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[リバプールと対戦]助っ人登場、攻略、攻略、王手~RBライプツィヒの攻撃戦術~[20-21シーズン]

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 今回は、CLベスト16リバプール戦を目前にしたライプツィヒの攻撃戦術を分析していきます。新進気鋭、いや、既にトップレベルの監督の一員に数えてもおかしくはないであろうほどの手腕を誇っているユリアン・ナーゲルスマンの下、CLベスト4に躍進した昨季に続き非常に洗練されたパフォーマンスを見せているライプツィヒ 。昨年8月にも分析記事を公開していますが、今回は「攻撃」に射程を絞りより深く分析していこうと思います。

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はじめに

 まず、今季のライプツィヒの基本的な概要、システムを紹介します。
 02/14時点で、リーグ戦は21試合13勝5分3敗の勝点44でバイエルンに次ぐ2位。DFBポカールも勝ち進み、準々決勝進出。CLはPSG、Mユナイテッド、イスタンブールBBと同居するグループを4勝2敗の勝点12で2位通過。というように、CLでベスト4まで到達した昨季に続いて国内・国外共に良い成績を残せている状態です。

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 基本メンバー・システムは上図に示した通りです。少し前までは、多くの試合で攻撃3-1-3-3/守備4-2-3-1の可変式を採用していましたが、直近のリーグ戦3試合は、守備時はシンプルにWBをDFラインへ降ろす形の攻撃3-1-3-3/5-3-2で戦っています(システムの表記の仕方は様々ですが、この記事では3-1-3-3/5-3-2で統一します)。
 ただ、監督のナーゲルスマンは、相手によって、試合展開によって様々なシステムを使い分けるためビッグマッチでは奇策を打ってくる可能性も十分にあります。
 現在各ポジションの一番手と見られる各選手の特徴としては、

グラーチ:非常に守備面で安定感があり、軽率なミスが全くない。技術レベルが極めて高いわけではないが配給も的確。
ムキエレ:高さ、速さ、強さがありフィジカル的に恵まれていながら、戦術理解度も高く、WBも適用可能。
ウパメカノ:フィジカル能力は言うまでも無い。また、ビルドアップでも多彩な配球で貢献。ただ、時々集中力が欠けてピンチを誘発してしまう。
オルバン:縦パスを引っ掛けることが少し多く技術面に少し不安があるものの、対人、空中戦には強い。3CBならどこでもできる。
カンプル:不動のアンカー。過去にはロジャー・シュミットの率いるチームでプレーしており、運動量が抜群。そしてボールを散らす仕事もできる。
アダムス:中盤での出場も多く、器用で運動量豊富。サイズは小さいが、その分スルスル飛び出していける。
アンヘリーニョ:豊富な球種を蹴り分けられる左足からのクロスはチームの絶対的な武器。似たタイプは一人もいないので、離脱してしまうと大打撃。
ダニオルモ:とてもテクニカルで、狭いスペースの中でのターンやドリブルがとても上手い。度々ナーゲルスマンから攻→守の局面の改善を要求されている。
ザビッツァー:キャプテン。ハードワークや戦術理解はもちろん、長いレンジのパスで展開力をもたらす他強烈なミドルシュートも持っている。
セルロート:今夏加入。ナーゲルスマンは辛抱強く起用し続けているが、未だリーグ戦1ゴールと大不振。シュートチャンスで躊躇ってしまう傾向。
エンクンク:オシャレなプレーを時々見せるテクニシャン。左からのカットインシュートを持っており、セットプレーの精度も高い。

 その他、ハルステンベルクやクロスターマンという昨季SBからCBへコンバートされ怪我人続出のDFラインを支えた選手もいれば、前線/中盤/サイドどこでもこなすことができアグレッシブさが武器のハイダラ、長身ながら機敏で献身性もあるポウルセン。ファンヒチャンやクライファートというスピードのあるドリブラーなど、非常に多彩な特徴を持つ選手が揃っています。

