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【 読書レビュー 】リラの花咲くけものみち

リラの花咲くけものみち/藤岡陽子著 光文社

北海道が舞台で、全8章のタイトルにはそれぞれにナナカマドやラベンダー、ガーベラなど植物の名前がついていて花言葉もエッセンスになっている。

主人公の聡里さとりは、北海道江別市にある北農大学に入学し、寮生活を始める。家庭の事情で小学校6年生から3年間不登校になり、高校もチャレンジスクールに通っていたため、人と関わることに慣れていない聡里。不登校になった原因は、「飼い犬のパールを継母から守るため」という子供らしい狭い思い込みからくる行動だったが、パールという存在に聡里は守られてもいた。
それほどに動物が好きな聡里は、後に引き取られたおばあちゃんの応援で動物に関係した勉強ができる大学に進学する。

夏休みの夏期臨床実習体験、動物病院でのアルバイトなど、獣医師になるための知識や体験を6年間で学ぶ過程で、幾度か挫折しそうになったりしながら、聡里が選んだ進路は…。

人が苦手な聡里だけど、寮の同室の子や同級生、先輩など関わる人も増えていき、人間的にも成長していく中で、特におばあちゃんのチドリさんとのエピソードが素敵で、何度も泣けました。

チドリさんは、

昔から不幸中の幸いを見つけるのが得意で、たとえば庭で育てている野菜が虫に喰われた時は「きれいなのも残ってる。運が良かった」と頬に笑みをのせて無事だった数個を収穫していた。古希のお祝いにと母が贈ったクリスタルの置物が地震で壊れた時も、「ラッキーなことに星の部分が無傷だったよ!小袋に入れてお守りにしようね」と笑っていた。どんな不幸にみまわれてもその中から幸運を見つけ出すのは、もはやチドリの才能だった。

本文より

という性格なのだ。

北海道の地名がいろいろと出てくるのも、イメージが湧いて嬉しい。
ただ、タイトルにある「けものみち」って、いくら北海道とはいえ、人が住んでいる地域にそれほどのけものみちはないんだけどなぁ…と思ったのだが、聡里がこれから辿る道は、多くの動物の命とその向こうには人の生活もあるという、険しいけどやりがいのある仕事を、情熱と責任を持ってやるという思いをこめているのかな。


藤岡陽子さんの本は何冊か読んでいて、「手のひらの音符」では、

主人公水樹の現在と過去をいったりきたりしながら話は進むが、時系列ではないけれども、それほど読みにくくもなかった。子供時代のエピソードが、自分と同世代に近いのでしみじみじんわりくる。「いつも遊んでいた児童公園は、両手にすっぽりと収まりそうなくらい小さく感じられ、遊んでも遊んでも満足することのなかった当時の膨らんだ気持ちを、この公園が包みきっていたことが信じられない」…など、自分の実体験で想像できる表現がとても好き。

読書メーターからの感想(自分の)

と書いており、こちらの本もお薦めです。


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