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仕事を始めて気づいた建築学生時代の価値(講義編 その2)

「仕事を始めて気づいた建築学生時代の価値(講義編 その1)」に続き、その2です。

 この記事では、計画(意匠)系の講義に関する後悔を述べていきます。計画(意匠)系の講義に関する後悔は大きく3つあります。

 ざっくりした表現になってしまいますが、計画(意匠)系の講義は、環境系・構造系と比べて感覚的に捉えなければならないことが多いです。
有名建築家の作品を見ながら「流動的だ」「有機的だ」と表現したり、「高揚感を感じる空間である」や「植物を模した意匠だ」と表現したり。

 卒業設計などの場面では、例えばですが、「空間の仕切りを無くすことで、利用者の心の仕切りも無くすことを意図しています。」などのコンセプトを述べる学生がいたり。

 計画系と言われるだけあって、抽象的な事象を具体的に計画していくための講義という印象があります。また、具体化のために有効なデータや数値を用いる必要があったりもします。

 私は、デザインなどに興味があり、計画(意匠)系の講義はいつも楽しんで受けていました。抽象的な表現や、つかみどころのない説明さえ、
(ほほう。センスを磨けば、この良さが分かるようになるんだな。)
なんて思っていました。

 そのうち、自分の中で好きな建築家が出てきて、その建築家の作品集を見たり、自分の作品の参考にしたりと、意気揚々と学んでいました。

建築雑誌や書籍などもよく買って見ていましたが、そこに掲載されている写真コンセプト図など、直感的にかっこいい!と感じるものにばかり目が行って、一緒に掲載されている図面を食い入るように見ることはあまりありませんでした。なぜなら、

感覚的に良いと感じる力をつけることが、計画(意匠)系の醍醐味でしょ!

と思っていたからです。
空間を良いか悪いか判断できる感覚が大切であり、具体的な図面は描き方さえ押さえれば描けるようになる。
その様に たかを括っていたのです。

これこそ1つ目にして最大の後悔です。

そして私は、雑誌や建築作品をパッと見た時「わ!センス良いなぁ...」と感じる作品を表面的に参考にするようになりました。

「表面的に参考にする」というのは、例えば、コンペのプレゼンテーションボードを作る時に、その掲載されているコンセプト図を参考にしたり、平面図の表現方法を参考にしたり、コンセプトをどの様に組み立てていったのかを参考にしたり、建物に使われている素材を参考にしたり、という感じです。

勿論、それもとても大切な事です。
コンセプト図や平面図の表現も建築家お一人お一人の作品なので、コンセプト図や図面からも学ぶ事が非常に沢山あります。

でも、働き始めてから、学生時代の私に欠けていた一つの大切なに気付いたのです。

それは、作品の細部「納まり(※1)」と言われる部分を見る目でした。
※1 納まり: 部材と部材が接する部分、素材が切り替わる部分の処理の仕方。

パッと見て、かっこいい!や、洗練されている!と感じる建物は、勿論、使われている材料や、建物構成の礎となっているコンセプトがその建物の大きな雰囲気を創り出しています。

しかし、そのかっこいい洗練されているという印象は、建物の持つ大きな雰囲気だけではなく、写真に写るか写らないか程度の細部、つまり「納まり」からも発せられているものもあるんです。

この話は、料理に例えると分かりやすいかもしれません。
カフェなどでお洒落なプレートが出されたとき、「美味しそう!映えてる!」という印象を受けて、記念に写真を撮るなどし、パクッと味を楽しんだとします。目で見て、味を楽しんで、大満足!という流れを一通り経験する中で、そのプレートがなぜ映えているのか観察したことありますか?

(野菜の配置と、ラディッシュの赤色がこのプレートのアクセントになってるのかな?)

なんて考察しながら食べる人は、どれ程いるでしょうか。
そのプレートの印象やお料理の説明だけ受け取って、意外と私たちは細部を見ていません。

いざ自分が誰かに料理を出す立場になり、この前のお店みたいな盛り付けをしたい!と意識して初めて、

あれ?うまく盛り付けできない。
この前のプレートはどうなってたっけ?

と写真を見返して、その時食べたプレート上の様々な工夫に気付いたりします。
つまり、

ステップ1
良い食材を集めた!