第1章 局面の定義について

 この記事では、攻撃局面を①[ビルドアップ]②[崩し]③[攻→守]の3つに分割しています。以下、局面ごとの定義を明記します。
 ①[ビルドアップ]は基本的にボール保持時のゾーン1~ゾーン2での振る舞いのことを指し、「ゾーン3へボールを運ぶ」ことが目的となります。そのためには、相手のプレッシングを外しMFラインを超えることが必要になるでしょう。目的地はゾーン3であるため、真ん中から向かうルートでも外から向かうルートでも目的を達成できます。
 ②[崩し]は基本的にボール保持時のゾーン3での振る舞いのことで、ゴール前にブロックを組んだ状態の相手に対して、「ゴールを奪う」ことが目的です。目的地はゴールなので、どんなゴールへのルート設計であっても最終的には必ず真ん中へ向かうことになります。この「目的地へのルートの数」が①と②の最も大きな違いの一つです。
 また、このことからこの記事では、必ずしも①[ビルドアップ]がゾーン1~ゾーン2での全ての振る舞いを指さず、必ずしも②[崩し]がゾーン3に限っての振る舞いを指しません。ボールのある位置がゾーン3でなくても、相手のプレッシングを外して完全にMFラインを越えたのであればゴールへ向かうための振る舞いに変化すると判断するためです。
 よって、大枠として局面ごとのゾーン分けはしていますがそれが絶対ではありません。
 ③攻→守は、ボールを奪われた瞬間から、ボールを奪い返すもしくは守備ブロックを再建するまでの振る舞い。即座にボールを奪い返すことなのか、リトリートしてスペースを埋めることなのか、チームによって目的は異なりますが、「相手にカウンターアタックを打たせない」ということは普遍的に言えるかもしれません。

第2章 ビルドアップのプレー原則/分析

 では、実際に攻撃3局面の分析を行っていきます。この章で取り上げるのは3つの内の1つ目、[ビルドアップ]からです。まずは、以下にプレー原則を提示し、大枠を捉えた上で細部を見ていきます。
 そして、この局面は相手の守り方によりディティールが変化するため「vsロープレッシング」「vsミドルプレッシング」と「vsハイプレッシング」に三分割しそれぞれの説明をしていきます。

[ビルドアップ]
主原則:
「中央の優位性を基に相手を操作し、MFラインを越える」
準原則:
①ボールを保持して一つずつレーンを攻略し、出口を創出する。
②出口が見つかったら、ボール解放+背後+大外で加速。

vsミドルプレッシング

 「vsミドルプレッシング」の時の攻撃が最も純粋にチームの原則が出やすいと考えますので、まずはミドルプレッシングを行うシャルケを相手とした試合(ブンデスリーガ20節。3-0で勝利)をケーススタディとして分析します。

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 シャルケ戦のスタメンは上図の通りで、攻撃時のシステムは3-1-3-3。

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 対するシャルケは、4-4-1-1でゾーン2にブロックをセット。中盤で縦横コンパクトなブロックを組んでから、ミドルプレッシングをかけてボールを奪いに行きます(対戦相手はポジションのみの表記とします)。

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 OHがアンカーのカンプル(44)をマンツーマンで掴み、SHが前に出れば連動してSBも前に出て、嵌めることを狙います。

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 守備側のシャルケの基本概要を踏まえた上で、ライプツィヒの配置について説明します。初期配置は前述の通り3-1-3-3で、WBアンヘリーニョ(3)とアダムス(14)が高い位置を取って幅を確保し、長身でターゲットになれるCFセルロート(19)が深さを確保します
 両WBを除いたフィールドプレーヤー8人が5レーンの内の中央3レーンに集結しており、2ライン間には3人のアタッカーが集中。中央の人口密度が極めて高い状態と言えます。
 この意図は、度々ナーゲルスマンが発言しているように「よりゴールに近い位置にたくさんの選手を置きたい」からでしょう。ゴールは中央にあるんだから、中央に多くの選手を配置した方がゴールに近づきやすいよね、という考え方。
 後ろを3バックにすることにより、WBが常に高い位置を取れるため両サイドの幅を一人で確保できるので、中央へ人を集められるようになっているという仕組みです。且つ、必然的に左右のCBがハーフスペースに立って攻撃するのでボールを奪われても即座にハーフスペースを埋めることができカウンターアタックの脅威を削ぐことが可能です。
 中盤の底を2CHではなくアンカー一枚で補っているため、より前線に人数をかけられるようにもなっています。

