なぜ4失点?JAPANの守備組織を検証~日本対キルギス,ベネズエラ戦 レビュー~

全文無料公開。面白いと感じていただければぜひ投げ銭200円お願いします。

先週は代表戦ではなくリバプール対シティを書いたので、今週は日本代表の2戦をまとめて分析していきます。ただ、いつものように全体的にカバーするのではなく今回のテーマは「守備組織」です。パナソニックスタジアム吹田で行われたキリンチャレンジカップのベネズエラ戦、日本はまさかの4失点を喫し1-4で完敗。前半終了後、試合終了後にはサポーターからブーイングが発生。森保体制発足以来これほど圧倒されたのは初めてでしょう。アジアカップ決勝のカタール戦以上だと思います。ではなぜ日本代表は4失点も喫してしまったのか。この理由をベネズエラ戦の失点シーンとキルギス戦のシーンを取り上げて分析していきたいと思います。

もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

キルギス戦、ベネズエラ戦のスコア

キルギス 0:2 日本
日本:41'南野 53'原口
日本 1:4 ベネズエラ
日本:69'山口
ベネズエラ:8'30'33'ロンドン 38'ソテルド

第1章 キルギス戦のカウンター対応

ではまずキルギス戦からシーンを取り上げて分析したいと思います。取り上げるのは「カウンター対応」です。

まず一つ目。

日本対キルギス 1

61:40のシーンです。原口を長友が追い越してパスを受け、グラウンダーでクロスを折り返し。南野はドリブルを仕掛けていくも奪われ、そこからオーバーラップした長友の裏のスペースを使われてカウンターを受けます。ここで問題なのは「リスク管理」です。

左サイドはSB長友もSH原口も上がっていて、誰も後ろのスペースを埋める選手がいませんでした。このシーンのように日本代表はSB長友が積極的に攻撃参加していく攻撃戦術なので必ず長友の背後には大きなスペースがあります。ですのでそこを使われてカウンターアタックを受けないように予めスペースを埋めておかなくてはなりません。例えば左CH遠藤が斜めに降りる形でビルドアップに参加し、そのまま攻撃時は左の長友の裏をケアしておくという方法。遠藤は守備能力が高いから中盤にいて欲しいということなら、柴崎を降ろすやり方。そうすることで長友が攻撃参加してもその背後のスペースをケアする選手がいるので日本の左サイドからカウンターを受けることを防止できる。中央にももう片方のCHがいますし前線の選手がプレスバックすれば遅らせることが十分可能です。

しかしそのような「リスク管理」を日本代表は行っていなかったのでカウンターを受けてしまいました。

では次に二つ目のシーン。

日本対キルギス 2

一つ目の61:40のカウンターを凌いだ直後の62:18のシーン。南野が自陣の左サイドでミスパスをしてしまい、そのミスからカウンターを受けたシーンです。そもそも自陣での横パスをカットされること自体がエラーなのですが、まず問題なのはCH柴崎が歩いて戻っていること。61分ですからスタミナは残っているはずなので急いで戻らなくてはなりません。一方ロストした南野はすぐに戻って(8)に対応しますが交わされてしまい、CH遠藤(6)が奪いにいかなかったので長友(5)がキルギスの選手に1v2の数的不利を作られます。そこで長友は内向きで(8)に対応しており外側を消して中央に誘導。ですが、長友も気付いていたとは思いますが日本の左サイドはキルギスの右WB(6)が上がってきていて、その(6)へのパスコースを切るのは不可能な状態、つまり外を切るのはほぼほぼ無理でした。その対応によって上がってきた右WB(6)はフリーになり、そこにパスが出ます。

日本対キルギス 3

パスを受けた(6)に対して長友は内向きだったので反転する必要があり、(6)への対応が遅れてクロスを阻止することができませんでした。そのグラウンダーのクロスが(10)に収まり、ターンからシュート。GK権田がビッグセーブでチームを救いました。ここで問題が生じていたのは長友の体の向きによる遅れだけでなくもう一つあります。それは「左CB吉田の立ち位置」です。吉田はクロスが入るタイミングでゴールエリアの横線まで下がらないといけませんでしたが少しポジションが甘く下がりきっていない。その少しの立ち位置の差によって生じたスペースに見事にクロスが入っています。ここで吉田がしっかりゴールエリアの横線まで下がっていれば吉田はクロスをカットできたはず。クロス対応の立ち位置が決まっているのかは分かりませんが吉田の立ち位置ミスが決定的なシュートにつながりました。

