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「夢は原動力」

世界一周75日目(9/11)

「カンポット行きのバスはどこにくるのかな?」僕はスタッフのお姉さんに尋ねた。
「すぐそこよ。ユーカフェってとこ」

朝6時40分に荷物をまとめてチェックアウトした。
ゲストハウスUTPIAを出て僕はさっそくそのカフェを探したのだが、見つからない。近くにいた別のスタッフに声をかけるも「ユーカフェ?」みたいな反応をしてくる。

また、あの人を小馬鹿にするようなスタッフたちに会うのは気が引けたが、バスがどこにくるのか分からないのだからしょうがない。仕方なしにレセプションに引き返しユーカフェがどこにあるのか訊いた。

昨日と同じレセプションのベンチ寝そべるように腰掛けている(あそこから動かないのだろうか?)宿の欧米人ボスはこんな朝っぱらだというのに寝間着姿のカンボジア人の女のコをはべらせていた。
「あぁ、ユーカフェは歩いてすぐそこだよ。徒歩一分。20メートル」
と宿のボスはヘラヘラと答えた。

ここに日本的なサービスを要求するのはちがうが、チケットを買った時にバスに乗る場所を伝えてくれればよかったのではないだろうか?やっぱりここのスタッフは好きになれなかった。1日だけの滞在で正解だった。

教えてもらった通りの場所を10分くらいウロウロするも「ユーカフェ」の文字は一向に見つからなかった。いつものように声をかけてくるバイタクのおっちゃんに至っては見当違いの場所を指差す。「ユーカフェ」って言うくらいだからこのゲストハウスの一部だろうと、日本人っぽい顔をしたおっちゃんスタッフに声をかけてようやくバスがくる場所が分かった。もちろん「ユーカフェ」なんてどこにも書かれていなかった。


朝から雨は降り出し、遅れてやって来たミニバンに僕は乗り込んだ。

この街から抜け出せることがちょっと嬉しかった。ミニバンの窓から見上げると曇り空に虹が見えた。

「Oh!Beautiful!!」
前に座っていたおっちゃんが言った。

虹が見られるなんてラッキーだ。きっと何かいいことがあるに違いない。

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「旅の中で一番「移動」が好きなんですよ。
あの狭くて精神的にもキツい中で
『旅をしているんだな』って実感できるじゃないですか」

ベトナム、ホイアンで出会った世界一周経験者のさぶちゃんの言葉が今も自分の中に残っている。

シハヌークビレを抜け出しナショナルハイウェイに出て空は一気に晴れ上がった。

僕はイヤホンで音楽を聴きながら流れて行く風景に音を重ねた。



2時間でKANPOTの街に着いた。

バンから降りるとさっそく客引きのおっちゃんが声をかけてきた。宿のある場所は調べておいたし、バイタクを利用する必要もないかなと、歩き出そうとすると「おれには日本人の友達がいるんだ」という。おっちゃんはドライバーたちが自分の信用度を上げようと旅行者のレビューが書かれているメモ帳を取り出して僕に見せてくれた。書かれていたのは2013年8月にカンポットを訪れた「まこっちゃん」という大学生のレビューだった。

彼は2日間この街に滞在し、レイ(このおっちゃんの名前だ)に胡椒農家や郊外に連れて行ってもらい夜は二人で美味しいワインを飲んだことが書かれていた。レビューも比較的新しいものだったし、宿くらいは連れて行ってもらおうかなと僕はレイのバイクで宿まで案内してもらった。

って言ってもすぐ裏手にあったんだけどね。
わざわざバイクで行く距離じゃないな笑。徒歩2分。

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チェックインしたのはHour Keng Hotelという宿だ。ドミトリーで3ドル。けっこう綺麗な作りなのに安いのはいい。

案内されたドミトリーには先客の欧米人たちが4人ほどいた。朝10時でボクサーパンツ姿でパッキングしたり、匂いのキツいフレグランス・スプレーをまき散らしていた。昨日の宿に比べたらこっちの方がずっといい。


とりあえず1日分の宿代を支払うとレイはさっそく商談を始めた。ツアーだ。

「ほんとなら20ドルなんだけど18ドルでペッパーファームとカントリーサイドに連れて行ってやるよどうだ?ん?ん?」
達者な英語で一方的にツアーを薦めてくる。

こういう時、ちょっと困ってしまう。バイタクで送って来てもらったし感謝や配慮の気持ちでツアーに申し込みそうになる。だけど18ドルは僕には高い。

こういう時に町から町への移動にいくらかかるのかを考えてしまう。プノンペンから5ドルでバスに乗って移動できる。それにこの先ツアーは山ほどあるだろう。そのひとつずつに申し込んでいては旅が続けられなくなってしまう。自分の行きたい場所は自分で決める。それが僕のスタンスだ。

