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強気!「3vs3マンツー」のオモテウラ~RBライプツィヒ対リバプール 分析~[20-21 UEFAチャンピオンズリーグベスト16 第1レグ]

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UEFAチャンピオンズリーグのベスト16第1レグ、ライプツィヒ対リバプール。確固たるスタイルを持ち、アグレッシブ且つ論理的なプレーを展開するチーム同士がぶつかったこの一戦。ライプツィヒのユリアン・ナーゲルスマンとリバプールのユルゲン・クロップのドイツ人指揮官同士の対決でもありましたが、シームレスで止まることのない展開の中で、戦術的な駆け引きが繰り返される、両チームの「対策への対策」を打つスピードが物凄く速い、とても面白い好ゲームでした。
 今回はこの試合を、「ライプツィヒの守備、リバプールの攻撃」の局面に絞り、主にライプツィヒ目線で分析していきます。
 ちなみに、ライプツィヒの攻撃戦術については以下の記事で詳細に分析していますので、興味を持たれた方は是非ご一読していただければと思います。

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スコア&スタメン

ライプツィヒ0-2リバプール
[得点]
53'サラー
58'マネ
[選手交代]
ライプツィヒ:
64'ハイダラ、ムキエレ→ポウルセン、オルバン
73'カンプル→ファンヒチャン
リバプール:
72'フィルミーノ、ティアゴ→シャキリ、チェンバレン
90'サラー→ネコ・ウィリアムズ
[イエローカード]
ライプツィヒ:
ハイダラ、ムキエレ、エンクンク、アンヘリーニョ、ダニオルモ
リバプール:
カバク、ヘンダーソン

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 上図は両チームのスタメンです。
 ライプツィヒは、いつも通りの3-1-3-3システムを採用、純粋なストライカーのいないメンバーを組んできました。ストライカーのセルロートやポウルセンがリーグ戦で大苦戦していることを考慮すれば、プレミアの優勝チームに対してストライカーを配置しない選択は的確だったと思います。
 直近のアウグスブルク戦(2-1勝利)からは3人を入れ替え。アウグスブルク戦では、バイエルンへの完全移籍が試合中に報道されることを見越してなのか、ベンチ入りするのみだったウパメカノもスタメンに戻ってきています。
 一方のリバプールもお馴染みの4-3-3。監督のクロップは、直近のレスター戦(1-3敗戦)と同じ11人をチョイス。多くの怪我人を抱えていることも影響している思いますが、リーグ戦3連敗を喫してもなお、全くメンバーを変えずにこの試合に臨みました。

第1章 ライプツィヒの守備[vs世界最高峰の3トップ]

 まず、ライプツィヒの行った守備について分析していきます。

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 ライプツィヒは、全体を敵陣まで押し上げ、明確に前から奪いにいきます。立ち位置としては5-3-2で、中央のスペースを消して相手をサイドへ誘導します。
 特徴としては、相手3トップ(10,9,11)に対して3CBムキエレ(22)、ウパメカノ(5)、クロスターマン(16)がマンツーマン。そして、相手SB(26,66)に対しても、柔軟に縦横のスライドを織り交ぜながら対応するのではなく、WBアダムス(14)、アンヘリーニョ(3)が常に監視する形。
 基本的にはボール基準で、ボールに近い選手からどんどんスライドしていくスタンスで守るライプツィヒですが、この試合はある程度、それぞれが対応する「人」を決めた形です。
 一方のリバプールは、いつも通りの4-3-3です。

なぜ後ろをマンツーにしたのか?

