中央は数的不利に陥った。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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