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川崎の流動性に隠された、「立ち位置」のロジック~2021 J1 8節 川崎vs大分~

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はじめに

 今回は、川崎フロンターレ対大分トリニータの試合から、川崎の攻撃について考えていきます。なぜ川崎の攻撃は強力なのでしょうか。個々人のクオリティが高いことはもちろんですが、現代サッカーにおいて、それだけで点を取ることは極めて困難です。
 川崎には、明確で具体的な仕組みがあります。そしてその仕組みが守備組織を攻略するにあたっての要点を抑えているからこそ、爆発的な得点力を誇っているのは間違いありません。
 では、川崎の攻撃の仕組みについて分析していきましょう。

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第1章 スコア&スタメン

川崎フロンターレ 2 - 0 大分トリニータ
38'三笘
66'三笘

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 両チームのスタメンは上図の通りです。
 川崎は、チョンソンリョンがメンバーを外れ丹野がスタメン、長期離脱していた登里が復帰し、U-24代表から戻ってきたばかりの田中がベンチスタートとなり、旗手がIHに回りました。システムは4-3-3。
 大分は、川崎対策の色濃い4-4-2を採用。昨季まで川崎でプレーしていた下田が左CHを務めました。

第2章 基本ユニットの原則

 両チームの初期配置とマッチアップ、大分の守備の概要に触れてから、川崎の攻撃について詳細に分析していきます。

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 川崎は4-3-3で立ち位置を取り、5レーンを埋める形。
 大分はゾーン2に4-4-2ブロックをセットして守備を始め、前に2トップを配置してズルズル下がらないようにしながらも、基本的には川崎の攻撃の勢いを吸収してカウンターを狙うスタイルでした。

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 2トップの長沢(20)と町田(8)は相手AC(6)を監視しながら、相手2CB(5,4)にプレッシャー。ハーフスペースはCH小林(6)、下田(11)が管理します。

 川崎はボールを保持しながら攻めるスタイルで、サイドのトライアングルによる相手の操作を軸に、そこへ他のアタッカーが絡んでいくことでボールを前進させ、ゴールへ迫ります。
 サイドのトライアングルは、SB-IH-WGで形成されます。このトライアングルが、川崎の攻撃における基本ユニットとなります。基本ユニットの挙動をベースに相手のプレッシャーを剥がしていき、ゴールへ迫ります。

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 トライアングルを機能させるために、二つの原則があります。

1. ①幅②ハーフスペース③手前の3つを常に埋めること。

この原則によってトライアングルのポジションバランスが保証され、「どこかが空く」状態が作り出されます。仮に相手によって3つ全てが消されても、その場合はCBやACが空くので、組み立て直せます。

2. ②③は、「(MF-DF)ライン間」と「(DF)ライン上」に立つ人を片方ずつ設けること。

理由は後述します。
 以上の二つの原則さえクリアしていれば、ポジションチェンジは自由。制約はなく、流動的に立ち位置を入れ替えることで相手を混乱させます。

第3章 「ライン間」と「ライン上」

 ここでは、「ライン間」と「ライン上」をバランス良く埋める必要性について。

 上のツイートにもあるように、「ライン間」については非常に頻繁に議論されます。その代表例がハーフスペースです。反対に「ライン上」についてはあまり語られませんが、ボールを前進させる過程において、とても重要な概念になります。 「ライン間」ばかりに選手がいたり、「ライン間」ばかりを狙ってしまっている場合、大体そのチームの攻撃が完璧に機能することはありません。
 なぜか。「ライン上」の重要性について説明します。

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 上図は、攻撃側のWGとIHが相手MFとDFのライン間に立っている「ライン間×ライン間」という組み合わせの場合を示しています。WGが相手MFラインの背後でパスを受けたので、スピードアップして相手の守備を崩しにいきたい場面です。
 しかし、IHもライン間に立っているので、IHが縦にランニングしてポケット(ニアゾーン)侵入を目指す場合、IHは相手CBに対して不利な状況で勝負を挑むことになります。IHはライン間に立っているので、相手CBの方がゴールに近い場所にいるからです。
 よって、ポケットに向かってスルーパスが出たとしても相手CBの方がボールへの距離が短く、早くボールに追いつく可能性がとても高い。
 ボール保持者であるWGも「不利な勝負」であることは分かっているので、必然的にスルーパスが出る可能性も下がります。ポケット侵入という手段で相手の守備を崩すことは非常に困難だと言えます。

