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note5 : マカオ2011.3.20

【連載小説 5/100】

マカオに来て4日目。
前回、僕にとって最初の海外旅行が1985年の香港だったことにふれたが、その時に日帰りオプションで一度だけマカオを訪れたことがある。

当時、アジアでは珍しいカジノの街に「東洋のラスベガス」などのキャッチフレーズが付けられていたから、きらびやかな観光地を期待して訪れたものの、砂塵が舞う殺伐とした風景の中に建つカジノの館群と歴史的建造物の周囲に群がる物乞いの執拗な懇願にカルチャーショックを覚え、あまりいい印象を持たずに離れた覚えがある。

が、四半世紀の時とはかくも街を変貌させるものなのだ。

2006年にカジノの総収益が本場ラスベガスを抜き世界一位となったマカオは高級ホテルの開業や巨大プロジェクトが相次ぎ、年間40万人強の日本人ツーリストが訪れるまでになった。

そんなマカオを再訪した僕を魅了したのが「東洋と西洋の出会いの街」として整備されたマカオ歴史市街地区である。
2005年に22の歴史的建造物と8カ所の広場をつなぐエリアがユネスコ世界遺産に登録された同地区は歩けば歩くほどに様々な発見があり、あたかも「街ごと博物館」なのだ。

そんなマカオの街歩きを、一昨日からは若い女性と一緒に楽しんだ。
と、いきなり記すと「なぜ富裕層の一人旅であるSUGO6に若い女性が登場するの?」と質問が飛んできそうだが、そこがPASSPOT社の仕掛けるマーケティング戦略の重要なポイントとなっているので紹介しておこう。


一昨日の午後2時。マカオ観光のシンボルといってもいい「聖ポール天主堂跡」の前でひとりの女性と待ち合わせた。

約束時間より10分早く現地についた僕はiPhoneの「SUGO6」アプリに「check in!」し、表示されたマップ上「聖ポール天主堂跡」前に「mana」の文字が点滅しているのを確認すると、続けて「friends」アイコンをタップし、待ち合わせた女性の名前を選んで「先に到着」とショートメッセージを送る。

すると10秒もかからずに、マップ上の少し離れたセナド広場あたりに相手の名前が点滅し「あと5分で到着します」のメッセージが返ってきた。

そして5分後。
天主堂跡前の階段に座ってくつろいでいた僕の前に笑顔の女性が登場し
「真名さんですよね!はじめまして」
と、むこうから僕を見つけて挨拶してくれた。

「よくこの人ごみの中で僕のことがわかったね?」と問うと

「facebookにお顔が出てるし、iPhoneを手にされてたからすぐ分かりましたよ」と彼女。

確かにそうだ。
僕も手元で彼女のfacebookを確認すると、目の前と同じ笑顔が画面上に。実名&顔写真表示が前提のfacebookの価値を改めて実感することになる

「そこで美味しそうなエッグタルトを見つけたんで買ってきました」

僕の横に並んで座った彼女が小さな紙袋から取り出したのはマカオ名物のスイーツとペットボトルのアイスティー2本。僕たちは自己紹介からはじまって互いの旅話に花を咲かせる午後の青空ティータイムを楽しんだ。

プライバシー上、彼女のことをイニシャルでNHさんとしておこう。年齢は21歳。東京の某大学生で1年間休学して2月に「世界一周」の旅をスタートさせた。
工学部の建築学科で建築史を専攻している彼女は設計家を目指しているが、その目で世界中の建築物を見てみたいとの思いでPASSPOT社のコンテストに応募し「ATJ」と呼ばれるプロジェクトのスタッフに採用されたという。

PASSPOT社のマーケティング戦略は面白い。
同社の経営陣が自らバックパッカーとして「世界一周」の旅を経験した面々であることは前回紹介したが、彼らは“志”の高い若者の旅を支援するサポートプログラム「ATJ」を「SUGO6」と連動させて展開している。

正式名称を「Ambitious Travelers Japan」という「ATJ」の概要はこうだ。

(1)コンテストPASSPOT社では学生向けの「世界一周」プランコンテストを定期的に行い、優秀な企画立案者をATJスタッフとして採用し、彼らに対して奨励金授与を行いっている。

(2)旅の特派員
「世界一周」に出かけるATJスタッフは、各々が企画した旅のテーマに沿って各国で学んだことをPASSPOT社の専用ブログにアップする特派員的な任務を担う。

(3)ATJアプリスタッフ個々に対して「ATJ」アプリのアカウントが発行され「check in!」や「message」の他、「secretary」や「friends」などの機能を利用できる。
※「SUGO6」アプリと共通の機能である

(4)「SUGO6」参加者によるサポート
ATJスタッフは「friends」機能を使って「世界一周」の旅に出ている「SUGO6」旅行の参加者と連絡をとることができ、外地におけるサポートを受けることができる。

つまり、PASSPOT社が提供する「世界一周」旅行には、富裕層が参加する「SUGO6」と、若者が参加する「ATJ」の2種があり、「SUGO6」の売り上げの一部が「ATJ」サポートの原資になると同時に、外地においてはPCやモバイル端末で利用できるアプリの「friends」機能によって相互サポートが可能となっているのである。

様々なテーマで世界中を旅する若者が日々更新し続けるブログは、有益かつライブな情報源として富裕層が「SUGO6」アプリでエリアやテーマ別に検索できるデータベースとなるし、専門知識や人生経験が豊富な「SUGO6」参加者と出会うことで若者たちが得る情報や人的ネットワークも貴重なものでなる。世代を越えた旅人同士のWin&Winの関係構築こそがPASSPOT社の狙いなのだ。
※具体的なビジネスモデルは次回レポートする。

そんな訳で僕とNHさんは互いの専門領域の知識を披露し合いながら、連日、歴史市街地区のスポットを順に巡った。

ポルトガル様式の教会や中国寺院の建物に関する彼女の解説は素人の僕にもわかりやすく、数多くの建造物を対比の中に見る楽しさを教えてもらえたし、僕が語る大航海時代の東西交流史や冒険家たちの物語を彼女もおおいに楽しんでくれたようだ。
互いが学芸員のごとく解説し合いながら巡ることで、マカオの街はまさに「街ごと博物館」となった。

さて、NHさんは明日の午後マカオを離れインドシナ半島を南へ向けて旅を続けるらしい。先ほど、若者の旅には少し贅沢なポルトガル料理の店でディナーをご馳走し、また世界のどこかで会おうと約束して別れた。

僕はあまりにもマカオが気に入ったので予定を延ばして明後日までマカオに滞在することにした。

あと二日あれば世界遺産の全てを踏破できそうだ。

23日に香港に戻った後は、いよいよ「SUGO6」第2の訪問地へ移動することになるが、そこも次回にレポートしよう。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年3月20日にアップされたものです。

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