アヤックスの論理的な攻略策&トッテナムの意外な弱点~トッテナム対アヤックス レポート~[18-19CL SF1stLeg]
CLもいよいよ準決勝。バイエルンに勝ち、レアル・マドリードに勝ち、ユベントスにも勝った今ものすごく勢いのあるアヤックスと、4月にやっと新スタジアムが完成し、歴史的なチャンスを狙うトッテナムのカードを分析します。
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スコア トッテナム 0 : 1 アヤックス
アヤックス 15’ファン・デ・ベーク
スターティングメンバー
まずはスタメンから。ホームのトッテナムは、直前のウエストハム戦からはフォイス、デイビス、ダイアー、ソン(累積警告で出場停止)に代わり、ヴェルトンゲン、トリッピアー、ワニャマ、F・ジョレンテがスタメンに入り、4人メンバーが変わりました。
アウェーのアヤックスは、直前のフィテッセ戦からはドルベリがスタメンから外れ、ネレスがスタメン入り。
オランダは国を掲げてアヤックスのCL優勝をサポートしていて、リーグ戦の日程をずらして、前週の水曜日にゲームを行いました。よって、アヤックスが中2.3日ではなく、一週間の休みを得てトッテナム戦に臨んでいます。
トッテナム・守備 アヤックス・攻撃 ~アヤックスの論理性のある崩し~
では試合の分析に移ります。まずは、トッテナムの守備、アヤックスの攻撃です。
トッテナムは5-3-2のブロックを組み、プレッシングを行わず守備的プレッシングで構えます。アヤックスは、SHのジエフ、ネレスがIRに入り、SBフェルトマン、タグリアフィコが高い位置を取ります。なので、4-2-3-1から2-2-6のようになって攻撃。
アヤックスは、タイトルにもしましたが、もちろん勢いもあるのですが、それだけでサッカーをするのではなく、しっかりテン・ハグ監督が、論理的なビルドアップを準備していました。
アヤックスは、CBがボールを持っている時、ボールサイドのSBが下りて来て、CBをサポートします。
そしてSBがCBからパスを受けると、トッテナムの方は、3センターがスライドして、IHがSBに対応します。
このトッテナムの守備戦術を、アヤックスは崩していきます。では、そのプレー原則がこちら↓
このように、CBがSBにパスを出す素振り(SBの方に視野を向ける、実際にキックフェイントをする、等)を見せることで、相手IH(図ではエリクセン)は前もって少しSB(図ではタグリアフィコ)の方にスライドします。なぜなら、中央にポジショニングするIHが、SBに寄せるのはそこそこの距離がありますので、パスがSBに出てからの完全なリアクションだと、間に合わず、SBをフリーにしてしまい、ライン間にパスを出されてしまうからです。
そうすると、IH-アンカー間にスペースが生まれます。そのIH-アンカー間にボランチがポジショニングし、そのボランチにCBがパス。
そして、
フリーのボランチからライン間にパスが出て、アタッカー同士の抜群のコンビネーションで崩す。
このように、相手のIH-アンカー間を使ってトッテナムのブロックを壊し、崩す、というテン・ハグ監督のトッテナム攻略策でした。
また、ボランチがCBからパスを受けるだけでなく、トップ下のファン・デ・ベークや、偽9番のタディッチが下りて来て、IH-アンカー間の背後に顔を出して、縦パスを受けるシーンもありました。
この攻略策ともう一つ、アヤックスの攻撃にはポイントがありました。
それが、ジエフのポジショニングです。ジエフは、右SHでプレーをスタートさせますが、自由度が高く、左サイドにも頻繁に流れて来ていました。それによって、左サイドにオーバーロードが生まれます。ジエフが流れてくることで、トッテナムの右WB(トリッピアー)、右IH(エリクセン)に対して、タグリアフィコ、ネレス、ファン・デ・ベーク、ジエフの4人がマッチアップする、4対2の二人の数的優位。二人もフリーがいて、且つ連係が確立されているので、とても綺麗なコンビネーションを見せていました。
