トッテナム対リバプール_1

負けてはいるが本当のところは?モウリーニョの頭の中を探る~リバプール対トッテナム レビュー~[19-20 Premier League]

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前回の「時間と展開。勝負に徹したフィンク監督の決断~ヴィッセル神戸対鹿島アントラーズ レビュー~[第99回天皇杯決勝]」という記事を多くの方に読んでいただき、ツイッターでも拡散していただきました。ありがとうございます。

今回の記事では、モウリーニョ就任直後はロケットスタートを切ったものの直近は勝ち点を落とす試合が続いているトッテナムとプレミアリーグを圧倒的な強さでリードする首位リバプールの一戦から、「モウリーニョが用意したリバプール対策を検証する」というテーマで分析をしていきます。

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序章 スコア&スタメン

トッテナム0:1リバプール
リバプール:37'フィルミーノ

トッテナム対リバプール 1

ホームチームであるトッテナムはジョゼ・モウリーニョ監督がガッサニガ、タンガンガ、アルデルヴァイレルト、サンチェス、ローズ、エリクセン、ウィンクス、オーリエ、アリ、ソン、モウラの11人をチョイスし、4-2-3-1システムでリバプールを迎え撃ちました。
一方アウェーチームのリバプールは、アリソン、Aアーノルド、ゴメス、ファンダイク、ロバートソン、ヘンダーソン、Oチェンバレン、ワイナルドゥム、サラー、フィルミーノ、マネの11人で4-3-3。監督はユルゲン・クロップです。

第1章 モウリーニョは首位をどう抑えにかかった?

この章ではモウリーニョはリバプールを相手にどのような対策を準備していたのかについて書いていきますが、まず最初に前提となるリバプールの選手の配置について。

トッテナム対リバプール 2

リバプールは、WGのサラー、マネが内側に入ってHSに立ち、フィルミーノは少し低めの相手CBから離れた場所で主にプレー。伴ってSBのアレクサンダー・アーノルドとロバートソンは高い位置へ。2-3-2-1-2(2-3-2-3)と言えます。

トッテナム対リバプール 3

対するトッテナムは、いかにもモウリーニョ"らしい"対策を講じました。それは「DFライン裏のスペース没収」「マンツーマンの部分活用」です。前者によってモウリーニョはリバプールの「スピード」を封じにかかったのだと思います。自陣にブロックを組んでDFライン裏のスペースを消すことでサラーやマネが飛び出すスペースを没収し、主にファンダイクによって配球されるロングボールからの裏抜け攻撃をさせない。それによってリバプールの攻撃における主要武器の一つを無力化。
後者はアタランタのように相手の全選手に対してマンツーマンで守備を行うわけではありませんが、部分的にマンツーマンを活用することで相手のキープレイヤーを常に監視下に置く方法。マンチェスター・ユナイテッドを指揮していた時にもモウリーニョは特にビッグマッチでこの方法を頻繁に用いており、アンデル・エレーラが「マンツーマン職人」として重用されました。
この試合では、SBロバートソン、アレクサンダー=アーノルドに対してSHソンとオーリエ、IHワイナルドゥム、オックスレイド=チェンバレンに対してCHエリクセン、ウィンクス、左WGマネに対して右SBタンガンガ。左CBサンチェスも常にマンツーマンでついていくわけではないですが、右WGサラーの番人としてスピード、ドリブル突破を封じ込むタスクを担いました。高い位置に位置取るSBロバートソン、アレクサンダー=アーノルドにオーリエ、ソンはついていきますから、片方のSHが4バックの端に加わって5バック状態になる場面が多く見受けられました。
モウリーニョはお気に入りである「部分的マンツーマン」によってリバプールの「個人が持つスーパーな武器」を使わせないように制限をかけようとしていたのです。オーリエ、ソンがマンツーで監視することによって、ロバートソン、アレクサンダー=アーノルドのアシストを量産するクロスが入ってくる量を制限。マネにフィジカルコンタクトやスピードに強さのあるタンガンガをマッチアップさせることでマネのスピードを抑える。同じくサラーと同等のスピードを持つサンチェスをサラーに当てることで爆発を食い止める。エリクセン、ウィンクスがワイナルドゥム、オックスレイド=チェンバレンをマークすることからは球出しの自由度を奪うことを期待したのかなと。中盤からの球出しを制限(ヘンダーソンにはトップ下のアリとCFモウラが協力して対応)することによってリバプールのビルドアップがCBに依存することが想定されます。そのCBから出てくるのはDFライン裏へのロングボールですから、それは前述のようにラインを下げることによってケアをしている。
要約すると、「裏を消し、「個」を抑えることでリバプールの特徴を発揮させず、攻めに対して常にサイレントに対応する」ことが目的だったのかなと。