この二つのシーンから分かるように日本はカウンター対応に課題を抱えているのです。一つ目のシーンで紹介したカウンターを受けないようにするための「リスク管理」もそうですし二つ目のシーンで生じていた「体の向き」や「クロス対応時の立ち位置」の問題。ネガティブトランジションでのプレーが不安定だと奪われた直後の失点の確率が極めて高まり、ボールを奪われることが当然のこのスポーツにとっては非常に脆いチームとなってしまいます。いつも書いているような攻撃のプレー原則の問題に加えてこの局面にも大きな課題が見て取れました。

第2章 ベネズエラ戦の失点シーン 組織で守れている?

続いてベネズエラ戦の失点シーンを分析していきます。失点シーンはじめ守備を分析するとやはり問題が生じていましたし、失点シーンはその問題が重なって起こっていました。

日本対ベネズエラ 1

まず1失点目の起点となった6:53のシーンから。上図では示していませんが、前段階では前線からのコース誘導が行われず右CB(24)から大外の幅を取っている右WG(7)にパスが入っています。そしてパスを受けた(7)がカットインしてからIA(インサイドエリア。SB-CB間の延長線上の縦のスペース)ランをした右IH(6)にスルーパスが出て、そこに左CB畠中(4)が引っ張り出されるという形。

とてもあっさり相手のWGにボールが入っていて、あっさりスルーパスを通されてCBがサイドに出て中央が手薄になって。全体的に守備がこのシーンは軽いです。まず前線は相手CBを放置するのではなくプレッシャーをかけてコースを限定し、プレーを意図的に誘導して欲しいのですが全くそれがなかったのであっさりWG(7)にパスが入る。プレッシャーがかかっていないので左SB佐々木は(7)へのパスが予測できないので(7)は余裕を持ってパスを収め前を向きました。そして少しカットインした時に(7)の至近距離に左CH柴崎(7)がいたのですが無抵抗。目の前にいる相手に対して何も守備アクションを起こしませんでした。佐々木とダブルアタックを仕掛けて奪えるシーンでしたので柴崎は寄せないといけなかったと思います。

相手のビルドアップを放置し、WGが受けた後もダブルアタックを仕掛ける機会を逃したのでスルーパスが通りCBの畠中が引っ張り出されざるを得ないシチュエーションになってしまいました。あまりにも呆気なかったと思います。

そのあとは抜け出した右IH(6)がアバウトなクロスを上げ、左で相手に拾われて二次攻撃を受けます。

日本対ベネズエラ 2

ボールを持った左WG(18)に対しては右SB室屋と右CH橋本の二人で対応できていますが、二人共中央を切っていて、縦を切れていない。二人で対応してるのに一人で守っているのと同じような状況となり、スペースのある縦へ運ばる。室屋がついていくも切り返しに翻弄されてクロスが上がりCF(23)のヘディングで失点。CFのロンドンはプレミアリーグでもコンスタントにゴールを取っているハイレベルなパワフルFWですので最後の競り合いの部分は仕方ないところがあったとしても二人で対応したのにその数的優位を活かせていないところに大きなエラーが生じています。橋本が縦のスペースを指して「縦切れ!」と伝えるようなジェスチャーをしていたのですがうまく室屋と連携できず。左サイドであっさり前進され、その後に数的優位を無駄にした守備をした結果の失点でした。

次に2失点目のシーン。

日本対ベネズエラ 3

前段階としては、日本のビルドアップに対してベネズエラがプレッシングをかけてきたので日本は諦めて蹴り、その2ndを植田がダイレクトで縦パスにしますがベネズエラがインターセプト。日本は速攻気味に攻められますが素早く帰陣して遅らせ、4+4ブロックをエリア手前にセットします。植田のダイレクトパスが奪われたのは勿体なかったですがそのあとの切り替えは良かったと思います。

