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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2023年6月の記事一覧

071.物語の予感

2003.6.24 【連載小説71/260】 先週半ば、竹富島は台風6号の通過に伴い激しい雨嵐にさらされた。 島に生きるということは大いなる自然の驚異の傍に位置することなのだという思いを実感し、その体験をある意味で楽しんだ。 自然の猛威は過去、幾度も島の暮らしを脅かし、多くのものを奪ったはずだから、楽しんだなどというのは不謹慎なのだろうが、僕は元来、嵐が来ると聞けば誰よりもその現場に近く位置し、自然の威力と自らの無力を痛感したい性分で、それが今回のような放浪の旅先での遭遇

070.牛歩む郷愁の島

2003.6.17 【連載小説70/260】 得るものあれば失うものあり。 文明化が何事かを獲得し続ける歴史であるならば、そこに生まれる喪失は多いはず。 その中のひとつに「郷愁」という感情があるのではないだろうか? 本来、「故郷は遠きに在りて思うもの」であるが、世界の何処に居ても1日あれば帰省が可能な今、人の世にかつての「郷愁」はない。 自らの足や、せいぜいその歩みを数倍速める程度の移動手段を用いて旅をしていた時代、時間と空間はバランスよく人に「郷愁」を与えてくれてい

069.しらほで見た夢

2003.6.10 【連載小説69/260】 ネットサーフィン。 最近では、あまり使われなくなったが、90年代半ばのインターネット興隆期に、次々とネットコンテンツ群を渡り歩くアクセス行為がそう呼ばれていた。 個々の興味軸からスタートして、放浪旅のように転々と各所を巡るクリックワークを波乗りにたとえた命名者の感性はなかなかのものだ。 残念ながら、それから10年も経ていない今、膨大なコンテンツが留まることなく増殖することになったデジタルワールドへの旅は、どこか牧歌的だったネ

068.海から見える文明

2003.6.3 【連載小説68/260】 沖縄生まれの海中育ち。 戸田隆二君は、彼自身がそう自己紹介するように、まさに沖縄人らしい海の男だ。 彼の仕事はフリーのダイバーにして、水中カメラマン。 ダイビングや旅行雑誌のグラビアや各種アドバタイジング企画から学術調査まで、幅広い海中撮影キャリアを10年以上重ねてきた。 1年の300日以上を海外で暮らし、移動日以外は常に海に潜って仕事をしているという。 そんなに長い時間を海中で過ごしていると、人間社会そのものから遠ざかってし