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「昔はどこかへ行きたくなかった」
世界一周173日目(12/18)
僕のことについ少し書こうと思う。
今世界を旅してしているわけだけれども、変な話、10代やそれ以前は外に出て行くことに対して興味を抱いていなかった。むしろ嫌いだったくらいだ。
中学生を過ぎるまでろくに電車に乗れなかった。行き先は前か後ろしかないのに表札に書いてあることが全く頭に入って来ない。これに乗ってしまったら一体どこへ連れて行かれるのだろうか?切符を片手に座席になんか座らずひとつひとつ着く駅を確認した。
中学校の時電車に乗る機会は多々あった。その主な理由は卓球部の遠征だ。市内ではそこそこに強かった我らの白山中学校。顧問の先生の人脈もあってか他校へよく遠征させられた。だいたいは駅で生徒が集合し遠征先の学校で先生と合流するわけだが、僕はいつも誰かに目的地までの行き方を尋ねてばかりいた。「えっと、どこまでの切符を買えばいいんだっけ?」と。その度の同級生たちは「コイツ、困ったヤツだな」という顔をして僕に目的地を教えてくれた。分からない時はとりあえず一番安い切符を買って乗り越し清算していた。
母親は長男の僕を色々と気にかけてくれていたおかげで小学校の時から(無理矢理)外に出て行かさせられた。なんで習っているのか分からない週一の水泳教室や月に一度あるのYMCA。
せっかくお金を出してもらってまで郊外へキャンプに行っているのに、知らない土地でまず味わう感情は不安な気持ちとホームシック。
外に出て行くことが怖かったんだと思う。
それが今じゃどこだよここ?
インドのヴィシャカパトナムって?
「ベープ押すだけ」でシラミどもをひとまず黙らせ、
速乾性のあるパタゴニアのパンツと1900円の少し温かい七分袖を着て、なにもかけずに横になる。
ファンを切ってしまえばそこまで寒くないのだが眠れない。頭に日本の風景がフラッシュバックする。そのどれもが「駅」に関するものだ。
大学時代、時間つぶしに乗った小田急線各駅停車、
普段自分が降りない小さな駅。
開いたドアから見える駅のホーム。
バイトの通勤で通り過ぎて行く「よみうりランド前」、「生田」間。
卓球部で集合した新百合ケ丘の駅前。
いっつも僕は時間前に来て待っているのに、
時間通りにやって来ない友達。
扉が開いた瞬間リアル「椅子取りゲーム」で埋まっていく
新宿発小田原行き最列車。
「代々木公園前」に向かって地下に沈んで行く線路。
そこを抜けると僕らの代々木公園だ。
思い出そうと思えばいくらでも頭に浮かぶんだけど、電気を消した薄暗いこの部屋で鮮明に浮かぶのはなぜか僕のよく使っていた小田急線の映像。
この気持ちも明日になれば消えてなくなってしまうのかなと思ったら、パソコンを開らかずにはいられなかった。
遠くに行った時の、どこか違う場所へ向かっている時の記憶が自分の人生の一場面と強く結びついている。
「おれ、移動してるのが一番好きなんですよ」
さぶちゃんが言ったそのセリフがますます自分のものになってくる。
何年か先、ふとした瞬間に今自分がしているこの旅を懐かしがるのかもしれない。
目覚ましもかけずにのろのろと目を覚ました。
他の宿と同様、この部屋には外からの光が入ってこない。今太陽はどこらへんに位置しているのだろうか?
ここはインドのヴィシャカパトナムという街。
比較的大きな都市で高い宿からドミトリーまでたくさんの宿がある。
ウィキトラベルで調べる限りこの街ではビーチから洞窟やお寺まで様々な観光名所があるようだ。だが、僕がここですべきことはもっと別のことだ。
朝食を済ませた後、一時間15ルピー/15yenのネットカフェでメールのチェックやブログ読み、昨日目をつけておいたカフェに向かう。
その中、プリント屋さんでA4二枚分のサイズ(それってA5?)の紙を5枚、8ルピーで購入した。インド版ケンタッキーのようなお店で25ルピー/42yenのカプチーノだけ注文すると店員は「他にご注文はありませんか」と訊いてきた。
悪いんだけど今のところはないよ。もしかしたら1時間後に注文するかもと店員の催促をかわす。
旅ノートに漫画の構想を書き、『時間設定しないとずるずると余計なことまで書いちゃうぞ』と左腕を顔の前まで持ち上げたところで気づいた。
腕時計ねえ…。
おぴょぽぽぽぽぽぽぽ!!!!
これで何回目だよ!!!??わーってる!わーってるって!あん時だよ!ネットカフェでパソコンのキーボード叩く時に邪魔だからって「ペッ」てはずした時ぃぃぃ!!!てか同じシチュエーションでラオスでG-SHOCKなくしたんだった。おれは学習してねえのか!?
まだ一時間も経ってないのにニセケンタを後にした。
急ぎ足で宿の近くのネットカフェを目指す。
もしかしたら誰かに持っていかれてしまったかもしれない。いやいや、あんなパチもののCASIOの時計誰が持ってくっていうんだ?地味にカスタマイズやら修理を加えて愛着が湧いてきたってのにこれで彼女をなくしてしまったら、彼女を失ったショックでこれから先もうずっとひとりかもな…。
そんなハルキ的なシチュエーションを頭にめぐらせさっきのネットカフェで時計が落ちていなかったか尋ねると、受付のお兄さんはおもむろにデスクの引き出しから僕の時計を取り出してくれた。
「マジで泣ける…」
お兄さんに「これでラッシーでも飲んでください」と20ルピーを差し出すと、お兄さんはニッと笑って受け取ってくれた。とりあえず、気持ちを切り替えるために近くで10ルピーのラッシーをすする。
タバコを一本吹かし、もう一度さっきのニセケンタへ。
インドにはカフェどころか机もない。勉強するのも大変そうだ。
こういうチェーン店みたいなところでようやくありつけるのだ。空調も効いているし、テーブルの高さも申し分ない。かなり大きめで音楽が流れているけど、まぁ、それもいいか。
14時から17時半までで構想からネーム(下書きの一歩手前)きまでやり終えた。
途中、近くの学校の生徒たちが店に沢山来たりしたが、あとはお客さんも全然いない静かなお店だった。(と言っても2回目のピーク時には「他にご注文はありますか?」って暗に追い出されたんだけど笑)
従業員たちは僕のネームを興味津々で眺めて来る。中には「これ飲む?」と小さなカップでスプライトをくれる人もいた。ありがたいぜ。ただでカプチーノももらったな。その分、バーガーとかも頼んでしまったのだけれど。50ルピーってけっこう高いけどね。
漫画製作の後は同じみのネットカフェで自分のパソコンを使ってできたネームをiPhoneで撮影してLINEで送った。第3稿くらいの描き直しは覚悟しているぞ!
ここでの滞在もちょっと長引きそうだ。まぁそれもいい。漫画を描くのに必要な条件がある程度そろっているから。
漫画の製作に入ると単調になる生活リズム。
だけど、これでいいんじゃないかと思う。
だってこの旅は僕にしかできないから。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。