しかし、右IH(6)の左へパスを出そうとする素振りに左CH橋本が大きく反応し、左にポジションを動かしてしまったので橋本と柴崎のCH間が開き、そのギャップからCF(23)にパスを出されてしまいます。そして(23)に左CB(4)は強く寄せれずワンタッチでスルーパスを出されます。スルーパスで抜け出した(7)に日本はマークがついておらずフリーにしていて、遅れて中島が戻るも間に合わず折り返しが入ってロンドンに決められる。

細かいところかもしれませんが、恐らくこのシーンで橋本は左へのパスのインターセプトを狙ったのかなと。しかし、大外の(20)にパスが出ても左SHの中島が戻っているのできっちり対応できていた場面です。また、仮にそうでなくても(中島が戻っていなくても)パスが出てからスライドして対応すべきで中央封鎖を優先するべき。CHの自陣ゴール前でのプレーとしてはリスキーすぎるプレーでした。その結果実際に中央が開いて失点を喫しているわけですしとても些細かもしれませんが守備のプライオリティーが崩れたディティールのエラーだったと思います。

大元の話になるとまず植田のミスパスからで、2ndボールが生じた時には近場にパスコースを作っておくべきです。ですのでそこからエラーが生じているわけですが今回のテーマは守備組織なのでそのエラーに関する深掘りはしていません。

続いて3失点目のシーンも検証します。

日本対ベネズエラ 4

相手のゴールキックの2ndを拾われてからの守備です。拾われた瞬間から日本はプレッシングをスタートし、左SH中島が相手右SB(20)に寄せます。しかし右IH(6)に逃され、ワンツーで中島の背後で(20)が受けます。プレッシングのスイッチが入っているので中島はこの(20)の動きに対してプレスバックすることが求められますがこのシーンで中島はプレスバックを行いませんでした。その時点で日本の守備組織にはマークのずれが生じています。中島がプレスバックしなかったので橋本が前に出て(6)に行ってから(20)に寄せます。しかし寄せ切る前に右WG(7)につけられ、前に出たことで空いたスペースに入った(6)に通されます。そして橋本に連動してボールサイド立ち位置をスライドさせた柴崎の右脇を使われレイオフでAC(5)が受けて見事に逆サイドに展開される。

このシーンの最初のエラーは、「中島がプレスバックしなかったこと」です。中島はあまり守備意識が高い選手ではありませんがこのようなプレッシングのスイッチが入ってみんなが連動している場面など限定的にはしっかり守備をこなすべきです。コパアメリカ辺りから献身的に低い位置まで下がるシーンは見られていますがこのシーンでもその献身性を発揮して欲しかったです。

次はエラーとは言えないけれど他の友好的な判断をすることもできたというシーン。最初のエラーの直後の「橋本の寄せ」です。中島がプレスバックしなかったので勢いのまま思い切ってサイドまでプレッシャーをかけに行きましたが相手の右SB(20)が素早くボールを手放したのでその寄せは空振りになり空けたスペースを使われてしまいました。このシーンではプレッシングのスイッチが入っているので実際に橋本が判断した「プレッシャーをかけに行く」でもいいのですがプレッシャーをかけるのは(6)まででストップしてマークがずれてしまうので「プレッシングを辞めてリトリートする」を選択しても良かったと思います。サイドまで行ってしまうと誰もマークしていないフリーの選手が必ず生まれてしまうことは事実なので。

(6)に入った後は、右CH(7)と右SH(8)のスペースを消すためにSH(8)に「真ん中あたりまで絞って」と要求するのは相当厳しいのであのスペースが空いて、そこを使われるのはレイオフで(6)に受けられてしまった時点で仕方ないと思います。

そして右にサイドチェンジされた後、左SB(16)がWG(18)とのリターンパスをしてから右足でアーリークロスを上げ、ファーの(6)が折り返してCF(23)が決めてゴール。実はここでもエラーが生じていて、エリア内のマークがとても緩い。誰がどの選手を見るのかが定まっておらずクロスが入る直前のタイミングでわちゃわちゃっとなって結局折り返した(6)も決めた(23)にもマークが間に合っていませんでした。

