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【故事成語】第2回 巧言令色、鮮なし仁【組織への悪影響と控えめな人へのメッセージ】

 今回は「巧言令色、鮮なし仁」について、組織における悪影響という軸で書いていきます。

 本稿では、特に組織において「巧言令色」な人の陰に隠れてしまっている控えめな人に向けて、「巧言令色」な人から学べる事と、それを踏まえた私の考え方についてお伝えしたいと思います。

 是非、最後までお付き合いください。


1.故事成語の説明

【原文※1】
 巧言令色、鮮矣仁
【書き下し文】
 巧言令色こうげんれいしょくすくなし仁
【日本語訳※2】
 ことば上手の顔よしでは、ほとんど無いものだよ、仁の徳は。
【意味】
 言葉巧みで愛想を振りまく人には、思いやりの徳である仁徳が欠けている

※1 故事成語の部分を抜粋したもの。
※2 ㈱岩波文庫出版の『論語』(金谷治訳注)に従う

出典:『論語』巻第一 学而第一、巻第九 陽貨第十七

 主に、上辺だけで中身が伴っていない人に対しての悪い評価をする際に使います。

 貴方の周りにも、口だけ達者で何もしない人、誰にでも媚び諂う八方美人な人はいるのではないでしょうか。論語の舞台は今から2000年以上も前、紀元前500年前後のことですが、そのころから既にそういった人はいたようです。

 人間社会が今も昔も大して変わらないことを表しているとともに、故事成語が今になっても通用することの証左であるともいえそうです。

2.巧言令色な人が組織にもたらす害

①論理展開

 「巧言令色」な人が組織にもたらす害について、下図に示してみました。

図.「巧言令色」な人が組織にもたらす害

 繰り返しになりますが、「巧言令色」な人とは、弁が立ち、誰にでも愛想よく振舞い、一見魅力的に見えるけれども、実際には中身の伴っていない人です。彼らは、意識的か無意識的かを問わず、中身のなさを弁舌や魅力的な立ち振舞いなどによって補おうとします。

 残念なことに、今の社会は、真面目で誠実だけど控えめで目立たない人よりも、巧言令色で目立つ人の方が評価されてしまうことがあります

 それは、評価基準が曖昧だったり、評価者の未熟さや、そもそも評価者が人を正しく評価する教育を受けていなかったりするためです。

 その結果、本来は評価され出世するべき人が出世できず、ただ目立つだけの、表面的な魅力に基づいて評価された巧言令色な人が出世することになります。

 ここからも分かるように、出世するために必要な能力とは、「組織に求められる本質的な能力(例えば、実務能力・問題解決力・リーダシップなど)」とは限らず、「評価者から評価される能力」なのが現実です。

 日本の政治家が良い例でしょう。政治家に求められる本質的な能力は行政能力のはずです。しかし、実際に政治家になるために求められる力は、行政能力ではなく、選挙で当選する能力です。最近の政治家に関わる数々の事件も、ここに原因があるのではないかと、私は考えています。

 このように、本来組織で求められる能力と、その組織に至る、或いは組織内で上位に行くための能力が異なっている例は多くあります。

 その結果、本来求められる本質的な能力を持たない人が組織の上位に増えることになり、組織の機能が低下していきます。また、中には「何であんな奴が出世するんだ」と不満に思う人も出てきます。

 組織機能の低下は、組織の業績の低下を招き、不満者の増加は人心の離反から離職者の増加につながり、最終的に組織の活力が下がることになってしまいます。

②改善策

 本稿の主題は組織における人事評価についてではないので、改善策については簡単に記載します。

  • 評価基準を明確にすることで、表面的な魅力ではなく本質的に求められている能力の有無で評価する

  • 評価者に教育を行うことで、組織の求める能力を持った人を見抜く目を養わせる

 重要なのは、本来組織が求めている能力の有無に注目して、それを持っているか、それを発揮できているかのみで評価をすることだと考えています。そして、それを見抜く目を養うために、評価をする人たち(企業で言えば管理職)への研修による教育ができれば、問題は回避できると思います。

