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note2:香港2011.3.12

【連載小説 2/100】

旅に出た翌日の昨日、香港市内を歩いていた僕のiPhoneに日本から大地震のNEWSが飛び込んできた。ホテルに戻ってPCを立ち上げると次々とアップされる被害状況と悲惨な映像。
1995年に阪神淡路大震災で被災生活を余儀なくされた僕には否応なく当時の記憶が蘇り、何ともいたたまれない気持ちになった。

不幸にも命を落とされた方々のご冥福と、今なお身の安全を脅かされている人々の一刻も早い安堵を祈るばかりである。

さて、事態を受けてのPASSPOT社の対応は早く、以下の第一報が「SUGO6」アプリの「message」を通じて即刻届いた。

>>>>>message/2011.3.11-15:20<<<<<
《緊急連絡》「SUGO6」ご参加の皆様

14時46分、東北地方を震源地とする大きな地震が発生し、太平洋側の広域で津波の被害が出ている模様です。弊社にて最新情報を確認の上、随時ご連絡させていただきますので本アプリの更新情報をチェックください。
また、この地震を受けて緊急帰国をご希望される方々への航空券手配やその他サービスに関しましては、弊社にて最大限の努力を行い、少しでも早期の帰国実現に向けたサポートをさせていただきますのでご連絡ください。
>>>>>SUGO6 Support Desk<<<<<

僕自身「果たしてこの旅を続けるべきか否か?」との思いが瞬時に湧いたが、各所にメールで連絡を入れたところプライベート周辺で被害を受けた者はおらず、また「この時点で帰国したところで自分に何ができるというのか」との思いもある。PASSPOT社のスタッフによると、現在「SUGO6」の旅に参加している方々が世界中に32人いるという。その中には緊急帰国を急ぐ方がおられるかもしれないので、PASSPOT社サポートデスクにはそちらに注力してもらうのが筋だと思い、ひとまずは香港にとどまり状況を見ることにした。

それよりも、この一大事に勇気づけられたのは外地にいる僕への周囲からの暖かいコトバである。
滞在するペニンシュラホテルでは、昨夜から今までの間に何人ものホテルスタッフや滞在するツーリストが日本人である僕に向けて励ましの声をかけてくれたし、facebookを通じて世界中の友人から安否を気遣うメッセージが届いた。世界は“繋がり”の中に結ばれてある。
人の力で避けられぬ悲しい事態が起こったとしても、互いを思いやる気持ちの連鎖の中に、前に進む“希望の光”を見いだすことができる。

facebookをチェックするだけでも、既に災害情報や支援活動のページが次々と立ち上がり、ボランティアやドネーションを通じた“強い市民社会の風”がネットワーク上に拡大している。遠く離れた異国の地にいても、ネットワークという“もうひとつの”社会に属することで出来ることはあるはずだ。

旅する僕の心境は、スタート直後にして想定範囲外のものとなったが「自らが為すべきは何なのか」を日本から離れたここ香港でじっくりと考えてみるのも悪くないと思う。
そういえば、PASSPOT社が「SUGO6」の参加者向けに事前配布するPDFドキュメントの中にこんな表記があった。

「SUGO6」の旅は原則的に「独り旅」であり、従来の旅行業界においては「個人旅行」のカテゴリーに属するものになりますが、弊社ではあえてこのサービスを「ネットワーク旅行」と定義させていただいいております。なぜなら「SUGO6」は独りで旅しながらも、その先々で生まれる「見知らぬ誰か」との出会いの数々こそが最良の観光素材だと考えているからです。つまり「世界一周」という空間的ネットワークの中に、国境を越えた「友の輪」というもうひとつのネットワークを構築いただき「決して独りではない」人生をお楽しみいただくことこそが私どもの願いなのです。

改めてこの文章を読み返してみると、むしろこの旅を続け「友の輪」の価値を探ることが自らに課せられた使命なのではないか?と思えるのだが…

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年3月12日にアップされたものです。

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