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「チェンナイ」
世界一周184日目(12/29)
うんを踏むことから僕の一日は始まった。
犬のじゃなくてたぶん人間の。
駅のホームでちょっと太ったリードに繋がれたラブラドールレトリバーを見て、『カワイイ…』と目を奪われていたら左足に「ぺちょっ」という感覚があった。どうせ食べ物か何かを踏みつけてしまったのだろうと足下を見ると黄土色の柔らかい物体が。
ここはチェンナイ・セントラル駅。朝六時。日は昇っていない。
インドの汚さは定評がある。そこらへんにごみは落ちているし、野良牛やら野良犬の糞を見ない日はない。人間だって道端で用をたす。小さい子どもがしゃがみこんでプリプリ道端にうんちをしている姿はどこか微笑ましい。時々ね大人でもしゃがみ込んでおしっこしてるよ。カワイイよね。
(いや、ぜんぜん可愛くねえよ!トイレに行け!トイレに!)
旅を続けていると、多少の汚いのにも慣れっこになったが、日本の衛生面はほんとうにすごいよ。はは…。朝イチでうんを踏むなんてさ、僕ってなんてツイてるんだろう?
「運なんてうん踏めば戻ってくるから!」
って「あたしん家」のお母さんは言ったけど、
うん…僕、泣かないよ…。
駅のホームに常設された水道を使おうとするが、朝6時の水道はうんともすんとも言わない。朝は断水してんのかよ!コノヤロウッ!1ルピー払って有料トイレに駆け込みサンダルを洗ったのだが、臭いまでは落としきることはできなかった。
ジェネラルコーチでは4人掛けのシートに5人も座っていたもんだから(ついで言うと僕は通路側で半ケツで座っていたんだ)睡眠も浅い。これでバックパックを背負って宿を探すのはキツい。それにうんの臭いのせいで気分が悪くなってしまった。駅のベンチに腰掛けて太陽が昇るまで睡眠をとることに。
そういえばここに来て久しぶりに欧米人のバックパッカーを見た気がするな。ここは一体どんな街なんだろう?
1時間程度の睡眠を2回繰り返し、体調の回復したところで駅の外に出た。すぐ近くに寺院のシルエットが浮かび上がる。ここも大きな街だ。
行き先は決まっている。マップアプリを頼りに目指すはYMCA。
他の旅人さんのブログでチェンナイにYMCAがあるとの情報を入手し(まぁ、ある程度の大きさの街にはけっこうYMCAがあるんですけどね)僕は途中にある宿の値段を訊きながらYMCAへと近づいて行った。
チェンナイ・セントラル駅の周辺には多数の宿がある。だいたい300ルピー(498yen)以上だし、ここでもインド人オンリーの宿はあった。
「How much?Single room?」と訊いてソッコーで手をヒラヒラさせてくるのがそうだ。値段すら教えてくれない。このリアクションにももう慣れた。笑顔で
「あぁ、インディアンオンリーね!サンキュー!」と言って次の宿を当たる。
駅からYMCAまでは1,3キロ。バックパックを背負って行けない距離じゃない。
安宿のありそうな路地を通り抜けて目的地までの距離を縮めて行く。
こんな大きな街だと言うのにちょっと路地に入ると野良牛の出現率がアップした。足下に注意を払いながら重たいバックパックを背負って進む。
そしてようやく辿り着いたYMCA。
ローカルなインド人のドミトリーも泊まったんだ。きっとここはもっと綺麗な場所に違いない!
「ハウマッチ?シングルルーム?」と僕は尋ねた。
きょとんとした顔のレセプションのじいさん。
ん?英語が分からないのかしら?
スタッフを探して敷地内の吹き抜けに行くとおっちゃんたちが敷地の端で団欒している。
僕の姿を見て手招きする。近づいて行く僕。
「ここには泊まることはできないよ。宿泊したいんだったら別のYMCA!」
うそ~ん…
マップアプリには確かに宿のマークが出ている。ここは間違いなく宿のはずなんだけど…。いつもだったらこんなピンポイントで宿を探したりなんかはしない。安宿の集まっていそうな場所に値段を聞き込んでいってできるだけ最安値の宿を見つけるのだが、今回は事前の情報が仇になった。どうやら宿泊可能なYMCAはバスに乗らないと行けない場所にあるらしい。
僕にはそこまで行く気力が残っていなかった。もうYMACAだけのために移動する気はない。いいよ!僕には僕のスタイルがあるんだから!