3.巧言令色な人から学べること

 ここまで、「巧言令色」な人が組織に与える悪影響を書き連ねてきましたが、実は、そんな彼らから学べることがあります。

 それは、彼らの「弁が立ち、人から魅力的に見えるように振舞う」ということが、他人から評価されているという事実です。

 つまり、「弁が立ち、人から魅力的に見えるように振舞う」ということ自体は人から評価されうることであり、その部分だけを切り取ってみれば、必ずしも問題のあることではないということです。

 「巧言令色」な人に問題があるのは、そこに加えて「媚び諂ったり」「中身が伴っていない」ために、本来就くべきでない役職まで登ってしまい、結果、組織の活力を奪ってしまうことです。

図. 「巧言令色」な人を分解する

 そして、この「一見問題があると思えることの中にも学ぶべきことがある」ということこそ、今回最もお伝えしたいことになります。

4.控えめな人に伝えたいメッセージ

 私は、先述の「弁が立ち、人から魅力的に見えるように振舞う」ことを、控えめな人にこそ学んでほしい、そう強く思っています。

 控えめであることは素晴らしい美徳です。私自身もどちらかといえば控えめな性格ですし、そういう人と交流したいです。逆に巧言令色な人とは、できれば関わり合いたくありません。

 それでも私が「弁が立ち、人から魅力的に見えるように振舞う」ことを奨めるのは、それができる人の方が得をする世の中だからです。残念ながらそれが現実です。これは恐らく、人の本能的なものに由来するのだと思います。

 例えどれだけ良いことを考えていても、表に出さなければ伝わりません。どれだけ良い行いをしても、誰も見ていなければ伝わらないのです。人の見えないところで善行を行う陰徳は素晴らしいものですが、それも、いつか誰かが気付いてくれてこそです。

 決して悪いことをするわけではありません。中身が伴っていないから「巧言令色、鮮なし仁」なのであり、中身が伴っていれば、ただの社交的で魅力的な素晴らしい人なのです。

 受験勉強や資格の勉強などと同じように、「弁が立ち、人から魅力的に見えるように振舞う」という一つの技術を学んで実践する、と考えてみてください。技術そのものには善悪はありません。

 これができれば、本来の貴方が正しく評価されるようになります。そしてそれは、貴方にとってだけでなく、所属する組織や貴方の周囲の人にとっても良いことなのです。

 私は、会社で働いているときに、社内にいた幾人かの「巧言令色」な人について、ただの反面教師としてしか見ていませんでした。本稿の内容について考えるようになったのは、会社を退職してしばらくたった最近になってのことでした。

 当時から気付いていれば、自分にも、会社にも、職場の同僚にも、より良い結果になっていたかもしれないと、後悔しています。ですが、過去には戻れないので、これからの人生にこの考えを活かしていこうと思っています。

 すぐに自分を大きく変えることは難しいので、私自身がそうしているように、少しずつ少しずつ、1日1歩で構わないので、自分を変えることを、是非考えてみてください。

5.終わりに

 生きていくうえで重要なのは、自分の信念を曲げないことです。「弁が立ち、人から魅力的に見えるように振舞う」ことは、表面的なことです。単なる技術に過ぎません。そうしたからといって、貴方が本来持つ素晴らしさが損なわれることはなく、寧ろ今まで以上に多くの人に対して、その素晴らしさが発揮されることになるでしょう。

図. 人の心:信念と表面的な振る舞い

 世の中には成功しているように見える人が大勢いて、それを見て、自分はこうなんだと頑なになったり、嫉妬してしまったりすることもあると思います。その時、単に感情のままに流されるのではなく、彼らの良いところは何かを分析して、その部分を自分の信念とは関係ない表面上の技術として習得する。これは、本稿の「巧言令色、鮮なし仁」に限らず、様々な場面で応用出来ると思います。

 今回は、今まで書いてきた、どちらかといえば論理的な書きぶりに加えて、私が普段抱えている思いを綴ってみました。素晴らしいモノを持っているのに、ほんのちょっとした理由でそれが発揮されない人が大勢いる。私は最近、その状況をなくすためには何をすればいいのかをよく考えています。

 本稿の内容が、誰かひとりにでも、その心に届けば幸いです。

 

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