 ポケット侵入という「背後」を狙う手段が無くなったので、「ライン間×ライン間」で挑む攻撃側に残された手段は「ライン間(ハーフスペース)」に限られます。「手前」からの攻略を図る場合も検証しましょう。

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 ライン間(ハーフスペース)からの攻略を図ると、互いの立ち位置は上図のようになります。この場合、背後を狙う選手がいないので、相手は自分達の「前」だけを狙っておけば良く、IHへのパスを狙い撃ちすることが容易です。
 よって、ハーフスペースを使う手段を採った場合も相手の守備を攻略することは困難だと言えます。
以上から、「ライン間×ライン間」だと、かえってライン間を有効活用できないことが分かります。

 では、「ライン間×ライン上」の組み合わせの場合はどうでしょうか。

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 シチュエーションは同じで、WGが相手MFラインの背後でパスを受け、これから相手の守備を崩しにいきます。この状況で、IHはDFライン上(SB-CB間)に位置取っています。
 まず、背後から攻略を狙う場合。IHはライン上に立っているので、相手CBとスタートラインは同じ。「ヨーイドン」の勝負になります。その上、守備側は基本的にリアクションの対応となるので、ポケットへのスルーパスに対して攻撃側は少し早く反応できます。ヨーイドンになれば、攻撃側に優位性があるということです。
 そして、背後へのランニングを相手がケアしてきた場合、DFラインが押し下げられるのでライン間(ハーフスペース)が空き、WGがカットインするスペースが生まれます。
 このように、「ライン間×ライン上」の組み合わせだと相手に二択を突きつけられるので片方は空きます。仮に両方消されたとしても、MFラインの手前にスペースが広がっているので、手前を経由して逆サイドへ展開する選択肢が生まれます。

 ここまで見てきたように、「ライン上」の概念を加えることで「ライン間」との相乗効果が生まれ、相手の守備を攻略できる可能性を高めることができます。ライン間ばかりに目が行きがちで抜け落ちることの多いライン上ですが、とても重要な役割を果たしています。
 よって、前章で提示した「ライン間とライン上にそれぞれ人を配置する」という原則は、相手を崩してゴールへ迫る段階においての効果的な選択肢の創出と、それに伴い加速した状態でゴールへ向かうために設けられていると分かります。

第4章 「動的」な立ち位置

 サイドのトライアングルの立ち位置について整理したので、次はボールを前進させる方法について見ていきます。
 相手はブロックを組んで待ち構えているので最初からビルドアップの出口を見つけるのは非常に難しい。そのため、相手を動かすことで今あるスペースを、よりゴールに近い場所へ移す必要があります。
 相手を動かすためには、まず自分達が動く必要があります。いくら綺麗に5レーンを埋めていても、相手が動かなければ主要なスペースは消されているので無意味です。ただ単にレーンを埋めていたり、バランス良く立っているだけのような「静的」な立ち位置ではなく、自分達が動くことで相手にも動くことを強制し、自分達の思惑通りにスペースを生み出し、そこに人が立っている或いは入ってくる。こういったような能動的で「動的」な立ち位置でなければいけません。
 川崎の場合、IH旗手、脇坂をトリガーとして頻繁に用いることで相手に動くことを強制し、スペースのある場所を変え続け、ボールを前進させていました。

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 上図のように、IH旗手(47)がわざと直線的に低い位置へ降りることで相手CH(6)とSH(17)へ働きかけて、絞らせる。旗手に連動してSB登里(2)、WG三笘(18)はポジションチェンジし、①幅②ハーフスペース③手前の3つを埋めてバランスを保ちます。相手CHとSHが動いているのでその背後にはスペースが生まれており、そこへ向かって人が移動することで前進ルートが見つかります。
 IH(47)を意図的に降ろすことで相手に動くことを強制し、それを基準点としてポジションチェンジする。ここまでが原則になっていて、各々が非常に高精度でプレーするので常に立ち位置が動的であり、ボールがスムーズに前進していく訳です。
 単純に誰かが降りるだけでは、その動きはトリガーとしての役割を果たしません。降りた後までセットであることが重要なポイントです。
 ちなみに、IHがトリガーとしての役割を果たすことは左右共通ですが、ポジションチェンジのルールは、若干違います。左は旗手を基準点として登里、三笘が立ち位置をずらしますが、右は「ルール家長」の側面があるように思います。脇坂(8)が降りたから家長(41)と山根(13)はこう動くというより、家長が自由に動き回るので、家長に合わせて山根や脇坂(特に山根)が動いているように見えました。

