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[EURO2020]スペインにあった「もう一つの分岐点」。ポーランドの戦略ミスとは~Group-e スペイン対ポーランド~

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はじめに

 今回はEURO2020からグループE第2節、スペイン対ポーランドの一戦を取り上げます。終始スペインがボールを保持しポーランドを押し込み続ける展開でしたが、結果は1-1のドロー。スペインからすれば「勝点2を失った」試合となりました。
 スペインが決め手を打てなかった原因はどこにあるのか。当然、失点を喫した直後のPK失敗は試合の分岐点でしたが、個人的にはもう一つの分岐点があったと考えています。「後半開始から失点するまでの時間帯」です。
 後半最初の10分間において、スペインは「試合を完全に掌握する」チャンスを手にしながらそれを逸し、ポーランドにワンチャンスで追いつくことを許しました。前半終盤から後半序盤、ポーランドが追いつくまでの時間帯を分析し、ポーランドが追いつくまでの経緯を見ていきましょう。

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第1章 前半、文字通り圧倒したスペイン

 両チームのスタメンは以下の通り。

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 スペインは4-3-3。ポーランドは攻撃時3-4-1-2気味、守備時はプレッシングの局面では5-2-1-2、自陣で引き込む場面では5-3-1-1となる可変型を採用しました。

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 前半はスペインが文字通り圧倒。序盤の数分を除いて5-3-1-1で自陣に引き込んで守ったポーランドを押し込み続け、ボール支配率70%、シュート5本、CK5本。これにはポーランドの、5-3-2(5-3-1-1)においてはNGに近い運用方法が大きく影響していました。ハイプレスを行うチームの中で採用される割合が高まっている5-3-2ですが、撤退守備においてはその運用には難点があります。「前方への勢い」が出せないからです。
 敵陣におけるボールに対してプレッシャーがかかっている局面では、中央の3CB+3CH+2CFで中央を封鎖した上で、外へ流れてくるボールに対して3CHもしくはWBがダイナミックにスライドすることで前へ前へプレッシャーをかけることが出来ます。反対に自陣で引き込む場合、相手のボール保持は確約された状態であり、能動的にプレスをかけて外へ誘導することが難しいため3CHやWBの大胆なスライドは行えない。常に受動的な対応になるので、大胆にスライドすれば、その瞬間に背後のスペースを使われてお終いです。
 従って、5-3-1-1で引き込んでしまうと「スペースを隠す」だけで精一杯になります。尚且つ、3CHで横幅68mをケアするため左右に揺さぶられるとスライドが追いつかず、本来3CB+3CH+2CBで固めているはずの中央への入り口を相手に与える可能性も高まります。
 スペインは、ポーランドの圧力を受けないので優雅にボールを回し続け、3CHのスライドに隙が生まれるまで揺さぶり続ける。そして生まれた隙を見逃さず、外からブロック内へ侵入。ゲーゲンプレスも統率が取れているため奪われても即時奪回が可能で、「これを繰り返せば自然と点は来る」展開を作れていました。ポーランドからすれば八方塞がりで、戦略的に詰みに近い状態でした。

第2章 戦略ミスに近い?パウロ・ソウザの決断

 自陣に釘付けにされ、ひたすらに守り続けていたポーランド。25分には先制点を許し、2、3点目を失うのも時間の問題かと思われました。
 この展開を打開するため、前半の終盤に指揮官パウロ・ソウザは動きます。明確にラインを押し上げ、序盤数分間のようなアグレッシブな戦いを仕掛けたのです。25分の失点から少しの間も同じような振る舞いを見せましたが、重心を上げた戦いに本格的に切り替えたのは30分台後半からでした。
 パウロ・ソウザの決断は早くに効果を見せます。43分、敵陣で両WBプハチ、ヨージュヴィアクによるサイドチェンジのインターセプトが二回続き、シュヴィデルスキの左足シュートがポスト直撃。レバンドフスキが2ndボールに詰めてシュートを放つもGKに阻まれる、という決定機の創出に成功しました。
 しかし、「どのように90分間を制すか」という「戦略」の観点から見ると、パウロ・ソウザの決断はミスだったと考えています。前半の終盤に戦い方の修正を施したことで、スペインに時間の猶予を与えたからです。
 ハーフタイム直近になって急に相手が前に出てきたわけですから、スペインは「後半、相手は前に出てくるな」と容易に予想できる。ハーフタイムに対策を準備し、あらかじめ備えておけます。後半、相手の出鼻を挫くチャンスが転がってきたのです。
 従って、パウロ・ソウザが修正を施したタイミングは適切ではありませんでした。自分達の手口を見せびらかす形になったからです。プラン修正はハーフタイムまで待ち、前半の内は5-3-1-1ブロックの微調整に留めておいて後半開始から奇襲に出る。この方が堅実で、スペインにより大きなインパクトを与えられたでしょう。押し込まれ続けた前半でしたが、微調整を施せば最小失点で凌ぐことは十分可能でした。早い時期に効果が出たとはいえ、戦略的にはパウロ・ソウザの決断はミスであったと言えます。
 ただ、サッカーはAIのやる競技ではないため、戦略的に成功でなかったからといって負けが決定するわけではありません。この日も、引き分けを好ましい結果と捉えているのはスペインではなくポーランドの方でしょう。後半何が起こったか、第3章で見ていきます。

