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#10 サロマ湖 キムアネップ岬キャンプ場

 キムアネップ岬の付け根辺りにある駐車場からは、晴れていれば、湖面に沈む夕日の美しい姿が観られそうなスポットである。だが、雲が覆いはじめ、灰色がかったオレンジ色の空に、太陽の姿は見えない。真っ平らにひらけた短い芝のキャンプサイトには、すでにいくつかのテントが張られていたが、数える程度で、閑散とした雰囲気だった。

 サイトの、駐車場にすぐ近いところには数本の木々があり、その横にわずかにある平らな芝生がベストポジションと思われたが、すでに先客がいる。空いているこの広いサイトの中で、わざわざその人の近くにテントを張るのは憚られる。しかし、雨を弱めてくれそうな木の下がよく、他に木のある場所はない。
 木々の、先客とは反対側にもほんのわずかなスペースがあるが、そこはキャンプ禁止の場所のようだった。ねだるような心づもりで、そこにテントを張らせてもらえないか、交渉してみる。夫婦なのか、管理人の年配の男女二人が顔を見合わせ、「んんー、まぁ今日は人も少ないし、いいかな。ゴミだけは持ち帰るよう気を付けてね」と、ゆっくりとした口調で、許可してくれた。向こうの空には大きな積乱雲がみえ、一応は落雷に気を付けなければならない。木の幹からは少し離れ、かろうじて枝葉の屋根にかぶるくらいの場所にテントを張った。

 まだ17時半頃だが、重そうな雲のせいで空は暗くどんよりとしている。雨が降らないうちに、温泉へ行きたい。岬から国道までの暗い森をとおり、国道を少し行き、また湖岸沿いの道に折れ、左に湖面をみながら、サロマ湖の東岸にあるリゾートホテルの温泉へ急いだ。
 しかし、あいにくコロナの影響で宿泊客以外は温泉の利用ができなかった。他に、近くに温泉はない。遠くまで足を運んで温泉に入れたとしても、帰りに雨に濡れたら勿体ない気がする。仕方がない。今夜は風呂は諦める。
 せめて、夕飯は美味しく楽しみたい。たしか、このホテルまで来る途中に魚屋とコンビニがあった。帰りにそこで何か買って、少しの贅沢をしようと思う。
 そうして入った魚屋は、町の魚屋というには大きく、観光客が寄りたくなるような広さ、品揃えだ。ずらりと並んだ発泡スチロールには鮮魚に貝類、カニ、他に干物や野菜もある。市場さながらの陳列である。だが、他に客は誰もおらず、BGMもない店内は静まり返っており、なんとなく急いで品を定める。関東のスーパーなら3、400円くらいするであろう大きな真ホッケを1尾160円で頂き、コンビニでビールなどを買い、急いでキャンプ場まで戻る。

 ポツポツと、傘はなくてもいいかなと思う程度の弱い雨が、降ったりやんだりする。雨に降られることもあるだろうと、今回の旅ではタープを持ってきていた。このお陰で雨でも焚火が楽しめる。
 一昨日に続いて二度目の飯盒炊飯、ホッケは直火の網焼きである。ソロ用の焚火台は小さく、ホッケが網からはみ出してしまうので、まずは網に乗っかった半分ほどを焼く。箸はもっていないからフォークで食べるのだが、うまく身をほぐせず、身がボロボロと網の下に落ちてしまう。

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 やがて、天気が変わろうとしているせいで風が強くなり、安定した弱火にできない。炊飯は、湯気の出具合を見誤り、少し長めに火にかけてしまったようで、黒いおこげが多い。そこに、道の駅で買ったタラバガニのレトルトカレーを温め、注ぐ。ほぐれたタラバの身が入っているのがちゃんとわかる。しかし、炊いた米の量が多かったせいで、ご飯に対するカレーの割合が少ない。それでおこげもあるものだから、ときに焦げの苦みがカレーの味に勝ってしまう。

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 とはいえ、こういう不器用な食事も、どういうわけか旨い。自分一人でやったことだからこそ許せ、手間をかけた分、前向きに味わおうとしているのか。ソロキャンプの醍醐味である。
 天気はかろうじて曇りを保ち、真っ暗になった岬をブラブラしてみる。広い駐車場にはバイクが2台と車が3台。人気と思われたキムアネップ岬のキャンプ場は、閑散としたままだ。湖の対岸には灯りはなく、湖面は真っ黒に塗りつぶしたように黒い。空を覆う雲は濃い灰色で、巨大な天井が覆いかぶさっているかのように、辺りを威圧している。なにか悪いことが起きそうな、不穏な景色だった。

 風はさらに強くなり、タープがバサバサと音を立てる。本来はテントを張ってはいけないこの場所は、芝生が長く伸びてふかふかではあるが、その分、タープのポールを固定しているペグ(杭)が緩まないか、気になって仕方がない。
 しばらくしてその不安には慣れたつもりだが、木の枝が落ちてきたのか飛んできたのか、タープに当たってバサッという大きな音にびくつき、眠れるまでに時間がかかった。

3日目 サロベツ原野~クッチャロ湖~サロマ湖

3日目


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