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時間と展開。勝負に徹したフィンク監督の決断~ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズ レビュー~[第99回天皇杯決勝]

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タイトル画像:Football ZONEから引用

改めて新年あけましておめでとうございます。昨年末は休んでいた戦術分析、年始一発目に復活です。題材は元日に新国立競技場で行われた天皇杯の決勝ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズ。試合は神戸が2-0で勝利。クラブとしての初タイトルを手にしました。この一戦から今回は「時間と展開に合わせた神戸の試合運び」という観点で書いていきます。

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序章 結果&スタメン

ヴィッセル神戸2-0鹿島アントラーズ
ヴィッセル神戸:18'オウンゴール38'藤本

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ヴィッセルは3-4-2-1。GK飯倉、3バックにダンクレー、大崎、ヴェルマーレン、中盤の底にイニエスタと山口、右に西、左に酒井高徳。最前線が藤本でシャドーに古橋とポドルスキが入りました。試合のスタートは古橋が左でポドルスキは右のシャドーでしたが、すぐにポジションチェンジをしてそれ以降は右に古橋、左にポドルスキで固定していたのでこの配置で話を進めます。この試合が現役ラストマッチとなるビジャは怪我明けのためベンチスタート。
鹿島は4-4-2。クォンスンテ、永木、ブエノ、犬飼、町田、三竿、レオシルバ、白崎、名古、セルジーニョ、伊藤の11人をこの試合を最後に退任が決まっている大岩監督が起用しました。

第1章 前半の神戸~ポジショナルに~

ではまず前半の神戸の戦い方について説明をしていきます。

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神戸は3-4-2-1で5レーンを均等に埋める配置。対する鹿島は4-4-2のブロックをハーフウェイライン付近のFWラインを先頭にしてセットします。そのため3-4-2-1 vs 4-4-2という噛み合わせになるわけですが、この噛み合わせは4-4-2が圧倒的に不利です。
なぜなら、

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上図をご覧いただければ分かるように、4-4-2で守る鹿島からすると、まずFWラインが2v3の数的不利となっており、最後尾のDFラインも4v5の数的不利。布陣の最前線に数的不利を抱えているため、相手のビルドアップにプレッシャーがかかりにくく、相手に余裕を与えてしまいます。加えてDFラインにも数的不利を抱えているとなると4v2で数的優位であるもののMFラインの選手は自分の前方はフリーでボールを持っているし後方にもフリーの選手がいるという状況に置かれるため非常に守備がしにくい。迂闊にボール保持者に対して寄せると背後でフリーになっている選手にパスが入ってしまいます。
この噛み合わせを神戸は十分に活用して攻撃を行いました。

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上図に示したように鹿島は前にも後ろにもフリーがいるので立ち位置は取りますがそこから奪いに行くアクションを起こすことができません。神戸は数的優位のDFラインからCHイニエスタ(8)にパスを出し、イニエスタから高い位置で幅を取っているWBへ(あくまで一例です)、というビルドアップが簡単にできていました。ビルドアップでMFラインを超えれると噛み合わせで有利に立っているので、

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相手が寄せてくることによって生まれるフリーの選手を使った打開が可能になります。実際1点目もロングフィードを受けた酒井(24)に対して鹿島の右SB永木(6)が寄せたことによって左HSが広がり、ポドルスキ(10)がHSをランニングしてスルーパスを引き出して起点に。そこからの二次攻撃でゴールが決まっています。
また、鹿島がそのようにフリーを使われて崩される事態を警戒してボール保持者に対してあまりプレッシャーをかけてこないのであれば無理して打開しに行く必要はなく、低い位置のフリー(CHやCB)を使ってずっとボールを回せば良いわけです。そうしていれば鹿島は必ずどこかで奪いに来るのでそのタイミングでフリーになるアタッカーを使って崩しに行けば良い。神戸としては早い時間帯にリードできたのでより一層無理に攻撃する必要は無くなり、左サイドの大崎(25)、イニエスタ(8)、酒井、ポドルスキで無限ポゼッション状態を作り出して前半を終えました。

第2章 鹿島、反撃のシステム変更

神戸が2点リードして前半終了。後半攻めに行かなくてはならない鹿島はハーフタイムにシステム変更を行いました。伝統の4-4-2から3-4-2-1に。そして白崎に代えて土居を投入。3-4-2-1 vs 3-4-2-1のミラーゲームにすることによって噛み合わせの悪さを解消。同時に神戸の守備を崩すための攻略策も備えてピッチ上に選手は現れました。

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鹿島の狙いは「相手右WBの裏を使う」こと。神戸が高めのライン設定でブロックを敷いてくるため、そのブロックの背後にはスペースがあります。そのスペースを左サイド(神戸の右サイド)から活用しようと試みました。具体的には左WB山本(16。53分に名古に代わって出場)が神戸の右WB西(22)を高い位置に引っ張り出し、右CBダンクレー(33)とのギャップを生み出します。そして山本がクイックネスによって西のマークを外すか、他の選手とのワンツーによって西の裏のスペースへランニングし、そこにCBからのロングボールもしくはワンツーをする味方からのスルーパスを送り込んで抜け出す。西の裏のスペースを突くことでダンクレーをサイドに引っ張り出し、エリア内の守備を手薄にしてクロスを入れ、伊藤(15)やセルジーニョ(18)に決めてもらうという戦術でした。
なぜ左に重心を置いて攻めたのかは分かりません。よりテクニカルで曲面の打開に長ける土居は右か左で言うと左のほうが得意なんでしょうか。鹿島を追っているわけではないので断言できませんが。
この策を実践した鹿島は後半の序盤、ペースを握って有利に戦います。カウンターを仕掛けるシーンもありましたし、前述の策によって右WB裏を突いて深い位置に侵入することもできていました。
一方神戸は右サイドから崩されてもダンクレーの守備力で中央に入らせず、サイドでプレーを切断していたので何度も危ないピンチを作られていたわけではないのですが、時間が経つごとに前半ほどの守備強度を保てなくなっていくのは目に見えていました。