 ここからはプレー原則と照らし合わせながら[ビルドアップ]を見ていきましょう。

 まず主原則は、「中央の優位性を基に相手を操作し、MFラインを越える」でした。前述のように中央3レーンに人を集結させているため、中央には数的優位があります。その数的優位を活かして相手を動かし、動いて空いた場所にパスコース(出口)を創出、というように自分達で相手を「操作」することでMFラインを越える。そうすればゾーン3までボールを運べる、という意味です。操作する、というのは位置的優位の利用だとも言えるでしょう。
 そして、主原則を達成するために必要なもの、用いる方法が準原則に挙げた二つです。

①ボールを保持して一つずつレーンを攻略し、出口を創出する。
②出口が見つかったら、ボール解放+背後+大外で加速。


 ①にある通り、ライプツィヒは「ボール保持」を大事にします。どんどんロングボールを蹴り込んでいってそこに向かって走ってという考え方ではなく、常に自分達がボールを持ち、主導権を握った状態で攻撃する。
 まずは、最初にプレッシャーをかけて来るFWラインに対して後方で優位性を獲得し、FWラインを操作してラインを越えていく。そしてFWラインに対して所有していた優位性をMFラインに対して連鎖させていく形でMFラインも操作し、ラインの背後で出口を見つけます。
 それにあたって重要なコンセプトが「ダイヤモンド+1」です。後方のダイヤモンド(3CB+アンカー)、サイドのダイヤモンド(サイドCB-アンカー-WB-IH)とトップ下-CFの関係が重要になります。なぜなのか、順を追って説明します。
 上記した二つのダイヤモンドは、出口を創出するための「トリガー」を引く役割を担います。

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 まず後方のダイヤモンドの特徴は、サイドCBムキエレ(22)、オルバン(4)が真ん中のCBウパメカノ(5)よりも少し前に位置取って段差をつけていること。平行ではなく少し前に立つことで、相手のプレッシャーを受けた状態でも一本のパスでFWラインを越えられるようになっています。
 例えば、上図のような状況だと、ウパメカノよりも少し前にムキエレが位置取っていれば、プレッシャーをかける相手CFよりも前にいることと同じです。ですから、ウパメカノからの横パス一本で相手CFのラインを超えることが可能です。他にも、アンカーのカンプルが受けた時に、サイドCBが少し前に出てカンプル(44)と平行な立ち位置を取れば、横パス一本でFWラインを越えれますよね。
 このように、後方のダイヤモンドは段差をつけてズレを生み出すことでプレッシャーを外してFWラインを越えることを試みます。それを達成し、FWラインを越えてMFラインの選手が食い付いてきたタイミングが「トリガー」です。
 FWラインを越えたことでMFラインの選手が出て来れば、当然その背後(2ライン間)にスペースが空きます。そうなれば2ライン間にいるアタッカーを監視する相手がいなくなるのでアタッカーはパスコース(出口)を創出できますよね。
ただ、次から次へと相手は寄せて来ますから、「トリガー」を引けても後方のダイヤモンドだけで出口へパスを通すのは難しい場合も多いです。そのため、後方のダイヤモンドでズレを作った上でサイドのダイヤモンドと連動することで出口へボールを送り込もうとします。

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 サイドのダイヤモンドも、「段差をつけてズレを生み出す」基本原則は同じです。右サイドで例えれば、まず2ライン間に立っていてダイヤモンドの「頂点」にあたるIHエンクンク(18)が降りて右ハーフスペースで「出口」を作ろうとします。
 しかし、それだけではサイドCBムキエレ(22)からエンクンクへの真っ直ぐのパスコースしかなく相手も対応して来るので、WBアダムス(14)が降りていき、アンカーのカンプル(44)も横へ流れる。そうすることで「右/左→頂点」のルートを増設。エンクンクへボールを送るルートが3つになります(上図)。
 これによって、例えば、ウパメカノからの横パスでFWラインを越えたムキエレはプレッシャーを受けているので、ムキエレから直接エンクンクへ縦パスを出すことが難しくても、降りて来て相手LSBから逃げたアダムスを経由してエンクンクへ、ということが可能になります。
 これが、後方のダイヤモンドとサイドのダイヤモンドの関係性です。しかし、これならまだ、相手にとっては十分嵌めれてしまいます。なぜなら、降りていくアダムスに思い切ってLSBがついて行って、横に流れるカンプルにもOHがずっとついて行き、頂点のエンクンクにLCHが密着してしまえばムキエレからの3つのパスコースは消すことが出来ます。実際、シャルケも同じような守り方をし、SHに連動してSBやCH、OHがサイドのダイヤモンドを嵌めようとしていました。
 しかし、ここで助っ人として登場するのが「+1」役のダニオルモ(25)とセルロート(19)です。

