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海にとけてくりーむ

子どものころは夏休みのあいだ
茅ヶ崎の祖母の家で過ごしていた
海へは松林を抜けて歩いても行ける

ある日、江ノ島の岩場で遊んでから
僕はお店にソフトクリームを買いに行った

自分とお兄ちゃんとおばあちゃんの
ソフトクリーム

落とさないように 慎重に
そおっと歩いて運ぶ

みんな僕を待ってる
僕が持ってて行くんだ

僕は甘えるのが
苦手で
お母さんにだって
なかなか甘えられない

だけど
ソフトクリームだけは
「買って」って言える

ソフトクリームは
自分の中でおねだりが許される
唯一のもの。ソフトクリームマジック!

それは、滅多にスーパーに行かない父と
一緒にスーパーに行くと必ず、毎回
ソフトクリームを買ってくれたからだ

お菓子もおもちゃも
買ってくることなんてないのに
ソフトクリームだけは
「食べるか」と声をかけて買ってくれる

それから、自分の中で
ソフトクリームだけは
買ってもらえるものと認識されたみたいだ

だから可愛げのない自分には珍しく
ソフトクリームだけは素直に
「ソフトクリーム買って」
って言えたんだ

大大大好きなソフトクリーム
3つも買って
夏休みの海辺を歩くのは
楽しいしかない

ご機嫌なぼくは
早くお兄ちゃんとおばあちゃんの
喜ぶ顔が見たかった
そして自分も早く食べたかった

夏の日差しで
少し溶けてきたソフトクリーム

ヨットハーバーの横を
いそいでいそいで
落とさないように

やっとのことで
お兄ちゃんとおばあちゃんの
ところについて 

僕はふたりにソフトクリームを
差し出した

お兄ちゃんとおばあちゃんは
受け取ろうとしないで
なぜか大笑いをしている

よく見ると僕が差し出したのは
ソフトクリームの
コーンだけだった

わっと泣きだした僕

それからおばあちゃんは
もういっかい
ソフトクリームを買ってくれた

今度は3人でお店に行く

夏の海で
太陽が食べてしまった
ソフトクリーム

もういない
おばあちゃんとお兄ちゃんと
僕のいた海


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