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『Life』(2007年)映画感想文

この映画は劇場公開が終了した後、しばらく経ってから知った作品で先日ようやくTUTAYA DISCASでレンタルして見ることができた。

2007年の作品ということもあり、DVDを買おうにも現在終売していてAmazonでは新品はもちろん、中古にもプレ値がついてしまっている。
動画配信サービス等でも見かけたことがないので、今見ようとするならDVDの実物をレンタルするのが一番手っ取り早いかもしれない。


きっかけ

はじめにこの『Life』という作品を知るきっかけになったのは、出演しているキャスト陣の影響だ。

主演の綾野剛さんと共に泉政行さん、村上幸平さんがラインナップされている。この3人の名前を見てすぐに関連性に気付いたあなたは立派な『仮面ライダー555』好きにちがいない。

上述の3人はTVシリーズ『仮面ライダー555』(2003年)の主要キャストとしてキャスティングされていた役者さん達で、そんな3人がまったく毛色の違う『Life』という作品でどういう役どころを演じるのか、そしてお互いが作中でどんな絡みを見せてくれるのかが注目ポイントの1つといえる。

僕も例に漏れずこの『仮面ライダー555』が好きで、平成ライダーのなかでは一番好きな作品。

だからこそと言ってしまうと身も蓋もないのだけれど、この3人が共演している作品だったからこそこの『Life』という作品に辿り着いた。というのが、映画『Life』を知るきっかけだった。

『仮面ライダー555』がTVで放映開始されたのが2003年。今年でちょうど20周年ということもあり、にわかに555(ファイズ)の文字を目にすることが最近多くなってきた。『Life』を観るには丁度よい時期だったのかもしれない。

ちなみに『仮面ライダー555』20周年企画として、TVシリーズの20年後を描いた『仮面ライダー555 20th パラダイス・リゲインド』が来年2024年に劇場公開予定だ。


映画『Life』あらすじ

地方でキャンドル・アーティストの道を歩む主人公の青年、勇が直面するのは、これまでの人生の集積が波のように押し寄せてくる、数々のできごと。高校の同窓会、重い病を患う親友やかつての恋人との再会。恋人を亡くした少女との出会い・・・。時の流れがはらむ厳しさを痛感することで、勇は“Life”のひとつの真実を知る。

主演は、本作が待望の映画初主演となる綾野剛(連続TVドラマ「イヌゴエ」主演)。その繊細な個性と端正な貌で、勇というナイーヴな美青年像を完璧に体現、さらに、本作では音楽も兼任している。その勇を不思議なデートに連れ出す女子高生、茜には、映画『青いうた』や『笑う大天使』、数多くのCMで話題の美少女女優、岡本奈月。若くして大きな恋の喪失感を負った難しい役柄を見事にこなした。勇の元恋人である操には、ファッションモデルの活動の一方、『blue』や『空中庭園』など女優としても順調にキャリアを築く今宿麻美。勇の親友、武には、『リリイ・シュシュのすべて』『ラブ★コン』など様々な映画で活躍する忍成修吾。そして、『仮面ライダー555』でブレイクした泉政行や村上幸平、『特捜戦隊デカレンジャー』などTVを中心に活躍する吉田友一、瀬々敬久監督の『肌の隙間』で鮮烈なデビューを飾った小谷建仁ほか、通り魔役で当代きっての人気バイプレーヤー、山本浩司が姿を見せるなど、いま最も旬のキャストが瑞々しい感性で物語を彩る。

映画『Life』offical web(webアーカイブ) より抜粋


感想(ネタバレ含む)

作品全体の感想

優しいBGMとキャンドルの灯火と、牧歌的な街とゆるやかな時間の流れ。

色々なバックボーンを抱えている人たちが登場するのだけれど、それをひけらかしたり、わざとらしく台詞に落とし込んだりすることもなく主人公でキャンドルアーティストの田北勇 (綾野剛)視点の日常が流れていく。

まさに作品タイトル『Life』のとおり、主人公 勇(綾野剛)の”生きる”という営みが淡々と繰り返されていく様が淀みなく描かれている作品。

作中の時間軸は3日間という短い日数ながらも、淡々と過ぎていく生活のなかで勇が大切にしている/しようとしている世界観(他者との関わり)を感じ取ることができる。

とにかくひたすらに優しい作品です。いろんな優しさで溢れています。

無為に繰り返されるだけのような自分自身の生活に疲れている人は、少しのあいだだけ日常の悩みや雑音を忘れて頭をからっぽにして見てみるとよいとおもう。

そしてこの映画を見ていると、副題にもあるとおり僕らはもっともっと人にやさしくなれるのでは?と問うている自分に気がつく。そんな映画でした。

純文学のような

それはおそらく余計な台詞や演技を削ぎ落としているからこそ感じられる絵的な美しさであったり、ゆったりとした時間の流れや、作中に流れる音楽の旋律がそう感じさせるのかもしれない。

絵の美しさという点でいうと、古っぽいというと語弊があるのだけれど、画質が綺麗すぎずやや粒子の荒い感じや、全体的に明度の低い映像と、田舎街の風景とがよくマッチしていたともおもう。端的に言ってしまうと自主映画っぽい雰囲気が漂っている。