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 サイドのダイヤモンドが嵌められてしまい出口となるはずのIHエンクンクが消されても、OHダニオルモ(25)が降りて来てくれます。上図の通り、サイドのダイヤモンドでズレを生み出す動きをし、そこに相手が食いついて来れば必ずダニオルモが空きます。
 また、CFセルロート(19)はターゲットになれる選手ですから、エンクンクに食いついた相手LCHの背後へ浮き玉を送ってセルロートが収めれば、ダニオルモやエンクンクがサポートして落としをもらえます。
 反対に、ダニオルモの動きを警戒して相手LCHが中央に寄れば、単純にエンクンクがフリーになるのでシンプルにサイドのダイヤモンドの枠組みの中で出口を創出しMFラインを越えれます。

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 それに加え、相手が極端にボールの近くへ人数をかけ、出口を作ろうとするIHやOHをマークしようとした場合は逆サイドのIHザビッツァー(7)やWBアンヘリーニョ(3)がフリーに。長いボールで一気にスペースを突くことが可能です。
 このように、後方のダイヤモンドとサイドのダイヤモンドの連動、そこに助っ人役のOHとCFが登場して「+1」をもたらすことで

・ハーフスペースに立つIH
・中央レーンで顔を出すトップ下
・ターゲットマンのCF
・逆サイドのIH/WB

 これら4つのうち「どこかが空く」設計になっています。どこかが空くので、相手の反応を見ながらボール保持者は最適な場所を選択し、ボールを送ります。

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 以上を統括すると、準原則①に示した「ボールを保持して一つずつレーンを攻略し、出口を創出する」に全て繋がっていることがお分かりいただけるでしょうか。
 「ダイヤモンド+1」というコンセプトによって、「サイドCBの段差」でFWラインを越え、そのサイドCBがMFラインから相手SHを引っ張り出せば相手SHの背後、大外レーンが空く。その大外レーンでWBが段差をつけ、相手SBを引っ張り出す。そしたらハーフスペースが空く。そのハーフスペースでIHが出口を作る動きをすれば相手CHがそれを阻もうとするので今度は中央レーンが空く。そこに+1でOHかCFが出てくる。この流れの中で、相手が内側から消そうとするなら別のレーンが空く。
 段階的にボールを動かしていき次々と空くレーンを作り、相手の反応によって出口とするレーンを変えていくのです。

 続いて、準原則②「出口が見つかったら、ボール解放+背後+大外で加速」について説明します。
  この準原則は、相手を操作しMFラインを越えることのできる出口を作れた後のことです。出口を作っただけでは意味がなく、そこからゴール方向へ向かっていくプレーに直結しなければならず、実際に出口を通り抜け出来ないといけません。そのための準原則②です。

