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「チャイナキッズは夏休み」

世界一周50日目(8月16日)


「シミくん、あと10キロで着くよ」

先輩に起こされて目を覚ました。

バスの窓から周りを見るとドラゴンボールに出てくるような形の山がいくつも見えた。

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バスから降りると僕と先輩は朝マックをしに西街まで1.5キロの距離を歩いた。クソ重たいバックパックを背負って。

50日間、このバックパックを背負ってきたけど長距離を歩くと汗がドバッと流れる。

「シミくん、マックまで距離があるみたいだけど、どうする?」

「はい!もちろん行きます!」

わざわざマクドナルドに行くために1.5キロの道を行くのは気が引けたがここまで色々とお世話になってるし、なにより先輩についていくのが後輩のつとめ。

僕はあえて爽やかなトーンで返事をした。


マクドナルドでは先輩と僕はひとつのハンバーガーに対し、それぞれ3杯ずつコーヒーをおかわりした。

僕もコーヒーが大好きだが、先輩はそれ以上のようだった。なんと中国のインスタとコーヒーを持ち歩いているのだ。しかも寝る前に平気で飲む。

「飲んだら寝れないじゃないですか?」と僕が言うと、「私は寝られますよ?」と先輩はサラッと言った。もうカフェインが効かない体なのだろう。

マクドナルドを後にすると再び1.5キロの距離を戻り

(いや、荷物が軽ければいいんすよ。でも僕のバックパックは27キロ。サブバッグは6キロあるんです!)

ヤンシャオから興坪 (シンピン)に7元のバスで向かった。そこに今日の宿があるのだ。






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老寨山旅館に到着すると愛想のいい中国人の奥さんと林さんが僕たちを迎えてくれた。

荷物を置いて落ち着いたあと僕たちは林さんご一家にお土産を渡した。

僕はIKEAで買ったキャンドルを(いい匂いがするのでアロマキャンドルだと思っていたんだけど火をつけてみたら香らなかった)。

先輩はオススメのインスタントのラ王と香港で買った雑誌数冊とフリスビーとルービックキューブの16面体をプレゼントした。

息子の喜太郎くんと奥さんは今、ルービックキューブにハマっていてどちらも9面体であれば3分以内に完成させることができるのだ!(超すげぇ…‼)

外は台風の影響でしばらく雨降っていたが、小降りになってきたところで僕は喜太郎くんをフリスビーに誘った。


世の中には二種類の子供がいる。

「童心をもった子供」と「ませたガキ」だ。


僕はちょっと不安だった。

もし喜太郎くんが後者だったらスケボーやギター、ハーモニカ、漫画、僕の全精力をもってしても彼とは仲良くなれないかもしれない。

いや、そんなことはないはずだ!この旅路で何人ものガキんちょたちと仲良くなってきたじゃないか!

僕は長男のプライドと共に自分を奮い立たせ、喜太郎くんに声をかけた。

喜太郎くんはずっと家の中にいて暇だったのか、すぐに僕の誘いに応じてくれた。



僕たちは宿の近くでフリスビーを投げ合った。

フリスビーが初めての喜太郎くんに僕がコツを教える。

「こうだよ。『シュッ!』ってかんじ。
『シュッ!』オーケー?」と言うと

喜太郎くんも「シュッ!」とか言って投げ返す。

うまく水平に投げられないせいか、空気の抵抗を受けてフリスビーが空中でよろめく。それがなんだかほほえましかった。


そうだよなぁ。

僕も彼ぐらいの時、向ケ丘遊園にあるボーイスカウトYMCAのキャンプで初めてフリスビーに出会ってすごい楽しかったのを覚えている。

9歳、小学3年生という年齢を考えればフリスビーは間違いないと思ったもん。

ませたガキは違うけど。





ここは観光地ということもあり車と3輪タクシーの通りが多い。

「もっと広い場所ないかなぁ?」

と僕が言うと喜太郎は何か思いついたようにトコトコ歩き出した。

彼が案内してくれたのは小学校だった。

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地元の子たちはここに通うんだろうな。

雨で水たまりができてたけどそんなのおかまいなしに僕と喜太郎くんはフリスビーを投げ合う。

調子に乗って小学生用に作られたバスケのゴールにダンクする僕。

僕のことなんか見てないで全然違う方にダッシュで駆けて行く喜太郎くん。


「どうしたの?」

「学校の先生だ!!」


校舎裏に隠れると喜太郎くんは人差し指を口の前に持ってきて「シーーーッッ…!」とハンドサインを送る。

柱の陰から周囲の様子を探る僕ら。

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息を潜めると火照った身体から湯気が見えた。

しばらく緊張感を持ったかくれんぼを演ったあと再び猛ダッシュで学校の外へ生還した。

「どーしよぅ?僕、顔見られちゃった…」喜太郎くんが言う。

中国語なんて分かんないけど何を言ってるか分かるよ。だって君と僕は同じ心を持ってるんだもん。





19:00になると奥さんが美味しいご飯を作ってくれた。

川魚のビール煮とニガウリの炒め物、キュウリのあえものと根菜盛りホカホカのご飯。


「林さんが桂林に素晴らしい展望台と素敵な宿を作られて喜太郎くんも幸せでしょうねぇ」先輩がそう言った。

林さんは少し黙って「いやぁ、少し申し訳ない気持ちですよ。親が日本人ということでいじめられてるみたいなのですわ」と言った。


この宿には8月だというのに鯉のぼりが沢山飾ってある。日本の国旗の飾れないここ中国で、日本を感じるためだ。

未だに続く反日教育。

僕は中国を旅してきて運良く差別的な扱いは受けなかった。


だけど、

差別を受けるのは日本人だけじゃないんだね。

親が日本人ということだけでイジメの標的になってしまうんだね。

小学校3年生と言ったら教えられたことをそのまま鵜呑みにしてしまう年齢だろう。だからルービックキューブなのか?僕と遊んでいた時、すごく楽しそうにしていたのはそのせいなのか?

そう考えると複雑な気持ちになった。



夏休みということもあり遅い時間になっても奥さんはルービックキューブの
16面の攻略法をネットで調べ、喜太郎くんは遅くまでテレビを見ていた。

その横で僕は、湿度たっぷりで湿気った原稿用紙を相手に漫画のペン入れを進めた。


そんな桂林のお盆。たぶん明日も雨だ。

けど、やまない雨はない。

喜太郎くんが笑顔で入れることを願ってる。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。