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Liveの2部に間に合った?


飛行機に乗り遅れて

私は予定の飛行機に乗り遅れ、空港カウンターで腰砕け状態になり泣き崩れた。何故なら目指す推しの彼のLiveは予定通りの飛行機に乗っても、会場に辿り着くのがLiveスタートから30分後だったから。最初の間違いは、交代して貰ったシフトでせっかく職場を早めに出たは良かったが、汗だくの制服とお弁当箱を自宅まで持ち帰ったのがいけなかったのか、たった一泊だから空港の駐車場に停めれば良かった車を、わざわざお金を払って停める駐車場に入れようとした事が仇となったのか、その駐車場が「水曜定休」で「え?」と焦って別の駐車場を探して入ったのに、駐車場の兄さんと「あ、はい、どこでも空いてる所に停めて下さい〜」「自分で停めるんですか?」「ハイ、そうです~お願いします〜」と言う、まったりとしたやり取りをしていたのがトドメを刺したのか、とにもかくにも空港で「お客様、7分前にゲートが閉まりましたので申し訳ありません」と言われた私が「駄目なんです~この飛行機じゃないと、駄目なんです~~」と、カウンターで泣いた話をすると、友達は「それ見たかったな~」と笑いながら言ったが。急激に痛み出した脇腹を押さえ、一旦抜けた腰にやっとチカラを入れられるようになってからヨロヨロと立ち上がり、20年来のファンである推しの彼のLINEに「飛行機に乗り遅れたので、顔だけ見に行く事になりそうです」と送り、私は仕方なく1時間遅れの飛行機にチケットを切り替えた。目も眩むような美しい夕日に照らされ空を往く飛行機の中で、Liveスタートの7時を過ぎ「あぁ1曲目始まったか、今頃2曲目かな…」と思っていた。ところが、その飛行機は通常1時間5分の所、何故か45分ほどで到着予定の空港に着いてしまった。「嘘、奇跡が起きたの?」と、勿論私はスーツケースを引き摺り、親子連れやカップルを追い越して、空港内をダッシュで駆け抜け、走って走って外へ出た。バス乗り場には案内人が二人居て、私がバスに乗ろうとすると「チケットを買って下さい」と言われ、急いで傍のカウンターでチケットを買っていたが、バスから「申し訳ありません、定刻になりましたので発車いたします」と言うアナウンス。「え、待って下さい、今、買ってます!」と大きな声で言ったが、無情にも「定刻になりましたので、申し訳ありません」とバスは去ってしまい、勿論私は「エーーー!!!」と右手をパーにして叫んだ。残った案内の人は、ちょっと嬉しそうな顔をしながら「次のバスは15分後です、チケットは払い戻し出来ますよ。お客様、もし余裕がありましたら、あちらにタクシー乗り場も御座いますが」と宣った。余裕と言える程の大金は持っていなかったがその時、バスを待つ、その間の15分を私はとにかく惜しんだ。勿論、再びスーツケースを引き摺り50メートルほどダッシュし、タクシー乗り場で聞くと「料金?一万二千円ぐらいかねぇ、バスは1時間以上かかるけど、車でも40分はかかるよ」と言われ、にゃに~と一瞬視界が歪んだが、口は勝手に「乗ります」と言っていた。また50m戻ってバスチケットを払い戻し、さすれば当然50mを取って返して膝ガクガク状態のまま私はタクシーに乗り込んだ。確かその時、時刻は7時半を少し過ぎていたはずだと思う。走り出したタクシーの運転手さんに、私はそのLiveの為だけに来たけれど、そのステージはもう始まっており、バスにも乗り遅れてしまったのだと話すと、運転手さんは、街までの距離をタクシーに乗る客が珍しいのか「ふーん大丈夫、大丈夫、私はね、30年近く運転しているけど、スピード違反で捕まった事ないんですよ…」などと自慢気に言い、あれよあれよという間に車線変更を繰り返しながら、タクシーはぐんぐんスピードを上げて行く。「あ、いや、ごめんなさい、田舎は島だから、私、こんな早い車に乗った事なくて、そこまでしなくても、いや、すみません本当に、あの、安全運転で大丈夫ですから、安全運転で…」と何度も言ったが、運転手さんは「大丈夫、大丈夫、今まで一度も捕まった事ないから」と繰り返し、大型トラックや、バスを追い越し、え、バス?と後方に遠ざかるバスを振り返り、私の乗ったタクシーはメーター120キロで高速をぶっ飛ばして走り続けた。私はここで死にたくないと恐ろしさにシートベルトを引き締め、前の座席の首にしがみつきながら、スマートフォンで行き先のお店をナビゲートしていた。お店の辺りは一方通行が多いとの事で、近くの大通りのどちら側から入った方が良いかとか、目印になりそうなお店の名前をやりとりしていると、車はようやく料金所を抜け高速を下りた。やっと怖くないスピードになったタクシーがしばらく街の中を走ると、人通りの多い、狭い道に入って進んだ。気がつくと、私が予約した小さなビジネスホテルが目の前に見え「あっ」と驚いて「すみません、お店すぐ近くなんですが、通り過ぎたみたいです」と言うと、運転手さんは「Uターンしますね」と言う。「いやいや、直ぐそこなので此処で降ろして下さい、此処で降ります!」と、ほんの少しだけ多めにお金を払い、御礼を言って、今来た道を逆に私は走り始めた。勿論スーツケースを引き摺り、繁華街の道を楽し気に歩く人をかきわけながら走り、ビルの2階のLive会場の看板を左側に見つけると、その角を曲がって、お店のビルの階段の入口のベンチに、推しの彼が座って煙草を吸っているのを発見した。思わず私が「えっ、なんで居るんですか、何でいるの〜」と指を指すと、彼は驚き、少し微笑みながら「休憩だよ!」と言った。訳がわからず、「えっ、私2部に間に合ったの?」と聞くと「…そうだよ!」と彼は応えた。私はナビをしていて時間に気づかなかったが、空港から30分程で何と8時過ぎに私はLive会場に辿り着いていたのだった。「…飛行機に乗り遅れたんじゃなかったの?」と彼に言われ「そうなんですけど、何か、嘘みたい…」と言い、休憩中の彼に「先に上がりますね…」とエレベーターで上がって店に入ると、Live会場の狭い店内は満席で、お店のご主人は「駄目、駄目、もう三人ぐらい断ったんだから…」と最初は怖い顔でそう言ったが、「ごめんなさい、じゃあドアの外でも良いです…」と私が出て行こうとすると、彼の相方のボーカルのエリさんが「え、ダメなの?」と言ってくれ、別に居た主催の女性が「ちょっと待って下さい、ここで良かったら…」と私を追いかけて折畳み椅子を持って来てくれたので、私は晴れてガラスのドアの内側で無事にLiveの2部を堪能するという幸栄に与った。その後、打ち上げにも誘っていただき、CDもゲットし、その打ち上げ後「何かもうちょっと食べたいなぁ、行かない?」と言われ、私は推しの彼とたった二人きりで「みその屋」のラーメンを食べるという、夢のような嘘みたいなおまけまでついていたのだった。Liveの途中で立ったまま、わーい、わーいと踊っている時、アレ?夕方、アタシ確かに空港カウンターでお腹押さえて泣いてたよなァ…と思ったが、人間万事塞翁が馬ってこゆこと?、何があったかはどうでも良い、結末さえ良ければって話だと思うわ、勿論。

黄金の夕日
















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