トリノで開拓している新型サッリボールと世界最強の4+4ブロックと~ユベントス対アトレティコ・マドリード レビュー~[19-20UEFAチャンピオンズリーグ グループD第5節]

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皆さんこんにちは。こんばんは。もしかしておはようございます。僕のお気に入りのブンデスリーガ のチームを書けたらいいなと思いつつ、今回はチャンピオンズリーグの試合を分析していこうと思います。前から興味を持っていたサッリのユベントス対シメオネ率いるアトレティコのグループ首位突破をかけたビッグマッチです。戦いの場となったのはユベントスのホームスタジアムであるイタリア・トリノに構えるアリアンツスタジアム。

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序章 スコア&スタメン

ユベントス 1:0 アトレティコ・マドリード
ユベントス:45+2'ディバラ

ユベントス対アトレティコ 1

まずホームチームのユベントスのスタメン。GKシュチェスニー、DFラインにダニーロ、ボヌッチ、デリフト、デシーリオ、中盤の底にピャニッチがいて左右にベンタンクール&マチュイディ。トップ下にラムジーで最前線はロナウドとディバラの2トップ。4-3-1-2システムでプレーします。

対するアウェーチームのアトレティコ。システムは王道の4-4-2で、オブラク、トリッピアー、フィリペ、エルモソ、ロディ、サウール、エレーラ、トーマス、コケ、モラタ、ビトーロ。DFラインは怪我人が多いということでベストメンバーを組むことはできませんでした。

第1章 罠にかけたユベントス

ではこの章から試合を分析していきます。まずこの記事で触れるのはユベントス守備、アトレティコが攻撃の局面のユベントスの守備戦術から。

ユベントス対アトレティコ 2

ユベントスは4-3-1-2ブロックを自陣に敷き、プレッシングを行わずにアトレティコの攻撃に対して迎撃姿勢を取りました。完全ゾーンで守ります。最前線がロナウド、ディバラですので高い位置からプレッシングをかけていくのは難しい状態にあったわけです。

ユベントス対アトレティコ 3

4-3-1-2ですので、相手SB(23)にパスが出たらIHマチュイディ(14)がスライドして対応します。それに呼応して3MFがスライド。

ユベントス対アトレティコ 4

また、相手SH(8)にパスが入った場合には定石通りSBデシーリオ(2)が寄せます。その時、IHのマチュイディは内側に少し絞ってスペースを埋める動き。
ここで重要なのは「寄せる目的」です。何のためにIHは長距離を移動してSBに寄せ、SHが持った時には内側のスペースを埋めているのか。それは「ボールを奪取に繋げるため」ではなく「スペースを相手に使わせないため」でした。つまりIHのマチュイディ、ベンタンクールの寄せはそれほど高い強度のものではなかったのです。

ユベントス対アトレティコ 5

上図のように、IHは相手SBへのプレッシャーは牽制程度にとどめ、重要タスクである「ライン間にパスを入れさせない」だけは徹底していたのです。そのためボールを持つ相手SBには多少の余裕がもたらされますが、クロスはあげられてもOK。エリア内は2CB+SB(逆サイド)+3MFの6人が3+3の2ラインを作って守っており、長身CBデリフト、ボヌッチ(ダニーロも長身。デシーリオはそこまで)の空中戦能力と3MFのマチュイディ、ピャニッチ、ベンタンクールの2ndボール回収能力があれば十分クロスは上げさせても跳ね返せるしこぼれを拾えるとサッリ監督は計算していたんだと思います。実際にこの守備によってユベントスはライン間にはアトレティコに侵入させないことでコンビネーションを発揮させず、外に追いやってクロスを回収出来ていましたのでこのサッリ監督の守備戦術はうまく機能したと言えます。
ユベントスの守備戦術の分析を終えたところで、次に攻撃側のアトレティコの分析に移ります。アトレティコとしては無得点に終わったとは言え、「効果的な攻め方」を見つけてはいました。
前掲の図のようにアトレティコは4-4-2のままで攻撃。ユベントスはプレッシングをかけてこなかったので、ビルドアップには苦労しませんでした。しかし、相手は中央に多くの人数を割いて固めているので中央からの侵入は難しく、サイドから打開を図ります。このサイドの局面になったときにユベントスは3MFがスライドして対応します。
では、このユベントスの3MFがスライドする守備の弱点とは何でしょうか?
それは、「3MF間のギャップが開きやすい」ことです。3MFで横幅68mをケアするため、中央で守備を行なっている時には密度の高さを発揮しますが、サイドにスライドするとどうしても3人では近い距離感を常には保ちにくい。近い距離感を保てていない時というのは選手間が離れていて、間が空く。ギャップができるのです。このギャップがどうしても人間の体力的に生まれやすいのが4-3-1-2の「3」です。

