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note79: ロスアンゼルス(2011.11.2)

【連載小説 79/100】

LA随一の海水浴場として賑わうサンタモニカのビーチで北米最終日の夕刻を過ごしている。

「これぞウエストコースト」といった感じのヤシ並木の見えるカフェのテラス席に陣取ってMacBookAirを立ち上げ、ポケットからiPod nanoを取り出してイヤホンをつないで耳に。

1曲を選んでボタンを押すと流れてくる心地良いメロディはダウンロード購入したばかり「Surfer Girl」だ。

実は一昨日サンタモニカのCDショップをのぞいた僕は、そこで懐かしいバンド名を目にすると同時に彼らのニューアルバムが11月1日に発売されることをポスターで知った。

バンドの名は「The Beach Boys」。
1961年に結成された米国西海岸発のサーフ・ミュージックバンドは、僕のように70年代から80年代にかけて青春期を送った世代には特別な思い入れのあるバンドである。

そんな彼らが1966〜67年にかけてレコーディングしながらも未発売のまま時が流れ“幻のアルバム”とされてきた未発表作『SMILE』がデジタル版で発売されるというからニュースである。

早速、iTunesでダウンロード購入した僕は、ついでにかつてレコードがすりきれるほど聴いた名曲の数々も聴きたくなり30曲パッケージのベスト版『The Very Best of the Baech Boys』も購入しiPod nanoに入れて聴きだしたという次第。
そして、その中でも当時最もお気に入りの曲だったのが「Surfer Girl」なのである。

思い返せば「カリフォルニア」や「ロス(ロスアンゼルス)」という名称は僕らの世代にとって単にアメリカの州や都市名を超えた“ブランド”として青春時代に機能していた
そう、まさに「憧れの地」だったのである。

若者達はUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)やUSC(南カリフォルニア大学)のロゴが入ったバッグやTシャツスを競って入手し、次々と創刊された雑誌の中にキャンパスライフやカレッジスポーツの話題を探した。

そんな中「Surfin' U.S.A」や「Good Vibrations」「Fun Fun Fun」「California Girls」等々の楽曲を通じて The Beach Boysが表現したウエストコーストの世界観は、ミュージックシーンを超えてサーフィンスポーツやファッション・グルメまでを総括する一大カルチャーとして、太平洋を隔てた日本の若者社会に文字通り高波のように打ち寄せたのだ。

10代で西海岸カルチャーの洗礼を受けた僕は当然のこととして20代前半で“夢のカリフォルニア”を訪れて“世界”を意識し、特にLA発祥のビーチカルチャーであるサーフィン文化に少なからぬ影響を受けて、後にハワイへ移住することになった。

つまり“旅を人生の住処とする”現在の僕の始発点はここLAだったといってもいいほどなのである。

世界一周の旅はいよいよ南米大陸からオセアニアへという最終段階に移行するわけだが、「SUGO6」でロスンゼルスを訪れ、久しぶりにThe Beach Boysを聴いたことで、僕は自らの4半世紀を超えるトラベルライターとしての長い旅の原点に立ち戻れた感がある。

時代の変遷の中で、かつては純粋に憧れの対象だったLAやアメリカに以前ほどの輝きがなくなってしまった感は確かにあるが、サンタモニカの海岸で見る夕陽とThe Beach Boysのバラードは時を超えて旅人の僕を心地良く癒してくれる。

世は儚く移ろうものながら、旅を続けていれば不変なる価値を見いだすこともしばしばであり、これもまた旅人の幸福である。

南米大陸はどんな景色と感動を準備して僕を待ち受けているのだろう?

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年11月2日にアップされたものです。

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