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「ミャンマーで警察のご厄介になる」

世界一周137日目(11/12)

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テキパキと寝床を片付け、僕は早めにバスターミナルへ向かった。

朝日がまぶしい。
スマートに出発したつもりだったが、荷物を固定しておくワイヤーロックをばっちし忘れた。最近こういうの多すぎる...

バスターミナルに到着してしばらく時間があったので日記を書いた。徐々にバスに乗る人が集まりはじめ、8時になるとバスは「Kengtong(チェントン)」へ向け走り出した。

タイとは30分の時差がある。国境を越えただけでこの30分が妙にぎこちなく感じる。ラオスの様な山道をバスはゆっくりと走る。道路は舗装されてはいるものの道幅が狭く、くねくねと曲がりくねっているため、対向車に気をつけながら。前日が野宿だったこともあり、バスの中ではうたた寝を繰り返していた。車内で流れるタイのコメディー映画の内容だけはなんとなく覚えている。

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チェントンに到着すると、僕はさっそく情報収集を始めた。

チケット売り場のお姉さんに駅はどこに行けばあるのか尋ねたが、お姉さんは英語を解せず困った顔をした。

大体こういう時には近くに英語が喋れるトゥクトゥクのドライバーがいるんだ。その場にたむろしていたドライバーの何人かに声をかけてみるとモトゥと名乗るドライバーからは衝撃の一言が発せられた。



「この町に駅なんてないよ」



はっ?

ミャンマーということだから、あまりマップアプリを頼りにはしていなかったのだが、ここで確認すると、鉄道駅どころか地図さえあやふやだ。ちきしょーっ!タチレクの旅行代理店のオヤジ!適当なこと言いやがったな!

「それにここから次の町に行くことはできないよ。ここはタチレクとの往復便しかバスはでてないからね」

モトゥと話しているうちに、列車に乗るためには「Taunggyi(トンジー)」という町に行かなければならないらしい…

「だけど、外国人は陸路からトンジーには行けないよ。外国人には開放されてないから。行くんなら飛行機しかないね」

はい!出ました!それで高額ツアー組ませる気だろ!
やはり、どうしても彼らの言うことが信じられない僕はトンジーの町へバスが出るローカルなターミナルへ徒歩で向かったが、場所が分からないため、バイタクで向かったのであった。

「徒歩30分」と言ったモトゥ。バスターミナルは全然そんな距離にはターミナルはなかった。みんなテキトーなのだ。


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地元のバスターミナルには何軒もの会社があった。

だが、どこのチケット売り場に言っても「外国人にチケットを売ることはできない」同じことを言われた。こんなに売り場があるのに、どこも紋切り型の同じ台詞しか口にしない。

使っているのはTOYOTAや日産や中小企業のロゴの入った日本の中古車なのに!

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日本人の僕が乗れないなんてこんな話があっていいのかぁっ!

それにみんな口を揃えて「トンジーへは飛行機」と言う。
トンジーへの陸路は完全に断たれた。

ちょっと待ってくれよ!そんなの聞いてないぜ?タイからの陸路入国が可能になったって情報を得たからビザまで取って入国したのに、飛行機に乗らなくちゃゃだめだなんて結局、空路しかダメってことかよ!?

「こうなったら…」
僕はローカルバスターミナルの前を走るトンジーまでの道路でヒッチハイクを試みたが、乗せて行ってくれる人はまったく現れなかった。

運良く停まってくれた日産の車を運転するミャンマー人のご夫妻は僕を車に乗せてくれた。だが、行き先はすぐそこのローカルバスターミナル。どうやってもチケットは売ってくれないらしい。

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目の前に停まったトンジー行きのバスに僕はこっそり乗り込んだ。
一番最初に話しかけた売り場のお兄さんは、いたずらっぽく『一番前の席に座っちゃえよ』とアイコンタクトを送ってくれた。
こ、これは…もしかしたら行けるかも!?

お兄さんは忙しそうにバスの中に箱詰めされた大量の缶飲料や食料を搬入している。僕は何も言わずに笑顔で搬入作業を手伝った。そう。ここで媚を売っておけば!乗っけてもらえる可能性が上がるだろうぅっっっ!!!