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 出口を作れた後、攻撃を食い止めようとプレッシャーをかけてくる相手から「ボールを解放」する手前方向へのサポート、そしてスルーパスを引き出す「背後」へのランニング、背後へのランニングによって相手が絞ることでスペースが空く「大外」にWBが出て来る。
 この3つのサポートを再現性高く作ることで「3つのうちどこかが空く」状況を作り出します。手前へのサポートに相手が強く食いつくたり、大外を気にしている様子なら背後を走る選手と大外へ出てくるWBへのケアは緩くなりますし、早めに背後を消してくるならボール周辺に余裕が生まれますよね。
 この3つの中では「ボール解放」の達成が最優先です。なぜなら、いくら背後へ走ってもボール保持者の体勢が整っていなければ全く意味がありません。出口を作った選手自身がターンなどで前を向ければもちろんOKで、それが無理ならアンカーのカンプルやその他のアタッカーが素早く落としを引き出します。
 「背後」へのランニングに関しては、1人ではなく、複数人が行います。落としを受けに行く場合を除き、基本的に2ライン間に立つアタッカー全員が背後へランニング。
 この際、原則として「各々が別レーンを真っ直ぐランニング」します。レーンを真っ直ぐ走ることで「1人で2人を食いつかせられる」ため5レーンの内必ずどこかのレーンが空くからです。レーンを走れば必然的に相手は中央へ絞るので大外が空きやすい。そのため大外を使う機会が増えます。そうなった時に、左のWBはアンヘリーニョ(3)で、一撃必殺のクロスを持っている。 
 だから、ライプツィヒのビルドアップは右サイドから行われる傾向にあります。絶対的な武器を強調するための仕掛け、ということですね。
以上が準原則②「出口が見つかったら、ボール解放+背後+大外で加速」の説明でした。


 そして、ここまで説明してきた2つの準原則が、主原則「中央の優位性を基に相手を操作し、MFラインを越える」に繋がっているというわけです。
中央に多くの選手がいる初期配置を基づきダイヤモンド+1でレーンを攻略していき出口を作る仕組みがあり、その後の3つのサポートで完全にMFラインを越えてゴールへ向かっていく。とても合理的な設計だと言えるのではないでしょうか。

vsロープレッシング

 このパートでは、「vsミドルプレッシング」を基に分析したビルドアップが、「vsロープレッシング」となった時にどう変化するのかについて見ていきます。ケーススタディはブンデスリーガ13節ケルン戦(0-0。引き分け)です。

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 この試合のスタメンは上図の通り。システムは「vsミドルプレッシング」で取り上げたシャルケ戦と同じ3-1-3-3です。

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 相手のケルンは、自陣で4-3-3ブロックを組むロープレッシング。

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 中盤3枚はマンツー気味で、両WGは自分の背後へボールが出ても粘り強くプレスバック。CFはウパメカノ(5)へプレッシャーをかけつつアンカーのカンプル(44)を気にしつつ、という感じでした。

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 ライプツィヒはシャルケ戦と同じくWB(22,3)とCF(9)で幅と深さを確保する形。右IHアダムス(14)は下がり気味で、ハイダラ(8)が右に寄ったセカンドトップという少し歪な配置でした。

 では、ライプツィヒがどのようなビルドアップを行ったのかです。相手は自陣で構えるロープレッシングですので、ミドルプレッシングの相手と違って前に出て来てくれず、そのままでは出口が作れません。
 よって、「相手を出て来させ、トリガーを引かせる」作業から始める必要があります。

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 そこで、上図に示したようにIHをサイドへ降ろしました(右ならアダムス(14)、左ならザビッツァー(7))。相手SBは高い位置を取るWB(22,3)でピン留めすることで前に出られないようにしているので、IHに対応できるのは相手IHかWGということになります。そこで相手がWGは戻り切れないからIHが出よう、となってくれれば2ライン間にスペースが空きますよね。IHアダムス、ザビッツァーが「トリガーを引かせる」役を担っていたということです。
 ただ、前述した通りケルンはWGがとても粘り強くスライドすることで対応していました。それではIHが中央に残ったままなので、2ライン間にスペースが空きません(上図)。

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 しかし、ライプツィヒは「IH降ろし」をやり続けます。それも、頑張ればWGが戻れるような位置にIHを降ろしていたのです。そうすることでWGが戻って来るなら戻らせ続けてWGの体力を削り、カウンターの脅威を削ぐ。IH(相手)が出て来てくれるなら、「WGが戻れる位置」に自分達のIHは降りているわけなので、相手IHからすれば自分の持ち場を離れて前に出ることになります。だから、その分2ライン間の空間は広がるというわけです。
 実際、これを後半になっても辛抱強くやり続け、徐々に相手IHが出て来るようになり、相手の堅いブロックの中へ侵入していく回数を増やしていきました。結果的に0-0のスコアレスで終わっていますが、決定機もいくつかあり、狙っていたものの効果は出ていました。