トッテナムの守備戦術の問題点
では次に、トッテナムのポチェッティーノ監督の準備していたアヤックスを対策した守備戦術の問題点について書いて行きます。
その問題点を記した図がこちら↓
はい。このように、問題点は、IH(図ではエリクセン)が相手SB(図ではタグリアフィコ)に対してスライドで対応した時に、ボールサイドに、マンツーマン方式のマーキングを採用していなかったこと、です。
これをしていないので、
先ほども書いたようにIH-アンカー間でフリーでボランチ(図ではデ・ヨング)にパスを受けられたわけです。
そして、
相手ボランチ(デ・ヨング、シェーネ)に対してだけでなく、相手トップ下(ファン・デ・ベーク)、CF(タディッチ)に対してCBがマンツーマンでマークしていない(3対2の数的優位であるのに)ので、トップ下やCFにも、フリーでプレーされてしまっていました。
ですが、これがマンツーマン方式でマーキングされていたら。
左SBに持たれている場合なら、アンカーのワニャマが相手ボランチのデ・ヨングをマークし、左IHアリがもう片方のボランチのシェーネをマーク。そして、トップ下のファン・デ・ベークが下りて来ても、CBのアルデルヴァイレルドがついて行けば良いわけです。
こうすれば、ボランチにブロックを壊され、ライン間でアヤックスのアタッカーに躍動されることも無かった、あったとしても何度も崩されることは無かったはずです。
ですが、マンツーマン方式のマーキングを採用しておらず、アヤックスが躍動することができるスペースと、道筋を与えてしまったので、トッテナムの選手は振り回されていて、アヤックスのスピードについていけていませんでした。
直前のリーグ戦から、移動はほとんどないとはいえ、中三日で試合をすることになったトッテナムは、選手のコンディションにも多少問題があったかもしれませんが、このポチェッティーノの守備戦術は、あまり何を狙っていたのか分からない戦術で、全く機能していませんでした。
トッテナム・攻撃 アヤックス・守備 ~トッテナムの攻撃のもろさ~
では次にトッテナムの攻撃、アヤックスの守備の分析。
まず最初に、トッテナムの志向する攻撃スタイルの紹介から。
あまり後方でショートパスを繋がない、縦志向の強いコンビネーションサッカーです。CBが積極的にロングボールも使って、前線のアタッカーにボールを送ります。そして受け手が納める、もしくはセカンドボールを拾ったところを起点にスピードアップし、洗練されたアタッカー同士のコンビネーションや、WB(SB)の攻撃参加を使ったクロス攻撃でゴールを狙う、という攻撃戦術です。
これに対するアヤックスの守備がこちら↓
この図のようにSH、SBが前に出てマークを掴む形で、トッテナムの3-1-4-2に対してフルマンツーマンでハメます。4-2-3-1からシステムを可変させているわけではないですが、SH+CFの3トップのようになるので、4-2-1-3と言う方が正確です。そしてこの4-2-1-3で攻撃的プレッシング。常に高い強度でプレッシングをかけ続けます。
それによって、トッテナムは、アバウトなロングボールを蹴るしかなくなり、アヤックスに回収される、という流れの連続で、ほとんどロングボールのセカンドボールを拾って、アタッカー同士のコンビネーションを発揮するシーンはありませんでした。
なぜトッテナムがそのような状況に陥ったかというと、図にも書きましたが、ハイプレスをかけられたときの回避術を持っていないからです。アルデルヴァイレルドは精度の高いロングボールを蹴れる選手ですし、ヴェルトンゲンもサンチェスもそんなにプレスを苦手としているわけではない。なのですが、チームとしてのハイプレスを交わすためのプレー原則が落とし込まれていないので、アバウトなロングボールに逃げるしかないわけです。
ここが、トッテナムの攻撃の大きな弱点です。4月のシティとの3試合でも露呈していたんですが、ハイプレスをかけられると、何もできなくなってしまう。エリクセンや、アリ、ソンなど、素晴らしいアタッカーが揃っているチームなのですが、そのアタッカーにボールを届ける手段のレパートリーは、複数の種類を備えていない。