ユベントス対アトレティコ 6

アトレティコは実際に上図のようにその3MF間のギャップを使ってパスを繋ぎ、逆サイドまで運んでそこにSBがオーバーラップしてくる、というシーンを作り出していました。ユベントスをギャップを埋めようとするも間に合わず、逆に隣の選手との間をより広げてしまうという悪循環にこの攻撃によって陥れていました。

ユベントス対アトレティコ 7

ここまではとても良い攻撃だったアトレティコですが、ゴール前の局面を制したのはユベントスでした。なぜなら、パスワークでギャップを使われても結果的に「クロスを上げさせた」からです。アトレティコが良い感じでパスをつないでもその後結局行き着くのはサイドで、そこからもう一度中へ切り込んでいく仕掛けが用意されておらず、ユベントスとしては自分たちの持ち込みたい型にハメ込めていたのです。ですからアトレティコが上げたクロスはユベントスDFが跳ね返し、ユベントスボールになっていました。
しかし、アトレティコは後半、「選手交代」によって最後のピースを見事にはめて見せます。ビトーロ、エレーラ、ロディに代えてフェリックス、コレア、レマルの3人を順に投入。
先発のメンバーはアタッカーが少なく守備的なメンバーでしたが、3人のアタッカーを投入して攻撃的なキャストを増やしました。それによってアトレティコの攻撃は活性化。特にレマルの存在が際立っていたように思います。広範囲に動いてパスを引き出し、攻撃の潤滑油となっていました。この選手交代によってアトレティコの攻撃は向上し、それ以前よりも多くの回数ユベントスのゴールマウスに迫りますが中々ユベントスの守備は崩れません。その中でアトレティコが作り出した最大の決定機はラストチャンスであった90+4分(この時ユベントスは4-4-2に変えています)。
トリッピアーが相手左SHマチュイディ-左CH(ピャニッチ)間のギャップの右CHコケに渡し、コケから左CH(ピャニッチ)-右CH(ケディラ)間に下りてきたフェリックスへ。この2本のパスで中々それまで侵入できなかったユベントスのブロックの中に入り込み、フェリックスからコレアへスルーパス。抜けたコレアはワンタッチでグラウンダークロスを中央へ送り込むも、モラタは足を合わせられず。
相手は3MFでは既にありませんが3MFに対して攻撃した時と同じように相手MF同士のギャップに選手が入ってきてパスを受け、途中投入のフェリックスとコレアでチャンスメークするも、ストライカーのモラタは足を合わせることができず決定機逸。試合のラストチャンスを逃したこととなり、アトレティコは追いつくことができず敗戦。何としてでも決め切りたいシーンでした。
惜しくもゴールを奪うことは出来なかったアトレティコでしたが、終盤にはユベントスの守備に対する攻略法は見出せていて、うまく試合を進めたと言えると思います。

第2章 新型サッリボールの正体

この第2章から話を移してユベントスの攻撃、アトレティコの守備の局面について分析していきます。
主に取り上げるのはユベントスの攻撃戦術です。エンポリ、ナポリ、チェルシーとチームを渡り歩いたサッリ監督が率いるユベントス。サッリ監督は「サッリボール」と言われる攻撃的なスタイルで見るものを魅了するサッカーを見せることでお馴染みですが、今まで率いたチームとは違ってトリノの地では少し違った「サッリボール」を披露しています。

ユベントス対アトレティコ 8

4-4-2ブロックを敷いてくるアトレティコに対してユベントスは4-3-1-2。初期配置ではディバラ(10)はロナウド(7)よりも少し低い位置を取るのですが、ディバラ、ロナウドの2トップの行動範囲は広く、サイドにも頻繁に顔を出していました。
アトレティコは序盤は積極的にゾーン3からプレッシングを行っていましたが、ベースとしてはハーフライン付近に第一PLを設置して迎撃。

