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「キャンセル待ちのチケットを持ったまま」
世界一周179日目(12/24)
列車の出発の時刻は16:30。WL(ウェイト・リスト)のチケット。果たしてキャンセルは出ているのだろうか?
自分の座る席が保証されていないプリントアウトされたチケット。
『たとえ席がなくとも僕は前に進んでやる!』
昨日は不安だったが、ここまでくるともう開き直った。
時間までネットカフェに行こうと思ったら、滞在8日目にして近くで野良Wi-Fiを見つけた。今まで僕が払ってきたネット代はなんだったんだろう?
ネットカフェの近くで常連の後ろめたさを感じながら時間を気にせずネットに接続してパソコンをいじった。朝の風邪が心地よい。
昼前には宿をチェックアウトを済ませた。
宿のスタッフは昨日「24日はパーティーがあるんだ?君も参加しないか?」と言ってくれたことが後ろ髪を引かれる思いだった。
バックパックを背負ったままデッケン・フライド・チキンへ行き、最後の漫画製作をする。
顔なじみの店員が「シミ!How are you?」と声をかけてきてくれる。いつものようにカプチーノを注文して、テーブルにつく。大きめのボリュームでかかる店内BGM。ヒマそうな従業員たち。
変わらない外の風景が窓の向こうに映し出されていた。最近できた跨げるほどの中央分離帯は、コンクリートが固まる前に学生たちがやってきて自分の名前(だと思う)を落書きしていった。ボロボロの服を着た男性と女性の2人の作業員がコンクリートを塗って工事の続きをしていた。目の前の道路をバスやトゥクトゥクが何台も何台も通り過ぎて行く。
店員に「今日で僕はこの街から出て行くよ」ということを告げると、フライドポテトをただでごちそうしてくれた。胡椒がたっぷりかかっていて、ちょっとしなびていたけど嬉しかった。
さてと、そろそろ時間だ。
先にネットカフェで情報収集しておこう。
バックパックをかついでお世話になったDFCを後にした。
「18」
これが僕のWLの順番だった。
マジか…。てかこれで乗れるのか?いや、乗るんだけど!
『もしかして今の自分のチケットの状況を確かめられるんじゃないか?』と旅行代理店で訊いてみると簡単に調べてくれた。「バスなら出てるよ」と提示された料金は列車の2倍以上。千円もするのか…。却下!
歩いて駅まで行き、念のため校内掲示板に貼られたWLから座席をゲットした者たちのリストをチェックする。もちろんこれから乗り込む列車の番号には自分の名前はなかった。
WL100番以上の人間の名前が載っていたりしたけど、これは僕より前の順番のヤツだったんだ。つまり僕は大量にキャンセルが出た後にチケットを買ってしまったことになる。
だ、だいじょうぶ!こういう時の事態でどうするかはちゃんとシミュレートしているんだから!まずは車掌がチケットのチェックに来るまで入り口付近で立ち乗りをして、車掌がチケットの確認にきたら袖の下で席を確保する!他の人はボられて100ルピーとか言ってたから、50ルピーくらいでいいだろう。
時間通りにやって来た列車に乗り込み、サイドアッパー(2段分の寝台の上)に荷物を置いて自分も横になった。どうせ他のヤツもテキトーに乗ってるんだろう?それに寝台上部は夜まで使われないから僕が寝ていても大丈夫っしょー!
そう楽観的に考えていたが開始5分でこの作戦は失敗した。
おっちゃんが「そこ私の席なんだけどー…」と困った顔で言ってきたので、「あれっ?おっかしいなー?ちゃんとコンファームしてもらったんだけどね!」とそそくさと退散。結局出入り口付近で立ち乗りすることになる。
開けっ放しのドアの近くでタバコを吸おうとしたら、一緒に乗っていた女のコに「見つかったら罰金よ!」と注意された。へぇ、インドなのにしっかりしてるなぁ。中国もそうだったけど、マナーが向上したのかなぁ?インド人が全員チャランポランなわけではない。たまたま僕が旅して出会ってきた(大半の)インド人がマイペースなヤツらだっただけだ。当然インドにも真面目な人はいる。
どんどん日が沈み、あっという間に夜になった。
時刻は18時。まだ一時間半しか経ってない。到着は翌日の7時過ぎだ。
立ち乗りガール・ボーイたちとお喋りをしていくうちに、一人の男の子が僕のチケット状況を車掌に確認してくれることになった。
「WLが18だったら他の席が空いてるかも!」と彼女は言った。
僕としてはわざわざ車掌に確認に行きたくはなかった。できることなら穏便に賄賂でさささっとことを済ませてしまいたかった。
「さあ!あの男の子についていくのよ!」と立ち乗りガールがせかす。他の立ち乗りの乗客たちをかきわけてどんどん進んで行く立ち乗りボーイ。うう…。まぁとりあえず行ってみるか。もしかしたら席にありつけるかも。
2~3両通り抜けて僕が気づいたのは座席の数以上にいるインド人たち。まぁ毎度のことだ。
そして発見した車掌は他の座席に座って他の乗客たちとチャイをすすりながら和気あいあいとしていた。(「こ、こいつ…、仕事してねえ!」)
どうりでチケットチェックになかなかこないわけだ。なら、わざわざ車掌見つけに来なくてもよかったんじゃないか?