ボールを支配して、主導権を握ってプレーするよりも、守備戦術で相手を抑えて、カウンターを狙う方が得意なチームなんだろうな、と思いました。
トッテナム ヴェルトンゲン負傷によるシステム変更
ここまで、トッテナムが5-3-2(3-1-4-2)、アヤックスが4-2-3-1のシステムという前提で話をしてきました。しかし39分、ヴェルトンゲンがセットプレー時のアルデルヴァイレルドとの接触で負傷し、シソコと交代。
それによって、トッテナムはシステムを変更しました。
5-3-2→ダイヤモンド型4-4-2
しかし、後半の途中までは、あまりシステムが変わるまでと、展開は変わりませんでした。
60分辺りまでは、アヤックスもハイプレスをかけ続けました。
この章では、その60分以降、60分以前までと展開が変わった時間の話をしていきます。
アヤックスは、60分辺りから、ハイプレスをやめ、少し重心を下げました。
そして、右サイドにボールがある時のシーンを上図ではピックアップしましたが、このような形でハイプレスはかけないけれど、選手のポジションを動かして、ダイヤモンド型4-4-2のようにして、ハメることは常時ではなかったですがしていました。
ネレスとタグリアフィコの担当マークに関しては、逆もありました。
このようにアヤックスがハメることをしていたとはいえ、前述のように常時ではなかったので、トッテナムも時間の経過と共に後方で落ち着いてボールを持つことができるようになり、徐々に自分たちのやりたい攻撃が出来るようになってきました。
これは5-3-2時の図ですが、CBが余裕を持ってボールを持てるようになったので、前線に精度の高いロングボールを配給でき、F・ジョレンテが競り勝って落としを拾う、というところまでは結構できてました。
ですが、その先、コンビネーションを発揮したり、クロス攻撃を展開するのは中々難しかったです。
このように、ロングボールのセカンドボールを拾われて、スピードアップされても、アヤックスは全力でリトリートしてきて、他の選手も中央に絞って圧縮し、3.4人で囲い込んで奪う。
この守備で、ピンチを食い止めていました。
また、トッテナムの方は、クロス攻撃まで持っていくことができても、クロスの精度が足りていなかったり、コンビネーションを見せるかと思ったら結構選手間の狙いが違っていたり、単純にミスパスが出たりと、自分達でチャンスを潰したり、生かせなかったシーンが多く見られました。
なので、自分達のペースになった時間でも、自滅でゴールを逃した、というのがトッテナムの追いつけなかった原因だと思います。
データ分析 ~両チームのアタッカーを比較~
最後にデータ分析。
データ:whoscoredから引用
まず最初にアヤックスのスタメン11人の平均ポジションから。これを見ると、タディッチ(10)、ファン・デ・ベーク(6)、ネレス(7)、ジエフ(22)の2列目3人+CFが、とても近い距離でプレーしていたことが分かります。
そして、右SHジエフは、ベースとなる右サイドが中心でありながらも、中央や左サイドにも流れてきていることが分かります。
また、先ほどの2列目3人+CF4人のプレーエリア(ヒートマップ)を重ね合わすと、左サイドがより濃くなっていて、左サイドに寄ったポジショニングをしていたことが読み取れます。
トッテナムのアタッカーは、元から中央に配置されているので、平均ポジションも近い距離になっていました。
このデータは、各選手のポゼッション時間です。両チームのポゼッションの中での、個々人のパーセンテージが示されています。トッテナムは51.2%、アヤックスは48.8%のチームポゼッションとなっています。その中で、トッテナムの方はDFラインのサンチェスやアルデルヴァイレルド、トリッピアーやエリクセンが長い時間ボールに触っていたことになります。