第3章 物足りなかったスペインの対応

 さてハーフタイム、ルイス・エンリケはどう対応したでしょうか。無策では全くなく、しっかりと対策を用意していました。

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 前半から、ポーランドがハイプレスをかけてくる際は5-2-1-2に可変し、マンツーで嵌める形でした。自分達の4-3-3に対して5-2-1-2で噛み合わせをピッタリ合わせてくるのです。

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 ルイス・エンリケの打った対策は、「コケ・モラタ降ろし」でした。上図のように、ポーランドがハイプレスをかけてきたら右IHコケ(8)が一列降りてロドリ(16)と2CHを形成。もちろん相手左CH(16)はコケについて行くので、その背後にスペースが空きます。この空間を降りて使うのがCFモラタ(7)です。噛み合わせをテコ入れし、ビルドアップの出口を作ろうとしたわけです。

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 50分の場面にその修正の効果がよく現れています。相手のハイプレスに対し、コケ(8)が降りて中盤の形を可変させる。そしてウナイシモン(23)→コケ(8)→パウトーレス(4)のレイオフで逃げ場を見出します。

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 コケ(8)に食いついた相手左CHの背後スペースにモラタ(7)が降りて、パウトーレス(4)から楔を引き出し逆サイドのMジョレンテ(6)へ展開する。その後、Mジョレンテを追い越したコケがパスを受け、ファウルをもらう。ハーフタイムに準備した対策が非常に上手く行ったビルドアップでした。

 ただ、後半序盤のスペインの振る舞いは、もう一つ物足りなかったと思います。「相手の出鼻を挫き、再び押し込むことができなかったから」です。後半、相手が前に出て来ることは予想できたわけで、完全ボール保持型のスペインならば、その出鼻を挫いて前半のように敵陣で試合を支配する戦いが求められました。
 前述した通り、指揮官ルイス・エンリケは対策を用意しました。そしてその効果は一定程度出ていたのは明らかです。しかし要点は「後半を前半のような押し込むゲームにできるか否か」でした。その点、ポーランドに高重心を維持して戦うことを許しており、ゾーン2もしくは敵陣でボールを保持しても縦パスで突撃してロストする場面が複数見られました。

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 その一例が52分の場面(上図)です。ロングボールでプレスを剥がして左サイド深くへボールを持っていった後、後ろへ戻してポゼッションをスタート。しかし、再びプッシュアップしてくる相手に対してパウトーレス(4)は中央のモラタ(7)への縦パスを選択してしまいます。その縦パスを右CH(14)にインターセプトされボールロスト。ゲーゲンプレスをかけて即時奪回を目指すもファウルを与え、その流れで押し込まれ失点を喫しました。この場面はルイス・エンリケもテクニカルエリアで苛立ちを見せていました。
 以上から、スペインの後半序盤の振る舞いは要求水準には満ちていなかったと考えます。DF陣に絶対的な質的優位がなく(失点シーンのラポルトvsレバンドフスキの競り合いが典型的)、相手のアップテンポに合わせてしまうと劣勢に回るだけに、ボール保持時は完全に試合を掌握するだけの振る舞いが求められていました。
 相手の戦略ミスに付け入ることが出来ず、ワンチャンスで失点。PK失敗も分岐点であったことは確かですが、それ以前の同点ゴールを許すまでの駆け引きも試合に非常に大きな影響を及ぼしていました。

おわりに

 一見機能したように見えるが、実は危うさを含んでいたパウロ・ソウザの決断。対してその戦略ミスを見逃し、むしろ乗せられて失点したスペイン。戦術的修正において「タイミング」が非常に鍵を握ること、表面的に上手くいっていたとしても、その影には戦略ミスが隠れている可能性があること。戦略的な観点から試合を見るにあたって、非常に勉強になる試合でした。
 最後に、忘れてはいけないのはシュチェスニーを中心としてポーランドDF陣のハードワーク。勢いのままに同点に追いついたという精神的な優位性も大きく影響していたと思いますが、GKが果敢にボールへアタックする姿、エリア内へ入ってきたボールに対し即座に密集を作って弾き出すDF。そして、終盤の83分にきて配置を5-4-1に修正し守備の安定、試合のクローズを図ったパウロ・ソウザ采配(この決断は非常に秀逸でした)。
 後半、スペインにもチャンスはありましたが、PKを除けば決定機と言えるのは84分の場面(Jアルバのクロスでサラビアが抜け出し、モラタへ落としてシュート)くらいではないでしょうか。結果的に、ポーランドが上手く試合の流れを引き寄せ、貴重な勝ち点1を獲得しました。

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 最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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