 ちなみに、「トリガーを引かせる」ためのIH降ろしはライプツィヒにとって「vsロープレッシング」の定石手となっています。

vsハイプレッシング

 ではハイプレッシングをかけて来るチームに対しての対応も見ておきましょう。ケーススタディはブンデスリーガ19節のレバークーゼン戦(1-0。勝利)です。

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 スタメンは上図の通り。システムはこれまで紹介した2試合と同じです。

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 対するレバークーゼンは、4-2-1-3の配置でゾーン3からのハイプレッシングでした。GKグラーチ(1)にまでプレッシャーをかけることはほぼありませんでしたが、高い位置で嵌めて奪いにいきます。

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 ハイプレッシングのかけ方としては、3トップが3CB(22,5,16)に対して縦切りでプレッシャーをかけ、中盤はマンツー気味で、右WBアダムス(14)に対してはLSBがかなり食いつく形でした。

 ハイプレッシングをかけて来る相手の場合、ロープレッシングの相手とは反対にガンガン出て来るので、出口を作ろうとしても勢いで潰されてしまいます。
 そのため、「確実な出口を作る」ためのひと工夫が必要になります。この場合、WB(アダムス(14)、アンヘリーニョ(3))降ろしと、「vsロープレッシング」と同じようにIH(ダニオルモ(25)、ザビッツァー(7))降ろしをやっていました。

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 相手がハイプレッシングをかけて来た段階で、WBとIHを降ろしてしまいます。左WBアンヘリーニョ(3)は高い位置に留まる傾向でしたが、右サイドのWBアダムス(14)とIHダニオルモ(25)は繰り返し降りる動きをしていました。
 この二つの降りる動きによって当然相手は食いつくので、相手LSBとLCHの背後が空き、この二つのスペースは相手の「守れない場所」になります。

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 そうすれば、ダイヤモンド+1のコンセプトを使えば十分「確実な出口」を作ることが出来ます。出口を作ってボールを解放できれば、相手が前に、ボールに強い圧力をかけて来ている分DFラインの背後と逆サイドにある大きなスペースを使ってゴールに向かうことが出来ます。

 また、ハイプレッシングをかけて来る相手に対してはロングボールを使う頻度を増やしています。ショートパスを繋いで奪われるのはリスクだから、という考えも当然あるでしょうし、ロングボールを蹴って2ndボールを拾えたら一気にひっくり返せる、という考えもあると思います。
 ライプツィヒはボール保持を大事にするチームですし、ハイプレッシングに対しても段階的に相手を操作していくニュアンスは変わらないのですが、相手の守り方に応じたオプションとしてロングボールを使う選択肢も持っているということです。
 以上が「vsハイプレッシング」の場合に変化するディティールの説明でした。

第3章 崩しのプレー原則/分析

では続いて、崩しの局面の分析をしていきます。まず、プレー原則は以下の通りです。

②[崩し]
主原則:
「中央の優位性を基に速さを出して仕留める」
準原則:
①スピーディーにレーンを攻略し、守備組織を解体。
②2ライン間をえぐれたら即フィニッシュ、ポケットならクロスに3点で合わせる。

 プレー原則を見ると、ビルドアップの局面と言葉が似ている部分が多いと思います。それは、「局面が違っても、大枠のプレーへの考え方や方法論は変わらない」ということを意味しています。
 主原則にある通り、たくさんの選手が配置されている中央の優位性に基づいてプレーを行うことはビルドアップと同じですが、変化しているのは「速さを出す」というところ。ゴール前は時間がないので、スペースが見つかればより速く、鋭くそこへボールと人を送り込んで行くプレーが必然的に増えます。

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 準原則①「スピーディーにレーンを攻略し、守備組織を解体」についてです。ゴール前でもダイヤモンド+1のコンセプトは同じ。サイドのダイヤモンドで相手を動かし、空いたスペースに+1で中央から他の選手が(多くの場合OHだが、アンカーの場合もある)が出て来る。
 2ライン間に入れば、ビルドアップの局面と同じように他の選手はレーンを真っ直ぐ走り、スルーパスを引き出すもしくは他のレーンを空けます。
 崩しの局面では、WBがボールを持つとIHがポケット(ペナルティエリアの脇)を走り、IHがいた場所に他の味方が出て来る、というプレーが多く見られるので、もしかするとある程度決められたパターンが存在しているのかもしれません。そのポケットを走るIHと、IHがいた場所に出て来る+1に加えて必ず後ろ(CB)と手前(アンカー)がいて、恐らく前から順(IHから順に)に狙いましょう、となっているのではないかと思います。また、同サイドが消されているなら逆WBを見ましょう、というのも明らかに意識づけされています。