 マネ、フィルミーノ、サラーという世界最高峰の3トップに対して各々がマンツーマンで守るというのは非常にリスクが高い選択であることは間違いありません。
 では、何故ナーゲルスマンはこのやり方を選択したのでしょうか。僕は、「前から奪いにいくならマンツーしかない」と考えたのではと予想します。
 なぜなら、後ろを数的同数&マンツーにすることが「最も効率的に前に人数をかける方法」だと考えたからです。理由は三つです。
 一つ目。後ろを同数にしてしまえば、前線に多くの人数をかけることができ、より広い範囲に圧力をかけることができ、プレッシングが嵌めやすくなります。
 二つ目。ムキエレ、ウパメカノ、クロスターマンの3CBは、いずれも速さ、強さ、高さを備えたフィジカル的に非常に優れる選手です。だから、1vs1の強さで負けない力を十分に持っているし、仮にオープンスペースでの1vs1があったりしても、スピードで振り切られたり、ボディコンタクトで弾き飛ばされたりすることは考えにくい。相手3トップと互角に渡り合えるポテンシャルを持っています。
 三つ目。仮に後ろが数的同数のマンツーでない場合、必然的に後ろの並びは4バックになり、3トップに対して数的優位を確保する形になります。ライプツィヒが守備で4バックを採用する場合、ほとんどの試合は4-4-1-1です。
 しかし、4-4-1-1だと、バランスよくスペースをカバーできる反面、分厚い場所がなく、どこにも満遍なくスペースがあります
 よって、フィルミーノが顔を出せるギャップをたくさん与えてしまいます。そして、サラーやマネに裏を狙われ続けることでSBが前に出られなくなってしまうと、アレクサンダー=アーノルドやロバートソンの攻撃参加に対応できなくなってしまい、全体で前に出ていく守備をすることが難しくなります。
 以上のことから、ナーゲルスマンは「4-4-1-1で3トップに対して数的優位を確保する方法だと、逆にフィルミーノにスペースを与えてしまうし、サラーやマネの脅威に屈してしまう可能性が高い」と考えたのだろうと思います。
 よって、リスクがあることを覚悟して後ろを3CBにし、数的同数にすることが「最も効率的に前に人数をかける方法」だということです。ここまでを読んで頂けた方には、ナーゲルスマンの採用したリバプール対策は全く奇策ではなく、自分達の戦力/戦術と相手の戦力/戦術を天秤にかけた上で、リアリスティックに導き出されたものであることが分かってもらえたかと思います。

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 後ろは強気の3vs3マンツーを採用したライプツィヒ。ここからはボールを奪う方法について具体的に見ていきます。
 ライプツィヒは、先述の通り中央を閉め、相手をサイドへ誘導します。そのサイドへの誘導を担うのが、3MF+2CFです。上図に示した形が、その3+2のベーシックなプレスのかけ方で、基本的にGKアリソン(1)へのプレスはなし。図のように相手が右サイドでボールを保持している場合(以下の記述は、左サイドの場合にも大体同じような形で適応されます)は、ボール側のCFエンクンク(18)が相手CBカバク(19)に対して相手ACワイナルドゥム(5)を消しながらプレッシャーをかけ、逆側のCFダニオルモ(25)は斜めに下がってワイナルドゥムをマーク。2トップで二重に相手ACワイナルドゥムを消すことで、仮にボール側CFのプレッシャーを掻い潜られた場合の「保険」をかけているわけです。
 そして、ボール側IHザビッツァー(7)はマッチアップする相手IHティアゴ(6)をマークし、ACカンプル(44)はブロック内に入ってくるボールに対して圧縮するためにスライド。逆側IHハイダラ(8)はカンプルに合わせて下がるのではなく、高い位置に留まり、組み立て直しを牽制(この点に関しては、ハイダラとザビッツァーでは違いがありました)します。

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 上図を見てもらうと、ハイダラ(8)が高い位置にいることで、逆CBヘンダーソン(14)を狙えており、バックパスや横パスで逆サイドに展開されることを防ぐことが可能になっていることが分かります。
 ボール周辺の選手に対していくら上手くプレッシャーをかけることができても、組み立て直すという「逃げ道」が残されていれば、相手はそっちへ逃げれば良いだけなのでボールは奪えません。再現性高くボールを奪うためには、組み立て直しを妨害することが必須になります。
 この辺りの3MF+2CFのプレッシャーのかけ方は、絶対にこうする、というものではありません。あくまで「中央を封鎖してサイドへ誘導する」という原則に基づいて守備を行うので、ハイダラとダニオルモ(25)の役割が入れ替わることも多くあります。ボール状況に対して、一番自分達が守りやすい守り方で良いわけです。
 そしてWBアンヘリーニョ(3)は、最初から相手SBアレクサンダー=アーノルド(66)に食いつくわけではなく、少し距離を取り、パスを出させてから奪いにいきます。あえてSBへのパスコースを残しておくことで、近場へのパスを誘発。ロングボールで逃げるのではなく、近場に出してくれれば、より高い位置で奪いどころを作れる。罠を仕掛けているということです。