第3章 勝負に徹した冷静な決断。フィンク監督の修正とは

ハーフタイムの相手のシステム変更によってペースを握られた神戸。変えないままだと鹿島に攻められ続けてしまいますから、それでも前半通りに「ボールを持ちにいく」のか、「引いて逃げ切りを目指す」のかいずれにせよ決断を下さなくてはなりませんでした。そこでフィンク監督はどんな決断を下したのでしょうか。それは、後者の「引いて逃げ切りを目指す」でした。

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後半のスタートも前半と同じくコンパクトでハイラインなブロックを組んで守備をしていた神戸ですが、60-65分頃からブロックの位置を大きく下げ、5-4-1で自陣ゴール前にバスを置く守備に切り替えました。
攻撃に関しても「自分たちがボールを持つ」という意思はなく、最低限の人数をかけたロングボール攻撃が中心。ボールをゾーン2、はたまた自陣で奪われることだけは絶対に避けようという共通認識をしっかりとチームが持っていました。
徹底してゴール前を固め、攻撃も最低限の人数で。2点リードであるにも関わらず、フィンク監督はじめ神戸の選手たちはこれほどの徹底ぶりを見せました。2点のリードがあれば60-65分頃からここまで守備的なプランに切り替えるチームは中々ありませんが、その理由を推測すると、神戸は初タイトルがかかっていることもあり、2点リードだろうがなんだろうが中途半端に攻めの姿勢(攻守に渡って)を見せることは絶対にダメだという心理があったのかなと思います。中途半端になるなら、割り切ってゴール前にバスを置いてしまおうと。

加えて、鹿島が打ってきた策の弱点を突くことも同時に考えてこの策を選択したのかなと僕は思っています。

なぜなら、鹿島は前述のように右WB西の裏のスペースに人とボールを送り込んで深い位置に侵入するという策を後半に打ってきました。この策の弱点というのは「引かれてしまうと機能しなくなる」ことです。相手がハイラインでDFラインの裏に大きなスペースを空けていることが前提で成り立つ戦術であるため、神戸側がブロックを下げてDFライン裏のスペースを最大限に小さくすることは非常に効果的な対策となります。
また、鹿島がこの策を打ってきていることから加えて推測できるのは、鹿島が望んでいたであろう試合展開です。鹿島は繰り返しますが神戸がハイラインであるからこそ機能する策によってゴールを奪おうとしていたので、神戸が「じゃあこっちも攻めに行くぞ」となることを想定もしくは期待していたと思います。というのも、神戸は前半自分たちがボールを保持してショートパス主体の攻撃を行う戦い方をしていましたし、シーズン通してそのような戦い方をしていることから、攻め込まれたときに「俺らもボールを持って自分たちの時間を作らなければ」と考え、ボール保持を狙ってくるだろうと鹿島が考えるのは容易ですし、正しい考え方でもあるからです。仮に神戸が「俺らもボールを持って自分たちの時間を作らなければ」と考えて実行に移した場合、試合はオープンになり、鹿島からするとDFライン裏のスペースが大きくなることに加えて中盤も間延びすることが期待できるので自分達がハーフタイムに授かった戦術の効果は増します。神戸はイニエスタやポドルスキをはじめとして守備強度がどんどん落ちますから、オープンになった場合には鹿島が勝つことも十分に有り得ました。
このように若干深読みかもしれませんが、フィンク監督はこの辺りまで考えて「ボールを持つ・攻める」よりも「ゴール前にバスを置く」決断を下したのかなと。

その神戸はきっちり選手が意思を統一してプラン変更に対応し、逃げ切りに成功。初タイトルを獲得。
試合としての面白み、迫力には欠けたかもしれませんが、両チームが見せた「前半を経ての後半」の駆け引きを見ると戦術的な観点からすればと面白い試合だったと思いますし、考察するのが楽しい試合だったかなと。

終章 総括

第1章
・神戸の3-4-2-1攻撃に対して鹿島の4-4-2守備は噛み合わせが神戸有利。
・神戸は噛み合わせの有利を活用して鹿島守備陣を操るように攻めた。
・左サイドのヴェルマーレン、イニエスタ、酒井、ポドルスキで無限ポゼッションを展開。
・鹿島はボール保持者もフリーで自分の背後にもフリーがいるので奪いに行くアクションが中々起こせなかった。
第2章
・ハーフタイムに鹿島は戦術変更。システムを3-4-2-1に。
・攻撃の狙いは相手右WB西の裏を突いてサイドから崩すこと。
・後半の序盤はペースを握り、深い位置に侵入するシーンもあった。
第3章
・60-65分頃に神戸はブロックを下げ、バスを置く守備に切り替え。
・攻撃にもあまり人数をかけず、徹底して守備を固めた。
・フィンク監督は、鹿島の後半の攻撃に対する対策、鹿島が望んでいるであろう試合展開まで考慮してプラン変更を決断したと推測される(深読みの可能性あり)
・神戸は守り切り、タイトル獲得

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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