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発刊順:54 満潮に乗って

発刊順:54(1948年) 満潮に乗って/恩地三保子訳

大戦後、故郷に帰ったリンは現在の単調な生活にあきあきしていた。しっかり者と、人からも頼られ、信じられていたリン。だが彼女はそんな自分にもあきていた。荒波にもまれて、自由に泳いでみたい―そんな時リンは、危険な無頼の男デイヴィッドに会った。リンは強くデイヴィッドに惹かれた。流れゆく先が死の渦潮であることを知る由もなく・・・。
叔父の莫大な遺産と、野望のためにはいかなることも辞さぬ謎の殺人鬼とのあいだに立たされた、傷つきやすい美貌の娘リンのとるべき船舵は?エルキュール・ポアロの登場はいつ?

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より


ゴードン・クロードは、親戚一同を自分の翼の元に庇護し、経済面で後押ししていたのだが、突然若いロザリーンと再婚をし、遺産を書き替える間もなく、空襲の爆撃にあって死んでしまう。
同じ家にいたロザリーンとその兄のデイヴィッド・ハンターが生き残り、ゴードンの遺産をすべて相続する。
 
しかし、ロザリーンは一度結婚をしており、元夫はアフリカで亡くなっているのだが、生きているのでは・・・という噂が流れる。もし生きていたなら?
 
一族の者達は、みなそれぞれの理由でお金が喉から手が出るほどに欲しいのだ。
今までは、常にゴードンが何とかしてくれたから・・・という理由でロザリーンに無心に行くと、兄のデイビットの存在が邪魔をする。
 
クロード家の人々は、「ロザリーンさえいなければ、遺産は自分たちで分けられるのに」と思っているのは明白である。
 
ロザリーンは、悪賢く立ち回るような女性ではなく、何か罪の意識に怯えていて情緒不安定だが、ゴードンの甥で農家を営んでいるローリィに会った時だけ、生き生きと過ごすことができた。
 
ローリィの許嫁のリンは、戦争で海軍婦人従軍部隊に従事し、外の世界を見てきたため、世界観がすっかり変わってしまい、戦争中も農場から離れることのなかったローリィと心の距離ができてしまう。
 
そこへ、野性的なデイヴィッド・ハンターが現れて、リンの心は揺れるのだが、第1の殺人が起き、デイヴィッドが捕まってしまう。

「人間の動きにも潮時というものがある。満潮に乗りさえすれば運は展けるのだ」(シェイクスピア『ジュリアス・シーザーの中のブルータスのセリフ』
「犯人は、機会をつかみ、すっかり自分の思いどおりにことを運び、そしてじつに完璧にその仕上げまでやってのけたんです」

とポアロは続ける。

お金持ちのゴードン・クロードの遺産を巡って、3つの死がポアロの目の前にある。
スペンス警視は「まさか、3人の中の一人が生きているなどと言い出されるんじゃあないでしょうな?」

「3人とも死んでいます。だがどういう死に方をしたでしょう?」
スペンス警視の考えでは「他殺が一つ、自殺が2つ」なのだが、ポアロは違う。
「私の考えでは、自殺が一つ、事故死が一つ、他殺が一つです」
 
一体誰が自殺で誰が事故死なのか。そして殺されたのは誰が誰に?
 
3つの死の謎・・・動機と死の真相にポアロが挑むところは面白かったが、リンと2人の男性の関係や結末が、今一つ・・・だって、デイヴィッドって全然素敵な人じゃない。
性格も柄も悪いのになぜ好きになるのか?と、共感できず。。


HM1-9 昭和56年6月 第9刷版
2022年12月27日読了

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