仕方ない…。駅周辺の安宿をもう一回当たってみよう。
バックパックを担いで来た道とは違う道を引き返す。
活気でにぎわう市場の通りやごちゃごちゃした路地。ちょっと気になるデザインの建物たち。
でも新しい街にワクワクするのはー…、宿にありついてからだ!
27,4キロのバックパックと7キロのサブバッグを装備した活動時間が1時間を越えた。汗で湿るTシャツとジーンズ。バックパックのウェストベルトが擦れてきた。このまま長期戦にもつれこむのはマズイ!なんとか10時までにはケリをつけないと!!
YMCAに行く途中で参考程度に当たっていった宿とは別の宿を一見づつチェックしていく。目標金額は200ルピーの宿。でもこの街にはなさそうだ。どこを当たっても300かそれ以上。
細い路地裏で見つけた宿で値段交渉の末、一泊250ルピー(415yen)のシングルに泊まることにした。宿代を二日分払い込んでレシートをもらうことを忘れない。この前みたいに「エクストラ・チャージ」とか請求されたら嫌だもん。
自分だけの部屋という安心感。
誰にも気にせず荷物を広げることができるし、誰かと電源を求めて競争したり盗難のリスクと戦う必要がない。ここにはエア・コンディショナーもシャワーもついてないけど、僕にとってはかなり居心地の良い部屋だ。パソコンを広げるのに丁度良い高さのテーブルと椅子がある。
洗濯を済ませシャワーを浴び、ベッドにごろりと横になった。
チェンマイは「地球の歩き方」に載っているような大きな街だ。だけど、僕はガイドブックなんか持っていない。知名度とフィーリングを頼りに『この街に行ってみよう!』と気ままにここにやって来た。一カ所行ってみたい場所がある。それだけだ。他の旅人はどういった場所に泊まって、どういった場所を訪れるのだろう?
そんなことを考えながら眠りに落ち、
目が覚めた時には15時をまわっていた。
このまま一日が終わってしまうのはもったいない。せめて街の周辺だけでも探索しておきたいな。
この街では「ビリヤニ(チキンライスみたいなもの)」の看板をよく見かけるようになった。店舗を構えるメシ屋が増え、ご飯の値段も上がった。
これはチャパティ。
コルカタで5ルピーだったチャイの値段が6~7ルピーになった。分量は少し多い。
道は比較的舗装されていて、バスが何台も走っている。地上からでは車で渡れない道路を渡す入り口が見える。他の街では沢山会ったネット屋をここでは全然見かけない。
ビーチを目指したがビーチには辿り着けなかった。
KEENの靴がどうも足にうまくフィットしない。
何度も靴紐を結び直して。靴擦れしないように調整した。
太陽は西に傾きいつの間にか見えなくなった。
僕は宿に戻ってギターを手にする。
大きな街でのバスキング。
インドの中規模以上の都市なら一回で宿代分くらいは稼げることが分かった。
チェンナイのデカさに期待して駅の入り口脇で壁を背にして唄ったが、Martin Back Packerの音は雑踏に吸い込まれていった。ギターの音がいつもと違ったように聞こえる。
いつもは興味津々で取り囲んでくるインド人たちもここでは少し遠くから眺めていたり目の前を通り過ぎていく。パフォーマンスの仕方を変えなきゃだめだ!
他の都市で好感触だった目を瞑って感情を込める唄い方ではここでは目立たない。
メガネを外し、帽子を脱ぎ、通り過ぎる人たちとできるだけ目を合わせ、体全体を使って、できるだけパフォーマンスらしい唄い方で唄う。
じわじわと人垣ができはじめた。
ノリノリで小躍りする巻きスカートのおっちゃん。
ちょろちょろと入り始めるレスポンス。
それを盗もうとするインド人を聴いていた人が止めてくれた。
最近、「お前は一体何者なんだ?」と訊かれた場合、
「Cartoonist」か「Performer」と答えるようになった。
僕はプロのミュージシャンじゃない。
だけど、お遊びってわけでもない。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。