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いいんだよ、旅になんか出なくたって

「学生時代に旅行に行った方がいいといわれます。どこか外国に出かけた方がいいんでしょうか?」と若い人がインターネットの掲示板で質問しているのを読んだ。

たぶん、そんな風に言ったのはもう働いているおとなで、「社会人になったら長い休暇なんか取れないんだから」というようなことを言ったのではないかと想像する。わたしのようなドロップアウト組はともかく、定年までずっと会社で働く人が多いのが現実だから、もしかしたら親切心でそう言ったのかもしれない。でも、その一言が若い人を心配させている。あとで後悔するようなことにはなりはしないか、という不安を与えてしまっている。

noteでもさんざん旅の話を書いてきていてなんだけれど、わたしなら、こう言ってあげたい。

旅になんか出なくたって別にいいんだよ。
あなたが今楽しいと思えることに、たくさん時間を使ったらいい。

もしかしたら、あとで旅行がしたくなるかもしれない。でもそれはそのとき考えればいいことで、旅に出ないことに引け目を感じることは何もない。旅だけが人生ではないし、ほかに楽しいこと、したいことを思いきりしたっていいじゃないか。

なぜそう思うかというと、学生時代にわたしがしていたのはひたすら本を読むことで、卒業旅行すら行かなかったからだ。いったい何人に「もったいない!」と言われたことか。

ただ、子どものころから乗り物酔いに苦しんできたわたしには、移動は苦痛だったし、家族の起居に関係なく、好きな時間に好きなだけ本が読める生活は生まれて初めてだったので、それを優先したかっただけだ。
その後わたしは頻繁に旅に出るようになり、今では旅暮らしのようなことをしているけれど、それは「わたしにとっての」時期が来たということなのだと思う。

振り返ってみれば、会社を辞めて、一年を超える旅をしたのも20代の終わりだし、30代では転職どころか転業も経験している。法的な「結婚」をしたのだって40過ぎだし、相前後して国際引越をし、大学に戻って「学生」にもなっている。親にはなっていない。ついでに思い出したので付け加えると、諸般の事情で、幼稚園では「飛び級」もしている。
晴れがましい成功談は何ひとつないけれど、それぞれが「わたしにとっての」適齢期だったのだろうと思う。

「せっかく〇〇なんだから、××しないともったいない」という言い方は、自分に対して使うのは構わないけれど、他人に押し付ける筋合いのものではない。わたしもそう言われてきたから思うのだけれど、こういう物言いはたぶん、学生時代の過ごし方だけでなく、就職や結婚、親になること、そのほかでついて回るし、これから先も何度か出会うかもしれない。
冒頭の質問は、直接には学生旅行のことだけれど、本質的には「世間」でいわれていることに合わせて「人並み」に生きていくのかどうか、ということにつながりそうな気もする。

ひとことで言うと、こういう考え方はなんだか楽しくない。機会があったら、機能があったらフルに活用しないといけないの? 
世の中には「しない」選択だってある。

わたしは、豊かさや幸せは、選択肢がたくさんあって、その中から自分に合ったものを選ぶことだと思っている。
選び取れるからこそ、迷うのだ。
失敗する自由もあっていい。

失敗したことがない人というのは、新しいことに挑戦したことのない人だ

と言ったのはアインシュタインだが、わたしは「失敗しないこと」を尊ぶよりも、仮に失敗したとしても、それを経験として「やり直すこと」を許す社会であってほしいと思うし、そう言えるおとなでありたいと願っている。


*写真 冬の大濠公園(福岡)

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