ユベントス対アトレティコ 9

そして2トップ(モラタ(9)、ビトーロ(20))は片方がCBに寄せてもう片方は斜め後ろに下がって相手AC(5)を抑えるタスク。
では本題のサッリ監督がユベントスで見せる「新型サッリボール」について。

ユベントス対アトレティコ 10

まずSBのダニーロ(13)、デシーリオ(2)は初期配置は低く、他の選手がサイドに流れてくるわけでもないので、幅は確保されていない状態。これは意図的で、あえて初期配置では幅が取れていない狭い配置にされています。
ではユベントスはどのように幅を活用していくのでしょうか。

ユベントス対アトレティコ 11

この上図のようにIHベンタンクール(30)がサイドに流れてきて幅を確保し、ベンタンクールにパスを送り込んで相手SB(12)をタッチライン際に引っ張り出し、その(12)の裏のスペースを空けます。そしてCFディバラ(10)がSB裏に走り込んでスルーパスを引き出す。最初から選手を配置するのではなく、あえて空けておいてそこに選手を「雪崩れ込ませる」のです。初期配置では自分たちの狙っているスペース(幅とSB裏)を空けておくことで相手に警戒されにくく、こちらのペースに引きずり込んで攻撃できる。これを主に右サイドでやっていて、ディバラではなくロナウド(7)がSB裏に走り込むシーンもありましたし左サイドでこの攻撃をするシーンも右よりかは少ないですがありました。
特に序盤はこの攻撃を再現性高くやっていて、アトレティコのSBがあっさり幅を取るIHに食いついて裏のスペースを空けていたのでSB裏のスペースをCFロナウドorディバラが突くことができ深い位置に侵入していました。そこから先のアイデアはこの試合では「アタッカー同士のコンビネーション」だったと思います。ディバラやロナウド、ラムジーらが高速&正確なパスをつないでアトレティコのブロックに攻め入っていく姿はまさにスペクタクルだったかなと。
しかし新型サッリボールはこれだけではありませんでした。もう一つアトレティコの守備を苦しめた効果的な策が用意されていたのです。それが↓

ユベントス対アトレティコ 12

4-3-1-2による「無限ポゼッション&円滑前進」です。相手の4-4-2ブロックのギャップにマチュイディ(14)、ベンタンクール(30)、ラムジー(8)、ディバラ(10)といった面子が位置取っており、マークが非常に掴みにくい状態を作り出していたのです。ギャップで何人もが浮いていますから、例えば左CH(5)がベンタンクールをマークしようとしたら中央のラムジーが開きますし、そっちばっかり気になっているとベンタンクールやディバラが空く。よってポゼッションはスムーズになり、浮いている選手によって次々とパスコースが生み出されるのでパスのテンポが良いし、どんどんパスが繋がる。加えて特にボヌッチからは何度もライン間のラムジーやディバラに縦パスが通っており、前進も円滑。
バランスよくスペースをケアできる4-4-2の相手に対してギャップに何人も選手を配置することで、「どこも薄い」という4-4-2の弱点を突いたのです。どこかが徹底ガードされているわけではないその「薄さ」を突いてユベントスは攻撃の主導権を握りました。また、ここで加えておかなくてはならないのは「選手のうまさ」。テンポが良いからこそ一人ひとりの正確な技術はより光っていて、アトレティコのプレッシャーを1,2タッチのパスを繋いで交わしていく姿は華麗で、こちらもスペクタクルだと感じました。

ユベントス対アトレティコ 13

しかしアトレティコも配置的不利で前進されても簡単にチャンスを作られるチームではありません。結局は自陣ゴール前に引きこもり、自慢の4+4ブロックで中央を固める。
これにはユベントスも困難を極めました。寄せも早いしその後の後続の連動も速い。そして強度が高く食らいついてくる。この世界最強とも言える4+4の壁をゴール前に作ったアトレティコは崩し切るところまではユベントスにほとんどやらせず、攻撃を跳ね返し続けました。
ユベントスとしては、アトレティコが引きこもった時にアタッカーがコンビネーションで中央突破するのを期待するだけでなくもう少し自分たちでスペースを作っていくプレーする必要がありました。