 ここまでが、サイドへ誘導し、奪いどころを作るための仕掛けです。ここからは、その後のアクションについて①[サイドへ誘導できた時]と、②[相手が組み立て直そうとした時]。この二種類に分けて分析します。

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 ①[サイドへ誘導できた時]は、獲物を追いかけるチーターのように、より一層強い圧力をかけて仕留めにいきます。
 大前提となるのは、ボールの動きに合わせて逆サイドの選手もボール方向へ圧縮すること。逆サイドの選手がきちんと絞ることで選手間の距離が縮まり、ボール周辺の選手が思い切って奪いに行けるようになります。仮に交わされてもすぐ近くにいる味方がカバーしてくれるという「保険」がかかっているからです。
 上図のようにCBカバク(19)からSBアレクサンダー=アーノルド(66)へパスが出ると、WBアンヘリーニョ(3)が前に出てプレッシャーをかけます。この時のアンヘリーニョのタスクは「斜め切り」でした。一般的には縦切りですが、斜め切りでした。その狙いとしては、「フィルミーノへのパスコースを消す」ことが考えられます。
 CBウパメカノ(5)がマンツーでCFフィルミーノ(9)をつかんでいるとはいえ、フィルミーノは相手を背負った状態でのポストプレーができ、ワンタッチでいなすプレーも可能。よって、ボール保持者のSBに対してWBがフィルミーノへのパスコースを消しながら寄せることで二重のフィルターを用意し、「保険」をかけていたように見えました。
 CBカバクにプレッシャーをかけたCFエンクンク(18)は、アレクサンダー=アーノルドにパスを出させて終わりではなく、カバクへのバックパスを狙っておく。先述した逆IHハイダラ(8)の立ち位置と同じように、組み立て直しを妨害する仕事です。逆CFのダニオルモ(25)はACワイナルドゥム(5)を追跡し続け、ワイナルドゥムへのパスコースを消す。IHザビッツァー(7)は対面のIHティアゴ(6)につき、CBクロスターマン(16)はWGサラー(11)にマンツー。
 これらをきちんと遂行できれば、上図に示したように右、左、前、後ろの四方を塞いだ状態になり、どこへボールが来ても奪うことができます。

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 アレクサンダー=アーノルド(66)がボールを持っている段階で奪えず、縦方向のサラー(11)へパスが出たとしても、やることは変わりません。ボールに向かって更に全体を圧縮。クロスターマン(16)は突破されないように縦を切りながら厳しく寄せ、アンヘリーニョ(3)がプレスバックして後ろを塞ぎ、ウパメカノ(5)、カンプル(44)、ザビッツァー(7)らで中央へのパスコースを潰す。
これらは原則的なものであるため、アレクサンダー=アーノルドからフィルミーノ(9)へ入っても、ティアゴ(6)へ入っても、ワイナルドゥム(5)であってもやることは全く同じで、「誰がどこを塞ぐか」が変わるだけです。

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 ②[相手が組み立て直そうとした時]についても見ていきます。ボールサイドへ誘導している時点で、逆IHハイダラ(8)が逆CBヘンダーソン(14)への横パスを牽制しているため、相手がサイドではなく後ろや逆サイドへボールを運ぶ場合はGKアリソン(1)へのバックパスに限定されます。アリソンにパスが出たら、先述の通り基本的にはプレッシャーをかけず、アリソンからのパスコースを潰して待ち構えます。
 その時、アンヘリーニョ(3)やザビッツァー(7)、ダニオルモ(25)は引き続き自分の担当する相手選手を監視。ハイダラがヘンダーソンへプッシュアップし、カンプル(44)は横スライドでハイダラの背後のスペースをボカします。
 そして、少し特徴的なのはWBアダムス(14)の立ち位置です。単純にロバートソンを監視するわけではなく、内側の中間ポジションに立って、ロバートソンに入ってきても寄せられるし、中央へ入ってくるフィードも狙えるようにしています(ここは、アンヘリーニョも同じことをやっていたわけではありません)。
 このアダムスの立ち位置が効果的で、アリソンがバックパスを受けても出し所が見つからず蹴らされる。ライプツィヒからすれば狙い通りにボール奪取、という場面を特に前半において何度も作り出せていました。