ステップ2
お肉は斜めに切って断面をよく見せ、豆類の粒感や野菜の形はそのまま残してシンメトリーに配置してバランスを取ろう!

このステップ2に行けなければ、思い通りのプレートは完成出来ません。

私は、このことに働き出してから気づいたわけです。

これは、私が納まりの大切さに気付いたある日の、実際の会話です。

私:「この壁材とこの壁材を組み合わせることで、あまりコストを上げずに高級感を出せると思います。」

上司:「デザインはいいと思うよ。でも、これとこれ厚みが倍くらい違うけど、どう納める?」

私:「...!すみません。そこまで検討していませんでした。」

まさに、納まりを検討せずに表面的に見た目や機能性だけで材料を選んでしまっていた時期の会話です。

もちろん、薄い壁材の後ろに下地を入れて厚い方の面と高さを合わせるなど、方法は幾つかあります。ただ、結局その下地分、コストは上乗せです。私の言ってたコストを上げずに、は達成出来ません。

ステップ1
良い材料を選定した!

ステップ2
材料を無駄なく組み合わせて、材料の素材の良さが伝わる仕上げ方をした!

そうです。私はステップ2に行けてなかったのです。そしてこのステップ2で必要な力が、納まりを検討する力というわけです。

この上司とのやり取りを機に、細部の納まりが積もり積もって全体のデザインや雰囲気を支えていたのだと気付きました。

(例え話が分かりにくかったらすみません...汗)

説明が長くなりましたが、要するに、コンセプト図や平面図の表現方法ばかり見ていた私は、同じページに載っている図面の中にある「納まり」に一切目を向けていなかったのです。

だから、実際に働き出した時に、創り出したい建物(先程の例え話でいえば、カフェで食べたプレート)を創るには、どのように材料を組み合わせていったらいいのか、つまずきました。

基本的なプランや建材の選定はできても、窓の部分をスッキリ見せる為には?部屋と部屋の境目を目立たなくする為には?などの課題にぶつかった際、私には引き出しが有りませんでした。

納まりなくしてこだわった建物はできないのですね。

要するに、一つ目にして最大の後悔は

学生時代から気になった作品は「納まり」まで興味を持って見るべきだった。

です。
学生の頃から、詳細図に載っている寸法の〜mmまで厳密に見る必要は無いと思いますが、素材が切り替わる部分、空間が切り替わる部分を建築家の方々がどの様に美しく納めてるかに注目して見るなど、目を養っておくと、もっと作品を見る時に楽しくなります。

仕事を始めてからも納まりなどに敏感な力は絶対に役立ちますし、建築士としての美意識も向上すると思うので、是非、目を向けてみて下さい🌿

さて、一つ目が長くなりましたが二つ目の後悔です。
二つ目は、ズバリ

学校の図書館にもっと行けばよかった

です。
私自身、本や建築雑誌が好きでよく図書館には行ってました。また、本屋さんにもよく足を運んでました。

しかし、建築学科って結構忙しいですよね。私の場合、かいつまんで読んだり、借りても、貸出期限まで積読(つんどく)になることもよくありました...涙

でも、その頃は、
働き出したら、建築雑誌の定期購読しよ〜。本も買えばいいか〜。
くらいであまり気にしてませんでした。

しかし
建築関連の本や雑誌は結構高い!
作品集なんて何千円もしますよね。良いやつは諭吉さんも出動するレベルです。

(余談ですが、最近マンガや書籍を査定してもらって30冊程売りました。中でも建築関連の本は高く買取りしてもらえました!やはり価値がある!)