「この人のチケットなんですけど、席ありますか?」
立ち乗りボーイが車掌に尋ねると、車掌は男の子のスマホで僕の座席の現在状況を確認させた。
そこに表示された僕の名前の脇には「18」という数字だった。あれから変わってない…。(アップデートされていないだけじゃないか?)
「ほらここに書いてあるだろう。ウェイト・リストの人間は乗車してはダメだって!この次で降りなさい!」
車掌から放たれた言葉は冷徹なまでの一言「次で降りろ」だった。
なんでチケット持ってないような他の乗客がボンボン乗ってるのにわざわざ訊きにきた僕が降りなくちゃいけないんだ?ていうかチケットチェックしたらもう「芋づる式よ」?どんだけこの列車がスカスカになることだろう?
こうなったらなりふり構ってる場合じゃない。ここは賄賂で乗り切るしかー…
僕「分かりました!ちょっとお金払うますよ。だから乗せてください」
車掌「いや、そんな余分なお金もらっても困るから!次の駅で降りなさい!」
女のコ「そうだよ!次の駅で降りて「ジェネラル・チケット」買いなよ!」
....ん?「ジェネラル」?
なにやら、当日券立ち乗りということで「ジェネラル・チケット」なるものが安い値段で窓口で買えるらしい。一緒に乗っていた立ち乗りガールもそんなこと言ってたな。彼女の目的地は3時間くらいのところだったのでわざわざ寝台のチケットを買わなかったのかな。
「おれは次の駅で降りる気はないから!だっておかしいじゃないか!こんなにチケット持ってないような人間が乗ってるなんてさ!てかさっきの車掌も吞気にチャイなんて飲んで全然仕事してなかったじゃん!」
不満をぶちまける僕。困った顔の立ち乗りボーイ&ガール。
「大丈夫だ!僕がついていくから!次の駅の停車時間は15分はあるから!余裕だよ!」
余裕ってねー、あんた。僕はバックパックを背負ってあのウジャウジャ窓口にいるインド人たちをかき分けてチケットを入手しなくちゃならないんだよ?ぜってー乗り過ごすっしょ?
話していても埒が空かない。終いには他の車掌がやって来て僕のチケットを確認して、次で降りろと同じことを言う。ふぁっく。
どうやら次の駅で降りて15分以内にジェネラルチケットとやらを買う以外になさそうだ。
列車が完全に停車する前に僕たちはソッコーで駅を駆け出した。
3分でチケット売り場まで辿り着き、男の子は小さい窓口に手をぶっこみ1分半でチケットを入手した。はえぇ…。立ち乗りガールはここで降りると言う。
「Have a nice Trip!
Happy Christmas!!」
と彼女は言った。
ははは。全然ハッピーじゃねえよ。
ジェネラルチケットは最後尾の車両に乗らなくてはならないらしい。
僕は男の子にチケット代150ルピー(249yen)支払って、一番後ろの車両までダッシュした。
彼の手助けがなかったら僕はチケットを買うことができなかっただろう。
乗り込んだ最後尾の車両には立ち乗りマスター的なじいちゃん三人といつもの様に外国人に興味津々のインド人たちがいた。寝台を覗くと彼らは器用に一台の寝台に身を寄せ合うようにして2人寝ていた。
だから教えてくれよ。そのチケットはどうなってるんだと。
僕は立ち乗りのじいさんたちと同じ様に出入り口付近で膝を抱えて目を瞑った。
座り心地の悪い汚い床。 時々トイレの臭いが鼻をかすめた。
救いはiPodから流れる宇多田ヒカルの曲だった。
一緒に乗っていたおじいさんはトイレに行かずに列車の連結部の隙間に向かって小便していた。ふつうにタバコ吸って、当たり前の様に床に唾するじいさん。なにもそこまでインド人を代表しなくってもいいじゃないか。
25時過ぎに寝台の乗客たちが一斉に降りた。
ふうこれでようやく席にありつける。
「いやいや、そんな簡単に行くわけないじゃないですか?」とでも言わんばかりに席につくとすぐに車掌がやって来た。
ジェネラル・チケットから席を得るためには更に追加料金がかかるらしい。手に持ったチャートで料金を調べる車掌。
「もちろん彼らにもチケットの確認をするんですよね?」
嫌みをこめて車掌に言う。
「何!?誰のことだ?」
「誰って、後ろで余裕ぶっこいて寝てる彼らですよ♪」
車掌の真後ろの寝台でさっきの立ち乗りじいさんたちが寝ている。
「彼らも僕と同じジェネラルでしたよ?」
車掌がチケットを確認すると、一人のじいさんたちはめんどくさそうに追加料金を払ったのだが、もう一人は「ワシには払うお金がないんだよ…」とごねている。
大声で怒りだす車掌。
「だって、しょうがないじゃーん。席が空いてたから寝てただけだよ」とでも言い訳した途端、
「スパーンッッ!!!!!」
車掌がじいさんの後頭部をひっぱたいた。
老人へのいたわり一切なし。
車掌に退場を命じられしぶしぶと車両を後にするじいさん。
あ~、じいさん、
さんざんなクリスマスプレゼントだったね。
メリークリスマス♪
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。