ユベントス対アトレティコ 14

例えば引き込まれた状態でもボヌッチ(19)からの縦パスは通っていたのでまず中央のディバラ(10)やラムジー(8)に縦パスを打ち込んでキープ力で収めてもらい相手を中央に引きつける。このプレーで大外を空けてからそして手前で浮いている3MF(この図ではベンタンクール(30))を使って大外へ展開し、SBダニーロ(13)を上げる。

ユベントス対アトレティコ 15

大外を使うことで今度は相手を外に引っ張り出し、内側のスペースを創出。その内にスペースがある状態を作ってから内側にいるディバラやラムジーといった選手を使い、美しいコンビネーションで打開してクロスをロナウドへ送り込んでフィニッシュ。というように、まず内側から攻めて相手を引き付けて外を空け、そこから外を使って今度は内を空ける。内のスペースを開放してからアタッカーにボールを預けて、アタッカーが余裕を持った状態でのコンビネーションで崩す。一発で攻めたい場所(中央)から攻めるのではなく、攻めたい場所を「目的地」とし、あえて他から攻めることで相手をそっちのほうに誘導してから目的地へ向かうことで、目的地には空間と場所がある。空間と場所がある状態で攻めた方が相手がいないので自分達の好きなように攻撃ができる。この「段階を踏む」作業を行えていれば、もっとユベントスはうまく攻撃でき、チャンスを作れていたと思います。
実際の試合のユベントスは、ゾーン3であまりこの「段階を踏む」作業を行なっていなかったのでスペースが生まれておらず、ゴールという目的を達成するための目的地である「中央」に空間と時間がある状態で侵入することができていませんでした。アトレティコの守備がとても固いことももちろん関係していますが、ユベントス中央一辺倒なところがあり、サイドをあまりうまく使えていなかったと思います。
また、後半にはベルナルデスキ、イグアイン、ケディラを投入するのですが、アトレティコほど大きな効果は出ておらず、局面打開にはつながりませんでした。
しかし、45+2分にディバラがスーパーなFKを決めていますので勝ち点3をゲット。グループ首位通過を決めました。

終章 総括

ユベントス
[守備]
・4-3-1-2で自陣にブロックを組んで構える。
・IHが相手SBに対してスライドして対応。相手SHがパスを受けてSBが対応すると、IHは内側のスペースを埋める。
・IHの相手SBへの寄せは牽制程度で、ライン間にだけパスを入れさせないようにする。クロスは上げられてもOK。
・クロスは長身DFデリフト、ボヌッチ、ダニーロらが跳ね返し、2ndを3MFのピャニッチ、ベンタンクール、マチュイディが回収。
・3MF間のギャップを使われてうまく攻撃されても結局クロスを上げさせていたため、自分達の型にハメ込めていた。
[攻撃]
・4-3-1-2で攻撃。2トップは広範囲に顔を出す。
・初期配置では意図的に幅を確保していない。
・IHベンタンクールがサイドに開いてパスを受けて相手SBを引っ張り出し、その裏にCFディバラが走り込んでスルーパスを受ける。
・相手の4-4-2ブロックのギャップに何人もの選手(マチュイディ、ベンタンクール、ラムジー、ディバラ)が位置取っており、テンポ良くパスが回る&前進が円滑。
・4-4-2の弱点である「薄さ」を突いて攻撃の主導権を握った。
・ビルドアップの局面はうまくいっていたが、相手に引きこもられると大苦戦。
・前線のコンビネーションを期待するだけでなく、「段階を踏んで」中央にスペースを創出してからアタッカーにボールを預ける攻撃が必要だった。
アトレティコ
[攻撃]
・4-4-2のままで攻撃。
・サイドから相手3MF間を突いてパスを回すプレーはあって、4-3-1-2守備の弱点を突くところまではいけていた。
・しかし、結局「クロスを上げさせられていた」。エリア内に侵入する手段としてクロスだけではなく、内側にパスで侵入していく仕組みが必要だった。
・選手交代によって攻撃的なキャストを3人投下し、攻撃が向上。
・90+3分には素晴らしい崩しで決定期を作ったが、モラタが決定機逸。
[守備]
・4-4-2でハーフラインに第一PLを設置してブロックを組む。
・序盤にはハイプレスを行っていた。
・相手にSBが出し抜かれて裏を使われ、ギャップを突かれてパスを回され奪いに行けない状態となる。
・前進されても結局はゴール前に引きこもって中央を完全封鎖。ゾーン1でユベントスの攻撃を食い止めた。

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