 最後に、ボールを奪えた後について。ゾーン2やゾーン3でボールを奪えた場合は、ダイヤモンド+1のコンセプト(攻撃戦術の記事で詳説しています)を基にまずはボールを解放し、即座に攻撃時のポジションを取りに行って左右の幅と前後の深さを確保。可能ならカウンターアタックを目指し、難しければ無理せずポゼッションを回復。
 しかし、ゾーン1で奪った場合は、明確に「エンクンクへクリア」でした。ブンデスリーガではもう少し勇気を持って、ゾーン1からでもボールを動かして攻撃を構築することを試みるのですが、リバプールを相手にしたこの試合では最前線のエンクンクまでクリアを飛ばしていました。相手のことがしっかりと考慮されたリスク管理だと言えます。

第2章 リバプールの狙い[SBの立ち位置]

 主にライプツィヒ目線で書いている記事なので、薄くはなりますが、リバプールの攻撃の狙いも見ておきます。

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 リバプールとしては、ボール保持を重視しながらも、結局のところはどれほどクリーンにサラー(11)、フィルミーノ(9)、マネの(10)の3トップへボールを送り込めるかです。
 そのために準備されている仕組みは主に二つで、①[SBの偽CB化]②[3センターの立ち位置バランスの変動]です。
 ②については第3章で詳細に記述するのでこの章では割愛し、①についてのみ説明します。
 ①[SBの偽CB化]は、上図に示した通りアレクサンダー=アーノルド(66)とロバートソン(26)がタッチライン側に張り付くのではなく少し下がりつつ絞り、3CBの一角のような立ち位置を取ることを指しています。それによって得られる効果は二つです。
 一つ目に、相手WBと距離が取れること。少し下がることで、相手WBから離れることができ、パスを受けてから相手が近くまで寄せて来るまで時間を稼げます。よって、ボールをオープンに置けるので、前方の見方を視野に捉えた上でより正確にプレーすることが可能になります。
 二つ目は、内・外両方へのパスコースを作り出せること。少し絞ることで、相手WBが縦切りで寄せて来たとしても縦方向にいるWGへのパスコースが完全に消されることはありません。そして、内側のフィルミーノやIHへのパスコースも存在している。この試合では相手WBが斜め切りで寄せて来ていたため、シンプルにWGへパスを出す場面が多く見られました。
 このように、SBの立ち位置を微妙に変化させることで3トップへのパスコースを確保しやすくし、相手のプレッシングを突破しようとしていました。

第3章 シーン①04:00~

 ここでは、04:00~のシーンを基に、第1章で分析したライプツィヒの守備が実際にどのように機能していたかを見ていきます。

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 このシーンは、ライプツィヒが自陣左でスローインを行ったところから始まっており、リバプールがボールを奪って一番後ろのアリソンまでボールを下げ、攻撃時のポジションを取って攻撃を構築しようとします。対してライプツィヒは、奪われた流れでそのまま前に出て、プレッシングを嵌めてボールを奪いに行こうとします。
 バックパスを受けたアリソン(1)に対して、例外的に、エンクンク(18)がカバク(19)へのパスコースを切りながらプレッシャーをかける。そしてダニオルモ(25)がワイナルドゥム(5)をマーク。サイドへ開くロバートソン(26)へのパスも、アダムス(14)がプッシュアップして狙います。

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 この場面で、アリソン(1)はダイレクトで中央のティアゴ(6)へ楔を差し込むことを選択。受け手のティアゴに対してカンプル(44)が後ろから寄せ、周辺のザビッツァー(7)、ハイダラ(8)、アダムス(14)はボール方向にプレスバックしてスペースを潰しに行きます。
 この時点で、縦はカンプル、後ろと左へのパスにはザビッツァーとハイダラ、右へのパスにはアダムスが対応できる状態、すなわち四方を塞いだ状態を作り出しています。その状況下で、ティアゴはカンプルを背負った状態で巧みにワンタッチを使い、前線のマネ(10)へ。
 しかし、マネに対してマンツーでついているムキエレ(22)が上手く体を入れてボールを奪います。このシーンは、(サイドに誘導しているわけではないものの)相手のビルドアップに対して前線からプレッシャーをかけ、相手が配球してくるボールに対して全体が圧縮することで奪う、という仕組みが分かり易いシーンだと思います。