建築関連の本は、ポンポン買えるものではありません。でも、建築士として、多くの作品や図面を目にしたい気持ちは常にあります。

えー!大学の図書館にあったこの本、1万円近くしたんだ...!
一度借りておけばよかった。

何度そう思って本屋さんで本を諦めた事か。

みなさん、仮にあまり興味無くても、たまに図書館に行ってみて下さい。
そして、少しでも気になる本は借りたり、その場で開いて少しでも吸収してみて下さい。

図書館は良い本がいっぱいある貴重で素敵な場所です。
また、OBやOGとして入館可能で卒業後も利用出来るのなら、行ってみるのも良いかもしれません。

以上が二つ目の後悔でした。

最後に、三つ目の後悔です。
三つ目は、建築士試験対策とも言えますが

建築実例(事例)を沢山見ておくべきだった

です。
学生のうちは、好きな建築家に傾倒する方も多いと思います。私もそのタイプでした。

ですが、建築士試験の科目「計画」の勉強を始めた時、しまったなぁと思う事がありました。

それは、「計画」の問題の中で出てくる、建築実例(事例)に関する問題に出会った時です。

例えば

茨城県営六番池アパート(水戸市)は、三つの住棟、集会室及び中央広場で構成され、中央広場については、住戸又は集会室を介してアクセスする住居者専用のものである。
平成30年 一級建築士試験 
学科I(計画)No.13

これを読んだ私の最初の感想
「ごめんなさい。知りません。」

アパート?!しかも県営の?!
???

アパートに限らず、公共施設や教育施設、知らない建築家の方の自邸、インフラ系などなど、この様な問題が毎年いくつも出題されていると知って、私は軽くパニクりました。

大学にいる間、一度も耳にしなかった建物や、建築家の方の作品。
こんなのどうやって選定して学んでいったらいいんだ...?
独学だったこともあり、事例の学習方法には面食らって途方に暮れました。

過去問やテキストを何度も見ていると、ある程度何を覚えるべきか見えるようになってきて安心しましたが、それでも実例のインプットにはかなりの時間が掛かりました。

何から優先して覚えるべきかと言えば、まず外せないのは
・建築史で出てくる有名な建物
・過去問に既に出題されている実例

です。
これは最低限必要なレベルです。

親切な事に、これらを纏めて下さっているホームページや書籍があります。YouTubeなどに覚え歌のかたちでまとめて下さってる方々もいます。

🔍 建築士試験 計画 実例
など検索をして色々見てみると面白いと思います。

私はその様な方々やツールに大変お世話になりました。そして、ただ一つ確実に言えるのは、この記事の後悔の一つに挙げている理由にもなりますが、
実例(事例)を覚えるのは時間が掛かります。

似ているものもありますし、建物名が長いものもあります。また、その建物の所在地(◯◯県)がすり替えられている問題が出題されることもあります。

ちゃんと、一つ一つの実例を覚えていく必要があるのです。
なので、早く取り掛かれば取り掛かる程、後々楽です。

私は、学生時代に始めていれば、のんびりでも着実に覚えられる期間は十分あったなぁと後になって感じました。

暗記と捉えるとなんだか面倒な問題に感じてしまいそうですが、実例で出題される建物にはそれ相応の選ばれし理由があります

時代の先駆けになった建物や、初めての試みを反映した建物、町おこしと絡めた建物、既存建築物の保存・再生を成功させた建物、などなど。
一見の価値があるものばかりなのです。

だからこそ、建築士試験の勉強の流れの中で覚えてしまうのは勿体無いです。
一つ一つ、学びながら、ちゃんと見ていくと大きな学びになります。

私も、時間がかかり大変でしたが、楽しんでもいました。勉強と勉強の合間の息抜き感覚で実例を覚えていました。
本当はもっと丁寧に一つ一つの実例を見たいなぁと思いながら頭に詰め込んでいました。

だからこそ、もしこの記事を読んで何か響いた方は、少しずつでも過去問に載っている実例を見てみたり、調べてみたり、検索したりしてみて下さい。

自分の為にも、試験対策にもなります。


長くなりましたが、講義編 その2 の計画(意匠)系に関する後悔をまとめると、以下になります。

  1. 学生時代から気になった作品は「納まり」まで興味を持って見るべきだった。(今後、建築に関わる上で、建物の質をグッと挙げる力になります。)

  2. 学校の図書館にもっと行けばよかった。(あそこは良い本の宝庫です。少しでも多くの本に触れておきましょう。)

  3. 建築実例(事例)を沢山見ておくべきだった。(建築士試験を受けるにせよ、受けないにせよ、自分の知識が広がります。出題された実例全てが一見の価値アリです。)

その1、その2ともに私の後悔が中心の内容となりましたが、大学の友人とも同じ話をして共感する事が多いです。

今、大学生を過ごしている方の参考になれたら、又は、今働いている方と共感出来たら幸いです。

最後まで読んで頂き有難うございました。

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