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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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記事一覧

128.釣竿片手に隠岐を思う

2004.7.27 【連載小説128/260】 3日前に隠岐からトランスアイランドへ戻った。 今回の帰路は寄り道なし。 日に1便の11時45分隠岐発日本エアコミューターで大阪伊丹空港へ飛び、関西国際空港へバスで移動。 18時30分発のユナイテッド航空ホノルル便がオアフ島に着くのが翌7時20分。 コペル社のホノルルオフィスに連絡すると、運よく小型飛行艇がトランスアイランドへ向かうということで同乗させてもらい、11時30分に帰島した。 所要時間は、時差をひいて約20時

127.トビウオが見る空

2004.7.20 【連載小説127/260】 僕たちが生きる「今」に対しては、常に並存するもうひとつの時間がある。 僕たちが生きる「場」に対しては、常に並存するもうひとつの空間がある。 例えば、今日もいつもと変わらず穏やかであろうトランスアイランドで、この手記を読む島民の「貴方」にとっては、遠く離れた日本の隠岐諸島の島時間が僕の報告によって並立する。 例えば、今日もいつもと変わらず慌ただしい日本で、この手記を読む「貴方」の前で、旅を人生の住処とするふたりの男の不思議

126.独立国家の可能性

2004.7.13 【連載小説126/260】 「集中」と「分散」。 21世紀ネットワーク社会の対立する2大キーワードである。 20世紀文明はある意味でその風呂敷を広げすぎた。 無限なる右肩上がりの成長という「拡大」思想は、世紀末にかけて現実から幻想へと転じ、経済停滞や環境問題、民族紛争が表面化した。 故に、そのリストラクチャリングとしての「集中」は必至なのかもしれない。 我が祖国日本においては、プロ野球の球団合併やリーグ再編が大きな話題だが、僕らの世代でさえ当然の

125.ジャブロ号の航海

2004.7.6 【連載小説125/260】 マーシャル諸島共和国の首都マジュロに来ている。 僕にとっては2002年9月以来の訪問ということになる。 明日7月7日、いよいよTWCの航海がスタートする。 TWC「talk with coral-珊瑚と語ろう-」の取り組みについては、この手記で何度か紹介してきたが、太平洋上の島々を転々としながら、珊瑚礁に囲まれて生きる民の知恵をネットワークし、広くエコロジーメッセージを発信する船旅が始まるのだ。 (TWCに関しては第61話

124.神話共創

2004.6.29 【連載小説124/260】 トランスアイランドの夜20時30分。 この時間はほぼ100%の晴天率だ。 80%に近い確率で降る夕方のスコールが一日中陽光を浴び続けた地面の熱を冷まし、空気を浄化してくれるから星空観測に最高の環境が準備される。 今夜も人気プログラムとなったスターライトビーチの「ストリームライヴ」に多くのツーリストが集まってくる。 その中にはNWヴィレッジのプラネタリウムを体験した直後の人もいるはずだ。 スターライトビーチ。 このプログ

123.池袋の満天の夜

2004.6.22 【連載小説123/260】 「一緒に神話をつくらない?」 と、スタンが笑顔で持ちかけてきた。 彼とのつきあいも長いから、それが単なる思いつきの発言ではないことがよくわかる。 多分、その頭の中には既に計画のプロットと幾つかのアイデアが出来ているはずだ。 「神話を創作するなんて、物書きにしてみれば大それた行為だよ」 と、僕が返すと。 「いや、神話なんてものは、創作される段階では全てが時代時代の変わり者か夢想家による気まぐれなフィクションだったに違い

122.ふたりのharuko

2004.6.15 【連載小説122/260】 宇宙という大海原においては地球が島であり、その地球においては大小様々な国家が海に対する陸地の島として点在する。 さらにミクロに目を転じれば、そこに生きる個々人が、社会という見えざる海に浮かぶ孤島として生きている。 これらの関係性が別々のものではなく、繋がっている実感をもって3次元の世界に僕らが生きていることを前回に記した。 そこで、次に、こんな飛躍的な発想を試みることにする。 「自分を中心に回る地球」だ。 これは、決