最後に4失点目についても。図はありませんが、相手の左CKを跳ね返しカウンターアタックへ移行。柴崎が前線に飛びだしてスルーパスを引き出すも相手右CB(24)の素晴らしいプレスバックによってカットされ逆カウンターを受けます。この時3点ビハインドですので柴崎の前がかりになる気持ちはわかるのですがそれがこのシーンでは逆効果になります。柴崎がいなくなった4バック+橋本の5人でカウンターに対応しますが橋本はバランスを考えたのかなと想像しますが左からドリブルで運んでくる(18)に寄せれず左SB佐々木が上がってきた(7)と(18)に1v2を作られます。そして外の(7)にパスが出て折り返しを(18)が決める。柴崎の攻撃参加は試合展開を考えると仕方ないとしても、僕が気になったのはクロス対応です。後方から上がってパスを受けた(7)から折り返しが入る時に誰も(18)をマークできていません。橋本は自分の視野内且つ近くに(18)がいたのでマークするべきだったと思います。明らかにフリーでシュートを打てそうな場所に相手がいるのにマークできず、当然の如く折り返しを決められてしまいました。

以上のシーンを見てわかるように失点シーンを見るとエラーだらけであったことがわかります。IAランをしてくる相手に対するマークが決まっていないのはこの試合で何度も見られた現象ですし、クロス対応の緩さも複数失点に絡んでいる。他にも数的優位の対応の仕方やマークがずれた時の判断など。ブロック自体はきっちり組めているけれどそれを相手の動きに対してアジャストできていない。自分たちだけしかいない守り方というか相手が考慮されていない守備組織になってしまっていたり、個々人の判断がバラバラで組織として機能していないシーンが日本代表にはありました。

終章 総括

[キルギス戦のカウンター対応]
・自分たちが攻撃している時のリスク管理が不十分で、オーバーラップした長友の裏を突かれてカウンターを受けた。
→攻撃時のリスク管理
・中央を閉めて相手をサイドの方向に追いやっているのに左SB長友が内向きで対応しており、外側を上がってきた相手選手への対応が遅れて決定機を作られた。
→チームとしてのコース限定→誘導
[ベネズエラ戦の失点シーン]
1失点目
①前線からのプレー限定が効かず、簡単にWGに入る。SB(17)とCH(7)のダブルアタックができずIA裏に抜け出されCB畠中が引っ張り出される。
②二次攻撃に対して(16),(13)の二人が数的優位で対応するものの縦を切れておらず突破され、クロスで被弾。
→前線からのプレー限定→誘導&IAランへの対応&数的優位での守備
2失点目
①植田のパスをカットされて被カウンター。しかし、素早く4+4ブロックを組み直す。
②橋本が相手の素振りに大きく反応したので中央が開きCF(23)にパスを出される。
③(7)のマークがおらずフリーで抜け出されてクロスから失点。
→CHは中央封鎖が優先。サイドに動いたので中央が開いた。(7)のランニングがノーマーク。
3失点目 
①相手右SB(20)のワンツーに左SH中島がついて行かず、(20)に対して左CH橋本が行ったのでマークがずれる。
②レイオフで橋本が前に出たことで空いたスペースを(6)に使われ、右CH柴崎の脇で受けた(8)の落としを受けた(5)に逆サイドへ展開される。
③エリア内のマークが緩く、ファーの(6)にも中央の(23)にも見る人が定まらないままクロスの折り返しを(23)に決められて失点。
→中島のプレスバック&橋本の「行くか、行かないか」の判断&クロス対応の「誰がどの選手を見る?」
4失点目
①カウンターアタックのために柴崎が攻撃参加するが、相手にパスカットされて逆カウンターを受ける。
②左サイドで佐々木が1v2を作られ突破され、誰もマークしていないクロスを受けた(18)に決められる。
→クロス対応、(18)へのマーク。
[まとめ]
立ち位置を取れていても、相手の攻撃に対してアジャストできていない。
個々人の判断がバラバラで組織として守れていないシーン有り。
中央封鎖優先、数的優位ではそれぞれが違うコースを切るなどの原則から逸脱していることがある。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

ここから先は

122字

¥ 200

ご支援いただいたお金は、サッカー監督になるための勉強費に使わせていただきます。