そして、そんな映像と音楽を目と耳で感じながらも、なにかまるで純文学作品を読んでいるような気にさせられる。

だから、ただただ美しい映像や勇の慈愛を感じさせる言葉にうっとりするだけで成立してしまう。そこに大げさな物語や登場人物を深掘りするようなシーンは必要ではないのかもしれない。

物語性を追うか追わないか

主人公をとりまく様々なキャラクターが登場するのだけれど、どのキャラクターも多くを語らない。

なので観ている側があれこれと深読みして主人公との関係性(物語)を創って補強してしまうこともできる。

けれど、観る側が敢えてそういうことをせずに映像やBGMの美しさに身を委ねたり、主人公の台詞の優しさにうっとりするだけで充分にこの作品の良さを堪能できると思いました。

勇(綾野剛)を取り巻く人間関係について、地元の駅で駅員をしている芳雄(泉政行)と妹の優子(翁安琪)の関係性や、勇との関係性もハッキリとした言及がなされないし、親友の武(忍成修吾)の病気のことについても掘り下げる場面がない。だがきっとそれでいいのだ。

そういう物語(ストーリー)を掘り下げてよくある映画作品に仕立ててしまったらこの作品の美しさが失われてしまうような気がする。

上でも言及したけれど、観る側が各キャラクターのディティールを深読みして物語性を追うのも1つの鑑賞スタイルだとは思うけれど、僕はこの作品でそんなことをするのは少々野暮ったいと思ってしまった。

余計な部分に頭を使わずに肩の力を抜いて、ただ映像の綺麗さや勇(綾野剛)の繊細さや、茜(岡本奈月)の粗削りな危うさであったり、芳雄(泉政行)の天真爛漫さに心を掴まれていればそれでいいんだとおもう。

部屋の照明を落としてソファーに深く身体をあずけながら、リラックスして好きなお酒をゆっくり飲みながら観るぐらいがちょうどいい。

綾野剛さんの役どころ

この『Life』という作品は主人公”勇”(綾野剛)視点の3日間を描いている。言ってしまえばただそれだけのことなのである。誰にでも平等に流れる3日間を切り取っただけなのだ。

自身を取り巻く大切な人々との毎日、過ぎ去ってゆく時間をなにかこう必死に”今ここ”に縫い付けようとしている印象を受けた。言い換えれば、彼なりに必死に”今をいきる”ということなのだろう。

ただただ寄り添う

主人公の勇は登場する友人や出会った人たちにただただ寄り添う。ただただ静かに寄り添うのだ。

自己主張をせずただただ寄り添って、相手の気持ちを肯定して絶対に否定をしたり自分の主張を被せたりということをしない。とことん寄り添うのだ。

得てして主人公のアイデンティティや生き様にその他の登場人物が絡め取られていってしまう作品が溢れているなか、この勇という主人公はそういうことをしない。

かといって脇役たちが際立ってくるというわけでもなく、ただただ勇視点の日常が流れてゆくわけだが、そこに確実に友人や出会いを大切にしたいという強い信念のようなものが一本しっかりと通っている。


好きなシーン

そんな勇の日常風景のなかで僕が特に好きなシーンは2つ。

1つは勇と芳雄が一緒におにぎりを食べるシーンです。

二人が外のベンチに座りながら、勇が朝握ってきたおにぎりを他愛のない話をしながらぱくぱく食べているこのシーン。

このなんでもない話ができる二人の雰囲気・空間を眺めているだけでただただ幸せな気持ちになる。

そして役を演じているんだけれど、素のお二人の人柄が見え隠れしているような口調だったり笑い合う姿がなんとも微笑ましい。

自然体でいられる気の置けない友人ってこういう空気感を纏っているのかもなーってこのシーンを眺めていました。

もう1つは勇と茜が水族館や観覧車でデートをする一連のシーン。

勇のやさしさと茜の若さと危うさがとてもよく描かれていて、そのぎこちなさや不器用さが画面から伝わってくる。

茜に対してなぜ?どうして?と問いただしたり胸の内を聞き出したりせず、ただただそっと寄り添いながら茜の話を聞く勇の献身的で優しさに満ちた表情や仕草がとても癒やされる。


補足資料

綾野剛さんインタビュー記事

佐々木紳監督インタビュー記事

初日舞台挨拶の模様


夏のこの時期になると思い出すこと

梅雨が明け、容赦ない日差しが首筋や腕をジリジリと焼き始めるこの季節。ふとした瞬間に僕は毎年かならず思い出す。

この映画に出演している泉政行さんが35歳という若さで急逝した夏。2015年の7月28日を。

『仮面ライダー555』はもちろんのこと、その後の活躍も応援させていただいていただけに、いまだに亡くなったことが信じられないし、役者をしている彼をもっと見たかったなあという残念な気持ちと寂しくせつない気持ちになってしまう。

あの日から毎年命日には勝手に泉さんを偲びながら思い出に耽りつつひとりで静かにお酒を飲むのが習慣になった。

この『Life』という作品のなかで屈託のない笑顔を主人公に向けている泉さんを眺めていて、今年もこの季節がやってきたんだなあとふと思い出して、今夏はこうしてレビューを書くことで彼を偲んでみるのもいいなと筆を執った次第です。

今もどこかで大好きなお酒を傾けながらあの屈託のない笑顔で過ごしているといいなあなんてそう祈りつつ…。

今、僕やあなたが生きているからこそ毎日会えている人。
それはとてもかけがえのないことだから、
僕らはもっとやさしくなれる。

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