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発刊順:40 愛国殺人

発刊順:40(1940年) 愛国殺人/加島祥造訳

どんな人間でも自分がひどくみじめに見える場所がある。歯医者の治療台―イギリス最大の銀行の頭取、元女優、謎のギリシャ人―その朝モーリィの診察室を訪れた人々も例外ではなかった。勿論灰色の脳細胞を持つ有名な探偵にしても…。憂鬱な定期検診を終え一息ついたポアロの許に電話が入った。歯医者の自殺を報せる電話だった。しかし、彼ほど自殺と縁遠い人間はいないという。果たして殺人か?続いて謎のギリシャ人の変死に及んで…。マザー・グースの調べに乗って起きた難事件の果てに、灰色の脳細胞ポアロが追いつめたものは!

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より


タイトルにある「愛国」そして、政治的な思想による暗殺をほのめかす登場人物たち。
クリスティーの初期作品に多く書かれていたスリラーに思わせた、ミステリ。
 
なるほど、そうきましたか。
と結末を読んで、思いはしたけれど、読んでいてあまり楽しくなかった。
退屈な展開で、魅力的な人物もほぼ皆無。
容疑者になるフランク・カーターはチンピラみたいな若者(イケメンらしいが)だったり、ポアロに対して冷たくあたるオリヴェイラ夫人とか、鬱屈した人ばかり。
 
ポアロは歯医者にかかったその日に、歯医者が自殺か他殺か?という事件が起こり、必然的に事件に巻き込まれる。
調べていくうちにある証拠が出たことにより、警察側は自殺説に落ち着くのだが、ポアロ一人納得せずに独自に調査する。
 
ポアロは当日歯医者にいた人物達と会って尋問する。その繰り返しが単調でわくわくしない。
ポアロと召使のジョージのやりとりも、どうも物足りない。
 
そして、ポアロ自身も鬱屈し始める…。

「しかもそうした隠された小さな疑問や情報をすっかり片付けてしまわないうちはまっすぐな道へ踏み出すわけにはいかないのだ。いまのところ、道はまっすぐどころではなかった!」
そして、ポアロは、考えにふけった末に、ある驚きにうたれ、ひとり言をいった。
「わたしが老いこむことなんて、あるだろうか」

しかし、すべてが明らかになった時に交わしたやりとりで、
「全国民の生活を守るためには、多少の犠牲はやむを得えず、取り替えのきく人間もいるのだ」と主張する者に対して、ポアロは、

「私は国家のことなどに従っているのではありません。私のたずさわっているのは自分の命を他人から奪われない、という権利を持っている個々の人間に関することです」

ポアロは決してブレないのだ。
 
マザー・グースの童謡をもとにした小説は、クリスティーが度々書いていて、この小説では章のタイトルに使われている。
マザー・グースはイギリスの「伝承童謡」。日本昔ばなし、みたいなものか。
 
マザー・グースは、ナンセンスなものが少なくなく(時には不気味にもなる)、クリスティーはこのナンセンスさをミステリが持つ謎の要素や不気味な要素に結びつけるのがうまいのです。
(解説の「クリスティーと童謡殺人」より抜粋)


HM1-18 昭和56年12月 第11刷版
2022年10月15日読了

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