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note12 : セリンガン島(2011.4.19)

【連載小説 12/100】

エコツーリズムにおけるボルネオ島の魅力の第一が広大な熱帯雨林とそこに生息する多種多様な生命であることは間違いないが、島である以上それを取り巻く海があり、こちらでも美しい自然や希少な生命と出会うことができる。

17日の朝にダナンバレーを離れた僕は、ウミガメで有名なセリンガン島で2日間を過ごし、さきほどコタキナバルへ戻ってきた。

セリンガン島が世界有数のウミガメの産卵地で、WWF(世界自然保護基金)が世界一と認める貴重なエコツアーの地であることをかつて何かのレポートで読んだことがある。
一度は訪れてみたいと思っていたが、「SUGO6」の旅で願いかなって上陸することになった。

そして2日間、ひたすらカメたちを観察しながら「ウサギとカメ」の物語のことを考えていた。

日本人には「もしもし かめよ かめさんよ・・・」の歌詞で馴染み深い「ウサギとカメ」がイソップ寓話のひとつであることを知る人は意外と少ないだろう。
「アリとキリギリス」や「北風と太陽」などと共に紀元前に生まれた物語で、ご存知のとおり「いくらウサギが俊足であっても、努力を怠れば、鈍足でも努力を継続したカメに競争で負けてしまう」という物語である。

セリンガン島でカメたちの生態を見ながら、僕の脳裏に浮かんできたのは「彼らの生命力には勝てないな…」との獏たる思い。

カメたちは広大な海と小さな島を羅針盤も持たずに行き来しながら産卵を繰り返し、親から子への生命連鎖を淡々と着実に重ねている。

それに対して僕たち人類は、彼らには不可能な速度で世界中を旅する術を持ちながらも目指すゴールさえ見いだせず、日々を焦りや戸惑いと共に生きている。

彼らはきっと迷わない、が僕らは常に迷っている。

「ウサギとカメ」とは即ち「ヒトとカメ」であり、極めて象徴的な「文明と自然」の関係をイソップは提示したかったのかもしれない。

だとすれば“俊足”な科学技術をもって自然界を征服し豊かさを享受してきたつもりでいて、ゴールには遠い場所でひとまずの成功に満足し、油断と共に居眠りしたがために“鈍足”ながらも着実な歩みを重ねる自然界に付いていけないが人類、ということになる。

前に進まんとする力、すなわち“進化する本能”はヒトも他の生命も同様に持ち合わせている。
が、そのスピード感と継続のバランスに決定的な違いがあるのだ。

ボルネオ島に20日間滞在したが、そこがジャングルの奥地であっても海や浜辺であっても、僕たち以外の生命は皆がそろって等速で生きているのを肌で感じた。

ヒトもまた有機的な生命種のネットワークに加わろうとするなら、まずはスピード感の見直しと継続の意味の再確認を行うべきだろう。

セピロックで訪ねたオランウータンのリハビリセンターを思い出して僕は確信する。
他の生命種を救おうとしながら、そこで行われていたのは“病める文明人”という人類自らに対するリハビリテーション。

「ヒトがもたらす豊かな地球」などありえない。
「豊かな地球に同調するヒト」を取り戻すところにエコツーリズムの未来があるのだろう。

>>>>>message/2011.4.17-8:00<<<<<
真名哲也さま

ボルネオ島・サバ州の旅はいかがでしたでしょうか?自然の中を転々とする20日間の長い滞在でしたが、エコツーリズムの未来は見えてきましたでしょうか?
明日からは一転してシンガポールという“都市の島”に10日間滞在いただきますが、こちらもまた違った角度から“生命の多様性”をご覧いただくデスティネーションになると思われます。

フライトはエアアジアAK6273便(14:55コタキナバル発→17:10シンガポール着)となっております。
シンガポールのチャンギ国際空港からはタクシーかMRTでホテルに移動いただけます。ホテルはご希望のフラートン・シンガポールで予約が完了しておりますのでフロントにてパスポートをご提示ください。>>>>>SUGO6 Support Desk<<<<<
一昨日PASSPOT社から久しぶりに届いたメールに記されたように、明日からは超文明国家シンガポールだ。

ボルネオ島最後の夜はホタル観察で有名なガラマ川のナイトクルーズへ出かけることにしよう。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年4月19日にアップされたものです。

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