第2章 「対リバプール」への解。「個」を巡る攻防

具体的な準備をしてリバプールを抑え込みにかかったトッテナムに対し、リバプールはどのような方法で迎え撃ったのでしょうか。この章ではその部分について分析をします。
リバプールはまず、「配置」を動かしました。

トッテナム対リバプール 4

この試合で主に活用したのは左サイド。その左のIHのワイナルドゥムが高い位置に上がったSBロバートソンとCBファンダイクの間に「斜め下り」をします。それによって中央での右CHエリクセンの監視状態から脱し、ワイナルドゥムはサイドでフリーとなります。

トッテナム対リバプール 5

トッテナムは前章で解説したようにCHとSHはマンツーマンですから、SHオーリエはSBロバートソンに対応するため低い位置まで下がっており、斜めに下りたワイナルドゥムにプレッシャーをかけることはできません。そのためCHエリクセンがサイドまで出て行って対応。すると上図に示したようにエリクセンとウィンクスの間に大きなスペースが生まれます。

トッテナム対リバプール 6

そのスペースを使うのは、「3トップ」です。その中でも主にフィルミーノが下りてきてそのエリクセンとウィンクスの間に顔を出してパスコースを創出し、フリーで縦パスを引き出します。
ここで、そうはさせまいとウィンクスが自分のマーク(オックスレイド=チェンバレン)を捨ててフィルミーノに寄せようとするならば、今度はオックスレイド=チェンバレンがフリーになりますから、ウィンクスに寄せられない内にフィルミーノからパスを出す。そうすることによってオックスレイド=チェンバレンがライン間に侵入しチャンスメークをすることができるのです。
また、パスが出る前からスペースへ下りてきたフィルミーノをマークするような素振りをウィンクスが見せるなら、最初からオックスレイド=チェンバレンがウィンクスの右脇(ウィンクスからして左脇)でフリーになるのでオックスレイド=チェンバレンへ斜めのパスを出すことも可能でした。
つまり、「CHのマンツーマン守備の逆利用」をしたのです。トッテナムはCHの二人がそれぞれの担当する「人」に意識が向いているので、その二人の担当する「人」の距離が離れてしまうと大きくギャップができてしまいます。この試合ではエリクセンの担当する「人」であるワイナルドゥムがサイドに下りたことでウィンクスの担当する「人」、オックスレイド=チェンバレンとの距離が離れたので、それに伴って二人のギャップも広がり、大きなスペースをリバプールに与えることになりました。そして、下りていくフィルミーノに対して、トッテナムのCBサンチェス、アルデルヴァイレルトはついて行ってパスを受けたところを潰しにいくのが非常に難しい状態になっていました。なぜならCBのどちらかが前に出てしまうとDFラインに穴を空けてしまうことになり、サラー、マネにランニングするスペースを与えてしまいます。ブロックを組む時点でラインを下げていますから裏のスペースは消せているものの、中央に穴が空いたならば別の話になってきます。非常にリスクが高いため、CBはフィルミーノを追跡できないのです(タスクとして与えられていなかったと思います)。
このようにフィルミーノが下りて相手CHエリクセン、ウィンクスに対して3v2の数的優位を作ることで相手のマンツーマンを逆利用。ライン間に侵入する機会を多く作り出し、試合を支配することに成功。トッテナムが封じようとした「個」の能力を、配置を動かしてマンツーマンを逆利用することによって発揮させたのです。
また、この解決策を10分で見出していたのもリバプールの凄いところです。正確には10:23にロバートソンが高い位置を取り、斜めにワイナルドゥムが下りて行ってビルドアップをするという形をこの試合で初めて見せています。相手の準備してきた守備戦術に対して10分で解決策を見出すというのは異常な速さと言い切って良いこと。スタッフが10分でトッテナム の守備戦術の構造を見抜いて解決策を選手に提示したというよりかは、選手たちが見つけたのかなと僕は思っています。なぜなら、開始10分でピッチ横から試合を見ているスタッフ陣が相手の戦術の構造を理解し、そこから解決策を実践するために選手に事前のプランからの変更を促すとは(大きな変更ではなかったとはいえ)考えにくいからです。前半45分を見た上での修正ならスタッフの指示があったことも十分に考えられますが、10分でその決断をするのはリスクが大きいと思うので。選手の戦術理解度がとても高いからこそなせる技ですから、ここにもリバプールの圧倒的な強さの秘密が隠れているといえます。