アヤックスの方は、ボランチのデ・ヨングが一番高い数字になっており、右SHのジエフもたくさんボールに触っていたことになります。トッテナムのアタッカー4人(F・ジョレンテ、ルーカス、エリクセン、アリ)と、アヤックスのアタッカー4人(ジエフ、ファン・デ・ベーク、ネレス、タディッチ)の平均ポゼッション時間はほとんど変わらなかったのですが、
このパス成功率のデータでは、違いが出ています。トッテナムの方は、アリを除いて3人が60%台ですが、アヤックスの4人では、70%のファン・デ・ベークを除いて3人が80%越え。アヤックスのアタッカーの方が正確なパスを出していたことが分かります。
そして、
このデータはwhoscoredの採点ですが、こちらの採点でもアヤックスの方が高くなっています。トッテナムの4人の総合点は27.2点で、アヤックスは29.2点。そして、ファン・デ・ベークとジエフの2点が8点越えで、突出したパフォーマンスをした、という評価をされているので、よりインパクトのあるプレーをしていた、と言えると思います。
最後にこちらのデータ。両チームのアタッカー4人のボールロストのマップです。トッテナムの方は、23回で、アヤックスは16回。
先ほど紹介したボールポゼッションのデータで両チームの4人のボールを持った時間がほとんど変わりないのは分かっていて、トッテナムのアタッカー4人のボールタッチ数は217回で、アヤックスの4人は232回。なので、ボールタッチ回数もほとんど変わりない中で、トッテナムの4人の方が7回多くボールを失っている。
ここまでのデータを見ると、ボールを持った時間、触った回数はほとんど変わりない中で、パス成功率や、採点はアヤックスの4人の方が高い数字で、ボールロストも少ない。左サイドに寄り気味でプレーしたアヤックスの4人のアタッカーの方が、良いパフォーマンスをしていたことが示されていました。
総括
トッテナム 守備では、5-3-2でブロックを組んで守るが、あまり狙いの分からない守備戦術で、IHが相手SBにスライドして対応した時のIH-アンカー間でフリーでパスを受けられ、ライン間に進入される。このIHがスライドした時にボールサイドにマンツーマン方式でのマーキングを採用していなかったので、アヤックスのアタッカーに躍動するスペースを与えてしまい、コンビネーションで崩され、振り回される。
攻撃では、ロングボールも使って素早く前線にボールを送り込み、スピーディーなコンビネーションサッカーを志向するが、ハイプレスをかけられたところで何もできなくなり、アバウトに蹴った精度の低いロングボールを歌集される。後半は、60分以降から徐々にやりたい攻撃ができるようになってくるが、クロス精度が低かったり、コンビネーションがずれたりして同点に追いつくことは出来ず。
アヤックス 攻撃では、相手IHがSBにスライドして対応した時のIH-アンカー間でボランチが受けてライン間へのパスを通してトッテナムのブロックを壊し、洗練されたコンビネーションでアタッカーが躍動。トッテナムの守備を攻略。
守備では、フルマンツーマンで攻撃的プレッシングをかけ、トッテナムにロングボールを蹴らせて、アタッカーのコンビネーションを発揮させず。60分以降の相手のやりたい攻撃をされるようになった時間帯も、ロングボールのセカンドボールを拾われ、スピードアップをされても、素早くリトリートして中央に圧縮し、囲い込んで奪い、ピンチの芽を摘んでいた。
アヤックスが、アウェーのトッテナム・ホットスパー・スタジアムで、0-1勝利。リードでホーム・ヨハンクライフ・アレーナでの2ndLegを迎えます。どうやら、今までのデータや、ジンクスでは、アヤックスの決勝進出はほぼ確実のようですが、トッテナムはどうするのでしょうか。ケインは戻ってくるのでしょうか。
最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、僕のnoteのフォロー、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!
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