搬入作業が終わり他の乗客もバスの中に乗り込むと、僕は最前列の座席で行きを潜めた。顔がめだたないようにヘアバンドをアイマスクのようにして目をつむった。

しばらくするとポンポンと肩を叩かれた。
目の前には焦げ茶色の制服を着た警察官の様な人が僕をにらみつけている。

「イミグレーションオフィサーだ」
ぐっ…だめだったか…

僕は穏便にことを済まそうと
「勝手に乗って済まなかったよ。分かった。一度タチレクに戻って飛行機に乗るよ(もちろんそんなつもりはない)」とその場を去ろうとしたが、彼らは僕のような外国人を野放しにしてくれるほど甘くはない。

「車に乗りなさい」
「いや、だから、一回タチレクにー…」
「車に乗りなさい!」
「…はい」

彼らは僕のパスポートを取りあげ、僕は言われるままに車に乗り込んだ。連れて行かれたのはプリンスホテル。

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そこで電話をかけ、パスポート情報をどこかに伝えている。幸いお金は請求されなかった。

どこのホテルに泊まるか尋ねられたが、まだ決めていないと言うと安宿の名前(それでも10ドル)を教えてくれたが、どんな名前だか聞き取れなかった。それにそんなことはどうでもいい。

僕はひとまず、タチレク行きのバスチケットを泣く泣く購入し、今晩の寝床を探しに町をふらついた。だって払ってられないすもん。バス代も無駄にかかっちゃったし。

お寺を当たってみたが、どこのお寺も寝かせてくれることを拒んだ。
一体誰が、「お寺に泊まれる」なんて言ったのだろう?タイもラオスもミャンマーも同じ仏教人じゃねーの?



ようやく見つけたのは、学校らしき敷地内の校庭。

日が沈む前に親子が入ってきたので物陰で様子を見ていると、お父さんは子供をベンチに座らせ、校庭を徒歩で10週ほどして去って行った。あれは...なんだったのだろう?

物陰で息をひそめていると、僕の姿を近所女のコが発見した。

気まずくなるのをさけるために(っていうかこのシチュエーション自体気まずいんだけど…)「よっす!」と軽いノリで挨拶したのだが、女のコはガンダッシュで逃げて行った。そりゃそうか。僕、どう見ても不審者だもんな。

裏手からフェンスを乗り越え、校庭に野宿セットを準備する。バックパックは重過ぎてフェンスの内側に持って来ることができなかったので、パックセーフをつけたまま南京錠でフェンスに固定した。

寝袋にくるまって夜空を見上げると、月明かりで僕の姿が照らされていることが分かった。でもじっとしていれば目立つこともあるまい。地元の女の人が「なんだあれ?」的にフェンス越しに10秒ほど見つめていたが、特に気にしなかった。こういう時こそ堂々としていれば案外うまくいくー…

顔を懐中電灯の明かりが照らす。
見回りに来たおっちゃんにフェンス越しに「一晩だけ寝ていいか」と尋ねると。おっちゃんは「ノープロブレム。安心しろ。寝てもいいぞ」と言ってくれた。しばらくすると、見回りのおっちゃんたちが3人に増えた。

「そこは寒い。すぐ近くにオフィスがあるからそこで寝るといい」
3度目の正直かな。こういう優しい人もいるんだ。

案内されたオフィスの中で勧められたタバコを吸っていると、見覚えのある顔が。

「またお前か!」
日本だと「そうか!ひらめいた!」とでも言わんばかりに、握りこぶしを反対側の手のひらにパチンと打ち付けるイミグレーションオフィサー。
「You are problem man!!!」とけっこうなご立腹なご様子。
「タチレクへのバスチケット買ちゃったからお金がなくなっちゃったんです」と言っても、もはや何も通じない。

さっきと同じようにパスポートを取り上げられ僕は近くのホテルに連行された。
連れていかれたホテルには日本語を話せる従業員さんがいた。明日の朝に発つとのことなので10ドルでいいですと。もちろん選択肢はイエスしかない。たった一日野宿しただけなのに、ベッドが懐かしく感じた。

僕は水圧の弱いホットシャワーでベトベトの体を洗い、Tシャツと下着を洗濯すると、扇風機にS字フックで取り付けベッドに潜り込んだ。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。