 準原則①を達成し、相手の守備ブロック内へ侵入できた後は準原則②「2ライン間をえぐれたら即フィニッシュ、ポケットならクロスに3点で合わせる」を基にプレーします。2ライン間にパスが通れば他の選手がレーンを走るわけなので、それに相手DFが釣られてボール保持者がフリーになることがあります。そうなればもちろんシュートが打てるし、ボール保持者に寄せて来たらレーンを走る味方が空く。ポケットへ走った選手にスルーパスを通したなら、入って来るクロスに対してニア・ファー・マイナスの3点に早い者勝ちで走り込んで合わせます。

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 ポケットを使えているということは相手を崩せているので、相当堅い守備でない限りはニア・ファー・マイナスの3点が完璧に潰されていることはありません。ゴール前なので大きくな空間はありませんが、3点の何処かには空いている場所があります。

 以上が崩しのプレー原則の説明となりますが、やはりゴール前は速さが不可欠です。一瞬でも遅れてしまえばシュートを打てるチャンスを逃してしまいます。そのため例外的ではありますが、スペースがあればアーリークロスを入れることも時にはあり、「事故」を狙うプレーも見られます

第4章 攻→守のプレー原則/分析

 この章では、3つある攻撃局面の3つ目[攻→守]の局面を分析していきます。プレー原則は以下の通りです。

<③攻→守>
主原則:
「出来るだけ高い位置で網をかけボールを奪い返す」
準原則:
①全体が即座に切り替え、相手にプレッシャーをかける。
②ボール基準で前からスペースを潰し四方を塞ぐ。

 主原則「出来るだけ高い位置で網をかけボールを奪い返す」にあるように、素早くボールを奪い返し、攻撃を再開することを目指します。それを達成するための方法である準原則について見ていきます。なお、ケーススタディはシャルケ戦とします。

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 準原則①は「全体が即座に切り替え、相手にプレッシャーをかける」です。この点に関しては特に説明する必要はないでしょう。全体が即座に切り替えるの必要があるは大前提であるのは言わずもがなで、全体として相手に向かって強いプレッシャーをかけていきます。いわゆるゲーゲンプレスです。
 準原則②「ボール基準で前からスペースを潰し四方を塞ぐ」は、全体が即座に切り替えた上でどのようにボールを奪い返しにいくか、についてです。ボールへ向かって選手がどんどんスライドしていき、全体の陣形をボール周辺へ圧縮し勢いよく襲いかかってスペースを潰します。その上で、個々人がボール状況に合わせて切るべきコースを切っていき、網をかけて四方(前方、後方、右、左)を塞ぐことによって相手に逃げ道を与えずボールを奪う。
 奪うエリアはタッチライン際に設定されており、全体でタッチラインへ相手を追いやり、そこに人数を集結させて四方を塞ぐ。タッチライン際に設定されている理由はシンプルで、相手をゴールから遠ざけられることから、タッチラインによって必然的に四方の内の一つ(右か左)が塞がっているため網をかけやすいからです。
 ディティールに目を向けると、3CB(22,5,4)はマンツー気味で相手FWを消しにいきます。中盤がアンカーのカンプル1人なので、いくら運動量豊富と言っても横幅68mをカンプルだけに任せることは難しいため3CBがマンツーで密着することでカンプルのカバー範囲の広さを補い、カウンターの危機を摘もうという考え方でしょう。オルバン、ウパメカノ、ムキエレなど対人守備でのハードさが光る選手を揃えていることもその一因だと言えます。

第5章 弱点

 第4章までは、プレー原則を基にライプツィヒの攻撃3局面の分析をして来ました。具体的で合理的な設計がされているのはここまで書いてきた通りで、たくさんのゴールを生み出しているのも事実です。しかし、サッカーにおいて完璧な戦術というのは一つも存在せず、どんな戦術にも弱点は存在します。それはライプツィヒも全く同じです。
 この章では、ライプツィヒに生じている設計上の弱点に加え、それらをどのように隠そうとしているのかを分析していきます。
弱点は以下の二つです。