「悪いけど僕は、まこっちゃんみたいにリッチなバックパッカーじゃないんだよ。ベトナムでお金を騙し盗られてね(ちょっと盛った笑)節約して旅をしてかなきゃならないんだ」

それでも食い下がるレイ。商機を逃すものかという思いが伝わってくる。僕は別の提案をすることにした。せっかく会えたレイさん。彼の話を聞いたら面白いだろう。

「ツアーには行けないけどもし今夜時間があるならご飯一緒に食べるのはどうかな?」
「それじゃあ17:30に迎えに来るからローカルレストランでメシを喰おうぜ」と言ってレイは去って行った。


押しに弱い日本人だ。きっと彼らもそれをわかっているのだと思う。

レイからツアーに誘われているとき、僕もも負けじとタバコ勧めた。売られた恩は売り返す戦法だ。「これで貸し借りナシだぜ」的な笑。

なぜかこっちでは日本のタバコの「MEVIUS」が1.5ドルで売られている。肺がボロボロになる前にさっさと断ちたいんだけどタバコってコミュニケーションツールでもある。たまたま屋台で一緒だったおっちゃんが勧めてくれることもあれば、こっちが「吸う?」って言うとぐっと距離が縮まる場合がある。

タバコ自体はそんなにいいものじゃない。吸わない人には不快な思いを与えるし吸ってる本人の健康を蝕む嗜好品だ。だけど、旅に出てタバコがコミュニケーションツールになるとはね。実感なかったよ。高橋歩の本にも同じことが書いてあったことを思い出した。



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レイが迎えに来るまで僕は一眼レフを片手に町歩きをすることにした。

欧米人のリゾート、シハヌークビレに比べたらカンポットはのどかな町だ。町自体はとても小さく、すぐにまわりきれてしまう。この町の観光名所は郊外の村とペッパーファームらしい。町の売店にも胡椒が売られているのが目についた。

町歩きを終え、僕は宿に戻ってギターを弾いてレイを待った。

彼は「ローカルなレストラン」と言っていた。もしかしたら観光客向けの値段の高い場所に連れて行かれるんじゃないかなとちょっと警戒していた僕だったが、レイが連れて来てくれたのは宿から歩いてすぐ近くの同じ通りにあった。

レイはワインを詰めたペットボトルを2本持って来ていた。1ドルで串盛りを頼んで持って来たギターを弾いたりして時間を稼いだ。えっ?なんでかって?ここは戦場だからさっ!!! 

『睡眠薬入ってたらやべえな...』レイの持って来たペットボトル入りワインを見て僕は思った。だって、レイはここへくる前こう言ったのだ「ワインなら50セントでボトルが買えるぜ」って。ボトルってそれペットボトル!!!

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僕はつがれたワインには口をつけず、レイが先に飲むのを待っていた。

同じテーブルに同席したスタイリストの男の子にもワインがつがれたんだけど彼は「ビールのが好きなんだよね」とかぬかして、一口も飲んでいない。怪しい...

そんな懸念をよそにレイは小気味よくワインを「くいっ」っと飲み、僕もそれにならっておそるおそるワインに口をつてた。

『うん。けっこうさっぱりして美味しいかも!』お酒に弱い僕でも飲めるワインだった。


レイはアルコールがまわってきたのかちょっと眠そうな目で夢を語った。

「おれの夢はな自分のバーをオープンさせることなんだ。
いつになるか分からない。だけど3年後には必ずオープンさせてやるんだ!」

自分の夢を語ったレイを見て僕は一気にこのおっちゃんのことが好きになった。

自分も夢追い人だ。「旅する漫画家」いつ、その夢が形になるのかはわからない。

「夢」は人を動かす原動力だと僕は思う。絵空事のような大きな夢を抱いている人もいれば堅実に、前に進むための夢を描いている人もいるだろう。

だが、そのどちらも輝いていることには違いない。夢を持っているから僕らは前に進めるんだ。

久しぶりにこんなに沢山お酒を飲んだな。

いい気持ちになって僕はベッドに倒れ込んだ。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。