#24 石勝樹海ロード ゆく人・帰る人

 8日目。明け方にサーっとひと雨降り、そのまま厚い雲が覆う。最終日の今日は、テントをしっかり乾かして終えたかったのだが。
 元来ぼくの生活リズムは夜型だが、旅での朝はそれなりに早い。5時頃に目が覚めて、暑さや蝉が煩くてもう眠れそうにないと諦め、そのまま撤収を始めることもあったが、たいていは6時台に起きる。目覚ましをかけなくても、周りのテントがガサガサとし始める音で起きることができる。朝の静けさの中、テントのファスナーが開かれるときのジャーとかシャーとか、ゥウィイイイという音は、朝を優しく知らせてくれるようで、何とも言えぬ心地さがある。

 キャンプでは、水道やトイレに行くのも、着替えるのも、何をするにも日常の倍以上の時間がかかる。その上、昨夜の灰の始末や洗い物、テントを拭いたり、今日の天気やルートを再考したり、あるいは少しボーっとしたりする。それで、雨が降っていたり手際が悪かったりすると、出発までに2時間くらいかかってしまうこともある。
 最終日の今朝は、雨に濡れたせいもあって念入りにテントを拭き、洗い物をし、水道までを何度も往復して、出発は9時半を過ぎていた。しかし、キャンプ場ですべてのゴミを処分させてもらえたのは、有り難かった。

 出発してすぐの道の駅 樹海ロード日高には、多数のバイクが停まっていた。それにしてもずいぶん多く、昨日までの様子からは異様と思えるほどだった。
 今日はR274を西に、夕張、札幌方面へ向かう。大型バイクはそれなりの力があって、直線を加速すると、飛行機が離陸時に加速するときのような、身がググゥゥゥッと縮まるようなGを感じることができる。
 しかしそれはほんの一瞬で、石勝樹海ロードと呼ばれるR274はすぐに森の中に入り、緩やかでも急でもないカーブ、勾配、トンネルが続く山道になる。ポツッポツとした雨が降る。合羽を着ようかどうしようか悩むくらいの程度だが、すれ違う対向車線のライダーは皆、合羽を着ている。向かう先は、どうやら雨らしい。また雨か。仕方なく路肩に停まり、止む無く合羽を着る。

 しかし今日は、すれ違うバイクの数が多い。これまでの旅で見かけたバイクの殆どはソロか、せいぜい二人組だったのが、今日は3台以上のグループにもたくさん出くわす。
 北海道に来るライダーの多くは、フェリーを使って苫小牧からスタートする。そこから多くは北か東へ流れ、徐々に散り散りになっていく。
 このR274は、苫小牧や千歳、札幌といった都市部から道央や道東とを結ぶ街道で、通るライダーも多いのだろう。東へ向かう対向車線のバイクは、きっとこれから旅が始まる人たち。西へ向かうぼくは、もう帰る人。羨ましさと、旅を終える切なさとが入り交じりながら、すれ違うライダーに手を挙げて挨拶を交わす。しかし、向こうが10台もいると、こちらは1台目から10台目までずっと手を挙げっ放しである。5、6台目あたりからはすでにセンチな気持ちなどなく、どこまで続くんだよと苦笑いである。
 10時から10時半頃までの30分間で、ざっと100台以上はすれ違ったのではないか。それほどにバイクが多い。そうか、来週はお盆で、人によっては夏休みの始まりか。

 旅の希望に満ちた彼らの様は、大きな揚陸艦で島に送り込まれ、拠点を堕とすべくわーっと森の中へ突入する上陸部隊のように勇猛果敢に映る。そして、富良野方面へ北上する隊、十勝方面へ西進する隊などに分かれ、やがてさらに細かくなり、北海道の奥深くへ散っていくのであろう。
 けれども苫小牧に着くフェリーはたしか11時か13時半のはずで、本州から来るバイクは未だのはずだ。ライダーが、西らか湧いて出てくるようだった。

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