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 奪った後、アダムス(14)は素早く右へ広がり、ハイダラ(8)も相手の間へずれてパスをもらえる立ち位置を取ります。対するリバプールも、ティアゴ(6)、ジョーンズ(17)、フィルミーノ(9)らが迅速に切り替えてゲーゲンプレスを実行し「第一波」を浴びせ、即時奪回を目指します。
 しかし、ムキエレ(22)はアダムスにパスを出す体の向きを作っておいてから腰を捻って内側のハイダラへパス。強烈なプレッシャーを外します。

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 とは言えリバプールが一度外されただけ諦めるはずはなく、直ぐにワイナルドゥム(5)がハイダラ(8)へプレッシャー。ティアゴ(6)、ジョーンズ(17)、フィルミーノ(9)もプレスバックし、「第二波」を浴びせますが、ここでも一枚上手だったのはライプツィヒでした。ハイダラは、スピーディーに意思決定をして、第二波に飲み込まれる前にワイナルドゥムとティアゴの間を通してダニオルモ(25)へ。第二波も突破します。
 すると、真ん中にボールが入って来たため、必然的にヘンダーソン(14)とカバク(19)は絞ります。カバクとアレクサンダー=アーノルド(66)間にいたエンクンク(18)が裏を狙ったので、アレクサンダー=アーノルドも絞らざるを得ません。よって、手前のザビッツァー(7)と大外のアンヘリーニョ(3)はフリーに。ダニオルモ→ザビッツァー→アンヘリーニョで左サイドの大きなスペースを使います。

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 そして、抜け出したアンヘリーニョ(3)からの少し浮かしたクロスボールに、ニアでエンクンク(18)がカバク(19)を食いつかせたことでフリーになったマイナスのダニオルモ(25)がヘディング。惜しくも左ポストに嫌われゴールならず、という決定機にまで持ち込めました。

 以上のように、開始4分の段階でライプツィヒは機能性の高い守備から的確なボール運びによるカウンターアタックで大チャンスを創出しました。

第4章 シーン②13:45~

 この章では、開始4分でボールロストから決定機を作られてしまったリバプールが、どうライプツィヒのプレッシングに対応したのかを説明します。

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 リバプールは、第2章で提示した②[3センターの立ち位置バランスの変動]を巧みに用いて突破口を見出そうとします。最初は11:00~の「ワイナルドゥム降ろし」でした。ワイナルドゥム(5)をカバク(19)とヘンダーソン(14)の間に降ろして後ろを3枚にし、相手2トップに対して3vs2の数的優位を確保した状態でビルドアップしよう、という狙いです。
 また、その直後の13:45~のビルドアップからは、ティアゴ(6)とジョーンズ(17)の左右を入れ替え、ティアゴが少し降りてワイナルドゥムと2CHになってビルドアップを行うようになります。以下で、その13:45~のシーンを基に説明します。

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  このシーンではリバプールがゾーン1でビルドアップを行っており、アリソン(1)がボールを保持しています。その時に、ティアゴ(6)が降りてワイナルドゥム(5)が横にずれ、中盤の底を1枚から2枚に。ライプツィヒはハイダラ(8)を前に出すことでダニオルモ(25)と2人で対応しました。ボール保持者のアリソンは、左に開いたヘンダーソン(14)へパスを出します。

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 ヘンダーソン(14)にボールが入った時、ロバートソン(26)は高い位置を取っており、低い位置にはフィルミーノ(9)が降りて来ていました(実はこの場面で初めて、フィルミーノは左へ降りています)。ライプツィヒは、ハイダラ(8)が前に出ているためカンプルを派遣して対応。上図の通り、その他のシーンと変わらずボールサイドへ全体を圧縮し、勢いよくボールを奪いに行きます。

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 しかし、リバプールはフィルミーノ(9)のポストプレーによってヘンダーソン(14)とのワンツーを成立させてそのプレスを突破。ヘンダーソンからのロングフィード一本で逆サイドを駆け上がったアレクサンダー=アーノルド(66)へ展開します。

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 そして、アレクサンダー=アーノルド(66)からDFラインの背後へ鋭いスルーパスが配球され、クロスターマン(16)の内側から走り込んだサラー(11)が抜け出してシュート。前に出たグラーチ(1)のナイスセーブに阻まれるも、こちらも決定機でした。