①DFラインからの配球
②[攻→守]の局面で生じるスペース

 まず①「DFラインからの配球」について。ナーゲルスマンの指導の下ここまで見てきたような考え方を習得し、ピッチ上で実現している選手達ですから、極端にボール保持時のプレーが苦手な選手はいません。どの選手も、的確に立ち位置を取ったりボールを扱う能力を持っています。
 しかし、3CBからの配球には若干の危うさがあります。なぜなら、「極端に上手いわけでもない」からです。ナーゲルスマンが就任するまではストーミングと言われるような、スペースへ向かってボールを蹴り込んでそこにゲーゲンプレスをかけて回収し、もう一度スペースへ蹴り込む、というスタイルでプレーしてきた選手がほとんどだという各選手の持つ文化の影響が根強く残っているからだと思います。
 よって、時々無理のある縦パスや軽率なショートパスのミスが見られます。ウパメカノに関しては、配球だけでなく運ぶことにも長けている反面、1試合に一度は強引に持ち運び相手の方へ突っ込んでロストするという場面があります。
 ただ、基本的なベースは高いので、相手のプレッシャーを受けても冷静にパスをつなぐことができ、軽率なミスは例外的なものです。
 また、「vsハイプレッシング」で取り上げたように、仮に一つずつレーンを攻略して出口を創出することが困難ならば、最前線の長身CFへのロングボールも選択肢の一つとして持っており、リスク管理も組み込まれた設計がきちんとされています。

 次に②「[攻→守]の局面で生じるスペース」です。前述している通り攻撃時の配置は3-1-3-3であり前線へ多くの人数をかけることを優先しているため中盤の底はアンカーのカンプル一人で担当しています。そのため、中盤には明らかにスペースがありカウンターアタックの狙い所になります。
 しかし、「ビルドアップの精密さ」により中盤でのボールロストを回避できているためカンプルが晒されてカウンターアタックを食らう場面は例外的です。第2章で分析した仕組みに基づいて再現性高く的確なプレーが繰り返されるため、高い確率で中盤より前、MFラインの背後へボールを送り込めます。仮にMFラインの背後への縦パスが引っかかったとしても、初期配置で中央の密度を極端に高めているため、即座にボールに対して複数人でプレッシャーをかけることが可能になっています。カンプルを保護できるような設計がされているわけです。
 「出口の創出が困難ならロングボール」という危機を回避する選択肢を持っているのは、弱点①だけでなく②を隠す方法にもなっていることが分かります。

 このように、いくつか設計上の弱点が存在しておりそこを狙う余地は確実にありながらも、弱点を隠すための設計まできちんと施されていることがお分かりいただけたかと思います。

総括

[ビルドアップ]
・ボール保持を大事にしながら、相手を操作して一つずつレーンを攻略していきMFラインを超えることを目指す。
・重要なコンセプトはダイヤモンド+1。後方とサイドのダイヤモンドに対して中央から+1が登場して出口を作る。
・相手の守備方法によっては必要な手段を加え、リスク管理のための選択肢も所有。
[崩し]
・基本原則は[ビルドアップ]と同じながら、より速さを出していく。
・ボールサイドはパターン気味の動きで糸口を探り、ダメなら手前+逆サイド。
・レーンを攻略し、中央突破ならミドル、ポケットならクロスに3点。
[攻→守]
・全体が即座に切り替え、ボールを奪い返しにいく。
・タッチライン際へ相手を追いやり、四方を塞いで逃げ道を奪う。
・3CBはマンツーで相手FWを掴み、カンプルのカバー範囲の広さを補完。
[弱点]
・①「3CBの配球」に若干の不安あり。
→あくまで例外的なもの。ロングボールも視野に入れることでリスク管理。
・②「[攻→守]の局面で生じるスペース」。中盤の底がカンプル一人なのでスペースあり。
→ただ、基本的に中盤でロストすることはなく、初期配置の密度による補完関係が成り立っている。

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