121.輪の中に生きる

2004.6.8 【連載小説121/260】 書斎のデスクに置いてある愛用の地球儀。 その台座から上下2本のネジを緩めて球体部分を取り外す。 直径30cmの小さな地球を持って砂浜に出る。 地軸の傾きからも、自転からも解放されたモバイルな地球。 僕はそれを使っておかしな地球観察を行う。 当たり前となった北が上部に位置する地球をさかさまに砂上に置いたり、90度回転させて赤道を縦にして世界を観察してみたりする。 いつもとは違った地球を楽しみながらも、同時に、宇宙には上も下も

120.満天の島

2004.6.1 【連載小説120/260】 灯台、風車、天文台。 小さな島が、海、空、宇宙と繋がる3つの窓口。 トランスアイランドにあるこれらの施設が波照間島にも共通してあった。 そして、いつもは生活に近いところにあって特に意識しないそれらが、他所へ来るととても魅力的なものとして目に映るのだ。 見知らぬ誰かの航海の安全を祈って、孤高に光を発し続ける灯台。 無尽蔵なる自然の力を、淡々と我々の生活パワーへと変換してくれる風車。 僕らが島を超え、地球を超え、もっと大き

119.南の果ての珊瑚の島

2004.5.25 【連載小説119/260】 たとえば、何時間歩き続けてもその先に地平線しか見えない荒野の一本道。 たとえば、目指す上方が霧に包まれ、いつ頂上に到達できるのか予測不可能な山道。 それらが如何に過酷なものであっても、人の切り開いた道である限り、旅人はそこで開拓者のポジションを得ることはできない。 人工の道は、その全てが先人の敷いたレールの上なのだ。 ところがが、海の道は違う。 目指す陸地が同じであっても、遠くに見据える水平線が共通のものであっても、

118.大人の修学旅行

2004.5.18 【連載小説118/260】 数年前、小学校から大学を卒業するまでの文集や写真アルバムを整理する機会があった。 年代別にダンボール箱に整理されたそれらの中から小学校の卒業文集が出てきたのだが、果たして12歳の自分がどんな文章を残したのか、全く記憶に残っていない。 まがりなりにも文筆で生計を立てている男の4半世紀前の初期作品?がいかなるものであったかが気になった。 早速、紙が黄ばんで年代モノといってもいい冊子のインデックスに自分の名前を探す。 6年4組

117.ラッフルズホテルから

2004.5.11 【連載小説117/260】 「日本に戻ったら世界が見えなくなる。自分の未来も見えなくなる。 林立する高層ビルの谷間で、おそらく1世紀前と変わらぬ静かな時間の流れるラッフルズホテル。 その中庭から不自然に切り抜かれたシンガポールの青空を見上げて私はそう確信した…」 この、ひとりの女性の独白は、僕がサマセット・モームの短編『エドワード・バーナードの転落』のトリビュート作品として創作を始めた短篇小説の出だしの一節。 シンガポールを旅した際に「nesia2」

116.21世紀的海の冒険

2004.5.4 【連載小説116/260】 「旅」と「冒険」の関係性について考えてみよう。 原始、人類にとっての「旅」は「冒険」だった。 生まれ落ちた場所から離れることは、糧を求めての狩猟や移住、部族間闘争後の敗北による逃走、天災による生活圏の喪失など、危険を伴うもの、やむを得ず行われるもの。 何れの場合も明確な目的地や行く先々に関する情報はなかったし、なによりも「帰る保障」がなかったのだから、本人の自覚は別としてそれらは全て「冒険」だったといっていい。 その後、

115.時空を旅する研究所

2004.4.27 【連載小説115/260】 せっかくの機会だから、かなり以前に訪ねた地を選び、記憶を辿りながら「変化」と「不変」の比較を楽しむ旅をすることにした。 出発地は成田国際空港。 香港行きキャセイ・パシフィック航空のチェックインと出国手続きを済ませる。 アテンダントの笑顔に迎えられて機内に入り、ビジネスクラスのシートに落ち着く。 機内誌にざっと目を通していると離陸のアナウンスが聞こえる。 いよいよ旅のスタートだ… 「また旅に出たの?」 そんな声が聞