 以上のように、リバプールはキックオフからたった約15分の段階で噛み合わせをずらして、それによって空く場所にフィルミーノを降ろすという解決策を見出し、見事にライプツィヒのハイプレスを外しています。
 この後も粘り強く、柔軟に噛み合わせを嵌めてプレッシングをかけるライプツィヒと、いくつかの方法を使い分けながら何とか掻い潜ろうとするリバプールという攻防が続いていくのですが、一つの典型的な「戦術的駆け引き」の例として二つのシーンをご紹介しました。

第5章 シーン③52:15~(リバプール1点目)

 最後に、リバプールが1点目を取ったシーンもこの試合で繰り広げられた「ライプツィヒの守備vsリバプールの攻撃」の局面における攻防において典型的なシーンでしたので、紹介しておきます。

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 リバプールが、ヘンダーソン(14)の左(ライプツィヒの右)に向かう持ち運びによってゾーン1からゾーン2へ前進します。ライプツィヒはダニオルモ(25)がヘンダーソンを後ろを塞ぎながら追いかけ、他の選手はサイドへボールが向かったことで圧縮します。
 上図を見てもらえれば分かる通り、この場面でもライプツィヒは四方を塞げておりボールを奪える状況を作り出せています。

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 そして、ヘンダーソン(14)からの浮き球のパスを受けたフィルミーノ(9)に対してウパメカノ(5)が寄せ、左右からカンプル(44)とザビッツァー(7)で圧縮。フィルミーノ(9)のファーストタッチが大きくなったところをザビッツァーが回収し、実際に狙い通りボールを奪えています。
 しかし、結果的にはザビッツァーのクロスターマン(16)へのバックパスがミスになり、サラー(11)がかっさらってそのまま決めてゴール。原因としては、主に二つが考えられます。
 一つ目に、奪われた瞬間にフィルミーノとジョーンズ(17)がゲーゲンプレスをかけたことでザビッツァーが心理的な余裕を失っていたこと。ボールを持った瞬間にとても強いプレッシャーをかけられたため、十分にクロスターマンの方向を確認できていなかった可能性が考えられます。
 二つ目は、3CBのマンツーのデメリットです。他の選手はボール方向へ圧縮していますが、クロスターマンはサラーをマークしないといけないので一人だけ逆サイドへ取り残された状況。たらればですが、仮にクロスターマンとアンヘリーニョ(3)が共にDFラインとしてスライドする守り方であれば、アンヘリーニョがカバーリングできていたかもしれません(こういったリスクを踏まえてマンツーを選択していることには第1章で触れました)。

 このように、ボールを奪うところまでは良かったライプツィヒですが、奪った後のプレーで結果としてマンツーのデメリットも一因となった形で先制点を許してしまいました。

 補足としては、この試合の前半からずっと、ライプツィヒが攻撃を組み立てもしくは組み立て直すために横パス、バックパスを使う瞬間を常にサラーは狙っていました。実際に、前半の中にはウパメカノのミスを誘ったシーンもあります。サラーの嗅覚の鋭さというのも見逃せないポイントでした。

 最後に、ライプツィヒは2失点目もマンツーのデメリットが出た形で許してしまっています。ゾーン3左でボールを失った直後、ウパメカノが届かない低い位置でフィルミーノに起点を作られ、落としを受けたジョーンズから最前線のマネへロングボールを蹴り込まれる。マネにマンツーでついているため1vs1を強いられたムキエレはマネに密着し過ぎてしまったことで後ろ向きでロングボールに対処してしまい、目測を誤ってクリアできず。そのままマネが独走されて決められる。
 この場面でも、非常に素早いパスワークでゲーゲンプレスを外されるところから始まり、結果的に3CBのマンツーが裏目に出ています。
 ここまで見て来た通り、この戦術には大きなリスクが伴っており、諸刃の剣であったことは明らかです。その中で、上手くメリットを出して決定機まで持ち込むシーンも作りながら、デメリットが出た2つのシーンで2失点。
 狙ったプレーを両チームが出し合い、それに対して対策を打ち合う駆け引きの連続の中で、結果として、リバプールがライプツィヒの守備のデメリットを見事に突いてゴールを奪い、相手を上回って勝利を手にした試合になりました。

〜〜

 最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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