第3章 モウリーニョの頭の中を推測

前章で述べたように準備してきた対策への解決策を見出され、相手に試合を支配される展開になったトッテナム。しかしモウリーニョ監督は、後半になっても大きく守備戦術に手を加えることもなく、終盤にアタッカーを投入して4-5-1にするまでは4-4-2の部分マンツー守備を続けました。その守備の構造的弱点を突かれ続けていたのは事実でしたが、モウリーニョはどう考えていたのでしょうか?
僕の考えはこうです。この試合の戦略は4-4-2で自陣にブロックを組み、背後のスペースを消してリバプールの攻撃を待ち構えるというもの。自陣に構えたところからプレッシングをかけにいくことも無かったですし(例外として、ビハインドの終盤にはハイプレスを行っていた)、相手にボールを持たせて自陣の低い位置で奪い、カウンターアタックを仕掛けることを狙っていました。このようなプランを採用していたということを考えると、「戦略」的に見ると上手くいっていないわけではないとモウリーニョは考えていたのかなと。DFライン裏に蹴り込まれるロングボールに対してDFラインは冷静に的確な処理をしていましたし、GKガッサニガとの連携も取れていました。そして1失点はしたものの、ゾーン1での守備に大きなエラーが生じていたわけでもありませんでした。「中盤にマンツーマンを用いる」という戦術は相手に攻略されましたので「戦術」的な目線で見ると機能不全に陥っているという言い方が可能です。しかし、「低い位置のブロックで裏を消し、相手の攻撃を吸収してボールを奪う」というこの試合における「戦略」においては目的を達成できていたので修正する必要はない。相手CBのゴメスとファンダイクのフィジカル能力を考慮すれば、ロングボールを前線に放り込むやり方のカウンターアタックがあまり上手くいかないことも想定していたはずで。
68分にラメラとロチェルソを投入して攻勢を強めてからは同点に追いつくことは叶わなかったものの、決定機も複数作り出していました。もちろん「決める」「決めない」は非常に重要な部分ではあるものの、モウリーニョの描いていた展開通りに試合を進めることは出来ていたのかなと僕は推測しています。

終章 総括

第1章
・モウリーニョのリバプール対策は「DFライン裏のスペース没収」「マンツーマンの部分活用」
・ラインを下げることでDFライン裏のスペースを消し、リバプールの武器であるスピードを封じ込む
・タンガンガ、サンチェス、オーリエ、ソン、エリクセン、ウィンクスは「人」を抑えるタスク
・「人」を抑えることによって選択肢を削り、リバプールの攻撃を分断。
→CBゴメス、ファンダイクから出てくるロングボールは想定済み
第2章
・ロバートソンが高い位置に上がり、ワイナルドゥムが斜めに下りる。
→トッテナムの対策への解決策
・ワイナルドゥムにエリクセンを食いつかせ、エリクセンとウィンクスのギャップにフィルミーノが入ることでエリクセン、ウィンクスに3v2の数的優位。
・CBはフィルミーノを追跡することが非常に難しいのでフィルミーノはフリーでパスを受けれる。
→ライン間侵入へのルート
・この解決策を10分で見出したところにリバプールの恐ろしさがある。
第3章
・準備していた守備戦術への解決策を見出され、試合を支配されたトッテナム。モウリーニョはどう考えていた?
・この試合の戦略は「自陣に引いて裏を消し、人を消してボールを奪う→カウンター」。
・エリクセンとウィンクスのマンツーが攻略されているので、戦術的に見ると、機能不全に陥ったと言える。
・しかし、裏のスペースへのロングボールには4バックが適切な処理をしていたためスピードの威力は抑えている。
・1失点したものの、エリア内での構造的なエラーも起きておらず、決して悪くない守備だった。
→戦略的に見ると、この試合の目的は達成されている。
→よって修正する必要なしと判断した。
・終盤に攻勢をかけて決定機も複数作っていたため、同点には追いつけなかったものの、モウリーニョが描いていた通りの試合ができていたのでは?と推測。

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