 川崎の特徴である、オーバーロードについても説明しておきます。

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 サイドのトライアングルの挙動に応じて、空いたスペースへダミアン(9)や家長(41)、逆IH(8)らが入っていってプレーへ参加し、ボール周辺へオーバーロードを作り出します。トライアングルに合わせた機能的な動きであれば、上記した選手達は自由に動いてOK。前章まで記述してきた、合理的な仕組みに基づいたトライアングルの打開の上に、不規則しかし効果的なオーバーロードが乗っかるので、相手へかける負荷が上がり、破壊力が増大します。

第5章 ラスト30m

 ラスト30mでの原則についても分析します。

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 ラスト30mにおいても、基本ユニットはサイドのトライアングルであり二つの原則も同じです。遠くのアタッカーがボール周辺に近寄り、不規則にオーバーロードを生み出すのも共通の特徴。
 一つ違うのは、トライアングルの原則の中に

3. 「味方は必ずポケットへ走る」

が追加されること。主に外からMFラインを越えた場合に適用されますが、中央にボールがある時も同様です。
 ビルドアップの段階で予めライン上に位置取っている選手がポケットへ向かってランニングしてスルーパスを引き出すことで、相手に「背後か、ライン間か」の二択を突きつけます。そうすると基本的に守備側は背後を守ろうとするためDFラインは押し下げられ、ライン間にいる選手がフリーになります。ダミアンのポストプレーを経由してライン間の選手がボールを持ち、複数人でコンビネーションを仕掛けるプレーはこの試合でも多く見られました。
 中央でのコンビネーションは、スペースが狭く時間的猶予のない中で、相手の重心を見極め一瞬の隙で背後を突く動き出し、それを見逃さない正確で多彩なパスを全員が実践できる川崎だからこそ為せる技です。
 ポジションバランスを尊重した均等な距離感での攻撃もでき、密集した近い距離感でも打開が可能。加えてサイドチェンジやダミアンへの思い切ったアーリークロスなど、遠距離射撃もレパートリーに入っており、どこからでもゴールを狙える。これも川崎の強みの理由でしょう。
 そして、クロスボールに対しては、受けてはニア・ファー・マイナスの3点を近くから早い者順で埋めていき、合わせることが原則です。

第6章 36'35~のシーン

最後に、川崎の攻撃の原則がよく現れていた36'35~のシーンを紹介します。

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 ゾーン2でのビルドアップのシーン。左IH旗手(47)が直線的に降りて右CH(6)を引き付けながらパスを受け、ACシミッチ(6)へ。シミッチは旗手が空けた場所へ入ったダミアン(9)へはたき、ダミアンは自分の背後へ流す。そこに脇坂(8)が走り込み、抜け出す。

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 脇坂(8)は左の三笘(18)に渡し、三笘がカットインを仕掛けたので外を回ってポケットへランニング。三笘はファーへ流れたダミアンへピンポイントでクロスを届け、ダミアン(9)がヘディングシュート。相手にブロックされるも、今度は右足ボレー(GK(1)がセーブ)。

 IH旗手が降りてトリガーを引き、空いた場所へダミアン、脇坂が連鎖的に入り込んでオーバーロードさせて局面を打開。ラスト30mでは、脇坂が外を回ってポケット侵入を目指したことで三笘にカットインのスペースが生まれ、そのままフィニッシュへ到達。

おわりに

 ここまで、川崎の攻撃の仕組みについて分析してきました。初めに指摘したように、個々人のクオリティの高さが土壌にあるのは間違いありません。しかしその裏側に、それらの効果を最大化するための原則が存在しています。だからこそ破壊力のある攻撃が毎試合のように行うことが出来る。相手によって変化しない、絶対的な原則なので、後半開始から大分が5-4-1に変えてきても、やることは同じ。少し狙うスペースが変わっただけでした。
 本文中にもあったように、ライン上の概念が欠けていたり、相手を動かすためのトリガーがない静的な立ち位置になっている場合、基本的に攻撃は行き詰まります。きちんとその辺りを抑えていて、尚且つオーバーロードや遠距離射撃が乗っかるので、破壊力が抜群なのです。

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 最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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