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「自分がここにいるなんて信じられない」

世界一周87日目(9/23)

僕はバスの中でソワソワしていた。

今の気持ちは「何年ぶりかの再会果たす彼女を待っているような」気持ちだ。
断っておくけど、僕がそんな状況に陥ったことは一度もない。

「会いたい!会いたくてたまらない!でも、この私の想いが膨らみ過ぎてたらどうしよう?このままお互い素敵な想いを抱いたまま会わない方がいいのかも...」
もちろん女のコバージョンの心理も脳内では再現できてしまっている。漫画家を名乗る人間には絶対妄想癖があると思う。

僕は今シェムリアップに向かうバスの中にいるのだ。

シェムリアップまではさんざんもったいつけて色々な場所に行ってきたわけだけど、ここまで溜めてきた想いが過剰な期待で終わってしまうことがちょっと怖かった。

バスはいつもより快調に飛ばし、あっという間にシェムリアップに到着した。

バイト時代に読んできたブロガーの人たちは一体どんな気持ちでこの地を訪れたのだろう?



客引きを振り切って僕が目指したのはTAKEO Guest House

だってね。ほら。タケオの名前に導かれるまま「タケオ」まで行っちゃいましたから。どんなものか見ておきたかったのだ。

バイタクのおっちゃんに大体の道を訊くも、さすがは観光地。一筋縄では教えてくれない。

「オールドマーケットの近くにあるよ!」
「いやいや、ガソリンスタンドの近くだ!」
「ファーラウェイ!遠いネ!」
カタコトの日本語が胡散臭さを演出する。

僕はホームページに載っていた超アバウトな地図を頼りにタケオゲストハウスに歩いて行ってみる事にした。

マップアプリを頼りにパブ・ストリートを抜け、様々なカンボジア人にタケオゲストハウスの場所を尋ねるが、誰一人としてまともに教えてくれる人はいなかった。有名な宿ではなかったのか?

僕は日本料理屋を発見し、入り口からそっと顔をのぞかせた。

「あのぉ〜...、すいません、
タケオゲストハウスを探しているのですがどこかご存知でしょうか?」

中ではヒマそうに新聞を開いていた大将は顔を上げてパサッと言い放った。

「ああ。タケオゲストハウスね。大通りを右折して信号で左折。70メートルくらい」

さすが日本人的確な道案内だ!



タケオゲストハウスは大将の言った通り近くにあった。

中から女将さんのモムさんが出てきてレセプションで受付を済ませる。宿のスタッフは日本語で「何泊しますカ?」と訊いてくる。噂通りの日本人や宿だ。

ドミトリーは一泊3ドル。朝9時までなら朝食が注文できるらしい。

3階にあるドミトリーにはベッドが沢山あった。ちょうど今日の朝方沢山の宿泊客がチェックアウトしていったらしく、使われているベッドは3台ほどしかなかった。

空きベッドは沢山あるのに僕に割り当てられたベッドは他の宿泊客の隣りだった。管理しやすいってことなのだろうか?ベッドを勝手に移動するとその分のベッドの追加料金がかかるらしい。さすが日本人向けだ規則が厳しいなぁ…。

また、各自ロッカーと南京錠が割り当てられるのだが、張り紙を見ると物騒なことが書いてあった。

トイレ兼シャワーを覗くと中には浴槽なようなものがあり、汚い水が溜まっている。蛇口をひねると鉄の臭いがした。シェムリアップの水は全部鉄の臭いなのだろうか?だんだんこの宿に対して不信感と不安が降り混ざったなんとも言えない気持ちが湧き上がってきた。大丈夫なんだろうかこの宿は???



僕は鉄臭い水で洗濯をしたあと、備え付けの扇風機にセッティングし、町に出た。アンコールワットは明日だ。今日は町を歩こう。

観光地化されているだけあってシェムリアップの町はレストランや雑貨屋さんでいっぱいで歩いているだけでも楽しくなった。

バーが多い印象だ。タンクトップにショートパンツ、ゆったりとしたタイパンツを履いた欧米人たちが昼間っからビールを飲んでいる。

カンボジアでいくつか観光地をまわったけれど、どこも似たような光景を目の当たりにする。きっと彼らは日々の抑圧から逃げてきたのだろう。だからこうして酒浸りになってしまうのだろう。漫画家の想像力で彼らの生い立ちをプロファイリングする。


歩いていると一軒のDVD屋さんを発見した。

お店の人に頼んで一枚のDVDを探してもらった。

Into the Wild」というタイトルの映画だ。
大学生の頃、渋谷の映画館で観た作品で、原作の本も読むくらいに好きな映画だ。冒険心をくすぐるシーンの数々。世界観が圧倒的なんだ。旅人の儚さを上手く絵描けていると思う。

僕はDVDを買わず、お礼を言って店を後にした。

きっとここでまた別の誰かがこのDVDを手に取るだろう。これから自分がする旅に想いを膨らませるに違いない。



オールドマーケットの前でスプライトを飲みながらタバコをふかしているといつものようにバイタクのおっちゃんがツアーに行かないかと持ちかけてきた。

話を聞くとアンコールワットとその他の遺跡を巡るチャーターで13ドル。人数がいればいるだけ安くなるらしい。これはいい価格なんじゃないか!?

僕は明日、朝日を見に行くため5:00にタケオゲストハウスの前に着てもらうことで話をまとめ、商談を円滑に進めるために5ドルの夕日を見に行った。

明日のチケット(一日券)を20ドルで購入し、アンコールワットのある方へトゥクトゥクは走っていく。

リシィ(おっちゃんの名前)は夕日の見える遺跡のふもとで僕を降ろした。一時間後に日が沈むらしい。僕は焦る気持ちを胸に遺跡のあるてっぺんまで足場やに登った。遺跡に着くと、そこは大勢の人で埋め尽くされていた。

雲の合間から夕日が見える。途中雨がポツポツ降ってきたが僕は夕日の前から動かなかった。

「ついについにここまで来たんだー…」

何かこみあげるものを胸に感じたー....

日本にいた頃、旅の本を読むのが好きだった。本だけでは満足できなくなるといろんな旅人のブログを読んだ。まさか自分がこの場所に来るだなんて想像もできなかった。


アンコールワットのあるシェムリアップに僕はいるのだ。


明日それを見に行く。

翌朝に備えて、この日は早めにベッドに横になった。



現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。